『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行

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五章

魅惑のフィロソフィー③

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 スレイを助けてしばらくした後、俺は歩きだす。
 残った奴はひとりだ。居場所はわかっている。
 
「大丈夫ですかご主人さま……」
「セツカ様、すこし休まれては……ずっと戦い続きでしたから」

「いや。このままアンリエッタの元へと向かう。約束をしたからな」

「でも……」
「ですが」

「………………」

 レーネとスレイには心配され止められたが、どうでもいい。
 邪魔をしないでくれ。まとわりつくな。
 はじめて見る俺の表情に、二人はおびえて震えていた。
 悪い。今は集中したい。この怒りに。 
 俺が今たったひとつできることは、アンリエッタを『殺す』ことのみ。
 …………色々な出来事があった。
 ほんとうに、語らう暇もなく運命は俺と敵をぶつけあった。
 敵にしておくには惜しかった不器用な甘い男がいた。悲しい、ちいさな命の叫びをあげた者もいた。
 重圧に耐えきれずに狂ってしまった聖女は後悔を胸に抱き安らかに眠る。
 一度は敵対したはずの不死者は命を投げだし俺を助け、苦しみぬいた少女は救いを得て天へと昇った。
 もやもやするんだよ。なんで手からこぼれ落ちてしまうんだよ。
 あいつらの思いはすべて俺の中にある。たとえ死んだとしても、殺されたとしても俺だけは必ず覚えている。
 だというのに、夜空の月はアンリエッタによって無遠慮に壊されたままだ。
 ちくしょう。
 ふざけるな。妹の、セツナの好きだった世界をどれだけぶっ壊せば気がすむんだ。
 心配そうに後ろからついてくるレーネとスレイを尻目に無言で歩き続ける。
 ごめん。今は……優しくできない。
 それでも二人はけなげに心配しながらついてきてくれるのであった。
 人影が見えてきた。
 ……フローラたちが倒れている。やられてしまったか。
 焦った様子のペニーワイズが飛び込んできた。時間稼ぎをしてくれたのか。
 ありがとう。猫の姿で不自由しただろう。助かったよ。

 いらいらする。力をうまくつかえない自分にだ。また仲間を傷つけられた。
 ようやく到着した場所で、大岩に腰かけたクソ女は意識を失い泣いているミリアの頭を踏みつけながら隠しきれない嘲笑を吐き出した。
 
「くっふふっ。効いてる効いてる。セツカ様、あなたの弱点ってなんだか知ってますかぁ? メンタルですよ。最強を自負しておきながら仲間の死や、かわいそうな敵に同情するからそうやって辛くなる。彼らはただの虫けら・ですよ? それか目的達成のための道具。そうやって考えておけば動揺することがなくなるとアドバイスしておきます」

「……言いたいことはそれだけか?」

 アンリエッタは悦に入りながらご高説を垂れているが。
 おい。
 いつまでミリアの頭に足をのせている。
 お前の悪趣味なスキルのおかげで何度その女の子を苦しめれば気がすむんだ。
 親を奪われたんだ。ひとりぼっちだったんだ。がんばって強くなって、周りを見返したんだ。
 必死に努力して、何度も苦しい思いをして。
 なにやってんだてめえ。いいかげんにしろよ。なにが楽しいんだよ。

「聞いてください。結局、神徒の中で一番強いのはわたくしだったという・オチなんです。残りの二人や、メカニカルシールが束になっても敵わない。それが『魅惑』のアンリエッタの強さ。ストロングパワー。エントロピー!! 月をごらんください。わたくしのスキルで粉々ですよ、うふふふ、いひっひひひっ……くっく、ふははははっ!! わたくしの『魅惑』こそ真実」

「くだらない」

 俺は静かにうるさい女の言葉を否定した。

「嫉妬・ですねわかります。わたくしの能力はもはや無限の可能性がありますから。セツカ様ってば焼きもち焼きなんですから」


●速度を『殺し』ミリアを救出します。


「汚い足をどかせ」
 
「…………すごいですね。今のは見えませんでした。わたくしの足元にいたミリアさんが、いつのまにかセツカ様の腕の中に。スキルの短縮発動・ですか? それにしては速すぎる気がしますが」

 お前にわかるのか? へらへらしてるんじゃない。
 『殺す』スキルが到達しかけている高みは、因果を超越して結果を取り出すことも可能にしている。
 聖女サリアナの『祈り』がそうだったように。
 お前に人間の祈りの重さを理解できるわけがない。

