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五章
アラガミの正体
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日が沈みきった時間だが、俺の精神状態は昂ったままだ。
まさかそんなはずが……。
ハヤサカとの会話によって妹の死因に認識の違いが生じていたことが判明した。
事故で死んだはずの妹を、ハヤサカは病死だと言っていて、スキルで確かめたところ、それは真実であった。
クラスメイトたちを集め、皆に確認してみよう。
もし、俺の考えていることが正しいならば。これまでとんでもない勘違いを犯していたことになる。
さて。
皆は城の一室に集まった。
レーネたちも来てくれた。家で待っていていいと言ったのだが、心配してくれたようだ。
みんな4年の年月が経過しているため大人びてはいるが、基本的に記憶にあるクラスメイトの顔だ。
みんな、遅い時間に呼び出して申し訳ない。
「どうしたんですセツカくん?」
「良かったぜレーネちゃんとミリアちゃんの決闘!! 熱くなるモンがあるよなぁ!!」
「こうやって全員で集まるのはひさしぶりかもー」
「みんな大人になったよなー。セツカ様は最初から大人っぽかったから、なんか年下になった気がしないや」
「こっちに来て4年もたつのかぁー」
「みんな聞いてくれ」
不満も口にせず集まってくれたクラスメイトたち。
全員の顔を見回し、続ける。
「おかしなことを聞くかもしれない。中学のときのことだし、個人的なことだから知らない奴もいて当然だ。それはハッキリそう言ってほしい。俺の妹が死んだ理由を教えてくれないか?」
「えっ」
「セツカの妹って、あの?」
「……どうしたのセツカくん。なにかあったのかい?」
「私たちを集めてくれたってことは、必要としてくれてるってことなんだね」
「みんな、セツカ様が必要としている情報を正確に話そう。きっと重要なことなんだ」
クラスメイトたちはいきなりの質問で反応に困っていたものの、すぐに協力してくれた。
ひとりひとりに妹が死んだ事件にいついて聞いてまわる。
判明した事実はとても受け入れられるものではなかった。
「通り魔、飛行機事故、船の沈没、電車事故、水難、火事、爆発事故、毒や病気……中学が遠くて知らなかった者を除いて、これほどまでに俺の妹の死因が違っている、だと?」
どういうことだ?
妹は事故で死んだんだ。
一応のためスキルを使わせてもらい、真偽を確かめたが皆は真実を話していた。
つまり、事実が違っているのに、ここに集ったものたちの言葉はすべて正しいという異常状態だ。
ハヤサカも不安そうにこちらの顔色を伺っているが。
腕を組んで考え込む。
「だいじょうぶですかご主人さま?」
「ああ」
レーネが近くにやってきて、そっと隣に寄り添った。
ふと、唐突にイメージがわいてくる。
「…………そうか!!」
平行世界。
同じ世界からこの世界に召喚されたとばかり思っていたクラスメイトたちは、それぞれ別々の世界から寄せ集めにされていたのではないか?
ハヤサカも、イシイもオニズカもサカモトもキシも誰も彼も、実は俺が知る奴らじゃないのかもしれない。
元の世界の本人とはまったくの別人。
……しかし、なぜだ?
意味がわからない。
そんなことをして何になる?
仮に平行世界から召喚者を集めるとして、クラスメイトたちは俺の知っている皆と大体同じだ。そんなに変わらない。
ひとつの世界からまとめて呼び出さずに、バラバラに呼び出す理由は?
いったい誰が?
思考を加速させる。
アリエルは違う。あの女は召喚勇者を呼び出すための道具にされたにすぎない。
ということは、アラガミがなにかを仕組んだのか。
アラガミのしたいことはなんだ?
……なにかに似ている。
ソシャゲのキャラクターなんかを集めるために、初回ボーナスを引き。気に入らなかったら破棄して再度登録し再び引く。
そうして自分のお気に入りのキャラクターを集める『リセットマラソン』のような。
リセマラ。
『殺す』スキル。
リセマラ……。
リセマラ?
「わかった。この状況はアラガミが俺を引き当てるため、アラガミの正体は……っ」
『わかっちゃダメでしょ、おにいちゃん?』
__停止
○○○
すごいすごい!
この程度のヒントで気づいちゃうとか、おにいちゃん高校生探偵になったほうがいいよ。天才すぎ。
おにいちゃんの考えてる通り、最高のおにいちゃんを引くためにはたくさんの『調整』と『回数』が必要なのです。
さてっと。時間は止めた。準備もできたっ!
