上 下
9 / 10

9話

しおりを挟む
「母上もさぞかしお喜びのことだろう。リリアーナ。お前のおかげだぞ。ムーンフルーツの贈り物は手応えがあったと感じた。あれは、いったいどういう意味があったのだ?」

「別に美味しいからですが。カイルリート、いい加減わたしの名前を間違わないで。今のわたしは先輩冒険者リリでしょう」

「ご、ごめん。……この呼び方やめないか? 頭がこんがらがる」

「貴方が言い出したことですが」

 ムーンフルーツ?
 カイル王子が顔を赤くして話しかけてきたので、何事だ喧嘩でも売っているのかと思いましたが。
 王子は本当に母親にあの果実を献上したみたい。
 すっかり忘れていました。
 まあ、いいんじゃないかしら。
 あっさりして、水分も多く甘い口触り。
 メロンとスイカの中間みたいな果物ね。
 嫌いな人、いないでしょ。

 そんなことより、カイル王子はメキメキと戦闘の腕を上達させている。なぜなら、わたしの教え方が上手だからだ。

「リリと冒険できて、俺は心から楽しいよ!」
「わたしはそれなりです」
「嘘だ。これだけ一緒にいるとリリが喜んでいる感情とか、少しはわかってきたぞ?」
「気のせいでは?」
「こんなに城の外で、自分の力で何かを成し遂げるのが楽しいとは思わなかったんだ。お前も同じだろ、リリ?」

 その点は悔しいですが同感です。
 冒険者生活が始まってしばらく経過した。
 家には戻ったり戻らなかったりしている。
 理由としては、カイル王子が城に帰らなかったりするので、その時はわたしも付き添って宿に宿泊するのだ。
 ……別に二人で泊まったって、何も起きてないわ。
 部屋だって別だし、なんならカイル王子の部屋の側の反対にベッドを移動させて寝ているくらいだ。
 絶対に心を許すわけないもの。
 とにかく、カイル王子はまだまだ一人では心配だ。
 どうも、誰かに見られている感じがする。それはわたしじゃなくて、きっとカイル王子に対する視線だと思う。
 キャハハ、誰かに恨まれてるーってバカにしてあげることもできるんだけど、一応レオールさんとの約束もある。
 わたしは裏切られる。それは決まっていること。
 でも、わたしは必ず裏切らない。
 貴方とは違うってこと見せてあげる。
 刺客が来たら、わたしの前だったらなんとかしてあげる。この契約期間だけね。

(楽しいな、やっぱり冒険者って最高だ)

 不本意だけど、二人の冒険者生活は楽しい。
 なんていうか、たった一人でやっていた頃は孤独を友達にしていたのね。
 すんごく美味しい素材とか手に入った時なんて、

「リリアーナ二号、どうかしら?」
「すばらしい肉質ですわ。舌の上でとろけるみたい」
「リリアーナ三号的には、このお肉をシチューにしても美味かと考えるのですが」
「三号、それはどうかと思うよ。四号は丸焼きを所望するね。どうだい本体さん?」
「うーん。悩みますね。全部食べてみましょう……」

 脳内会議室には数名のリリアーナが居まして、いつもそこで会議を繰り広げておりました。
 ええ。寂しい令嬢です。みじめです。
 ですが、今では彼女たちが封印されつつあります。
 カイルリート氏がよく喋るのです。なんでも、レオールさんの話では、王子、城では一切誰とも口を聞かないのに、わたしとはよく会話するそうです。
 わたし、口を閉じているカイル王子を見たこと無いんですけど?
 レオールさんの言う、捻くれ者の、ムスッとした沈黙を愛するカイル王子はどこ?

「美味しいよリリアーナ!」
「お前の手料理は最高だ。もう城のごはんは食べられない」
「焼いただけ? 嘘をつかないでくれ。それでここまでコクが出るのか? リリアーナは天才だね」
「すまん。お前の顔を見るとお腹が減るようになった。今日のご飯担当はリリアーナにお願いする」

 言われなくても、ご飯はわたしが全て作っている。
 いえね。
 感想を言われるとどうしても作っちゃうというか、一人だった時の反動で頑張りすぎちゃうというか。
 カイル王子はたくさん食べてくれるし、料理をすること自体は嫌いじゃないし。
 これって、別に王子に媚びてるわけじゃないから。
 王子に作られる地獄より、わたしの作る最高の料理のほうがいいし。
 そういうことよ。

 ギルドの依頼は、主に薬草回収などを中心に行う。
 カイル王子は不満を顔にしていたけど、薬草の回収最中に出会うモンスターも、なかなか凶悪なものがいる。
 それこそ、訓練だけで実戦をしてこなかった王子にとっては十分に脅威だ。

「リリアーナ、そこまで俺のことを考えて……嬉しいよ。どうしよう、俺は、日に日にお前のことが、もっと知りたくなってきている。これだけ近くにいるのに、全然届く気がしない。リリアーナ、俺はお前のことが……可愛いリリアーナ。素敵だ」

