虹色浪漫譚

オウマ

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 銀次が座敷を後にしたらしい。先程まで俺を執拗に誘っていた香があっさり踵を返し「見送りに行かなくては」と走り去っていった。
 んー、相当に銀次を気に召したのか。予め言っておいてやった方が優しさだろうと見合いの相手がいる事実を伝えても「そんなものは破談させればいいだけの話」って、まあ強気だこと。
 こればっかりは当事者の問題だしな。俺は見守っとくか。
 さて、まず今はモモがどう話を進めてくれたのか聞きに行くとしよう。
「モモ! どうだ、上手く行きそうか!? …………どうしたー!?」
 覗き見た座敷の中には酷く乱れたモモの姿があった。畳に仰向けに潰れ、適当に襦袢を羽織って辛うじて身体を隠しているような状態だ。
「ど、どうしたもこうしたも……。このアタシに断る隙を与えぬとは瑛葉銀次め大物の予感よ!! はよ水をくれ~!!」
「そうか、食われちゃったのか……」
「あっ、あっ、あんなドデカいイチモツ持ってる相手やなんて聞いてへんぞ!! 腫れ上がったらどないしてくれんねーん!! こりゃ貸しにしとくわよアカギ!!」
 そ、そんなにデカかったのか。モモが怒るくらいのイチモツって相当だな。
「すまんすまん! お前なら上手くあしらえるかと……」
「いいや、アイツは半端ないわ!! あんっなに固くなっとったクセしていざとなったら押す押す!! ほいでアタシ押し倒された!! ……ま、でも頷かせたわ。モモ頑張りました。褒めて褒めてー?」
「流石、俺の見込んだ男……。ん? ああ、うん! ありがとうモモ!」
 身体を抱き起こし、湯飲みに水を注いで手渡す。モモはそれを一気に飲み干した。
「ふー、生き返った。ありがとさん」
「いやいや。……お前には力を借りっ放しだな。いずれ返すからな?」
「待ってまーす。でも、いいわアンタのやろうとしてることは面白いから。あんまり気にせんで。そら、ちゃんと貰うもんは貰いますけどね!」
「はははっ、それはそれは」
「で、もう帰っちゃうの?」
 あっぱれ、一瞬時計を気にした俺の仕草をモモは見逃さなかったようだ。
「ああ、先に寝ろって言ったのにまだ起きて待ってそうな奴がいるからな」
「この愛妻家め! たまにはウチの娘ちゃん達のことも構っておやりよ。したら、さぞ喜ぶでしょうに。え? そりゃあアタシだって! ややわ~、こんなん言わせるなんて~!」
 俺を指で小突きながらケラケラと笑う。モモが他の遊女と一線を画している理由はこの苦労も何も一切感じさせないところなのだろう。遊女特有の哀愁もなく、彼女はひたすら明るい。
「ああ、そりゃあ俺だってお前とは普通に酒でも飲みたいんだがー、お前予約スゲーしなあ……」
「あー! アタシもアッちゃんと酒飲み行きたーい!! ちょっと誘いなさいよ、予約蹴るから!!」
「またまた、よく言うよ!! とにかく今日は助かった! またな?」
「うん。またねアカギさん。待ってるからね。気をつけてお帰りやす。……見送ろうか?」
「いや、いいよ。お前そんなザマだし!」
「まーね! しかしこのアタシの姿を見ても一切手をつけようとしないとは、アンタの愛妻家具合がよー分かる」
「うるせー! どんだけ自分に自信あんだよ、お前!」
 軽快なモモの笑い声に見送られて座敷を後にする。
 随分と帰りが遅くなってしまった――が、咲はやっぱりいつものように起きて俺を待っているのだろうか。眠そうな目を擦りながらも笑顔で出迎えてくれるアイツの顔が、そして俺の衣服に若干染み付いた女の白粉の匂いを鋭く察してわざとらしく頬を膨らませて拗ねて背中を向ける一連の仕草が目に浮かぶ。
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