恐怖日和

黒駒臣

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海水浴

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 幼い頃の夏の日、家族で海水浴に出かけた。
 一緒に遊んでいた両親は疲れて砂浜に寝転び、わたしは腰に浮き輪をつけたまま一人つまらなさそうに座っていた。
「わたしルミちゃん。いっしょに遊ぼ」
 白い浮き輪をつけた女の子がにこにこ笑いかけてきた。
「うんっ」
 わたしたち二人はぷかぷかと海に浮かんで遊んだ。
「ね、競争しよ」
 そう言ってルミちゃんがいきなり手で漕ぎ始め、ぐんぐん水平線目指して進んで行く。
「待ってぇ」
「早く、早く」
 ルミちゃんが振り返って笑う。
 一生懸命漕いでいると「こらっ行くなっ」と叫びながら追いかけて来た父に捕まった。
「遠くに行ったら危ないだろ」
 すごい剣幕で叱られたが、離れていくルミちゃんに誰も気付かない。
 遠く波間に浮いていたルミちゃんがちゃぷんと消えた。
「ルミちゃんっ」
 沖を指さして泣くわたしに父の顔が青くなった。
 子供の頃、海で溺れ死んだ父の幼なじみがルミちゃんという名だったそうだ。
 あれから二度と海には連れて行ってもらっていない。

 ルミちゃんはただ遊びたかったのか、わたしを連れて行くつもりだったのか、今でもわからない。
 でも、あの時連れて行かれていたらこんな悲しい思いをせずに済んだのに。
 久しぶりに来た海は穏やかに波の音を繰り返している。
 やっと授かった我が子。引き潮に連れられるように静かに流れて行ってしまった。
 ひどいよ。ルミちゃん。
 きゃはは。
 細波の間から子供の笑い声が聞こえた気がした。

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