「気のせいですよ?」

「……ツンとした態度は変わらないんだな。だが、お前に認められるために努力するよ。なんでもする。だから今日はシチューにしてくれ」

「それが目当てか」

「バレたか」


 にっこり笑って、八重歯を見せるカイル王子。
 やめてください。その微笑みで、ギルドの女の子たちが勝手にファンになり、勝手にわたしを恨んでいます。

「あはは、ありがとうリリアーナ。お前のおかげで毎日が楽しい」
「良かったですね。わたしはまあまあですけど」
「感謝している。これは本当だ」

 手を両手で握られ、思わず焦っちゃいました。
 へ、へえわたしに感謝を?
 最初の頃より、少しだけ素直になりました?
 すっきりとした表情で微笑むカイル王子。周囲からの黄色い声が煩いので、早く手を離してください……。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】攻略を諦めたら騎士様に溺愛されました。悪役でも幸せになれますか?

うり北 うりこ
恋愛
メイリーンは、大好きな乙女ゲームに転生をした。しかも、ヒロインだ。これは、推しの王子様との恋愛も夢じゃない! そう意気込んで学園に入学してみれば、王子様は悪役令嬢のローズリンゼットに夢中。しかも、悪役令嬢はおかめのお面をつけている。 これは、巷で流行りの悪役令嬢が主人公、ヒロインが悪役展開なのでは? 命一番なので、攻略を諦めたら騎士様の溺愛が待っていた。

婚約破棄された悪役令嬢は、満面の笑みで旅立ち最強パーティーを結成しました!?

アトハ
恋愛
「リリアンヌ公爵令嬢! 私は貴様の罪をここで明らかにし、婚約を破棄することを宣言する!」  突き付けられた言葉を前に、私――リリアンヌは内心でガッツポーズ!  なぜなら、庶民として冒険者ギルドに登録してクエストを受けて旅をする、そんな自由な世界に羽ばたくのが念願の夢だったから!  すべては計画どおり。完璧な計画。  その計画をぶち壊すのは、あろうことかメインヒロインだった!? ※ 他の小説サイト様にも投稿しています

悪役令嬢ですが、どうやらずっと好きだったみたいです

朝顔
恋愛
リナリアは前世の記憶を思い出して、頭を悩ませた。 この世界が自分の遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気がついたのだ。 そして、自分はどうやら主人公をいじめて、嫉妬に狂って殺そうとまでする悪役令嬢に転生してしまった。 せっかく生まれ変わった人生で断罪されるなんて絶対嫌。 どうにかして攻略対象である王子から逃げたいけど、なぜだか懐つかれてしまって……。 悪役令嬢の王道?の話を書いてみたくてチャレンジしました。 ざまぁはなく、溺愛甘々なお話です。 なろうにも同時投稿

めんどくさいが口ぐせになった令嬢らしからぬわたくしを、いいかげん婚約破棄してくださいませ。

hoo
恋愛
 ほぅ……(溜息)  前世で夢中になってプレイしておりました乙ゲーの中で、わたくしは男爵の娘に婚約者である皇太子さまを奪われそうになって、あらゆる手を使って彼女を虐め抜く悪役令嬢でございました。     ですのに、どういうことでございましょう。  現実の世…と申していいのかわかりませぬが、この世におきましては、皇太子さまにそのような恋人は未だに全く存在していないのでございます。    皇太子さまも乙ゲーの彼と違って、わたくしに大変にお優しいですし、第一わたくし、皇太子さまに恋人ができましても、その方を虐め抜いたりするような下品な品性など持ち合わせてはおりませんの。潔く身を引かせていただくだけでございますわ。    ですけど、もし本当にあの乙ゲーのようなエンディングがあるのでしたら、わたくしそれを切に望んでしまうのです。婚約破棄されてしまえば、わたくしは晴れて自由の身なのですもの。もうこれまで辿ってきた帝王教育三昧の辛いイバラの道ともおさらばになるのですわ。ああなんて素晴らしき第二の人生となりますことでしょう。    ですから、わたくし決めました。あの乙ゲーをこの世界で実現すると。    そうです。いまヒロインが不在なら、わたくしが用意してしまえばよろしいのですわ。そして皇太子さまと恋仲になっていただいて、わたくしは彼女にお茶などをちょっとひっかけて差し上げたりすればいいのですよね。    さあ始めますわよ。    婚約破棄をめざして、人生最後のイバラの道行きを。       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆     ヒロインサイドストーリー始めました  『めんどくさいが口ぐせになった公爵令嬢とお友達になりたいんですが。』  ↑ 統合しました

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。 その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。 そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。 なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。 私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。 しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。 それなのに、私の扱いだけはまったく違う。 どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。 当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

処理中です...