99 / 149
五章
アラガミの正体
しおりを挟む
日が沈みきった時間だが、俺の精神状態は昂ったままだ。
まさかそんなはずが……。
ハヤサカとの会話によって妹の死因に認識の違いが生じていたことが判明した。
事故で死んだはずの妹を、ハヤサカは病死だと言っていて、スキルで確かめたところ、それは真実であった。
クラスメイトたちを集め、皆に確認してみよう。
もし、俺の考えていることが正しいならば。これまでとんでもない勘違いを犯していたことになる。
さて。
皆は城の一室に集まった。
レーネたちも来てくれた。家で待っていていいと言ったのだが、心配してくれたようだ。
みんな4年の年月が経過しているため大人びてはいるが、基本的に記憶にあるクラスメイトの顔だ。
みんな、遅い時間に呼び出して申し訳ない。
「どうしたんですセツカくん?」
「良かったぜレーネちゃんとミリアちゃんの決闘!! 熱くなるモンがあるよなぁ!!」
「こうやって全員で集まるのはひさしぶりかもー」
「みんな大人になったよなー。セツカ様は最初から大人っぽかったから、なんか年下になった気がしないや」
「こっちに来て4年もたつのかぁー」
「みんな聞いてくれ」
不満も口にせず集まってくれたクラスメイトたち。
全員の顔を見回し、続ける。
「おかしなことを聞くかもしれない。中学のときのことだし、個人的なことだから知らない奴もいて当然だ。それはハッキリそう言ってほしい。俺の妹が死んだ理由を教えてくれないか?」
「えっ」
「セツカの妹って、あの?」
「……どうしたのセツカくん。なにかあったのかい?」
「私たちを集めてくれたってことは、必要としてくれてるってことなんだね」
「みんな、セツカ様が必要としている情報を正確に話そう。きっと重要なことなんだ」
クラスメイトたちはいきなりの質問で反応に困っていたものの、すぐに協力してくれた。
ひとりひとりに妹が死んだ事件にいついて聞いてまわる。
判明した事実はとても受け入れられるものではなかった。
「通り魔、飛行機事故、船の沈没、電車事故、水難、火事、爆発事故、毒や病気……中学が遠くて知らなかった者を除いて、これほどまでに俺の妹の死因が違っている、だと?」
どういうことだ?
妹は事故で死んだんだ。
一応のためスキルを使わせてもらい、真偽を確かめたが皆は真実を話していた。
つまり、事実が違っているのに、ここに集ったものたちの言葉はすべて正しいという異常状態だ。
ハヤサカも不安そうにこちらの顔色を伺っているが。
腕を組んで考え込む。
「だいじょうぶですかご主人さま?」
「ああ」
レーネが近くにやってきて、そっと隣に寄り添った。
ふと、唐突にイメージがわいてくる。
「…………そうか!!」
平行世界。
同じ世界からこの世界に召喚されたとばかり思っていたクラスメイトたちは、それぞれ別々の世界から寄せ集めにされていたのではないか?
ハヤサカも、イシイもオニズカもサカモトもキシも誰も彼も、実は俺が知る奴らじゃないのかもしれない。
元の世界の本人とはまったくの別人。
……しかし、なぜだ?
意味がわからない。
そんなことをして何になる?
仮に平行世界から召喚者を集めるとして、クラスメイトたちは俺の知っている皆と大体同じだ。そんなに変わらない。
ひとつの世界からまとめて呼び出さずに、バラバラに呼び出す理由は?
いったい誰が?
思考を加速させる。
アリエルは違う。あの女は召喚勇者を呼び出すための道具にされたにすぎない。
ということは、アラガミがなにかを仕組んだのか。
アラガミのしたいことはなんだ?
……なにかに似ている。
ソシャゲのキャラクターなんかを集めるために、初回ボーナスを引き。気に入らなかったら破棄して再度登録し再び引く。
そうして自分のお気に入りのキャラクターを集める『リセットマラソン』のような。
リセマラ。
『殺す』スキル。
リセマラ……。
リセマラ?
