22 / 54
22
しおりを挟む
「銀次さん、いらっしゃい! 会いに来てくれたのね!」
「いやいやいや、まあまあまあまあ」
遊郭に顔を出したらやっぱりまた香ちゃんが一目散にやって来た。彼女の頭の上では俺のあげた髪飾りがチャラチャラと音を立てている。余程の余程に気に入ってくれたのかな。決して悪い気はしない――んだけど、今日も茶都ちゃんには会えないのかな……。
香ちゃんに腕を引かれ、座敷に案内されながらも俺の目はやっぱり自然と茶都ちゃんを探してた。
あれ以来、顔を見ていない。元気でやっているだろうか気になる。
「ちょっと! 何をキョロキョロしてるの!? モモ姉様ならまだ来てませんよ!!」
耳を突くような甲高い声。突き飛ばされるように座敷に放り込まれる。しまった、勘付かれてしまった! いやしかし俺は別にモモさんを探していたわけではなく……!
「いやいやいや別にそんな……、あ、そうだ! 歌舞伎の席を確保したよ!」
「え? 本当!? いつ行く?」
血管の浮き出た顔から一転、香ちゃんが笑顔で俺に抱きつく。良かった、機嫌を直してくれたようだ。「そうだなあ~」と日程を頭の中で巡らせていた最中、不意に襖が開いた。誰が来たのかと目をやるとなにやら可愛い娘さんが――。
「失礼致します。お酒をお持ち致しました」
さ、茶都ちゃんだ!! 普通に元気そうだ。良かった!!
「茶都ちゃーん!! 久し振りじゃないか、元気だった!? ねえねえねえ茶都ちゃんは歌舞伎は好き? 俺、席取るよ席!!」
――バチンッ!!
「いだ~~~~~~っ!!」
一体なにごと!? 弾けるような音と共に頬がビリビリッと来た。何だ!? なにごと!? 痛いぞ!! めちゃくちゃ痛い!! 俺のほっぺに何があったの!? ……あ、分かった、香ちゃんに手の平で叩かれたんだ!!
「なに誘ってるの!! 茶都はまだ見習いよ!!」
お……怒られちゃったし……。
「だ、大丈夫ですか?」
目をパチクリさせながら茶都ちゃんが俺を見てる。なんたる失態……。最高にカッコ悪いところを見られてしまった。香ちゃん、酷いよ……。
「ちょ、ちょっとー!! 何も殴ることないじゃないの!! ……しかし、はて、見習いさんは誘ってはいけないのかい?」
「当たり前でしょ!! 茶都はまだ水揚げ前だもん!! これから水揚げされて、そしたらようやくお座敷に出れるの!! 見習いの娘を誘うなんてどうかしてるわ!!」
香ちゃんがフンッと鼻を鳴らして頬を膨らませ俺ににじり寄る。もう叩いちゃやーよと身構えていると、彼女は何故か先程叩いた俺の頬に口づけをしてきた……。
「ほげっ!?」
何が何だか分からず思わず素っ頓狂な声を上げる。女性の行動って、よく分からないなあ……。
「あ、あのー、水揚げって? 魚のような響きだけどなんだい?」
「銀次さんたら何も知らないのね。処女のままお客はとれないでしょ? だから信頼あるお客様に……」
「まるで夫婦のようですね」
どさくさに紛れて茶都ちゃんが言った。
はい? 夫婦?
「夫婦だなんてそんな、いやいやいやいやいやいやいやいやいや。とんでもないよー」
「……酷い……、そんな……。そこまで拒絶するなんて……」
……はい? 拒絶?
いつにない香ちゃんの沈んだ声。
俺、何か物凄くマズった?
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや、そういう意味ではなくて! 俺如きが香ちゃんの旦那だなんてって……」
「香、今日は気分が乗らない。かわりにジンちゃん呼んで」
香ちゃんが俺から離れて歩き去っていく。
「香姉様!! 待って!!」
茶都ちゃんが出て行った香ちゃんを追いかけて行った。
う、嘘。なんで? いつも何を言ったって笑い飛ばすじゃないか……。
シンと静まった座敷。俺ポツンと一人。今度は本気で香ちゃんが怒ったのだと流石に分かった。でも、なんで? 何がそんなに気に触ったの? ……あああああ、照れ隠しだったのにマズりました女性を傷つけてしまいました~!! 銀次、一生の不覚!!
どう謝ろうかと酒を飲んで頭を巡らす。……って、全然巡らん!! 俺は女性を怒らせ慣れてないんだ、こういう時ってどうしたらいいのでしょうか!?
「失礼致します。お初にお目にかかります、ジンでおじゃります」
おや、代わりの遊女がやってきたようだ。……って、なっんだこの最高に器量の悪い遊女はー!? おてもやん!? おかちめんこ!? 芸人!? なにその化粧、なにその極太眉毛、なにこの遊郭、可愛い子しかいないと思いきやこんなゲテモノも抱えてるの!?
よし、今日はもう帰ろーう!
「やあ、ジンちゃん初めまして。しかし私は酒も飲んだし、そろそろ帰ろうと思っていたところだ」
さーて帰り支度、帰り支度~っと。
「家柄も良く、顔も良し、背も高い……。身請けして下さい~!!」
「え!? う、うわあああああ!!」
ゲ、ゲテモノが問答無用で覆い被さってきたー!!
「ぎゃあああああ!! 嫌だあああああ、帰る~~!! 助けてえええええ~!! やめろブス!! 最高にブスとんでもなくブス日本一のブスやめろおおおおおおー!!」
お前に使う金玉は無い!! だから剥くな脱がすな乗るな、やめてくれええええー!!
