『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行

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五章

魔王の独白

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 スリザリたちの登場で、戦局がリセットされた。
 相手も様子をうかがっているみたいだ。
 するとスリザリは、


「あのときはすまなかったな」

「は?」

 一言。
 メカニカル=シールとにらみ合いながら。
 俺を背にした不死者の王から、絶対に口にしないような台詞が出てきたんだが?

「悪かったと思っている。オリエンテールに戦争をしかけるべきではなかった。ニイミを利用した件も私の責任なのだ。あれでアラガミの復活を早め迷惑をかけた」
「ちょっと待て。お前、本当にスリザリなのか!?」
「な、なにを言う。せっかく謝罪してやったのにその言いぐさは失礼だ。せっかく来てやったのに、私が、わざわざセツカの目の前まで! このようなことは二度とない」
「……怖いな」

 俺の知っているスリザリという男は負けても認めないめんどくさいプライドの持ち主だった気がするが。
 俺は説明を求めるような顔でアリエルを見つめる。
 すると、やや苦笑いのアリエルはスリザリに促すのであった。

「スリザリ様、しっかりといきさつを説明しなければセツカ様のご理解は得られないかと……」
「くっ……しかし、私とあろうものがそのような辱しめを」
「ここまでやってきたのです。恥はかき捨て。私もご一緒しますゆえ」
「ふむ……アリエルがそう言うならば」

 スリザリはこほんと咳払いをひとつした。


「私はアリエルが好きなのだ」
「……はぁ?」


 ちょっと。
 言っている意味が理解できないのですが。
 今、戦闘中だぞ。
 この男は敵を前にして何を言い出すのでしょうか?


「だから、私はアリエルを愛しているのだ。ゆえに、お前がアリエルをダンジョンに封じたとき、殺されたと勘違いし激昂した。悪かった。私の勘違いで戦争を起こしたのだ。あれは私のミスだ。すまなかった」
「……お前、この状況でそれを言いにきたのか!?」
「大事なことだ。私はこの言葉をお前に伝えねばならなかった。すべて私が悪い。被害にあったものに対する補償のため、私の財産はすべて貴様の王国にくれてやる」
「スリザリ、お前……」
「私にはアリエルがいればそれでいい」

 こんなにも印象が変わるものなのか?
 目の前にいる男は、残酷な魔王というより、ただの。

「初恋の乙女のような……」
「ですよね。私もそう思います」
「アリエルなにがあった!? お前また何か悪巧みか?」
「ち、違いますよ。ただ、スリザリ様とは約束をしているのです。長い、長い約束を。私が戻ってきたことでスリザリ様のなかで何かが吹っ切れたようで、それは私も同じで」

 アリエルは頬を染める。
 それこそ、恋こがれる乙女の顔そのものといった表情で。
 お前、そんな顔で照れることもできたのかよ。
 残酷な女というイメージが俺の中で定着していたが、今のアリエルはどうにも毒が抜けたような感じで。

「どうやら、私もスリザリ様のことをお慕い申している次第でして。こんな悪人の私が……人間の心というものはわからないものです」
「アリエル……私のほうが好きだぞ」
「いえスリザリ様。私のほうが好きですね」
「ふむ、ならば引き分けだな」
「ですね、私とスリザリ様は同じくらい好きです」
「うむ。そうだなアリエル。私とアリエルは同じくらい好きどうしだ」

「ねえ、ボクは何を見せられてるのかな? 殺していい?」

 不思議だ。
 初めてメカニカル=シールと意見が合うかもしれない。

「と、まあ」

 アリエルはゴテゴテと装飾された杖をメカニカル=シールに構え牽制しながら。

「オノロケはここまでにしましょう。スリザリ様、私たちがここに来た説明をお願いします」
「ああ」

 スリザリは白い手袋をきゅっと絞め直す。

「セツカ。私や、他の魔王は『アーティファクト』という存在だった。これは選ばれし『殺す』スキルをもつセツカも知っているだろうが、人間の原型……例えば死や生などの属性を司る、象徴のような役割をしていた時期があったのだ。とりわけ、他の魔王にくらべて私の身体は頑丈で、何をしても死にはしない。不死の存在、『死』を司るアーティファクトだと自覚していた。だが、実際は違ったのだ。私の役割は『生』。つまり命の源である象徴がこんな私にあてられていた時期があったということだ。無駄に長大な寿命もこれで頷ける」
「スリザリ様はずっと死にたがっていました。アラガミの復活を利用して成し遂げようと考えた時期もありました」
「だが、考え直した。アリエルと再開したからだ……シロガミがこのような見た目の私に『生』の役割を与えたのはなぜなのか、今でもはなはだ疑問ではある。しかし、うら若い少女だったシロガミが父親の姿に生命力を求めたとすれば……一応の納得はいく」
「お父さんに会いたかったのです。それは……私も、少しだけならわかりますかね」
「私は自分の本当の力の意味を理解した。そしてアリエルと再会した今、私が死ぬという目的は消え失せた」

 スリザリはこちらを振り向くことなく説明を続ける。
 メカニカル=シールを睨み、いつでも即死スキルを発動できるようにしているみたいだ。

「あとは、私たちが残した歪みを正す仕事をしにきたのだ。ちょうど『殺す』スキルの少年が苦戦していたようなので通りすがりに手を貸そうと思ったのだよ」
「ほんとはめちゃめちゃ心配してたんですけどね。スリザリ様、口ではこうですけど、セツカ様のことすんっっっごく気に入ってますから」
「ばっ……気に入ってなどないなアリエル。そっと心に留め置くくらいだな」
「まあ、私たちの話題はセツカ様のことしかないってくらいです」
「ちがっ……まあいい。それで、私たちは上空に浮かぶ鉄の塊を担当させてもらおう」

 スリザリは『鉄の処女』が浮かんでいるだろう方角を指差す。

「あれは……私とアリエルが決着をつけるべき相手なのでな」
「お任せ願いますセツカ様。これまでご迷惑をおかけした私が、お願いなんてできる立場じゃないのですけれど」

 あの敵を知っているということか?
 ならば、こいつらに任せるほうがいいか?
 
「……たのむ」
「お願いします」

 スリザリとアリエルは本気らしい。
 二人からは絶対に奴と戦うという決意を感じる。
 
「わかった。時間稼ぎくらいはたのむぞ? ……頼らせてもらう」

「ありがとう。恩に着るぞ」
「ありがとうございます……」

 目に涙を浮かべるアリエル。
 頬をすこしだけ赤くして、喜びを表現するスリザリ。
 こいつら、こんな顔もできるんだな。





「ふっざけんじゃねえええええぞお前らぁぁぁぁあ!! ボクをいつまで無視してんだよぉぉぉぉ!!」


 だよな、あーあ。
 とうとうメカニカル=シールの奴がキレてしまったみたいだ。
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