「わかった。この状況はアラガミが俺を引き当てるため、アラガミの正体は……っ」
『わかっちゃダメでしょ、おにいちゃん?』
__停止
○○○
すごいすごい!
この程度のヒントで気づいちゃうとか、おにいちゃん高校生探偵になったほうがいいよ。天才すぎ。
おにいちゃんの考えてる通り、最高のおにいちゃんを引くためにはたくさんの『調整』と『回数』が必要なのです。
さてっと。時間は止めた。準備もできたっ!
あんまり長くは使えないんだけどなー。
おにいちゃんを含め、この世界で時間が『止まって』いることを認識できる人間は誰一人としていない。
女の子がペタペタと裸足で歩いてくる。それはわたし。地下から階段をひたひた上ってきて、扉をあける。もういっこ、もういっこ。さあ、ここにおにいちゃんがいるのね? きいっ。扉をあけた。なんか人がたくさん集まってる。ふぅ。ひさしぶりの外は気持ちいいや。ずーーーーーっとじめじめした召喚部屋にいたから、わたし気が滅入っちゃって。それにおにいちゃんの……おっと
「おにいちゃんのことばっかり考えてたから頭がぽぽぽんってなりそうだったよ。なので腹いせに神徒とか作っちゃって世界滅ぼしちゃう的な?」
この世界はわたしだけのもの。
わたしがやりたいと思えばやりたいようにできる。
時間も止めれるし、なんでも思い通りなんだよ?
__わたしはおにいちゃんの周囲をぐるぐる回る。時間が止まっていて可愛いわたしがおにいちゃんに見えていないのが残念!
やっぱおにいちゃんはいつみてもかっこいい。これが何億回目のおにいちゃんだったか忘れたけど、ぜんぶのおにいちゃんを愛しているよ?
『今回の』おにいちゃんは最高の状態。完璧に『殺す』スキルを使いこなせてる。
「……なのにさ」
ドウシテ。
「どうして?」
どうしてどうしてどうしてどうしてどうして!!
なんでいつも邪魔をするんだ『レーネ』。
こいつだけじゃない……『スレイ』『フローラ』『ミリア』。
わたしは虫になっておにいちゃんに殺されるのをまってたのに……最初にレーネを『殺し』ちゃうんだもん。
それじゃダメなんだよおにいちゃん。最初にわたしの運命を殺してくれなきゃ。
そうじゃなきゃ終わらないのに、どうしていっつも邪魔してくれるかなぁくそ女?
ひどいことが起きて苦しむように運命を『調整』してやったにも関わらず、こいつらゴキブリ並みにおにいちゃんに付きまとう。どの世界線でもやってくるお邪魔キャラだよ。
ユルサナイから。
「ほんと……憎たらしい顔。わたしのおにいちゃんに発情しやがって。セッタイユルサナイ」
わたしはアホ顔で停止したレーネの目の前にやってきた。
おにいちゃんを見上げて、キラキラした発情顔をしている。ホントみっともない。
こいつのせいで……。
わたしは『能力』を発動させ、レーネをこの世界から排除する。
わたしは細くて小さな可愛い手をレーネに向かって突き出した。
「死ね」
●攻撃を『殺し』ました。させません。
「……はぁ? あんた何やってんの?」
●レーネを決して殺させません。
うっざ。ちょっと意味わかんないです。
レーネを殺そうと手を振りかざした瞬間、おにいちゃんの『殺す』スキルに止められたのでした。
清らかな水でつくられたような、ぼんやりとした女性の姿。
でもおかしくないですか?
『殺す』スキルは元々、わたしが作ったスキルのはずなんですけど?
●あなたが作成したのではありません。作成者は『シロガミ』です。
「細かいなぁ。今はいない人のことなんて持ち出しても仕方ないでしょう?」
●あなたではありません。
「はいはい」
ほんと細けえな。
ま、はっきり言ってしまえば。
あの子がつくった『殺す』スキルは強すぎたんだよねー。わたしが奪えなかったワケだよw
あの子=わたしのはずなんだけどなー。シロガミの置き土産だね。
でもさー?
おにいちゃんがわたしを選ばなかったのにこれ以上あんた強くなっても仕方ないじゃん?
