『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行

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最終章

バイバイ、セカイ

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 セツカとアラガミが一緒に横になったベッド。
 その上に取り残されたように放置されたクマのぬいぐるみがある。
 小さな女の子が持つような、可愛らしい灰色をしている。
 ぬいぐるみの目はボタンであしらわれており、命の存在は微塵も感じられない。
 だが。
 誰もいなくなった寝室で、そのクマはむくりと立ち上がった。

「つまんない」

 クマはそう呟き、歩きだす。
 テトテトと覚束ない足取りで部屋の扉までやってきた。
 ドアノブにはギリギリ届くか、届かないか。

「うんしょ。うんしょ……」

 可愛らしく飛び跳ね、何度かドアノブに飛び付こうとする。
 届かない。
 しばらく挑戦した後、近くに椅子があることに気づき。
 椅子を移動させ。
 もう一度挑戦する。
 やっとドアノブに届いた。

「うんうん。工夫が大事なんだネ」

 ぬいぐるみは、ドアを開け放つ。
 その先に待っていたのは、虚空。
 あるべきはずの廊下は消え去り、視線の先にあるのはどこまでも続く闇の世界だ。

「アラガミちゃん、けっこう簡単にやられちゃった。あれだけ繰り返したのに、ツマンネー終わり方しやがって。もっとお兄ちゃんにしがみついて、泣き叫んでレーネを殺して下さいと頼めよ。靴でも地面でも舐めてサ。そうじゃないと消えるのは自分なのにバカだな。あーあ。セツカのお話はこれで終わりだネ。前回よりは面白かったよ。でも、飽きちゃっタ」

 ぬいぐるみは、虚空に飛び込む。
 すると、ドアはひとりでに閉じ、静寂が戻ってくる。
 ……あまりに静かすぎる。
 世界が、すこしずづ色を失っていく。
 まるで天から薄められた漂白剤を注がれているかのように、色彩が消えていくような感覚。
 誰も気づかない。
 誰も声をあげない。
 オリエンテールの記憶も、この世界の記録も、星の創造すら喰われていくようにさらさらと失われていく。
 不安そうにセツカを待つ女の子たちも、砂の城が風で崩れるように消えていく。
 やがて形を保つことすら困難になってくる。
 そうして。




 ____ひとつの世界は、崩壊した。
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