虹色浪漫譚

オウマ

文字の大きさ
上 下
3 / 54

03

しおりを挟む
 背が高いですね、から始まって精悍な顔だとか若いとか手が大きいとか足が長いとか、モモさんの口にこれでもかとおだてられて俺はもうタジタジってヤツでした。
 こんなにまで非の打ち所のない顔というのは初めて見た。本当に欠点がないのだ。なおかつ胸もデカい。おかげ様で直視が出来ない。まあ、とはいえ俺も自分で自分の顔は非の打ち所なんて一つもないとは思っているけれど。だから鏡が直視出来ないんですよー。毎日の髭剃りが大変です――なんちゃって!
「そうそう。銀次様は今の御時世をどう思われます? 日本はこれからどうなるのかしら」
 話はいつの間にか政治のことに移り変わっていた。
「そいで、ちょい聞いたんやけど銀次様は御高名な政治一家の御子息なんですって? 凄いわね~」
 それを皮切りに進む進む政治討論。白魚の手に肩を撫で回されて俺はタジタジのドロドロ、進んでしまった酒の勢いもあってすっかり話に乗っていた。
「モモさん、とにかく私は祖父にも父上にも負けぬ意気込みでこの国をもっと豊かにしたいと考えています! 成る程、アカギさんの思想は素晴らしいですね」
「ええ、せやからアタシも応援してるんです。銀次様も是非に背を押してあげて下さいな」
「分かりました! 押しましょう!」
 答えといてなんだけど、アカギさんが俺を遊郭に誘った真の目論見が少し分かった気がした。しかし、男ってのは、馬鹿な生き物ですね! 分かっていてもってヤツです。
 でも、いい。俺自身、進む道は何処かと模索を続けていた。それが固まった。大いに結構。実際にこう改めて話を聞いたらアカギさんの世界に目を向けた思想は懐古主義のおじ様たちと違って実に面白い。後押しをしようじゃないか。
「心強いわ、銀次様! ……少々飲み過ぎやありませんか?」
 フフッ、確かに脳が浮遊している感じはする。だが、それは酒だけが原因なのだろうか。
「大丈夫です!! 男ですから!! そんな事よりモモさん!! 俺の政治家としての第一歩を祝っていただけませんか!?」
 何だか、身体が勝手に動きました。なにせ男ですから。
「え!? ちょ、お待ちを……あ~~~~れ~~~~っ」
 絶世の美女を押し倒してしまった、これでいいのか銀次。いいのだ銀次。今日はめでたい日だ!! しかし――――――何故、折角こんな美女を押し倒したというのにその後の記憶が殆ど無いんだ銀次ッ!!
 相手が美人過ぎてそれこそ頭が真っ白だったということかこれは!? 嗚呼、酒飲み過ぎた!! 飲み過ぎた!! 銀次一生の不覚なりー!!
 なんか「デカいデカい」とか「痛い痛い」とか「お戯れを~!」というモモさんの声が聞こえたのは覚えているんだけどー……、はて。確かに俺は彼女を抱いたのだろうか、抱いたんだよな。脱ぎ散らかった着物の海に横たわっている淫らな裸体。そして俺は色んな汁が付いたチンチンが丸出しだ。
 記憶はない。しかし気分はとても晴れやかだ。間違いなく俺はこの美女を抱いた。
「いやあー、どうもありがとう御座いましたモモさん! では私は明日も仕事なのでこれで」
 何だか、明日から凄く凄く仕事を頑張れそうです俺。
「はあ……はあ……! ぎ、銀次様お帰りになられます~っ。お見送りを……っ」
 虫の息でいらっしゃる美女に見送られて座敷を出る。尋常でない廃れ具合だ。それでも尚、美しい。いやあ少々悪いことをしてしまったか。そんなに無理を強いたつもりはないのだが……。
 廊下を進んでいると「またおいで下さいませ」と次々擦れ違う女の子たちに挨拶をされた。しかし俺はもう緊張なんてしないんだぜ。ハハハッ、もう俺はさっきまでの俺とは違うのだ、何せ男として一皮剥けたからね! ああ、そう、緊張……なんて…………。