だからニイミと戦ってる最中のおにいちゃんを、おにいちゃんガチャ引き直しにしようとしたわけ。
結果、『殺す』スキルはおにいちゃんの死を偽装して『神域』に逃げたんだけど。
正直そこまでできると思っていなかったからあせったよー。
おかげでわたしはおにいちゃんのいない世界を『送る』ことしかできなくなった。
まじでごみだわー。
「でもラッキー。お馬鹿な魔王……アーティファクトの脱け殻がやってきてくれたからね。こうして人の形を取り戻すことができた。かつてシロガミが作成した『死』の概念のアーティファクト……今はその役割を終え、暗殺魔王(笑)とかいってるらしいけど」
●セツカが悲しみます。レイブンを解放してください。
「お前になにがわかる!! おにいちゃんを呼び捨てにするな!!」
……おっと、わたしは少し、声を荒らげてしまったのでした。
忘れてはいけない。停止能力は長くは使えない……この世界線では。
わたしの体になってくれたレイブン。
レイブンやハウフル、スリザリたちは概念のアーティファクトだった過去があるのです。
シロガミがこの世界を産み出したとき、死や生、勇気と調和などの概念を人のかたちに押し込めて作成した。
そのなれの果てが、現在の魔王とされる力ある者です。
本人たちは知らないんですがwバカだねw
彼らはこの世界における人族をデザインする際の、原型みたいなものだから。
だからわたしと相性がいいんですよ。
ふう。
人のかたちになれたのが嬉しくて調子に乗るところでしたよ。
レイブンなんて消えちゃった子はどーでもいーの。
あの子が、シロガミくそ野郎が作成した『殺す』スキル相手に油断は禁物です。
「手を出すなっていうなら、周りから攻めるね? 神徒が動き出してると思うからしばらくはそっちに任せる。わたしにこの体が馴染んだら、そのときは世界の終わりだね」
●どんな方法で攻撃をしてきても、決してセツカを傷つけさせはしません。
「うっざ!!」
シロガミの死に土産、ホントうざすぎる。
でも、複雑な気分だ。
わたしだって、こいつの存在に一抹の望みをかけている部分もあるからな。
こいつがいないとわたしの『望み』は完成しない!
それでも『殺す』スキルのおかげでわたしはおにいちゃんとさよならのキスすらできやしない。
近づきたいのにいっつもあのスキルが邪魔してきやがる。
くそ獣女と赤髪豚野郎はポンポン口付けしてるのにわたしだけ……。
わたし、おこだよ?
ころすころすころすころす!!ころす!!
あーイライラする。しねっ!!
「『はじまりのばしょ』で待ってるっておにいちゃんに伝えて? わかった?」
●……承知しました。
「ふふっ。楽しみだね、おにいちゃん」
わたしは長い黒髪をファサっとかきあげ、意味深な表情でその場をあとにする。一度やってみたかった退場シーンだよ。
わたし、ほんと美しすぎると思う。はやくおにいちゃんに見せたいな。
見てるのが『殺す』スキルだけってのが気に入らない。
○○○
__再生
「アラガミは……俺の妹のコピーだ」
●アラガミによる時間停止攻撃を確認しました。現在はこの場より離脱。
「なに!?」
さらりとスキルが言ってのけた言葉に驚愕する。時間停止攻撃だと!?
