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五章
戦いのあとに
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「勝った……のか?」
「ほんとうに、俺たちが?」
「マジで!?」
「はは……あんなに不利な状況だったのに。セツカくんがいなくなって二年。王の帰還!! 人々が待ち望んでいた瞬間だ!!」
「セツカ、ほんとにすげえよ!! 俺たち勝ったよ!! 世界を守っちまった。今度は世界を救ったんだ」
どうやら他の場所でも続々と勝ちどきの声があがっているようだ。
クラスメイトたちは、指揮するものを失った機械族の戦士を難なく撃退した。これなら、後を任せても大丈夫そうだな。
サカモトとオニズカがやってきた。二人とも激しい戦いを繰り広げてきたのだろう。疲れがみえる。だが、顔は明るい。
「あとは任せてください。……感謝してもしきれません。この場に居合わせられなかったクラスメイトたちの分も、重ねてお礼を言わせてください」
「ゆっくり休んでくれよな。ほんとうに助かったぜ。ヒーロー!!」
サカモトとオニズカが陣頭指揮をとり、壊れた街に取り残された人々を救いに行った。
……終わった。勝利した。
オリエンテールでの勝利をうけ、世界中で反抗作戦が計画されるだろう。驚異だった神徒はもういない。
皆が力を合わせればきっと世界を壊そうとする悪に対抗できるはずだ。
ふぅ。
これでアラガミの使いとされた神徒はひとり残らず撃破した。さすがに疲れたな。
森の開けた場所で座って休んでいると、騒がしい女の子たちの集団がやってきた。ミリアたちか。
「セツカってば、余裕で勝っちゃうところがやっぱりセツカね!! さっきはブスって言われてムカついたけど許すわ。だってわたしの彼氏だもん!」
「なに言ってるんですかぁミリアさん。セツカちゃんは世界一かっこいいふーちゃんの王子さまですぅ」
「うん……ちがう。セツカくんはわたしの嫁だよフローラさん」
「皆さんおかしいですよ。スレイの旦那様セツカ様に許可をとって、魔法で凍らせちゃいましょうか?」
おまえら一斉にしゃべるなよ……ぜんぜん聞き取れないぞ?
だけど、この子たちの笑顔に囲まれるととてもほっとする。戻ってきたって感じだ。
いろいろ突っ込みたいが、嫁ではないぞ。
皆にもみくちゃにされていると、大事なひとりが足りていないことに気がつく。
いったいどこにいるんだ?
「ごめんなさい……」
レーネは離れて立っていた。
彼女は、うつむいて涙をこらえている様子だった。
「レーネ、ぜんぜん役にたてませんでした」
絞り出すように口にし、歯をくいしばる。
涙を流すような歳じゃない。だから拳を握って、ひたすら泣かないように耐えている。
そうだった。レーネの心に気をまわす余裕がなかった。レーネにとっても、自分の師匠の敵討ちといえる神徒との戦いは特別なものだったはずだ。
小さな女の子は悔しさと情けなさの入り交じる感情をただじっと堪えていた。
俺は立ち上がり、レーネの元へと歩み寄る。
すると、レーネはビクリと身を震わせた。
「ごめんなさい……レーネはいらない子、ですね」
金色の毛並みに包まれた美しい耳は萎れ、今にも消えてしまいそうなかすれた声でつぶやく。
近くまでやってきた俺を見上げようとして、視線を地面に落とす。まるでそうしないと溢れでるものに耐えられないといったように。
捨てられたり、酷いことをされた経験のトラウマはだいぶ抜けたとはいえ。今回の件はかなり落ち込んだようだ。
「そうだな……」
俺はじっとレーネを見下ろす。