「瑛葉銀次様、またおいで下さいませ」
「あ、どうも……」
 華奢な手で俺の履物を揃えて深く頭を下げたこの少女、なんと可憐なのだろう!! 嗚呼、可憐過ぎる!! なんという事だ、この遊郭一番の女性を抱いてしまった後だぞ、もう緊張なんてしないと思っていたのに俺の胸はまた高鳴っている!!
「あ、あの、貴女の名前は?」
「私ですか? 見習いの茶都(サト)と申します」
 っあああおう!! 何かが今、俺の胸にグサリと刺さりました!! 痛い!! 胸が痛い!! 初々しく微笑んでみせるその顔!! その顔!! 貴女は可憐過ぎる!! おかしいな、モモさんを見た時よりも頭が真っ白かもしれないぞ、これは!! そうか、そうだったのか、どんなに色んな女性と身体を重ね続けてきた俺ですがどーりで燃え上がらない筈ですね、今気付きました、俺はこの子のような如何にも無垢で純粋そうな様子でもって線の細い華奢な子が好みだったんですよ!!
「茶都さん! 覚えました。貴女はとても可愛らしい。次に来た時に指名させていただいても?」
「え? あ、私はまだ見習いでー……」
 おおお、戸惑った風に目を大袈裟に瞬きをしてみせるその顔も可憐です!!
「見習い? 大丈夫、俺も政治家見習いだし、だから見習い同士ってことで…………うおっ!?」
「銀次様ー!! またいらして下さる?」
 廊下より颯爽と走ってきなすった香ちゃんに飛び付かれて言葉を遮られた。うおおお、茶都ちゃんと約束を交わしたかったのにー!!
「こ、香ちゃんっ。あ、はい、また来ます! とても楽しかった」
「まあ、嬉しい! 香に会いにきて下さるのね?」
「え? いや、あの、えっと……」
 香さん!! 貴女の豊満なお乳が俺の腕に当たってる!! 当たってます!! これは故意だな!?
「そこまでお送り致します」
「あ、ありがとう……。でも、えっと、ちょっと……」
 問答無用な勢いで腕を引っ張られる。これは、はて、どうしたものか。茶都ちゃんが豆鉄砲を食らった鳩のような顔で俺を見ている。
「ああ、ちょっと、あの……っ。じゃあ、またね茶都ちゃん! 俺また来るから!」
「はい、お待ちしています」
 ああ、良かった。手を振ったら笑ってくれた。……もうちょっと話したかったなあ……。俺の意気地なし。嗚呼、夜風が身体に切なく沁みる。
「で、銀次様もモモ姉様のトリコなワケ?」
 俺の胸を指で小突きながら香ちゃんが言う。
「また来るその目的はモモ姉様?」
「え!? いやいやいやいや、俺はまだ全然釣り合わないよモモさんとは~。まあ、なんていうか、遊びも男の嗜みって事で箔をつけていきたいな、みたいな。とどのつまりは社会勉強も兼ねてまた遊びに来ようかなと!」
 それとない理由を適当に作った。茶都ちゃんと話してみたいから、などと正直に答えたら彼女はきっと気を悪くするに違いないと思ったから。現に相手は「じゃあ香がそのお勉強に付き合ってあげる!」と笑って俺の手を取って乳を揉ませてる!! なんてこと!! ちゃっかりそれに乗って手を動かしてしまう男の性を呪います俺!!
「せ、積極的だね、香ちゃんっ。そうかい、付き合ってくれるかい?」
「エヘッ。任せてよ! あ、そうだ香ね、新しい髪飾りが欲しいの! お勉強代だと思って買って買って!」
 ――新しい髪飾り?
 どんなのがいいのと聞こうとした口を彼女の唇が塞いだ。
 遊郭の出入り口から、事の一部始終を微笑ましく見ていた金髪の用心棒が声を殺して笑っているのが見えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...