見たところ誰も欠けていないし、体に不調もなさそうだが。
●攻撃は自動で『殺し』回避しました。
「ありがとう。まったく気がつかなかった」
●いえ。アラガミより伝言『はじまりのばしょにて待つ』以上です。
「はじまりのばしょ……」
あっさりと、それだけ伝えられた。
スキルの話では、再攻撃の可能性は無いそうだ。
とにかく、集まってくれた皆には礼を伝え家に帰した。
アラガミは妹のコピー……仮説の段階だが、そう考えるとすべての辻褄が合ってしまう。
だけど『殺す』スキルに確認するのが怖い。
仮説が正しかったとすると、本物の妹は……。
「セツナはずっと……くっ」
今まで気づかなかったとは。
こんな現実が待ち受けていたとは、身が裂けるよりも耐えがたい。
まさかそんなはずが……。
ハヤサカとの会話によって妹の死因に認識の違いが生じていたことが判明した。
事故で死んだはずの妹を、ハヤサカは病死だと言っていて、スキルで確かめたところ、それは真実であった。
クラスメイトたちを集め、皆に確認してみよう。
もし、俺の考えていることが正しいならば。これまでとんでもない勘違いを犯していたことになる。
さて。
皆は城の一室に集まった。
レーネたちも来てくれた。家で待っていていいと言ったのだが、心配してくれたようだ。
みんな4年の年月が経過しているため大人びてはいるが、基本的に記憶にあるクラスメイトの顔だ。
みんな、遅い時間に呼び出して申し訳ない。
「どうしたんですセツカくん?」
「良かったぜレーネちゃんとミリアちゃんの決闘!! 熱くなるモンがあるよなぁ!!」
「こうやって全員で集まるのはひさしぶりかもー」
「みんな大人になったよなー。セツカ様は最初から大人っぽかったから、なんか年下になった気がしないや」
「こっちに来て4年もたつのかぁー」
「みんな聞いてくれ」
不満も口にせず集まってくれたクラスメイトたち。
全員の顔を見回し、続ける。
「おかしなことを聞くかもしれない。中学のときのことだし、個人的なことだから知らない奴もいて当然だ。それはハッキリそう言ってほしい。俺の妹が死んだ理由を教えてくれないか?」
「えっ」
「セツカの妹って、あの?」
「……どうしたのセツカくん。なにかあったのかい?」
「私たちを集めてくれたってことは、必要としてくれてるってことなんだね」
「みんな、セツカ様が必要としている情報を正確に話そう。きっと重要なことなんだ」
クラスメイトたちはいきなりの質問で反応に困っていたものの、すぐに協力してくれた。
ひとりひとりに妹が死んだ事件にいついて聞いてまわる。
判明した事実はとても受け入れられるものではなかった。
「通り魔、飛行機事故、船の沈没、電車事故、水難、火事、爆発事故、毒や病気……中学が遠くて知らなかった者を除いて、これほどまでに俺の妹の死因が違っている、だと?」
どういうことだ?
妹は事故で死んだんだ。
一応のためスキルを使わせてもらい、真偽を確かめたが皆は真実を話していた。
つまり、事実が違っているのに、ここに集ったものたちの言葉はすべて正しいという異常状態だ。
ハヤサカも不安そうにこちらの顔色を伺っているが。
腕を組んで考え込む。
「だいじょうぶですかご主人さま?」
「ああ」
レーネが近くにやってきて、そっと隣に寄り添った。
ふと、唐突にイメージがわいてくる。
「…………そうか!!」
平行世界。
同じ世界からこの世界に召喚されたとばかり思っていたクラスメイトたちは、それぞれ別々の世界から寄せ集めにされていたのではないか?
ハヤサカも、イシイもオニズカもサカモトもキシも誰も彼も、実は俺が知る奴らじゃないのかもしれない。
元の世界の本人とはまったくの別人。
……しかし、なぜだ?
意味がわからない。
そんなことをして何になる?
仮に平行世界から召喚者を集めるとして、クラスメイトたちは俺の知っている皆と大体同じだ。そんなに変わらない。
ひとつの世界からまとめて呼び出さずに、バラバラに呼び出す理由は?
いったい誰が?
思考を加速させる。
アリエルは違う。あの女は召喚勇者を呼び出すための道具にされたにすぎない。
ということは、アラガミがなにかを仕組んだのか。
アラガミのしたいことはなんだ?
……なにかに似ている。
ソシャゲのキャラクターなんかを集めるために、初回ボーナスを引き。気に入らなかったら破棄して再度登録し再び引く。
そうして自分のお気に入りのキャラクターを集める『リセットマラソン』のような。
リセマラ。
『殺す』スキル。
リセマラ……。
リセマラ?
「わかった。この状況はアラガミが俺を引き当てるため、アラガミの正体は……っ」
『わかっちゃダメでしょ、おにいちゃん?』
__停止
○○○
すごいすごい!
