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五章
まわる命②
しおりを挟むメカニカル=シールの目の前には、落ち着いた様子の少年が立っていた。
無表情で、整った顔。まるで自分は天からの使いとでも言うような自信を持っているのが気に入らない。
どうしてかその少年が気になって仕方がない。人間のくせに余裕があるからか?
やっと一対一に持ち込めた。得意な市街戦だ。
とうとう使うときが来た。
スロットル80。
メカニカル=シールの身体は、各部が回転体として機能している。
ドリルのように回転する両腕とは別に、足裏にキャタピラが出現する。
その加速力は生身の人間ならば耐えられないほどの荷重で、回りだし、メカニカル=シールを敵のもとへ連れていくのだ。
スロットルを80まで上げたことはこれまでになかった。
必要がないのだ。人間で80の速度についてこれるものなど存在していなかった。
油断しているセツカなら80で確実に殺せる自信があった。
「はははっ。いくぞセツカぁっ!!」
「邪魔だ」
「____えっ」
メカニカル=シールの視界がスローモーションになった。
いや、それはない。
機械の身体であるメカニカル=シールにとって、時間とは常に一定で、現象とは観測にすぎない。
遅く感じたのは、レイゼイ=セツカの動きが速すぎたため。
つまりその現象は事実だ。
動き出したメカニカル=シールの眼前に、セツカの顔があったのだ。
体勢が崩れた。急いでたてなおさないと。
「ちぃ…………っ」
セツカの攻撃がくる……っ!?
は、はや……。
なんという速度だ。
「『殺せ』」
「がは…………っ!?」
衝撃で身体(パーツ)の欠片が飛んだ。
セツカの右腕が腹部へとめり込む。『回転』のスキルでの防御。
中程度のダメージ。
ありえない。なんということだ。防御の回転すら一瞬遅れた。
いくら『殺す』スキルが優秀だとは言っても、人間の認知のスピードを越えた速度で動く機械を越えて反応できるのか。
人間程度が……っ。セツカあっ!!
メカニカル=シールは腹部をおさえ後退する。
痛みはもちろんない。だが、セツカの攻撃には理屈では言い表せない重みがある。
思わず一度破壊された右手を意識する。
すると、セツカはおもむろに口を開いた。
「……なにを考えている?」
「っ……いきなりなんだい?」
「お前、何故スロットル80などという技を使うんだ?」
「ははっ……ボクの技が不満かなセツカ?」
「何故80かと聞いている。本気ではないだろう。お前はいつもふざけながら人を殺している」
「そうかい? なら、スロットル90だ!!」
これならどうだい?
メカニカル=シールは間接部を回転させる。すると、各部が発光、人間の間接ではできない動きも可能になる。
ジャイロセンサー発動、重力制御システム解除。
このモードならば地上を移動するのと同じ速度で地中を潜航することが可能だ。
瞬時に地面の下へと潜りこむ。このままセツカの真下まで移動し、地面の中に引きずり込み八つ裂きにしてやる。
__ダンっ!!
「なっ!?」
セツカは一回だけ、地面を軽く蹴った。
すると地面がまるで水のように液状化した。
地面を潜航していたメカニカル=シールの身体はずんっと深く沈みこむ。
「落ちる!?」
焦ったメカニカル=シールは地面をめざし浮かび上がろうとした。
すると、その場所で待ち構えていたのはセツカの姿。
「そういう話ではない」
「くっ!! 死ねっ!!」
「『殺せ』」
「がっはっ!?!?」
防御がまにあわない!?
ぐっ腹部ダメージ上昇。
損傷率があがっていますだと? うるさい!!
データ上では大差はないはずなのに、実際に戦うと全く歯が立たない。
なんでなんだ、ちくしょう。
「90とはなんだ? お前はいつも本気を出していない」
「くっ……はははっ。人間ごときに本気を出す必要はないね」
「怖いのか」
「は!?」
「自分の限界を知るのが怖いんだろう。だからセーブしている。そうやっているうちは、俺には勝てない」
「違う!!」
セツカの言葉に敏感に反応したメカニカル=シール。
苦悩する。
なんで、なんで勝てないんだよ!!
おかしいだろ!!
セツカは人間で、ボクは機械なんだ。
ボクが余裕で勝てないとおかしいじゃんか。
ボクはボクは機械なんだから……どうしてボクは機械なんだ?
本当は……セツカに右腕を壊されたとき、ボクは、うれしかった、のか?
何故?
人間は壊れる。ボクは壊れない。
でも。右腕が壊れたとき。ボクは安心を感じたんだ。
なぜだろう……。
セツカはきっと、ボクがなんなのか教えてくれる。
ボクは98%の機械族(マーシナリ)らしい。でも、あとの2%がなんなのかをアンリエッタたちは教えてくれない。
__セツカなら教えてくれるのか?
ボクは彼に、なにかを期待しているみたいだ。
セツカは敵なのに、彼に答えを期待するなんてボクは壊れてしまったのだろうか?
ダメージをスキルで回復したメカニカル=シールは落ち着きを取り戻す。
「……キミの言う通りだよセツカ。ボクは今まで本気じゃなかった」
「だろうな」
「キミなら、ボクの本気を見せてもいいよ?」
「知ったことではない」
メカニカル=シールはすっきりとした表情に変化する。
レイゼイ=セツカは相変わらず冷静にその姿を見つめていた。
いくよセツカ。
機械の身体が銀色の輝きを発する。
____輪廻天性(りんねてんせい)。
ボクの本気を見せてあげるよ。
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