捨てられるかもしれないと怯える命。肩まで震わせて、とても小さい。
だから俺は大きな声で言った。
「良かった。レーネを温存しておいてよかった」
「え……?」
「戦うと綺麗な服にホコリがつく。俺のレーネに土埃がかかるのは我慢できないからな」
「あ……の、ご主人さま……っ!? ひゃんっ!?」
そして抱き締めてみた。
腕の中にすっぽり収まる少女の温もりは、鼓動を至近距離の柔らかな皮膚感触ごしに伝えてくる。
「ぁ……っ」
時間差で顔を真っ赤にしたレーネは胸の中でポロポロと瞳から涙を溢れさせた。
あれ? ちょっと間違ったっぽいか……。驚かせて泣き止ませる作戦だったんだが。
「あ、あのさ。レーネのことは大事だから戦わせなかったって言いたかったんだけど。抱き締めちゃって嫌だった?」
「ちがうんです。うれしくて、あんしんして……ご主人さまに愛されている感覚が、とっても暖かくて。わたしとっても幸せで。優しさがぜんぶ伝わって、立っていられなくなるぐらい溶けそうで」
「あのさ、お前が言ってくれたように……俺もお前がいなくなったら困る」
「はい。はいっ……はいっ!! うれしい……弱くてごめんなさい。でも。うれしいっ。うれしいっ」
これでいい。
強さだけが評価されるなら、神徒の連中が言っていたことが正しいことの証明だ。
レーネはここにいるだけで価値があるんだ。価値なんてなくてもいい。隣にいてくれるだけでいいんだ。
腕のなかのレーネの感覚にどこか懐かしいものを感じる。まるでいつかの妹のような……。
必ず守らなければならない。
そう。これは取りこぼしたものを取り戻すための戦いだ。
レーネをセツナと同じように失うわけにはいかない。
ケモミミ頭をナデナデしながらしばらく抱いていると、すごく近くに圧を感じた。
「いいなぁ」
「いいですぅ」
「す、すごく理不尽」
「不平等を申告します」
えっと。
レーネを抱き締めながら大事なことを考えていたような気がする。
なぜ女子たちに問い詰められている!?
「どうして俺を睨む?」
「セツカさ、まずは言っておくよ。レーネちゃんのフォローすごくグッジョブ」
「だけどふーちゃんたちへの配慮が足りませんねぇ」
「わ、わたしたちだってセツカくんにぎゅーしてもらいたい!!」
「判決、有罪です」
今の俺は女の子たちに囲まれて判決を言い渡される被告のような有り様だ。それか銀行強盗に入られた受付のような。
おまえら俺から身ぐるみ剥がす気か?
「ど、どうすれば?」
「んふふ、わかってるくせに。セツカっていやらしい!」
「まずは脱ぎますぅ」
「だ、だめっ。そういうことをしたらみんなを能力でどこかへ飛ばす」
「ちょっと待ってください。しっかり団結しましょう? ああっ……セツカ様どこに行くんですか?」
「帰るんだよ!」
俺はレーネの手を引き、走って逃げる。
機嫌を直したレーネはきゃっきゃと笑い手を引かれてついてくる。楽しそうだ。
彼女たちの身体は大きく成長したり色々あったけれど、こうしてふざけあったりすると皆との絆を再確認できる。
よかった。守れて本当に良かった。
彼女たちを傷つけるものが現れるならば、誰だろうと『殺し』てみせる。改めて決意を固めたのだった。
「にゃれにゃれですねー」
「……いたのかペニーワイズ」
「セツカ様の肩が一番安全なのでー。ミリアのこと、ありがとうございましたー。本当に、心の底から……」
「別に、あいつのことは信じているからな。頼りになる女だ」
「……ありがとうございましたー(本人に言ってほしい。飛び上がって喜びまくると思いますですー)」
んじゃ、帰ろうか。
俺たちの家に。
●
夜。
静かな夜だった。アラガミはなにをしているのだろうか?