「です・が!」

 アンリエッタはぴょんと大岩から飛び降り、いきなり目の前に現れる。
 俺が使ったスキルの速度をコピーしたかのような素早さだ。

「こうですかね? うふ、『魅惑』のスキルで実はこんなこともできちゃうんです。要するに、現実を魅惑する。クソみたいな現実を騙すんですね。そうすれば嘘でも・真実になる……」

 無防備にくるくる回っておどけるアンリエッタ。有利な状況にあると確信した余裕があるようだ。
 近くまで寄ってくる。
 そしてアンリエッタは俺の頬を叩くアクションをとってみせる。
 やってみろよ。
 俺は堂々と立ったままクソ女の目を睨んでいた。

「……………」

「避けないんですか? では、セツカ様の頬を・一発」

 ____ゴッッッッッッッッッツツツツツツツ!!!!

 それは異常な光景だった。
 一瞬だけ少女アンリエッタの右腕がオークのそれよりも太くなる。筋肉組織に彩られ、ドレスの右腕部分だけ弾けとんだ。
 不釣り合い。まるで腕に人間がついているような。巨人の腕についた小人のような。
 巨大な腕はゲームのいかれたバグのような動きと速度で、俺のいた場所を凪ぎ払った。
 地面ごと根こそぎ消滅させるような威力の張り手に、周囲の木々は衝撃で吹き飛び燃え盛る。
 刹那のうち周囲に防御展開しておく。女の子たちは無事だ。
 土ぼこりまみれになった俺のいた場所を指差し、アンリエッタは愉快に笑い転げている。

「あはははは・はははははっ。これが『魅惑』のパワー!! 実はわたくし、自分の身体すら魅惑できるのですよ!! 実際戦闘でも最強。サトウ? ゴミゴミぃ。サリアナ? あークソ雑魚です。メカニカルシールは言うまでもなく。セツカ様とその周辺の雑魚を狩るくらいわたくしひとりでできたんです。しないのはわたくしの楽しみのため!! 心をぶっ壊されたセツカ様の泣きべそをみたいがためなんですよ、ふふっ。泣け喚けセツカ様。あきらめて絶望してくださいよ。それがわたくしの最高の快楽になるぅ」

「で?」

 俺は微動だにせず同じ位置に立っていた。
 はしゃいでいるところ悪いが、ぜんぜん効いてないぞ?

「あおっ!? ちょ、立っている!? 今の攻撃を受けましたよね?」

「ああ。お前メカニカルシールよりも弱いぞ」

「あ、ははっ・いいですよ強がらなくても。あんなクズゴミなんてダメスキルの代表格じゃないですか。失敗作とわかって消費される子供の命……ああ、わたくしってばなんて罪な女。感じちゃう。そういうプレイのためにメカニカルシールは生み出したと言ってもいい。セツカ様に壊される瞬間、どうしようもない状況であのメカニカルシールの魂の破壊の光……きれいだったな。きっと喜んでいますよ。子供たちもわたくしの快楽のために死ぬことができてにっこり笑顔ですねっ」

 アンリエッタのその言葉を受けた瞬間。
 俺の中でなにかが確実に弾けとんだ。
 無垢な命はおまえの遊び道具じゃないんだ。
 許さない。
(そうさセツカ。ボクもユルサない)


●虚数理論構築__メカニカルシールの魂を『殺し』……『回転』のスキルを習得。一時使用の許諾を得ました。


 拳の周囲を空気の層が覆う。
 機械の身体で回転を構成していた部分は、『殺す』スキルが補って同じ効果を発揮できるように調整してくれている。
 決して実現することのない、世界より消失した魂のもつスキルの構築……虚数理論構築によってメカニカルシールの技が復活した。
 俺は拳を構え、そのまま右腕をアンリエッタの頬めがけ振り抜く!

「『回転』増速……ブローアップ!! モードアシュラ。お前が否定した魂の拳だ。自分の身体で受けとるといい」

「へっ・!?…………み、『魅惑』の防御……ぷぎぃ!?!?!?」






 俺に頬を殴られ、豚のような悲鳴をあげアンリエッタは吹っ飛んだ。
 木を吹っ飛ばしながらボロ雑巾のように茨のなかに頭から突っ込み、汚いパンツまで丸出しだ。
 やはりな。
 てめえはメカニカルシールよりもぜんぜん弱い。


 

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