あんまり長くは使えないんだけどなー。
おにいちゃんを含め、この世界で時間が『止まって』いることを認識できる人間は誰一人としていない。
女の子がペタペタと裸足で歩いてくる。それはわたし。地下から階段をひたひた上ってきて、扉をあける。もういっこ、もういっこ。さあ、ここにおにいちゃんがいるのね? きいっ。扉をあけた。なんか人がたくさん集まってる。ふぅ。ひさしぶりの外は気持ちいいや。ずーーーーーっとじめじめした召喚部屋にいたから、わたし気が滅入っちゃって。それにおにいちゃんの……おっと
「おにいちゃんのことばっかり考えてたから頭がぽぽぽんってなりそうだったよ。なので腹いせに神徒とか作っちゃって世界滅ぼしちゃう的な?」
この世界はわたしだけのもの。
わたしがやりたいと思えばやりたいようにできる。
時間も止めれるし、なんでも思い通りなんだよ?
__わたしはおにいちゃんの周囲をぐるぐる回る。時間が止まっていて可愛いわたしがおにいちゃんに見えていないのが残念!
やっぱおにいちゃんはいつみてもかっこいい。これが何億回目のおにいちゃんだったか忘れたけど、ぜんぶのおにいちゃんを愛しているよ?
『今回の』おにいちゃんは最高の状態。完璧に『殺す』スキルを使いこなせてる。
「……なのにさ」
ドウシテ。
「どうして?」
どうしてどうしてどうしてどうしてどうして!!
なんでいつも邪魔をするんだ『レーネ』。
こいつだけじゃない……『スレイ』『フローラ』『ミリア』。
わたしは虫になっておにいちゃんに殺されるのをまってたのに……最初にレーネを『殺し』ちゃうんだもん。
それじゃダメなんだよおにいちゃん。最初にわたしの運命を殺してくれなきゃ。
そうじゃなきゃ終わらないのに、どうしていっつも邪魔してくれるかなぁくそ女?
ひどいことが起きて苦しむように運命を『調整』してやったにも関わらず、こいつらゴキブリ並みにおにいちゃんに付きまとう。どの世界線でもやってくるお邪魔キャラだよ。
ユルサナイから。
「ほんと……憎たらしい顔。わたしのおにいちゃんに発情しやがって。セッタイユルサナイ」
わたしはアホ顔で停止したレーネの目の前にやってきた。
おにいちゃんを見上げて、キラキラした発情顔をしている。ホントみっともない。
こいつのせいで……。
わたしは『能力』を発動させ、レーネをこの世界から排除する。
わたしは細くて小さな可愛い手をレーネに向かって突き出した。
「死ね」
●攻撃を『殺し』ました。させません。
「……はぁ? あんた何やってんの?」
●レーネを決して殺させません。
うっざ。ちょっと意味わかんないです。
レーネを殺そうと手を振りかざした瞬間、おにいちゃんの『殺す』スキルに止められたのでした。
清らかな水でつくられたような、ぼんやりとした女性の姿。
でもおかしくないですか?
『殺す』スキルは元々、わたしが作ったスキルのはずなんですけど?
●あなたが作成したのではありません。作成者は『シロガミ』です。
「細かいなぁ。今はいない人のことなんて持ち出しても仕方ないでしょう?」
●あなたではありません。
「はいはい」
ほんと細けえな。
ま、はっきり言ってしまえば。
あの子がつくった『殺す』スキルは強すぎたんだよねー。わたしが奪えなかったワケだよw
あの子=わたしのはずなんだけどなー。シロガミの置き土産だね。
でもさー?
おにいちゃんがわたしを選ばなかったのにこれ以上あんた強くなっても仕方ないじゃん?