俺は誰にも悟られないように、戻ってきた深淵の森のなか、スキルに頼んで周囲空間ごと隠蔽してもらった。
皆は連戦の疲れがある。深く眠っているだろう。
神徒を撃破したならば、アラガミはなにかしらのアクションを起こすのだろうかと思っていたのだが。
用意した椅子に座り、夜空を見上げる。月は元に戻っている。アンリエッタは結局、最後に元に戻した。
ゆっくりと時間が経過していく。こういうのは久しぶりだ。
『殺す』スキルに尋ねたいことがあった。
「アラガミはなにを考えているのだろうか?」
●わかりません。しかしセツカ、あなたを倒すとすれば消耗しきった神徒との戦いを終えた瞬間が襲撃のタイミングとしてベストでした。襲撃がないということは、目的はもはや予知の範囲に収まりません。
「倒すことが目的じゃないらしいな……妹のコピー、アラガミか。いったい何を考えている」
この戦いで失ったものは多い。
この世界の住人の命。
アリエル、スリザリ。
そして、レイブンも行方不明だ。
必死でいなくなったレイブンを捜索していたグリフィンとハウフルの話によると、どうにもアラガミが関与している可能性が高いとの話だ。
「貴様ほどの男が……どうして守れなかったのだ!!」
グリフィンにはそう言われた。すぐに謝られたが……。
当然の言葉だ。俺はレイブンが消えたことに気づきもしなかった。
スキルに分析させたところ、ニイミのように触媒としてレイブンはアラガミの構成物質になってしまったのかもしれないとの話だ。
そんな救いのないことを言われても困る。
レイブンのはにかんだ微笑みが記憶に焼き付いて離れない。
あの女の子も、スリザリと同じようにアーティファクトという存在だったという。
過ぎた力をもって苦しんでいたのだ。だというのに俺は中二病だと簡単に切り捨てまともに取り合わなかった。
昔から存在するヒトの原型だから、復活に利用されたらしい。
もっと話を聞いてやればよかった。後から考えても遅い。
スキルの声はやや震えたように聞こえた。
●そう考えながら。救う方法を模索している。あなたはどうして……そこまで他人ばかり考えるのですかセツカ。
「さあな。あいつにドロップキックを食らったままだから、今度はお返ししないと気がすまない」
スキルはいつも俺を気にしている。
このスキルこそ他人ばかり気にするじゃないか。
だったら似た者同士というわけか。
●わたしはどこまでもついていきます。本望です。ですが……神徒との戦いでセツカ。あなたの身体は限界を越えました。
「限界? 越えられないから限界って言うはずなのに、おかしな話だ」
●ふざけないで。どうして皆さんにはお伝えしないのですか?
「いったい何を?」
●あなたの寿命の、三割を使いきったことです!! 神徒との戦いは決して楽勝ではありませんでした!! 限界を越えているんですよ? セツカ……お願いだから、どうか無事で……。皆さんにお伝えしましょう。もう戦えないと。これ以上は無理なんだと。神徒よりも強い敵が出現したら、今度こそあなたの命がっ!!
「皆に伝えたら、お前を殺す」
●できもしないくせにっ!!
涙を流すイメージが伝わってくる。
自我をもち、主人の身体まで気遣うとは本当に驚きだ。
そこまで心配されるとはな。さすがはセツナの造ったスキルだ。優しい。
「たのむ」
俺がそう伝えると、スキルはしばらく沈黙したのち。
●……はい。わかりました。
とだけ答えた。
「ほんとうに、俺たちが?」
「マジで!?」
「はは……あんなに不利な状況だったのに。セツカくんがいなくなって二年。王の帰還!! 人々が待ち望んでいた瞬間だ!!」
「セツカ、ほんとにすげえよ!! 俺たち勝ったよ!! 世界を守っちまった。今度は世界を救ったんだ」
どうやら他の場所でも続々と勝ちどきの声があがっているようだ。
クラスメイトたちは、指揮するものを失った機械族の戦士を難なく撃退した。これなら、後を任せても大丈夫そうだな。
サカモトとオニズカがやってきた。二人とも激しい戦いを繰り広げてきたのだろう。疲れがみえる。だが、顔は明るい。
「あとは任せてください。……感謝してもしきれません。この場に居合わせられなかったクラスメイトたちの分も、重ねてお礼を言わせてください」
「ゆっくり休んでくれよな。ほんとうに助かったぜ。ヒーロー!!」
サカモトとオニズカが陣頭指揮をとり、壊れた街に取り残された人々を救いに行った。
……終わった。勝利した。
オリエンテールでの勝利をうけ、世界中で反抗作戦が計画されるだろう。驚異だった神徒はもういない。
皆が力を合わせればきっと世界を壊そうとする悪に対抗できるはずだ。
ふぅ。
これでアラガミの使いとされた神徒はひとり残らず撃破した。さすがに疲れたな。
森の開けた場所で座って休んでいると、騒がしい女の子たちの集団がやってきた。ミリアたちか。
「セツカってば、余裕で勝っちゃうところがやっぱりセツカね!! さっきはブスって言われてムカついたけど許すわ。だってわたしの彼氏だもん!」
「なに言ってるんですかぁミリアさん。セツカちゃんは世界一かっこいいふーちゃんの王子さまですぅ」
「うん……ちがう。セツカくんはわたしの嫁だよフローラさん」
「皆さんおかしいですよ。スレイの旦那様セツカ様に許可をとって、魔法で凍らせちゃいましょうか?」
おまえら一斉にしゃべるなよ……ぜんぜん聞き取れないぞ?
だけど、この子たちの笑顔に囲まれるととてもほっとする。戻ってきたって感じだ。
いろいろ突っ込みたいが、嫁ではないぞ。
皆にもみくちゃにされていると、大事なひとりが足りていないことに気がつく。
いったいどこにいるんだ?
「ごめんなさい……」
レーネは離れて立っていた。
彼女は、うつむいて涙をこらえている様子だった。
「レーネ、ぜんぜん役にたてませんでした」
絞り出すように口にし、歯をくいしばる。
涙を流すような歳じゃない。だから拳を握って、ひたすら泣かないように耐えている。
そうだった。レーネの心に気をまわす余裕がなかった。レーネにとっても、自分の師匠の敵討ちといえる神徒との戦いは特別なものだったはずだ。
小さな女の子は悔しさと情けなさの入り交じる感情をただじっと堪えていた。
俺は立ち上がり、レーネの元へと歩み寄る。
すると、レーネはビクリと身を震わせた。
「ごめんなさい……レーネはいらない子、ですね」
金色の毛並みに包まれた美しい耳は萎れ、今にも消えてしまいそうなかすれた声でつぶやく。
近くまでやってきた俺を見上げようとして、視線を地面に落とす。まるでそうしないと溢れでるものに耐えられないといったように。
捨てられたり、酷いことをされた経験のトラウマはだいぶ抜けたとはいえ。今回の件はかなり落ち込んだようだ。
「そうだな……」
俺はじっとレーネを見下ろす。
捨てられるかもしれないと怯える命。肩まで震わせて、とても小さい。
だから俺は大きな声で言った。
「良かった。レーネを温存しておいてよかった」
「え……?」
「戦うと綺麗な服にホコリがつく。俺のレーネに土埃がかかるのは我慢できないからな」
「あ……の、ご主人さま……っ!? ひゃんっ!?」
そして抱き締めてみた。
腕の中にすっぽり収まる少女の温もりは、鼓動を至近距離の柔らかな皮膚感触ごしに伝えてくる。
「ぁ……っ」
時間差で顔を真っ赤にしたレーネは胸の中でポロポロと瞳から涙を溢れさせた。
あれ? ちょっと間違ったっぽいか……。驚かせて泣き止ませる作戦だったんだが。
「あ、あのさ。レーネのことは大事だから戦わせなかったって言いたかったんだけど。抱き締めちゃって嫌だった?」
「ちがうんです。うれしくて、あんしんして……ご主人さまに愛されている感覚が、とっても暖かくて。わたしとっても幸せで。優しさがぜんぶ伝わって、立っていられなくなるぐらい溶けそうで」
「あのさ、お前が言ってくれたように……俺もお前がいなくなったら困る」
「はい。はいっ……はいっ!! うれしい……弱くてごめんなさい。でも。うれしいっ。うれしいっ」
これでいい。
強さだけが評価されるなら、神徒の連中が言っていたことが正しいことの証明だ。
レーネはここにいるだけで価値があるんだ。価値なんてなくてもいい。隣にいてくれるだけでいいんだ。
腕のなかのレーネの感覚にどこか懐かしいものを感じる。まるでいつかの妹のような……。
必ず守らなければならない。
そう。これは取りこぼしたものを取り戻すための戦いだ。
レーネをセツナと同じように失うわけにはいかない。
ケモミミ頭をナデナデしながらしばらく抱いていると、すごく近くに圧を感じた。
「いいなぁ」
「いいですぅ」
「す、すごく理不尽」
「不平等を申告します」
えっと。
レーネを抱き締めながら大事なことを考えていたような気がする。
なぜ女子たちに問い詰められている!?
「どうして俺を睨む?」
「セツカさ、まずは言っておくよ。レーネちゃんのフォローすごくグッジョブ」
「だけどふーちゃんたちへの配慮が足りませんねぇ」
「わ、わたしたちだってセツカくんにぎゅーしてもらいたい!!」
「判決、有罪です」
今の俺は女の子たちに囲まれて判決を言い渡される被告のような有り様だ。それか銀行強盗に入られた受付のような。
おまえら俺から身ぐるみ剥がす気か?
