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五章

悪の神徒②

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 それは天が泣いている声のようにも思えた。


 __オオオオオオォォォオォォォオオオオオン……。


 悲鳴とも叫びともつかない不気味な音が響く。
 なんだこの現象は!?
 レーネを下がらせる。逃げ遅れた人を見つけたら助けるように指示を出した。
 俺はメカニカル=シールとにらみ合いだ。
 すると、けたたましく俺のスキルはアラートを鳴らしたのだった。

●危険。……敵の極大魔法範囲攻撃です。

「威力と範囲は?」

●王都の南側半分の領域。威力は、都市の消滅レベルです。

「異常だな。止められるのか?」

●可能ですが……。

「ならば止める。こちら側に死者を出すな」


 光の輪をイメージする。
 すると俺の周囲にいくつかの光の輪が発生した。あらゆる属性を付与できるこの光の輪は、スキルがパワーアップしたときに使えるようになった強力な能力だ。
 普段はこれを使うほどでもない相手ばかりなのだが。
 スキルに指示を飛ばす。

「いくつあれば街を守れる?」

●反魔法の属性を付与し、コントロールを連動させたものを1080ほど配置すれば死者を出さずに防御可能です。

「ならばそうしてくれ」

●しかし、それではあなたの負荷が増大します。寿命に関わる精神的負荷の可能性があります。

「たいした問題じゃない。やれ」

●承知いたしました。

 集中する。
 脳のなかをクリアにする。
 いくつもの輪をつなげて、敵の攻撃をもれなく防ぐシステムを構築する。
 俺が頭のなかで考えるだけで命が救えるなら、いくらでもやる価値はある。
 ……できた。
 光の輪は一斉に俺のまわりを飛び立ち、王都のあらゆる場所に配置される。
 これで範囲魔法を撃つ敵の攻撃は問題ないだろう。
 そんな俺の姿をみたメカニカル=シールはニタニタ笑うのであった。

「キミはすごいね。そんな面倒なことをわざわざ。あれは神徒のひとり『鉄の処女』。彼女の祈りは無差別さ。死ぬ人間が悪いんだ。ニンゲンの人生なんてそんなものだろう?」
「……口を閉じろ。お前の話は意味不明だ」
「はぁ。ボクはね、セツカはもっと自分の心配をしたほうがいいんじゃないかって忠告してあげたんだよ。だってそうだろう? 『ボクたち』相手に、他人を気遣いながら勝てるのかい? セツカのスキルは……いくら強いといっても、適応が限られている。こんなボクでもわかる簡単な話さ……いくつもの作業を同時にはできない。どれだけキミがそのスキルを使いこなしていようとね」
「お前にはできなくとも、俺には余裕だな」
「な、なぁっ!! セツカぁっ……いつもボクをそうやってバカにして」
「黙ってろ」

 槍のイメージ。
 光で形成された『光の殺す槍』が顕現する。あらゆる即死系スキルが付与された特製だ。
 
「相手を探してくれ」

●承知しました……魔法の発生源を特定。上空3000m付近に浮かぶ金属物体より発生を感知。『鉄の処女』の形状をしています。

「槍を投函する」

●発射。投函の瞬間、筋力の限界を『殺し』直線的に到達するようにします。


 ギュォォォォォォォォォォォン…………。

 光の槍は雲を蹴散らし、真っ直ぐに上空の敵へと向かって飛んでいった。
 着弾まではややタイムラグがあるか。

●……着弾。敵のスキルによる防御により即死効果の無効化を確認。上空の敵は健在です。

 ちっ面倒だな。効かないのか。
 とりあえず、目の前で暴れているメカニカル=シールから倒して、その後に上空の敵への対応を考えるべきか?
 メカニカル=シールは俺の行動など関係なしに話を進めているようだ。

「キミが壊した腕でつくったドリルだよ。どうだいセツカ? ボクって何に見える?」
「知るか。お前をさっさと殺す。その後に上空の敵を殺す」
「ボクもキミを殺す。そうしないとボクは……」
「前のような手加減はしない」

 光の輪。
 メカニカル=シールに向け『殺す』スキルを凝縮させた光の攻撃を行う。
 あいつの身体はほとんどが機械で出来ているように思える。
 しかし先程の機械族へ向けた即死効果は効いていない。
 直接、奴に『殺す』と命じても奴の『回す』スキルが反応してどうやら殺しきれないみたいなのだ。
 しかし対策がわかれば、あとは行動するのみ。

「相手を切り裂け『殺す』スキル」

●承知しました。メカニカル=シールを直接攻撃。行動不能にさせます。

 光の輪は、音速をゆうに越えるスピードでメカニカル=シールへと向かっていった。
 奴に回復不可になるまでのダメージを与えれば、あるいは。
 
(惑わせ・ます)

 消えた!?
 いきなり、メカニカル=シールの姿が見えなくなった。
 光の輪は空を切る。
 すると、背後から耳元にささやく声。


「ボクのドリルを味わいなよ……」

 __キュィィィィィィィィィィィィィィン!!


 なっ……。
 メカニカル=シールが突然背後に現れた。
 俺の横腹にドリルが突きつけられる。高速回転する機械の右腕がうねる。

●緊急防御……摩擦力を『殺し』、圧力負荷を『殺し』空気の防御層を形成。

 横腹を思いっきり殴られたような痛み。
 くそっ。
 致命的まではいかなかったが、かすり傷をもらってしまったな。

「くっ……」
(あはははははは・あははははははっ。どうですかセツカ様わたくし魅惑のアンリエッタ『惑わす』スキルの効果は? わたくしの能力によって、メカニカル=シールの姿は流れる水のように捉えられない。あなたは今、いったい誰と戦っているの? どこを狙っているの? わたしは誰? あなたはわたし? なんでも自由なのですよ!!)
「スキル!! アンリエッタを補足して攻撃」
(こわい・ですぅ~)

●アンリエッタをサーチ……『惑わす』スキルにより何重にもプロテクトがかけられています。時間がかかります。

「かまわない。やってくれ」

 アンリエッタのスキルは本当にやっかいだ。
 今回も奴は俺たちの見えないところからスキルによって状況を操っているようだ。
 メカニカル=シールの姿がスキルで捉えられない。
 『殺す』スキルでも一瞬遅れる。その一瞬が命とりだ。

「セツカ……ボクのドリルをくらえっ!!」
「くっ……いきなり現れるとは……アンリエッタと協力して『殺す』スキルの処理速度を越えたのか」
(あはははははっ・すごいですよメカニカル=シール!! セツカ様の焦った顔をもっとみたいっ)

「ちっ……」

 自分の息が荒くなっていることに気がつき驚いた。
 この俺が敵に翻弄されているのか?
 


___すうっ………はぁ。



 ぞくり。
 背筋に嫌な予感がかけあがる。
 それはスキルのアラートでも、確固たる自信のある情報でもない。
 ただの死の感覚。

 __ヒュッ。

 いきなりだった。
 目の前に、白っぽい飛翔体の姿が見えた。
 それは細長い棒状のものに羽根がついたような、この異世界では異質な感じがする物体だ。

 ……ミサイル、だと!?

 
 白光。

 _____爆発!!!


 俺の視界は、真っ赤な爆炎に包まれ消え失せた。
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