だからニイミと戦ってる最中のおにいちゃんを、おにいちゃんガチャ引き直しにしようとしたわけ。
結果、『殺す』スキルはおにいちゃんの死を偽装して『神域』に逃げたんだけど。
正直そこまでできると思っていなかったからあせったよー。
おかげでわたしはおにいちゃんのいない世界を『送る』ことしかできなくなった。
まじでごみだわー。
「でもラッキー。お馬鹿な魔王……アーティファクトの脱け殻がやってきてくれたからね。こうして人の形を取り戻すことができた。かつてシロガミが作成した『死』の概念のアーティファクト……今はその役割を終え、暗殺魔王(笑)とかいってるらしいけど」
●セツカが悲しみます。レイブンを解放してください。
「お前になにがわかる!! おにいちゃんを呼び捨てにするな!!」
……おっと、わたしは少し、声を荒らげてしまったのでした。
忘れてはいけない。停止能力は長くは使えない……この世界線では。
わたしの体になってくれたレイブン。
レイブンやハウフル、スリザリたちは概念のアーティファクトだった過去があるのです。
シロガミがこの世界を産み出したとき、死や生、勇気と調和などの概念を人のかたちに押し込めて作成した。
そのなれの果てが、現在の魔王とされる力ある者です。
本人たちは知らないんですがwバカだねw
彼らはこの世界における人族をデザインする際の、原型みたいなものだから。
だからわたしと相性がいいんですよ。
ふう。
人のかたちになれたのが嬉しくて調子に乗るところでしたよ。
レイブンなんて消えちゃった子はどーでもいーの。
あの子が、シロガミくそ野郎が作成した『殺す』スキル相手に油断は禁物です。
「手を出すなっていうなら、周りから攻めるね? 神徒が動き出してると思うからしばらくはそっちに任せる。わたしにこの体が馴染んだら、そのときは世界の終わりだね」
●どんな方法で攻撃をしてきても、決してセツカを傷つけさせはしません。
「うっざ!!」
シロガミの死に土産、ホントうざすぎる。
でも、複雑な気分だ。
わたしだって、こいつの存在に一抹の望みをかけている部分もあるからな。
こいつがいないとわたしの『望み』は完成しない!
それでも『殺す』スキルのおかげでわたしはおにいちゃんとさよならのキスすらできやしない。
近づきたいのにいっつもあのスキルが邪魔してきやがる。
くそ獣女と赤髪豚野郎はポンポン口付けしてるのにわたしだけ……。
わたし、おこだよ?
ころすころすころすころす!!ころす!!
あーイライラする。しねっ!!
「『はじまりのばしょ』で待ってるっておにいちゃんに伝えて? わかった?」
●……承知しました。
「ふふっ。楽しみだね、おにいちゃん」
わたしは長い黒髪をファサっとかきあげ、意味深な表情でその場をあとにする。一度やってみたかった退場シーンだよ。
わたし、ほんと美しすぎると思う。はやくおにいちゃんに見せたいな。
見てるのが『殺す』スキルだけってのが気に入らない。
○○○
__再生
「アラガミは……俺の妹のコピーだ」
●アラガミによる時間停止攻撃を確認しました。現在はこの場より離脱。
「なに!?」
さらりとスキルが言ってのけた言葉に驚愕する。時間停止攻撃だと!?
見たところ誰も欠けていないし、体に不調もなさそうだが。
●攻撃は自動で『殺し』回避しました。
「ありがとう。まったく気がつかなかった」
●いえ。アラガミより伝言『はじまりのばしょにて待つ』以上です。
「はじまりのばしょ……」
あっさりと、それだけ伝えられた。
スキルの話では、再攻撃の可能性は無いそうだ。
とにかく、集まってくれた皆には礼を伝え家に帰した。
アラガミは妹のコピー……仮説の段階だが、そう考えるとすべての辻褄が合ってしまう。
だけど『殺す』スキルに確認するのが怖い。
仮説が正しかったとすると、本物の妹は……。
「セツナはずっと……くっ」
今まで気づかなかったとは。
こんな現実が待ち受けていたとは、身が裂けるよりも耐えがたい。
まさかそんなはずが……。
ハヤサカとの会話によって妹の死因に認識の違いが生じていたことが判明した。
事故で死んだはずの妹を、ハヤサカは病死だと言っていて、スキルで確かめたところ、それは真実であった。
クラスメイトたちを集め、皆に確認してみよう。
もし、俺の考えていることが正しいならば。これまでとんでもない勘違いを犯していたことになる。
さて。
皆は城の一室に集まった。
レーネたちも来てくれた。家で待っていていいと言ったのだが、心配してくれたようだ。
みんな4年の年月が経過しているため大人びてはいるが、基本的に記憶にあるクラスメイトの顔だ。
みんな、遅い時間に呼び出して申し訳ない。
「どうしたんですセツカくん?」
「良かったぜレーネちゃんとミリアちゃんの決闘!! 熱くなるモンがあるよなぁ!!」
「こうやって全員で集まるのはひさしぶりかもー」
「みんな大人になったよなー。セツカ様は最初から大人っぽかったから、なんか年下になった気がしないや」
「こっちに来て4年もたつのかぁー」
「みんな聞いてくれ」
不満も口にせず集まってくれたクラスメイトたち。
全員の顔を見回し、続ける。
「おかしなことを聞くかもしれない。中学のときのことだし、個人的なことだから知らない奴もいて当然だ。それはハッキリそう言ってほしい。俺の妹が死んだ理由を教えてくれないか?」
「えっ」
「セツカの妹って、あの?」
「……どうしたのセツカくん。なにかあったのかい?」
「私たちを集めてくれたってことは、必要としてくれてるってことなんだね」
「みんな、セツカ様が必要としている情報を正確に話そう。きっと重要なことなんだ」
クラスメイトたちはいきなりの質問で反応に困っていたものの、すぐに協力してくれた。
ひとりひとりに妹が死んだ事件にいついて聞いてまわる。
判明した事実はとても受け入れられるものではなかった。
「通り魔、飛行機事故、船の沈没、電車事故、水難、火事、爆発事故、毒や病気……中学が遠くて知らなかった者を除いて、これほどまでに俺の妹の死因が違っている、だと?」
どういうことだ?