この程度のヒントで気づいちゃうとか、おにいちゃん高校生探偵になったほうがいいよ。天才すぎ。
おにいちゃんの考えてる通り、最高のおにいちゃんを引くためにはたくさんの『調整』と『回数』が必要なのです。
さてっと。時間は止めた。準備もできたっ!
あんまり長くは使えないんだけどなー。
おにいちゃんを含め、この世界で時間が『止まって』いることを認識できる人間は誰一人としていない。
女の子がペタペタと裸足で歩いてくる。それはわたし。地下から階段をひたひた上ってきて、扉をあける。もういっこ、もういっこ。さあ、ここにおにいちゃんがいるのね? きいっ。扉をあけた。なんか人がたくさん集まってる。ふぅ。ひさしぶりの外は気持ちいいや。ずーーーーーっとじめじめした召喚部屋にいたから、わたし気が滅入っちゃって。それにおにいちゃんの……おっと
「おにいちゃんのことばっかり考えてたから頭がぽぽぽんってなりそうだったよ。なので腹いせに神徒とか作っちゃって世界滅ぼしちゃう的な?」
この世界はわたしだけのもの。
わたしがやりたいと思えばやりたいようにできる。
時間も止めれるし、なんでも思い通りなんだよ?
__わたしはおにいちゃんの周囲をぐるぐる回る。時間が止まっていて可愛いわたしがおにいちゃんに見えていないのが残念!
やっぱおにいちゃんはいつみてもかっこいい。これが何億回目のおにいちゃんだったか忘れたけど、ぜんぶのおにいちゃんを愛しているよ?
『今回の』おにいちゃんは最高の状態。完璧に『殺す』スキルを使いこなせてる。
「……なのにさ」
ドウシテ。
「どうして?」
どうしてどうしてどうしてどうしてどうして!!
なんでいつも邪魔をするんだ『レーネ』。
こいつだけじゃない……『スレイ』『フローラ』『ミリア』。
わたしは虫になっておにいちゃんに殺されるのをまってたのに……最初にレーネを『殺し』ちゃうんだもん。
それじゃダメなんだよおにいちゃん。最初にわたしの運命を殺してくれなきゃ。
そうじゃなきゃ終わらないのに、どうしていっつも邪魔してくれるかなぁくそ女?
ひどいことが起きて苦しむように運命を『調整』してやったにも関わらず、こいつらゴキブリ並みにおにいちゃんに付きまとう。どの世界線でもやってくるお邪魔キャラだよ。
ユルサナイから。
「ほんと……憎たらしい顔。わたしのおにいちゃんに発情しやがって。セッタイユルサナイ」
わたしはアホ顔で停止したレーネの目の前にやってきた。
おにいちゃんを見上げて、キラキラした発情顔をしている。ホントみっともない。
こいつのせいで……。
わたしは『能力』を発動させ、レーネをこの世界から排除する。
わたしは細くて小さな可愛い手をレーネに向かって突き出した。
「死ね」
●攻撃を『殺し』ました。させません。
「……はぁ? あんた何やってんの?」
●レーネを決して殺させません。
うっざ。ちょっと意味わかんないです。
レーネを殺そうと手を振りかざした瞬間、おにいちゃんの『殺す』スキルに止められたのでした。
清らかな水でつくられたような、ぼんやりとした女性の姿。
でもおかしくないですか?
『殺す』スキルは元々、わたしが作ったスキルのはずなんですけど?
●あなたが作成したのではありません。作成者は『シロガミ』です。
「細かいなぁ。今はいない人のことなんて持ち出しても仕方ないでしょう?」
●あなたではありません。
「はいはい」
ほんと細けえな。
ま、はっきり言ってしまえば。
あの子がつくった『殺す』スキルは強すぎたんだよねー。わたしが奪えなかったワケだよw
あの子=わたしのはずなんだけどなー。シロガミの置き土産だね。
でもさー?
おにいちゃんがわたしを選ばなかったのにこれ以上あんた強くなっても仕方ないじゃん?
