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10話
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「可愛すぎる」
幾日かは城に戻らなければいけないカイルにとって、リリアーナとの別れは身を裂かれるほど辛いものとなっていた。
どうすればいいのだろう。
カイル=ランドルフ=ルードリヒは、溢れる感情を処理しきれずにいた。
「リリアーナが可愛いすぎるんだが。ぁぁああ。俺はいったいどうしてしまったのだー!!」
金糸のような髪を掻き毟るカイル。
隣に座るレオールはなぜか満足げに微笑みを送る。
カイルは切なさが溢れて我慢できなくなったのか、レオールに抱きついてしまった。
「なあ。なんでリリアーナはあんなに可愛いのだ。何をしても可愛いって反則だろう? 怒っても喜んでも、ツンとしたたいどを取られても何をされても可愛い。困るんだが? 俺はおかしくなったのか!?」
「いいえ。王子は正常です」
レオールは微笑んだまま、答えた。
「はしかのようなものにかかったのです。世界で一番やっかいで神秘的な」
「なんだそれはー!」
「ふふっ。今のカイル王子も可愛いですよ?」
「うるさいうるさい!! そんなことより、話を変えるぞ。リリアーナのことだ!!」
さっきからリリアーナのことしか話してないじゃないですか。
レオールはそんな無粋な言葉を発する男ではない。
「魔法を教えてもらったのだ」
「ほう、すごいですね」
「リリアーナは、『魔法を教えますから見てください』と言って魔法を発動したのだ。どうなったと思う?」
「ふむ、どうなったのです?」
「ずぁっ!! ごっっっつ!! 山がひとつ消えた」
「……リリアーナ嬢なら、あ、あり得ますかね」
「その後が可愛かったんだ!! 『今のは失敗です。見ないでください』と言い、顔を真っ赤にして照れていたんだ。あれはリリアーナ史上三本の指に入る可愛さだったぞ!」
「王子。山がひとつ消えたことにもっと驚きましょう」
カイルの口からは、無理を言って料理を作ってもらおうとお願いしたら、案外あっさり作ってもらえ、しかもプロよりも美味しかった話や、ミノタウルスを二人で燃やした話、素材を集めて武器を作り、どっちがカッコいいか勝負をした話など微笑ましいものがいくつも出てきた。
しかし。
「はぁぁ……」
顔をりんごのように紅くして楽しげに話していたカイルが、ふと目を伏せてしまったのだ。
「いったいどうなされたので? お二人とも、あれだけ楽しげに冒険者としてやっているようですが?」
「……おかしいのだ」
カイルは、深刻そうにため息をつく。
「リリアーナのことを知れば知るほど、遠くなる気がして……何故なのだ。リリアーナも、俺と楽しげにしてくれるかと思ったら、次の瞬間にはもっと遠くに行ってしまう。もっと知りたいのに」
カイルの不安は、レオールも懸念していた事柄であった。
どうしてか、リリアーナのカイルに対する態度は度を超えて冷たいように思える。
何か理由があるなら……。
「ほんとうのお母様が生きていたら、きっとリリアーナのことを気に入ったと思う」
ボソリと呟いたカイルの背中が震えているような気がして。
「きっと、そうですね」
レオールは後ろから強く抱きしめたのであった。
幾日かは城に戻らなければいけないカイルにとって、リリアーナとの別れは身を裂かれるほど辛いものとなっていた。
どうすればいいのだろう。
カイル=ランドルフ=ルードリヒは、溢れる感情を処理しきれずにいた。
「リリアーナが可愛いすぎるんだが。ぁぁああ。俺はいったいどうしてしまったのだー!!」
金糸のような髪を掻き毟るカイル。
隣に座るレオールはなぜか満足げに微笑みを送る。
カイルは切なさが溢れて我慢できなくなったのか、レオールに抱きついてしまった。
「なあ。なんでリリアーナはあんなに可愛いのだ。何をしても可愛いって反則だろう? 怒っても喜んでも、ツンとしたたいどを取られても何をされても可愛い。困るんだが? 俺はおかしくなったのか!?」
「いいえ。王子は正常です」
レオールは微笑んだまま、答えた。
「はしかのようなものにかかったのです。世界で一番やっかいで神秘的な」
「なんだそれはー!」
「ふふっ。今のカイル王子も可愛いですよ?」
「うるさいうるさい!! そんなことより、話を変えるぞ。リリアーナのことだ!!」
さっきからリリアーナのことしか話してないじゃないですか。
レオールはそんな無粋な言葉を発する男ではない。
「魔法を教えてもらったのだ」
「ほう、すごいですね」
「リリアーナは、『魔法を教えますから見てください』と言って魔法を発動したのだ。どうなったと思う?」
「ふむ、どうなったのです?」
「ずぁっ!! ごっっっつ!! 山がひとつ消えた」
「……リリアーナ嬢なら、あ、あり得ますかね」
「その後が可愛かったんだ!! 『今のは失敗です。見ないでください』と言い、顔を真っ赤にして照れていたんだ。あれはリリアーナ史上三本の指に入る可愛さだったぞ!」
「王子。山がひとつ消えたことにもっと驚きましょう」
カイルの口からは、無理を言って料理を作ってもらおうとお願いしたら、案外あっさり作ってもらえ、しかもプロよりも美味しかった話や、ミノタウルスを二人で燃やした話、素材を集めて武器を作り、どっちがカッコいいか勝負をした話など微笑ましいものがいくつも出てきた。
しかし。
「はぁぁ……」
顔をりんごのように紅くして楽しげに話していたカイルが、ふと目を伏せてしまったのだ。
「いったいどうなされたので? お二人とも、あれだけ楽しげに冒険者としてやっているようですが?」
「……おかしいのだ」
カイルは、深刻そうにため息をつく。
「リリアーナのことを知れば知るほど、遠くなる気がして……何故なのだ。リリアーナも、俺と楽しげにしてくれるかと思ったら、次の瞬間にはもっと遠くに行ってしまう。もっと知りたいのに」
カイルの不安は、レオールも懸念していた事柄であった。
どうしてか、リリアーナのカイルに対する態度は度を超えて冷たいように思える。
何か理由があるなら……。
「ほんとうのお母様が生きていたら、きっとリリアーナのことを気に入ったと思う」
ボソリと呟いたカイルの背中が震えているような気がして。
「きっと、そうですね」
レオールは後ろから強く抱きしめたのであった。
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