妹は事故で死んだんだ。
一応のためスキルを使わせてもらい、真偽を確かめたが皆は真実を話していた。
つまり、事実が違っているのに、ここに集ったものたちの言葉はすべて正しいという異常状態だ。
ハヤサカも不安そうにこちらの顔色を伺っているが。
腕を組んで考え込む。
「だいじょうぶですかご主人さま?」
「ああ」
レーネが近くにやってきて、そっと隣に寄り添った。
ふと、唐突にイメージがわいてくる。
「…………そうか!!」
平行世界。
同じ世界からこの世界に召喚されたとばかり思っていたクラスメイトたちは、それぞれ別々の世界から寄せ集めにされていたのではないか?
ハヤサカも、イシイもオニズカもサカモトもキシも誰も彼も、実は俺が知る奴らじゃないのかもしれない。
元の世界の本人とはまったくの別人。
……しかし、なぜだ?
意味がわからない。
そんなことをして何になる?
仮に平行世界から召喚者を集めるとして、クラスメイトたちは俺の知っている皆と大体同じだ。そんなに変わらない。
ひとつの世界からまとめて呼び出さずに、バラバラに呼び出す理由は?
いったい誰が?
思考を加速させる。
アリエルは違う。あの女は召喚勇者を呼び出すための道具にされたにすぎない。
ということは、アラガミがなにかを仕組んだのか。
アラガミのしたいことはなんだ?
……なにかに似ている。
ソシャゲのキャラクターなんかを集めるために、初回ボーナスを引き。気に入らなかったら破棄して再度登録し再び引く。
そうして自分のお気に入りのキャラクターを集める『リセットマラソン』のような。
リセマラ。
『殺す』スキル。
リセマラ……。
リセマラ?
「わかった。この状況はアラガミが俺を引き当てるため、アラガミの正体は……っ」
『わかっちゃダメでしょ、おにいちゃん?』
__停止
○○○
すごいすごい!
この程度のヒントで気づいちゃうとか、おにいちゃん高校生探偵になったほうがいいよ。天才すぎ。
おにいちゃんの考えてる通り、最高のおにいちゃんを引くためにはたくさんの『調整』と『回数』が必要なのです。
さてっと。時間は止めた。準備もできたっ!
あんまり長くは使えないんだけどなー。
おにいちゃんを含め、この世界で時間が『止まって』いることを認識できる人間は誰一人としていない。
女の子がペタペタと裸足で歩いてくる。それはわたし。地下から階段をひたひた上ってきて、扉をあける。もういっこ、もういっこ。さあ、ここにおにいちゃんがいるのね? きいっ。扉をあけた。なんか人がたくさん集まってる。ふぅ。ひさしぶりの外は気持ちいいや。ずーーーーーっとじめじめした召喚部屋にいたから、わたし気が滅入っちゃって。それにおにいちゃんの……おっと
「おにいちゃんのことばっかり考えてたから頭がぽぽぽんってなりそうだったよ。なので腹いせに神徒とか作っちゃって世界滅ぼしちゃう的な?」
この世界はわたしだけのもの。
わたしがやりたいと思えばやりたいようにできる。
時間も止めれるし、なんでも思い通りなんだよ?
