不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜

晴行

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2話

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 この世界には魔法があって、モンスターもいる。
 だから冒険者という職業もある。わたしは、貴族でいるよりそういった職業になりたいと思っている。
 でも、冒険者は一般的にはとても危険な職業。死ぬ人だって出る。
 お父様もお母様もわたしがそう言い出したらひどく悲しむと思うし、そもそもゲームのストーリーが進んでしまったらわたしに選択する権利はないんだと思う。
 だからたまに冒険者のまねをしてモンスターを狩っている。お金にもなるし。
 お金には困っていないのだけれど。

 さあ今日はどこにいこうかな。
 この辺の森のモンスターは強いのはほとんど倒しちゃったから、弱いのしかいないんだよね。
 空を飛びながら考え事をしていると、森の中に火がみえた。
 冒険者の焚き火にしては時間が早い。
 わたしは気になったので近づいてみることにした。

「守備陣形を崩すな……っ」

 ひとりの騎士を中心に、兵士たちが円をつくって誰かを守っている。
 そのひとたちの前には、弱いけど狂暴な牛の頭のモンスター『ミノタウルス』がいる。
 馬車が襲われて横転し、燃え盛ってる。焚き火じゃなかったのね。
 危ないっ。
 盾を持った兵士のひとが、ミノタウルスの斧を受けて弾き飛ばされた。
 倒れて動かないけど、死んではない。よかったわ。
 あんな装備じゃダメね。盾が簡単にへこんじゃったじゃない。

「なんてことだ。こんなときにミノタウルスなど!」

 騎士のひとは身長が高く、筋肉もつきすらりとしている。
 あくまで人間基準だから、ミノタウルスを相手にするにはちょっと不足かな。
 爽やかな顔に焦りを浮かべ、騎士のひとはミノタウルスの攻撃を防御した。

「グモモモモモモモッ!!」

「決してさがるなっ!! くっ」

 実力はあるみたいだけど誰かを守りながらだからうまく戦えないみたい。
 ミノタウルスの斧を剣で弾いているけど、腕が震えているからかなりキツいのかも。
 どうしよう。
 わたしの隠蔽魔法、近づいたらバレちゃうんだけどな。
 騎士のひとは背後に守る人影に優しい微笑みを投げ掛ける。
 もしかして、命と引き換えに守る気?
 どうやら剣を持つ腕に限界が来ているみたいね。

「この剣に誓い絶対に守ります。安心して」

 と、騎士のひとは背中の人物に優しく伝えた。

「レオールお前っ。俺に構わず逃げ……っ」

 背中に守られている人物は泣きそうな声をあげた。

「グモモモォ!!」

 ミノタウルスはお構いなしに斧を振り上げる。

「こい化け物! 我があるじに指一本も触れさせない!」



 __「ブレイズファイア」

 中級の火属性魔法。



「えっ」 

 騎士のひとは驚いて固まっている。
 やってしまった。
 わたしは気がつくと騎士のひとと、ミノタウルスの間に入り魔法を使っていた。
 人助けなんてしたらわたしが外に出てることがお父様に知られてしまう。

「グモォォォォ!? ギャウゥゥゥゥ……」

 ミノタウルスは燃えさかる炎に焼かれて倒された。
 ……やっぱり弱いモンスターね。
 騎士のひとはすこしの間唖然とし、目を輝かせてわたしの両手を取ってきた。
 息が荒くて顔が近いです。

「あ、あなたはいったい!? 急に現れたようだが!? それより、ありがとう!! 高ランクのミノタウルスだったぞ。君がミノタウルスを倒したのかっ?」

 騎士のひとは興奮してわたしの手をにぎりしめる。
 息がかかりそうなほど近い。
 思ったより人の手が暖かくて驚いたわたしは、顔をそむけた。

「違います」

「ち、違うのか?」

「このあたりのミノタウルスは勝手に燃えるんですよ」

「も、燃えるのかっ!? 初耳だ……しかし、すごいな。この辺りのは勝手に燃えるのか。とにかくすごくありがとう」

 よかった。騎士のひとは納得してくれるみたい。
 いつまで手を握っているつもりかしら?
 振り払うと、騎士のひとは気づいていなかったらしく慌てて謝罪し頭を下げた。少し残念そうだったのは何故?
 わたしがほっと胸を撫で下ろそうとしたところ、騎士のひとの背後から高圧的な態度の声が聞こえた。

「ミノタウルスが燃えるなんて嘘に決まっているだろ、馬鹿なレオール」

 偉そうね。誰よ。
 わたしは声の主の姿をみた瞬間、心臓が止まりそうになった。
 ゲームでは成長した姿だけど、面影はある。
 間違いない、カイル王子がそこにはいた。
 金色の髪、蒼い瞳に長い睫毛。嘘みたいに整った顔は幼さを残す。まるで妖精のようで、騎士たちが命がけで守る理由もわかる。
 そんな……まだゲームの開始には時間があるはずなのに、どうして?
 混乱してしまって考えられない。王子がどうしてこんな辺鄙な場所にいるの!?
 カイル王子は前に出てきて、わたしの顔をまじまじと見つめた。

「誰だかわからないがお前の魔法で助かった。別に助けなどなくてもレオールがいるから平気だったが、よくやってくれた。褒めてやるぞ」

 なにこいつ。
 すごく上から目線だ。
 さっきまでモンスターに襲われて、騎士に命がけで守られて泣きそうになってたにも関わらず。
 レオールと呼ばれた騎士は慌てて取り繕う。

「か、カイル王……おぼっちゃま、助けていただいた方にそんな態度はいけません! 申し訳ないお嬢さん、おぼっちゃまに悪気はなく、ただ……」

「いいんです」

 わたしは騎士レオールの言葉を遮るようにして伝える。
 全然気にしてないし。

「勝手に燃えたんですから。では、わたしは……」

「お前、面白い女だな。名前をなんという?」
 
 カイル王子は会話を打ち切ろうとするわたしを引き留め、名前を尋ねてくる。
 ほんとになんなんだろうこの王子。
 いつも王子の身分でちやほやされるからといって、悪役令嬢のわたしが優しくするとでも?
 わたしはバッサリと会話を打ち切るつもりで言葉を発する。

「あなたに関係あります?」

「ある。今度礼をさせろ。家に行く」

「結構です」

「そうか嬉しくて照れているのか。わかった名前は今度でいい。顔は覚えた」

「忘れてください」

「断る。忘れたくても忘れられなそうだ」

 そう言い、白い歯を見せるカイル王子。
 綺麗な顔……。
 まさかここで微笑むとは思わず、わたしは言葉に詰まってしまった。
 流石はヒロインとくっつく攻略対象、すごく魅力的な容姿をしている。誰がみても美男子だ。ずるいくらいに。
 それは認める。でも、わたしには関係ない。
 わたしはぷいと踵を返した。

「帰ります」

「ああ。森は暗い。帰り道に気をつけろ」

「空を飛ぶので大丈夫です」

「それは安心だな」

「はい。安心です」

「また会おう」

「嫌です」

 わたしは王子の言葉に全て短く返答すると、そのまま浮遊魔法を使って空中へと避難した。
 ……おっといけない。このまま家の方角に進んだらダメね。
 一度逆に向かって、それからぐるりと回り込んで帰りましょう。

 はぁ、ドキドキした。
 王子に対してって意味じゃなくて、いきなり会ったから。
 心臓が今でもバクバクしてる。まるで身体が跳ねるみたいに。
 こんなの久しぶりね。


 急に会ったからに決まってる。



 
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