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五章
悪の神徒①
しおりを挟む鈍色の空の下で、戦闘は始まっていた。
神徒の配下である機械族の戦士たちは、まるで操り人形のように暴れ狂い国境へと迫りくる。
転移したセツカのクラスメイトたちは統率のとれた動きで迎え撃つ。
これは世界をかけた戦争だ。
オリエンテールを失えばこの世界が終わる。クラスメイトたちや、異世界の住民たちも感覚的に理解できた。
セツカだけがこの世界を救える。だから、それまでこの世界を守らなければ。
スリザリの一件で一度は経験した、異世界での戦い。命のやりとり。
クラスメイトたちの動きに迷いはなかった。
今回は準備も整えてあり、さらには魔王のひとりであるグリフィンの協力もある。
戦局は膠着するかのように思われたのだが……。
__キュィィィィィィイィィィィィィィィィィィィィィン。
「ねえねえ。キミ、お口アーンしてみせてよ」
「ひうぅ……」
「泣いてないでさあ。ボクが虫歯を治してあげるんだから。あるでしょ虫歯?」
「やぁ……っ」
メカニカル=シール。
オリエンテール首都にいきなり現れたと思えば、破壊行為を繰り返していた。
ひとりの小さな女の子を腕に抱き抱え、巨大なドリルを女の子の口許に近づけている。
女の子は恐怖で顔は真っ青になり、震えているようだ。
すこし離れた場所にいるのは、サエキ・ミワ・オオバヤシ。
メカニカル=シールから女の子を取り戻そうとしているみたいだ。
「女の子を離してよっ!!」
「くっそ……ミワちゃんスキルいける?」
「やってる……どうして!? あたしの『念動砂嵐』が、反対の回転に打ち消されてる!?」
「うひひひっ。『回転』の力さ。そんなスキルはぜんぜんきかないねえ。人間って弱いな」
「ど、どうすんの!?」
「『ポローポイント』に弱点が出ない……こんなの反則じゃん」
「敵がっ……多くて近づけないよっ」
どこから沸いてきたのか、機械族の戦士たちが破壊活動を続けている。
サエキたち三人はその攻撃をかわしながらメカニカル=シールを追跡しているのだ。
「ねえねえ」
メカニカル=シールは女の子に問いかける。
腕の力が強く、女の子はうめき声をあげるもまったく無頓着だ。
泣きながらかたく口を閉ざす女の子。開いたら殺されるとわかっているのだ。
「虫歯あるでしょ? お口アーンしてよ。アーン。治してあげるから」
「や……ぁ」
「開けろっていってるだろ。『殺し』ちゃうぞガキ。あはははっ」
「うぅうぅ……」
「いいよそのままやるから。はーい。ボクのドリルで治療するね?」
__キュィィィィィィィィィイィィィイイイィイィィ。
女の子の顔に向けて回転する右手を突きつけるメカニカル=シール。
その表情はどこまでも純粋で、穢れを知らない子供のようなもの。
女の子は恐怖で目をつむり、やってくる激痛を考えて気を失ってしまった。
「させるか」
__ドゴッ!!
刹那。
横から文字通りにメカニカル=シールの横面を殴り飛ばしたのは、俺ことレイゼイ=セツカ。
どうやら間に合ったようだな。
「がはっ!? き、来たねレイゼイ=セツカっ。待ってたよキミのことを」
「学習能力が足りないようだな」
「やっと来たね! くふふ。こうすればくると思ったんだ」
「話が通じないのは元々だったな」
やれやれ。サトウを探そうと思っていた矢先にこいつを見つけるとは。
以前教えてやったことを理解できていないようだな。
『回転』では『殺す』スキルに勝つことはできないということを。
メカニカル=シールが離した女の子を受け止め、抱き抱える。無傷で無事だ。
すると、機械族の戦士たちが取り囲むように近寄ってくる。
「ぎゃはは、無防備だぜこいつ。武器も持ってねえ」
「メカニカル=シール様。こいつがセツカですかぁ? 女みてえな奴ですね」
「俺らが殺してもいいですよね?」
「殺せ」
●承知しました。半径30m以内の機械族(マーシナリ)を『殺し』ます。
「がは……っ」
「ぎゃっ」
「な……からだ、うごかなぃ」
バタバタと倒れる機械族の戦士たち。形勢逆転。
周囲を囲まれていた俺たちは、あっという間に数的有利を手に入れた。
しかしこの攻撃、メカニカル=シールには効果がなかったようだ。仲間がやられたというのにヘラヘラと笑っている。
「ふふっ。キミは本当にボクのこと嫌いなんだね。ボクもキミが嫌いだよセツカ」
意味がわからない。不気味なやつだ。
俺の姿を確認したサエキ、ミワ、オオバヤシはほっとした顔でそれぞれ口にする。
「セツカ様来てくれた!!」
「ありがとう……マジでやばかったです」
「たすかったぁ。間に合わないかと思ったよぉ」
「三人とも、ありがとう。女の子は預ける。ここは任せて他をサポートしてくれ」
「りょーかいです!」
「さあ、こっちへ。私たちが責任をもって守るよ」
「オニズカ、サカモトたちのところへ行くから! セツカ様、なにかあったら言ってね」
「ああ。頼りにしている」
三人は女の子を連れて仲間の元へと行った。
これで女の子は助かっただろう。
周囲の安全を確認したのち、遅れてやってきたレーネは不安を口にする。
「ご主人さま、なにか……違和感をかんじます」
「レーネもそう思うか」
「敵も、なかまも周囲にいません。この状況は……」
「どうやら、俺たちはおびきだされたみたいだな」
静かだ。
この場所でなにかが起きようとしているのだろうか?
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