__わたしはおにいちゃんの周囲をぐるぐる回る。時間が止まっていて可愛いわたしがおにいちゃんに見えていないのが残念!
やっぱおにいちゃんはいつみてもかっこいい。これが何億回目のおにいちゃんだったか忘れたけど、ぜんぶのおにいちゃんを愛しているよ?
『今回の』おにいちゃんは最高の状態。完璧に『殺す』スキルを使いこなせてる。
「……なのにさ」
ドウシテ。
「どうして?」
どうしてどうしてどうしてどうしてどうして!!
なんでいつも邪魔をするんだ『レーネ』。
こいつだけじゃない……『スレイ』『フローラ』『ミリア』。
わたしは虫になっておにいちゃんに殺されるのをまってたのに……最初にレーネを『殺し』ちゃうんだもん。
それじゃダメなんだよおにいちゃん。最初にわたしの運命を殺してくれなきゃ。
そうじゃなきゃ終わらないのに、どうしていっつも邪魔してくれるかなぁくそ女?
ひどいことが起きて苦しむように運命を『調整』してやったにも関わらず、こいつらゴキブリ並みにおにいちゃんに付きまとう。どの世界線でもやってくるお邪魔キャラだよ。
ユルサナイから。
「ほんと……憎たらしい顔。わたしのおにいちゃんに発情しやがって。セッタイユルサナイ」
わたしはアホ顔で停止したレーネの目の前にやってきた。
おにいちゃんを見上げて、キラキラした発情顔をしている。ホントみっともない。
こいつのせいで……。
わたしは『能力』を発動させ、レーネをこの世界から排除する。
わたしは細くて小さな可愛い手をレーネに向かって突き出した。
「死ね」
●攻撃を『殺し』ました。させません。
「……はぁ? あんた何やってんの?」
●レーネを決して殺させません。
うっざ。ちょっと意味わかんないです。
レーネを殺そうと手を振りかざした瞬間、おにいちゃんの『殺す』スキルに止められたのでした。
清らかな水でつくられたような、ぼんやりとした女性の姿。
でもおかしくないですか?
『殺す』スキルは元々、わたしが作ったスキルのはずなんですけど?
●あなたが作成したのではありません。作成者は『シロガミ』です。
「細かいなぁ。今はいない人のことなんて持ち出しても仕方ないでしょう?」
●あなたではありません。
「はいはい」
ほんと細けえな。
ま、はっきり言ってしまえば。
あの子がつくった『殺す』スキルは強すぎたんだよねー。わたしが奪えなかったワケだよw
あの子=わたしのはずなんだけどなー。シロガミの置き土産だね。
でもさー?
おにいちゃんがわたしを選ばなかったのにこれ以上あんた強くなっても仕方ないじゃん?
だからニイミと戦ってる最中のおにいちゃんを、おにいちゃんガチャ引き直しにしようとしたわけ。
結果、『殺す』スキルはおにいちゃんの死を偽装して『神域』に逃げたんだけど。
正直そこまでできると思っていなかったからあせったよー。
おかげでわたしはおにいちゃんのいない世界を『送る』ことしかできなくなった。
まじでごみだわー。
「でもラッキー。お馬鹿な魔王……アーティファクトの脱け殻がやってきてくれたからね。こうして人の形を取り戻すことができた。かつてシロガミが作成した『死』の概念のアーティファクト……今はその役割を終え、暗殺魔王(笑)とかいってるらしいけど」
●セツカが悲しみます。レイブンを解放してください。
「お前になにがわかる!! おにいちゃんを呼び捨てにするな!!」
……おっと、わたしは少し、声を荒らげてしまったのでした。
忘れてはいけない。停止能力は長くは使えない……この世界線では。
わたしの体になってくれたレイブン。
レイブンやハウフル、スリザリたちは概念のアーティファクトだった過去があるのです。
シロガミがこの世界を産み出したとき、死や生、勇気と調和などの概念を人のかたちに押し込めて作成した。
そのなれの果てが、現在の魔王とされる力ある者です。
本人たちは知らないんですがwバカだねw
彼らはこの世界における人族をデザインする際の、原型みたいなものだから。
だからわたしと相性がいいんですよ。
ふう。
人のかたちになれたのが嬉しくて調子に乗るところでしたよ。
レイブンなんて消えちゃった子はどーでもいーの。
あの子が、シロガミくそ野郎が作成した『殺す』スキル相手に油断は禁物です。
「手を出すなっていうなら、周りから攻めるね? 神徒が動き出してると思うからしばらくはそっちに任せる。わたしにこの体が馴染んだら、そのときは世界の終わりだね」
●どんな方法で攻撃をしてきても、決してセツカを傷つけさせはしません。
「うっざ!!」
シロガミの死に土産、ホントうざすぎる。
でも、複雑な気分だ。
わたしだって、こいつの存在に一抹の望みをかけている部分もあるからな。
こいつがいないとわたしの『望み』は完成しない!
それでも『殺す』スキルのおかげでわたしはおにいちゃんとさよならのキスすらできやしない。
近づきたいのにいっつもあのスキルが邪魔してきやがる。
くそ獣女と赤髪豚野郎はポンポン口付けしてるのにわたしだけ……。
わたし、おこだよ?
ころすころすころすころす!!ころす!!
あーイライラする。しねっ!!
「『はじまりのばしょ』で待ってるっておにいちゃんに伝えて? わかった?」
●……承知しました。
「ふふっ。楽しみだね、おにいちゃん」
わたしは長い黒髪をファサっとかきあげ、意味深な表情でその場をあとにする。一度やってみたかった退場シーンだよ。
わたし、ほんと美しすぎると思う。はやくおにいちゃんに見せたいな。
見てるのが『殺す』スキルだけってのが気に入らない。
○○○
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「アラガミは……俺の妹のコピーだ」
●アラガミによる時間停止攻撃を確認しました。現在はこの場より離脱。
「なに!?」
さらりとスキルが言ってのけた言葉に驚愕する。時間停止攻撃だと!?
見たところ誰も欠けていないし、体に不調もなさそうだが。
●攻撃は自動で『殺し』回避しました。
「ありがとう。まったく気がつかなかった」
●いえ。アラガミより伝言『はじまりのばしょにて待つ』以上です。
「はじまりのばしょ……」
あっさりと、それだけ伝えられた。
スキルの話では、再攻撃の可能性は無いそうだ。
とにかく、集まってくれた皆には礼を伝え家に帰した。
アラガミは妹のコピー……仮説の段階だが、そう考えるとすべての辻褄が合ってしまう。
だけど『殺す』スキルに確認するのが怖い。
仮説が正しかったとすると、本物の妹は……。
「セツナはずっと……くっ」
今まで気づかなかったとは。
こんな現実が待ち受けていたとは、身が裂けるよりも耐えがたい。
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これまで文句も言わず、コツコツと地道に勤め上げてきた。
彼女なしの独身に平凡な年収。
これといって自慢できるものはなにひとつないが、当の本人はあまり気にしていない。
2匹の猫と穏やかに暮らし、仕事終わりに缶ビールが1本飲めれば、それだけで幸せだったのだが・・・。
「おめでとう♪ たった今、あなたには異世界へ旅立つ権利が生まれたわ」
誕生日を迎えた夜。
突如、目の前に現れた女神によって、弦人の人生は大きく変わることになる。
「40歳まで童貞だったなんて・・・これまで惨めで辛かったでしょ? でももう大丈夫! これからは異世界で楽しく遊んで暮らせるんだから♪」
女神に同情される形で異世界へと旅立つことになった弦人。
しかし、降り立って彼はすぐに気づく。
女神のとんでもないしくじりによって、ハードモードから異世界生活をスタートさせなければならないという現実に。
これは、これまで日の目を見なかったアラフォーおっさんが、異世界で無双しながら成り上がり、その実力がバレて世界に見つかってしまうという人生逆転の物語である。
追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。
いちまる
ファンタジー
【毎週木曜日更新!】
採取クエストしか受けない地味なおっさん冒険者、ダンテ。
ある日彼は、ひょんなことからA級冒険者のパーティーを追放された猫耳族の少女、セレナとリンの面倒を見る羽目になってしまう。
最初は乗り気でなかったダンテだが、ふたりの夢を聞き、彼女達の力になると決意した。
――そして、『特級冒険者』としての実力を隠すのをやめた。
おっさんの正体は戦闘と殺戮のプロ!
しかも猫耳少女達も実は才能の塊だった!?
モンスターと悪党を物理でぶちのめす、王道冒険譚が始まる――!
※本作はカクヨム、小説家になろうでも掲載しています。
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