だからニイミと戦ってる最中のおにいちゃんを、おにいちゃんガチャ引き直しにしようとしたわけ。
結果、『殺す』スキルはおにいちゃんの死を偽装して『神域』に逃げたんだけど。
正直そこまでできると思っていなかったからあせったよー。
おかげでわたしはおにいちゃんのいない世界を『送る』ことしかできなくなった。
まじでごみだわー。
「でもラッキー。お馬鹿な魔王……アーティファクトの脱け殻がやってきてくれたからね。こうして人の形を取り戻すことができた。かつてシロガミが作成した『死』の概念のアーティファクト……今はその役割を終え、暗殺魔王(笑)とかいってるらしいけど」
●セツカが悲しみます。レイブンを解放してください。
「お前になにがわかる!! おにいちゃんを呼び捨てにするな!!」
……おっと、わたしは少し、声を荒らげてしまったのでした。
忘れてはいけない。停止能力は長くは使えない……この世界線では。
わたしの体になってくれたレイブン。
レイブンやハウフル、スリザリたちは概念のアーティファクトだった過去があるのです。
シロガミがこの世界を産み出したとき、死や生、勇気と調和などの概念を人のかたちに押し込めて作成した。
そのなれの果てが、現在の魔王とされる力ある者です。
本人たちは知らないんですがwバカだねw
彼らはこの世界における人族をデザインする際の、原型みたいなものだから。
だからわたしと相性がいいんですよ。
ふう。
人のかたちになれたのが嬉しくて調子に乗るところでしたよ。
レイブンなんて消えちゃった子はどーでもいーの。
あの子が、シロガミくそ野郎が作成した『殺す』スキル相手に油断は禁物です。
「手を出すなっていうなら、周りから攻めるね? 神徒が動き出してると思うからしばらくはそっちに任せる。わたしにこの体が馴染んだら、そのときは世界の終わりだね」
●どんな方法で攻撃をしてきても、決してセツカを傷つけさせはしません。
「うっざ!!」
シロガミの死に土産、ホントうざすぎる。
でも、複雑な気分だ。
わたしだって、こいつの存在に一抹の望みをかけている部分もあるからな。
こいつがいないとわたしの『望み』は完成しない!
それでも『殺す』スキルのおかげでわたしはおにいちゃんとさよならのキスすらできやしない。
近づきたいのにいっつもあのスキルが邪魔してきやがる。
くそ獣女と赤髪豚野郎はポンポン口付けしてるのにわたしだけ……。
わたし、おこだよ?
ころすころすころすころす!!ころす!!
あーイライラする。しねっ!!
「『はじまりのばしょ』で待ってるっておにいちゃんに伝えて? わかった?」
●……承知しました。
「ふふっ。楽しみだね、おにいちゃん」
わたしは長い黒髪をファサっとかきあげ、意味深な表情でその場をあとにする。一度やってみたかった退場シーンだよ。
わたし、ほんと美しすぎると思う。はやくおにいちゃんに見せたいな。
見てるのが『殺す』スキルだけってのが気に入らない。
○○○
__再生
「アラガミは……俺の妹のコピーだ」
●アラガミによる時間停止攻撃を確認しました。現在はこの場より離脱。
「なに!?」
さらりとスキルが言ってのけた言葉に驚愕する。時間停止攻撃だと!?
見たところ誰も欠けていないし、体に不調もなさそうだが。
●攻撃は自動で『殺し』回避しました。
「ありがとう。まったく気がつかなかった」
●いえ。アラガミより伝言『はじまりのばしょにて待つ』以上です。
「はじまりのばしょ……」
あっさりと、それだけ伝えられた。
スキルの話では、再攻撃の可能性は無いそうだ。
とにかく、集まってくれた皆には礼を伝え家に帰した。
アラガミは妹のコピー……仮説の段階だが、そう考えるとすべての辻褄が合ってしまう。
だけど『殺す』スキルに確認するのが怖い。
仮説が正しかったとすると、本物の妹は……。
「セツナはずっと……くっ」
今まで気づかなかったとは。
こんな現実が待ち受けていたとは、身が裂けるよりも耐えがたい。
0
お気に入りに追加
3,421
あなたにおすすめの小説

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる