恐怖日和

黒駒臣

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山路譚

テレビ

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 道に迷ってどれぐらい経ったのだろう――
 ようやく秋らしくなり木々が色づき始めたので、紅葉見物ついでのちょっとしたドライブのつもりだったのに。
 春には桜、夏は新緑と季節の移ろう時期に必ず走るいつもの山道なのに、どこでどう間違えてしまったのか――と反省してはみるものの、この道は普通間違えようがないので不思議だった。
 確かに深い森に囲まれている似たような道に逸れやすいかもしれない。だが、この道には枝道はなかったはずだ。だから逸れようがないのだ。それなのに、延々とさ迷う羽目になってしまった。
 迷ったことに気付いたのは行きにはなかった不法投棄の粗大ごみを見つけたからだった。待避所に山のように置かれていた。
 来るときは確かになかった。
 一つ二つなら、私が戻ってくるまでに誰かが捨てたと考えられるが、テレビに洗濯機にと大型家電ばかり山のように置いてある。果たしてそんな短時間で捨てられるものなのだろうか。
 やればできるかもしれないが、いや、そんなことが問題ではない。
 このまま街まで帰れるかどうかもわからない道を走り続けるか、元の道とわかる場所まで戻るべきか問題なのだ。
 このまま先に行って見知らぬ集落に出たとしても帰れないほど遠くということはあるまい。
 そう考え、そのまま進むことに決めた。
 ところでさっきの不法投棄は本当にひどかった。違法業者の仕業なのか、それとも良識のない人たちが一つ二つと捨てに来たものが積もりに積もったのか。
 ったく、山はゴミ捨て場じゃないんだぞ。
 憤慨しながらしばらく走っていると、また待避所に粗大ごみが置かれていた。
 今度はブラウン管テレビが一台。
 本当にしょうがないな。
 それを横目にため息をついて通り過ぎた。

                 *

 一軒の民家も見かけることなく、引き返したほうが良かったのかもと後悔したまま日が暮れてしまった。
 待避所に置かれたテレビがヘッドライトに浮かぶ。
 これで何度目だろう。十回以上は見ている。
 同じものではないと思いたいが、どう見ても同じ場所で同じテレビだった。
 私はいったいどんな迷い方をしているのだろう。
 そのまま通り過ぎしばらく走る。
 今度こそという思いも空しく、またテレビがライトに浮かんだ。
 だが、今までとは少し違っていた。画面が光っている。
 ライトが反射してそう見えているのではなかった。近づくにつれ砂嵐が見えてくる。
 電源はもちろんアンテナもない場所だ。なぜ映っているのだろうか。
 通り過ぎてはみたものの、どうしても気になってバックし、待避所に入った。
 車の窓を開けてテレビを見る。やはり砂嵐が映っている。画面が歪み、時々横線が流れた。
 これは誰かのいたずらで、何か仕掛けがあって電源のない場所でも点いているのだろうか。
 周囲を見回しても誰もいないが、ヘッドライトの届かない暗闇に潜んでくすくす笑っているのかもしれない。
 どうしても確かめたくなって外に出た。湿った枯葉の匂いと土の匂いが静かに漂っている。
 あたりをぐるりと見まわしたが人の気配はなかった。
 テレビに近づいてみる。音は出ていない。
 画面が頻繁に歪み始め、砂嵐が濃くなったり薄くなったりして急に真っ暗な画面になった。
 消えたと思ったがそうではなく、きらきらと白い無数の点々が映っている。
 それが星空だと気付いた時は画面がゆっくり下りて暗い森の中を映し出していた。白黒テレビなのか色はついていない。
 木々の間を移動している場面が映る。森が開くと道が見えた。その道をどんどん進んでいる。やがてヘッドライトを付けた車が遠くに映った。驚いたことに私の車だ。テレビに見入る私の背中も映っている。
 誰か撮影しているのかと振り向いてみても誰もいない。
 だが、画面では私の背中がだんだん近づく。
 もう一度振り向いてみたが、やはりなにもいない。
 どういうことだ?
 視線を戻すと、テレビには驚きに目を見開いた私の顔が映っていた。
「な、なんなんだ、どうなってんだ――」
 突然、背後からふうーふうーという荒い息が聞こえ、生臭い異臭が鼻孔を衝く。
 画面には凍り付いた顔の私とその肩越しから覗き込むどうやっても形容できない顔が映っていた。
 悲鳴を上げる間もなく、ぷつっとテレビが消え、辺りは真っ暗闇になった。 
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