『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行

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五章

まわる命④

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 むかしむかし。
 あるところに、幸せに暮らす三人の家族がいた。
 父親と母親、それと幼い子供。
 彼らはつつましくも幸せに暮らしていた。
 父親が戦争に駆り出されるまでは……。


●●●


__おかあちゃん、おとうちゃんは?

__おとうちゃんはねぇ、ずーっと遠くにお仕事さ。戦争なんだ

__いつ帰ってくるの?

__……そうだね。××がいい子にしていれば、すぐに帰ってくるさ

__やったぁ

__風さんがびゅーとふくころにはね、みんなで暮らせたあの頃に戻れたらいいね



●●



__おかあちゃん、ここはどこ?

__きょうから××は、ここで住ませてもらうんだよ

__おかあちゃんは?

__おかあちゃんは、ずっと遠い場所でお仕事なんだ。お貴族様のところでお金をかせがないとね

__いつ帰ってくるの?

__……そうだねえ、風さんがびゅーってふくころかねえ

__いい子にしていれば帰ってくる? ボク待ってる


__(ごめんね、××……。おとうちゃんを裏切って、こんな汚れたお母ちゃんをゆるしておくれ。お金はぜんぶ送るから、元気に、どうか元気に)







__おとうちゃんもおかあちゃんも、なかなか迎えにこないなぁ。

__ボクが持っているのは、おとうちゃんに作ってもらった風車(かざぐるま)がひとつ。

__風さんがびゅーってふくとき、この風車が教えてくれるっておかあちゃんが言ってた。

__回れ、はやく回れ。

__おとうちゃん、おかあちゃんあいたいよ

__ボクいいこにしてるよ?

__だから、風車さん、はやく回ってよ

__まわってよ……




 あるところに、幸せに暮らす三人の家族がいた。



 ひとりの少女が孤児院を訪れる。すると、次の日にはすっかり孤児院のなかは子供がいなくなりがらんどうだ。
 どうしてか、誰も不思議がるものはいない。
 するとまた周囲で戦争が起きる。
 誰も戦争の理由すらわからない。なぜ私たちは争うのだろう?
 孤児はまた増え、いつのまにか消える。


 幸せに暮らす三人の家族を覚えているものも、また、いない。


 ○



 嫌な予感が当たった。
 蓋をあければメカニカル=シールも捨て駒のようなものだったのか?
 アンリエッタは得意気に語る。

(ふふ、戦争って大好き・孤児なんて捨てるほどいるんですもの。メカニカル=シールはアラガミ様に内緒でつくった、『惑わす』スキルの性能テストを兼ねた実験です。かねてより人造人間ホムンクルス……ペニーワイズなどの存在は確認されていました。あれは一から命を作った例ですが、私のは元からある命を圧縮して作ったお人形。凡人を利用しどこまで私たち『神徒』の能力に近づけるかを確かめる目的もありましたねー)
「まって、まってよアンリエッタ。ボク……人間じゃないよね?」
(私がしゃべっているので黙りなさいメカニカル=シール。あなたは私の『惑わす』スキルによって操られた思考によって人間を嫌い、自分を機械族だと思い込み、神徒の一員だと勘違いしていたのです。あなたは数百人の子供たちの魂が合わさってできた『スキルを産み出す・人間の魂の集合体』なのですよ)
「じゃあ、ボクは……人間だったのか。そんな……じゃあボクはアラガミ様に……ボクは最初からアラガミ様になんとも思われていない、のか」
(はいはいそうですね。この完成度の低さは・人間の悪いところが出ちゃいましたね、あははっ。失敗作です)

 悪びれることもなくアンリエッタは嗤う。
 こいつ仲間をなんとも思っていないのか?
 いや……最初からメカニカル=シールを人間あつかいすらしていない。
 道具……実験対象として何人も孤児を犠牲にしたというのか。

(そして・今このときに明かしたのは、もういらなくなったから。さあ『惑わし』ましょう!! 嘘だらけの世界に平和を!!)

「うぅぅぅぅううぅぅぅう……っ」

(メカニカル=シールのリミッターを解除します。レイゼイ=セツカを・殺しなさい)

「いやだっ……もうボクは戦いたくない。ボクはもうセツカと戦わない!!」

(わたしが作ったあなたが、わたしに・反抗できると思いますかぁ?)


 アンリエッタの言葉と共に、メカニカル=シールの身体を包む銀色の光が強くなる。
 回転がさらに上がったのか……これ以上はさすがにボディが耐えられないのだろう。
 金属部分が蒸発を始めている。無理矢理能力を引き出されたのか?
 メカニカル=シールは一瞬つらそうな顔をしてこちらを見る。

「セツカ……だめだ、勝手に身体が動くんだ。ボクはやりたくないけど、君を傷つけてしまう」
「…………スキル!」

 ●『惑わす』スキルによってメカニカル=シールの魂は囚われています。『殺して』解放することができません。

「いいんだセツカ。ボクを『殺し』て。ボクはきっと……君にそうされたかったんだ」
「ちっ……スキル!」

 ●『惑わす』スキルの干渉が増大しています。それに、メカニカル=シールの魂は融合しています。何もできません。

(あはははっ!! セツカ様、メカニカル=シールを『殺し』ますか? その子は私に『惑わ』されただけのちいさな命……かわいそう・殺しちゃうなんて、かわいそう~)

 ふざけている。
 こんなことがあってたまるか。
 もてあそぶだけもてあそばれて、機械に閉じ込められた命は涙すら流せずに俺にすがってくる。
 ……何もできないというのか?

「セツカ、おねがい。このままじゃ君たちを巻き込んで自爆しちゃう。もう誰も傷つけたくない……っ」
「……」
「はやく!! セツカ……っ」



「…………………『殺せ』」
「……ありがとう」

 ●メカニカル=シールのボディを、原子を『殺し』発生させたプラズマ刃にて切断。無力化します。



「風さん……やっときてくれるんだ、おとうちゃん、おかあちゃん」



(きひひっ、やりやがり・ましたねセツカ様ぁっ!!)

 メカニカル=シールのボディはバラバラに分解された。
 これで爆発の恐れはないだろう。
 念入りに破壊したので、復活は無理だろう。
 破壊されたメカニカル=シールの頭部が地面に落ちる。

「かざぐるま……まわった、かな。おとうちゃん、かえって、きて」

 闇のなかを必死にさまようように。なにかを言っている。
 本当にこれでよかったのだろうか?
 俺にはこれしかできなかったのか?

 
「おか……ちゃん。どこ、いるの?」
「…………っ」
「おかあ……ちゃん。そこにいたの、か。いっしょに……いこうね」
「すまない」


 メカニカル=シールの頭を抱き締めた俺は、二度と復活しないように『殺す』スキルで消滅させた。
 数多の小さな魂たちよ。どうか安らかに、家族のもとへ。
 俺はそう願った。

 すると、アンリエッタの金切り声が頭の中に響いた。



(あははははっ。バッカみたいです。さんざん人を殺したメカニカル=シールが、親と同じ場所にいける・わけがねーですわ。死ぬ間際までポンコツでしたねー。やっぱ凡人の魂は何人分集めてもダメダメなんですね)

「だまれ」

(あっれえ、セツカ様、もしかして泣いてる!? かわいそうだったメカニカル=シール殺しちゃってショック? ざっこ。セツカ様のファンやめまーす)

「お前は最後に必ず殺す」



 天に登る銀色の光を眺めていた。
 誰も覚えていないとしても、俺が覚えている。
 輪廻に還れメカニカル=シールの魂たちよ。
 
 
 
 
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