『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行

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五章

sugar bullet②

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 エージェントの一件の後、サトウは中東の紛争地帯に滞在していた。
 そこで日々殺しの依頼を受け、安い金額の報酬をもらい生活するのだ。
 物心がついたときからのやり方。
 サトウの実力ならば金持ちを殺し金を奪うこともできるが。
 __例えば、いきなり人食いのグリズリーが人間の集落にやってきたとする。
「今はお前を食わねえからモノを売ってくれ」
 お前さんは仲良くできるかい? 無理だろう? ビクビクして店の奴も接客してくれねえだろ。
 面倒だが、最低限のルールを守っておいたほうが後の面倒は少なくなる。
 ある程度の理屈をもってサトウは行動していた。そして、仲間はおらず常に孤独であった。
 
 日本に住んでいるやつらには想像もできない世界がある。
 犯罪をおかすことを何とも思っていない奴らがいる。
 意外かもしれないが、それは飢えた子供だ。
 奴らは生きるため、平気で盗むし、なんなら人だって殺す。
 純粋だから、自分のため、家族のために平気で他人を蹴落とせるしそれが奴らの中で正義なんだ。
 別に悪いことだとは思わないね。
 そうしなきゃ生きられない環境なら、誰だってするだろ?
 ぬくぬくとした場所から、そいつらに観光客の財布を盗むなとアドバイスしてやるかい?
 たとえそれが今日のパンのためだとしても?

「残念だったな坊主。俺はハズレだ」
「あっ……」

 往来での出来事だ。
 サトウは背後からぶつかってきた子供の腕をひねりあげる。
 財布を盗もうとしたガキ。
 しかしサトウはすぐに解放した。

「食いかけだが、朝飯のパンだ。やるよ」
「ど、どうして怒らないの?」
 
 怒らない? 
 違うんだよ坊主。
 俺はお前たちとは違いすぎる。だから、お前が飢え死にしようが何の感情も湧いてこない。
 ただの気まぐれだ。
 お前らとは種族が違うんだ。
 人を殺すための種族。それが俺だ。
 母親が目の前で撃ち殺されたとしても、何の感情も浮かばないかもしれない。
 まるで不感症。
 サトウは最初から感情を与えられずにこの世に生を受けたのかもしれないと自分を皮肉る。

「さっさと行け」
「う、うん」

 子供は路地の影へと消えていく。
 飢えた家族とパンを分けあうのだろうか?
 サトウは子供の姿が見えなくなるまでじっと見つめていた。
 ……次の日にはこの街は地図から消滅した。航空機による爆撃で、テロリストの幹部が消されたのだ。街はめちゃくちゃに破壊され、あの子供が生きているかは誰も知らない。


 __俺が爆撃したんだがな。


 犬の鼻が利くように。イルカが海を泳げるように。
 呼吸をするよりも当たり前に、サトウは人を殺すことができた。



 ∇



 感情のないサトウでも、食にはほとほと困り果てていた。
 合わないものは合わないものだ。
 拠点にしている街の、たったひとつの寂れた喫茶店。
 そこでならばまともな飯が食えるということで、サトウはほとんどその店に入り浸っていた。
 窓際の席に座り、読めもしない現地の新聞を開きぼーっとコーヒーを飲み過ごす。
 ドブをさらってきているのかと思うほど、この店のコーヒーはまずかった。 

「いつも同じ注文なのね?」
「ああ。悪いかい?」
「いいえ。いつも同じ場所に座るのね」
「ここが気に入っているんでね」

 女が話しかけてきた。
 何人かいるウェイターのうちのひとりか。サトウは暗い女だと思った。
 壊れかけのガラス細工のような、きしきしと音をたて今にも崩れそうな雰囲気をまとう。
 顔はまあまあ整っている。雰囲気のせいでマイナスだ。この辺りではめずらしく、あか抜けた感じはする。
 女は死神にとりつかれたような微笑みを浮かべ言った。

「クリスよ」
「名前など聞いていないが?」
「聞かれてないけど、教えたの」
「そうかい」

 不思議な女だ。
 用が済んだってのに、サトウのテーブルの傍にじっと幽霊のようにたたずんでいる。
 クリスはサトウのコーヒーを指差し、こう言った。

「ウチのコーヒー、砂糖を入れれば少しはマトモになるわよ」
「ブラックが好きなんだ」
「大人なのね。私は砂糖とミルクをいれないと飲めないわ。というか、この店のコーヒーを飲むくらいならミルクだけを飲むわ」
「コーヒーを出した客にその言いぐさはなんだ」
「ふふ、コーヒー飲むのあなただけよ」
「マジか。腐ってねーだろうな」
「大丈夫。わたしが淹れたもの」
「あんたが淹れたのかい。くそ不味いぞこれ」
「褒めてくれてありがとう……とてもうれしいわ」
「メンタル鋼か!?」

 クリスは不思議な笑いかたをする女だった。
 どこか心に引っ掛かるような、鏡の表面を針金で引っ掻いてできた傷を心に残すような。
 気にならないといえば嘘になる。
 もやもやした不思議な気分に襲われたサトウはコーヒーを一口、口に含んだ。
 するとすかさずクリスは訊いてくる。

「わたしが淹れたコーヒーおいしい?」
「くそ不味い。インスタントの方がマシ」
「ふふ、ありがとう」
「なんでだよ!?」


 サトウの口許がすこしばかり緩む。
 笑ったのは何年ぶりだろうか?
 本人ですら気づかない微笑みを、クリスは嬉しそうに見つめていた。
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