「いやいやいや、まあまあまあまあ」
遊郭に顔を出したらやっぱりまた香ちゃんが一目散にやって来た。彼女の頭の上では俺のあげた髪飾りがチャラチャラと音を立てている。余程の余程に気に入ってくれたのかな。決して悪い気はしない――んだけど、今日も茶都ちゃんには会えないのかな……。
香ちゃんに腕を引かれ、座敷に案内されながらも俺の目はやっぱり自然と茶都ちゃんを探してた。
あれ以来、顔を見ていない。元気でやっているだろうか気になる。
「ちょっと! 何をキョロキョロしてるの!? モモ姉様ならまだ来てませんよ!!」
耳を突くような甲高い声。突き飛ばされるように座敷に放り込まれる。しまった、勘付かれてしまった! いやしかし俺は別にモモさんを探していたわけではなく……!
「いやいやいや別にそんな……、あ、そうだ! 歌舞伎の席を確保したよ!」
「え? 本当!? いつ行く?」
血管の浮き出た顔から一転、香ちゃんが笑顔で俺に抱きつく。良かった、機嫌を直してくれたようだ。「そうだなあ~」と日程を頭の中で巡らせていた最中、不意に襖が開いた。誰が来たのかと目をやるとなにやら可愛い娘さんが――。
「失礼致します。お酒をお持ち致しました」
さ、茶都ちゃんだ!! 普通に元気そうだ。良かった!!
「茶都ちゃーん!! 久し振りじゃないか、元気だった!? ねえねえねえ茶都ちゃんは歌舞伎は好き? 俺、席取るよ席!!」
――バチンッ!!
「いだ~~~~~~っ!!」
一体なにごと!? 弾けるような音と共に頬がビリビリッと来た。何だ!? なにごと!? 痛いぞ!! めちゃくちゃ痛い!! 俺のほっぺに何があったの!? ……あ、分かった、香ちゃんに手の平で叩かれたんだ!!
「なに誘ってるの!! 茶都はまだ見習いよ!!」
お……怒られちゃったし……。
「だ、大丈夫ですか?」
目をパチクリさせながら茶都ちゃんが俺を見てる。なんたる失態……。最高にカッコ悪いところを見られてしまった。香ちゃん、酷いよ……。
「ちょ、ちょっとー!! 何も殴ることないじゃないの!! ……しかし、はて、見習いさんは誘ってはいけないのかい?」
「当たり前でしょ!! 茶都はまだ水揚げ前だもん!! これから水揚げされて、そしたらようやくお座敷に出れるの!! 見習いの娘を誘うなんてどうかしてるわ!!」
香ちゃんがフンッと鼻を鳴らして頬を膨らませ俺ににじり寄る。もう叩いちゃやーよと身構えていると、彼女は何故か先程叩いた俺の頬に口づけをしてきた……。
「ほげっ!?」
何が何だか分からず思わず素っ頓狂な声を上げる。女性の行動って、よく分からないなあ……。
「あ、あのー、水揚げって? 魚のような響きだけどなんだい?」
「銀次さんたら何も知らないのね。処女のままお客はとれないでしょ? だから信頼あるお客様に……」
「まるで夫婦のようですね」
どさくさに紛れて茶都ちゃんが言った。
はい? 夫婦?
「夫婦だなんてそんな、いやいやいやいやいやいやいやいやいや。とんでもないよー」
「……酷い……、そんな……。そこまで拒絶するなんて……」
……はい? 拒絶?
いつにない香ちゃんの沈んだ声。
俺、何か物凄くマズった?
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや、そういう意味ではなくて! 俺如きが香ちゃんの旦那だなんてって……」
「香、今日は気分が乗らない。かわりにジンちゃん呼んで」
香ちゃんが俺から離れて歩き去っていく。
「香姉様!! 待って!!」
茶都ちゃんが出て行った香ちゃんを追いかけて行った。
う、嘘。なんで? いつも何を言ったって笑い飛ばすじゃないか……。
シンと静まった座敷。俺ポツンと一人。今度は本気で香ちゃんが怒ったのだと流石に分かった。でも、なんで? 何がそんなに気に触ったの? ……あああああ、照れ隠しだったのにマズりました女性を傷つけてしまいました~!! 銀次、一生の不覚!!
どう謝ろうかと酒を飲んで頭を巡らす。……って、全然巡らん!! 俺は女性を怒らせ慣れてないんだ、こういう時ってどうしたらいいのでしょうか!?
「失礼致します。お初にお目にかかります、ジンでおじゃります」
おや、代わりの遊女がやってきたようだ。……って、なっんだこの最高に器量の悪い遊女はー!? おてもやん!? おかちめんこ!? 芸人!? なにその化粧、なにその極太眉毛、なにこの遊郭、可愛い子しかいないと思いきやこんなゲテモノも抱えてるの!?
よし、今日はもう帰ろーう!
「やあ、ジンちゃん初めまして。しかし私は酒も飲んだし、そろそろ帰ろうと思っていたところだ」
さーて帰り支度、帰り支度~っと。
「家柄も良く、顔も良し、背も高い……。身請けして下さい~!!」
「え!? う、うわあああああ!!」
ゲ、ゲテモノが問答無用で覆い被さってきたー!!
「ぎゃあああああ!! 嫌だあああああ、帰る~~!! 助けてえええええ~!! やめろブス!! 最高にブスとんでもなくブス日本一のブスやめろおおおおおおー!!」
お前に使う金玉は無い!! だから剥くな脱がすな乗るな、やめてくれええええー!!
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる