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五章

聖女の祈り⑥

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 肉を貫き、内臓を破壊する。
 そして毒を流し込むようにして即死効果を発動するのがスリザリの能力だ。
 しかし。


「……あはははっ。痛いじゃないか君。女の子に向かってこれはないね」

 サリアナが嗤う。
 突き刺さった透明な槍をものともせず、真っ赤な血に純白のローブを穢しながらもケタケタと笑い声すら上げてみせる。

「そんな……」
「打ち消さまてみみみめたらやひのるとなちまめたやあのたとたとpみまたみみままめやなたえなもたつちたたみまあゆとたたたためたてむあるあまちま「よれたか」

「『祈り』の力はねえ、簡単には負けたりしないのさ」

 効いていないのか。
 もはや打つ手はない。
 スリザリとアリエルの脳裏は絶望感に支配される。
 これ以上の攻撃を私たちは知らない。即死する攻撃を受けて死なないなら、もはや生命を超越しているとしか言えない。
 スリザリは距離をとりつつ、憎らしげに言った。 

「……化け物が。即死攻撃をいくつも受けてどうして生きている?」
「君の能力は厳密には『即死』ではないよね? 『生』のアーティファクトの力を悪用した、生命エネルギーのコントロール。言ってしまえばパチものの能力さ」
「貴様に言われたくはないな」
「どうかな。でも、わたしの『祈り』は君の『即死』じゃまったく殺せないってさ」


 そしてサリアナはアリエルを睨む。

「アリィ。さっきはわたしに拘束魔法を使ったね? 君だけはわたしは愛してくれていると思っていたけど、またわたしを裏切るのかい?」
「貴女が私を裏切ったんだっ!! 私の名を呼ぶな。見るな。話しかけるな……っ。私の心はすべてスリザリ様のもの。貴女と忌まわしき過去は、ぜんぶ……セツカ様に清算してもらったんだ」
「じゃあ、君は本気でわたしを嫌いになったと?」
「ええ。顔も見たくありません。なにを勘違いしているのですか?」
「ふうん……へえ、そう。あっそ。ふうん……あっそ。イライラするなぁ」

 サリアナの表情が凍った。

「イライラする。イライライライラするなあ!!」

 美しい顔がどんどん怒りに歪んでいく。深い皺が刻まれ、まるで鬼のような形相に変化した。
 魔力が暴走し、周囲の木々がなぎ倒された。
 美しかった銀色の髪は逆立ち、空中に浮遊しながら二人を睨みつける姿は知っているものが表現すれば、『夜叉』だ。
 空気が凍りつく。息をすることすら辛いほどに空間が重くなっていく。
 はじめてサリアナは声を荒らげる。

「腹が立つなあお前ら!! なんだよ愛し合う二人みたいな演出しやがって!! 極悪人だろうが!! お前らはただの人殺しで、虫けら同然で、わたしは史上最高の聖女なんだぞ? 能力だってゴミのようなお前らとわたしじゃ比べ物にならない差があるんだよ? どうしてそんなに余裕ぶってる? 頭を下げてわたしに愛してもらおうと考えないの? バカなんじゃないかな?」

「ふん……愚かだな」
「はぁ。何年もやってきたのにその程度ですか。聖女失格ですね」

 寄り添う二人の姿に、サリアナは歯軋りをして顔を歪める。
 ゆっくりと、自分を落ち着けるようにして言葉を紡いだ。

「所詮、わたしと足元を歩く虫けらじゃ分かり合えなかったということか……むなしいよ。アリエル、君ならわたしのためにすべてを差し出してくれると思っていたのに。まぎれもなく、わたしだけのために……」


 サリアナはそう言って両手を合わせた。



「『祈り』ましょう」



 最大威力の『祈り』がやってくる。
 アリエルとスリザリはお互いに手を握り、まっすぐと前を見ていた。
 もはや時間はおおいに稼げたであろう。
 セツカの戦っている方角から大きな光が見えた。恐らくだが決着はついたと思う。
 スリザリは、心が安らぐような優しい声で言った。

「アリエル、ダンスを踊ってくれないか?」

 瞳を潤ませたアリエルは、スリザリの瞳を見つめる。
 包み込まれて溶けそうなくらい幸せだと感じた。
 このためだけに生きてきた。
 頑張ってきて良かった。
 私の人生は無駄じゃなかったんだ。
 誰にも渡すもんか。
 ……嬉しい。
 ぎゅっと手を握り返し、こう答えた。

「喜んで。スリザリ様」

 誰よりも綺麗だ。
 アリエルの姿を見てはにかむように微笑んだスリザリは人間の生命を実感する。
 ずっと死にたいと思ってきた。
 そんな私が彼女と共に生きたいと望んでしまうのは我が儘か。
 願わくば少年。どうか我が主を……助けてほしい。
 私にはできなかったことを、お前ならばきっとできるはずだから。




「君の手は暖かくて好きだ」

「地獄で踊りましょう。いつまでも」

「ああ、いつまでも踊ろう」





 なにをされてもその手が離れることはなかった。
 祈りを捧げる聖女は容赦が無かった。
 ありとあらゆる攻撃の中にして、二人は悲鳴すら上げず耐えていた。



 二人は最後までその手を繋いでいた。
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