「ど、どうすれば?」
「んふふ、わかってるくせに。セツカっていやらしい!」
「まずは脱ぎますぅ」
「だ、だめっ。そういうことをしたらみんなを能力でどこかへ飛ばす」
「ちょっと待ってください。しっかり団結しましょう? ああっ……セツカ様どこに行くんですか?」
「帰るんだよ!」
俺はレーネの手を引き、走って逃げる。
機嫌を直したレーネはきゃっきゃと笑い手を引かれてついてくる。楽しそうだ。
彼女たちの身体は大きく成長したり色々あったけれど、こうしてふざけあったりすると皆との絆を再確認できる。
よかった。守れて本当に良かった。
彼女たちを傷つけるものが現れるならば、誰だろうと『殺し』てみせる。改めて決意を固めたのだった。
「にゃれにゃれですねー」
「……いたのかペニーワイズ」
「セツカ様の肩が一番安全なのでー。ミリアのこと、ありがとうございましたー。本当に、心の底から……」
「別に、あいつのことは信じているからな。頼りになる女だ」
「……ありがとうございましたー(本人に言ってほしい。飛び上がって喜びまくると思いますですー)」
んじゃ、帰ろうか。
俺たちの家に。
●
夜。
静かな夜だった。アラガミはなにをしているのだろうか?
俺は誰にも悟られないように、戻ってきた深淵の森のなか、スキルに頼んで周囲空間ごと隠蔽してもらった。
皆は連戦の疲れがある。深く眠っているだろう。
神徒を撃破したならば、アラガミはなにかしらのアクションを起こすのだろうかと思っていたのだが。
用意した椅子に座り、夜空を見上げる。月は元に戻っている。アンリエッタは結局、最後に元に戻した。
ゆっくりと時間が経過していく。こういうのは久しぶりだ。
『殺す』スキルに尋ねたいことがあった。
「アラガミはなにを考えているのだろうか?」
●わかりません。しかしセツカ、あなたを倒すとすれば消耗しきった神徒との戦いを終えた瞬間が襲撃のタイミングとしてベストでした。襲撃がないということは、目的はもはや予知の範囲に収まりません。
「倒すことが目的じゃないらしいな……妹のコピー、アラガミか。いったい何を考えている」
この戦いで失ったものは多い。
この世界の住人の命。
アリエル、スリザリ。
そして、レイブンも行方不明だ。
必死でいなくなったレイブンを捜索していたグリフィンとハウフルの話によると、どうにもアラガミが関与している可能性が高いとの話だ。
「貴様ほどの男が……どうして守れなかったのだ!!」
グリフィンにはそう言われた。すぐに謝られたが……。
当然の言葉だ。俺はレイブンが消えたことに気づきもしなかった。
スキルに分析させたところ、ニイミのように触媒としてレイブンはアラガミの構成物質になってしまったのかもしれないとの話だ。
そんな救いのないことを言われても困る。
レイブンのはにかんだ微笑みが記憶に焼き付いて離れない。
あの女の子も、スリザリと同じようにアーティファクトという存在だったという。
過ぎた力をもって苦しんでいたのだ。だというのに俺は中二病だと簡単に切り捨てまともに取り合わなかった。
昔から存在するヒトの原型だから、復活に利用されたらしい。
もっと話を聞いてやればよかった。後から考えても遅い。
スキルの声はやや震えたように聞こえた。
●そう考えながら。救う方法を模索している。あなたはどうして……そこまで他人ばかり考えるのですかセツカ。
「さあな。あいつにドロップキックを食らったままだから、今度はお返ししないと気がすまない」
スキルはいつも俺を気にしている。
このスキルこそ他人ばかり気にするじゃないか。
だったら似た者同士というわけか。
●わたしはどこまでもついていきます。本望です。ですが……神徒との戦いでセツカ。あなたの身体は限界を越えました。
「限界? 越えられないから限界って言うはずなのに、おかしな話だ」
●ふざけないで。どうして皆さんにはお伝えしないのですか?
「いったい何を?」
●あなたの寿命の、三割を使いきったことです!! 神徒との戦いは決して楽勝ではありませんでした!! 限界を越えているんですよ? セツカ……お願いだから、どうか無事で……。皆さんにお伝えしましょう。もう戦えないと。これ以上は無理なんだと。神徒よりも強い敵が出現したら、今度こそあなたの命がっ!!
「皆に伝えたら、お前を殺す」
●できもしないくせにっ!!
涙を流すイメージが伝わってくる。
自我をもち、主人の身体まで気遣うとは本当に驚きだ。
そこまで心配されるとはな。さすがはセツナの造ったスキルだ。優しい。
「たのむ」
俺がそう伝えると、スキルはしばらく沈黙したのち。
●……はい。わかりました。
とだけ答えた。
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