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四章

違和感

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 コロシアムはまるで廃墟のように人気を失った。
 客席の最前列へと腰掛け頬杖をつく。
 みんなは先に帰った。というか帰らせた。ひとりにすれ。頼むから国民の前でこっぱずかしいミリアの告白を受けた俺の気持ちを整理させておくれ。

 祭りのあとは決まって静けさが場を支配する。むしろ喧騒よりもそんな雰囲気のほうが好きだったりする。
 ほっと一息つく。
 まるで一大イベントを終えたような気分だ。俺がしたことといえば実際にはペニーワイズを復活させただけだが。
 俺をめぐるふたりの女の子の対決は、ミリアの告白で幕を閉じたのだった。
 いや、意味わかんないから!!
 対決した意味は!? しかしそんなことを聞くのは野暮なのかもしれない。
 当の本人たちがとても満足そうにしているからだ。
 女心とは往々にしてわからないものである。何も解決していないように思えるのだが、二人の中では何かが変化したのだろうか?
 やれやれである。
 ま。戦う姿はとてもきれいだったよ。二人とも。

 
 ふと、真面目に考えてみる。

 俺たちは結構簡単に命を復活させたりしている。
 ペニーワイズを復活させるのも、ためらわなかったわけではないんだ。
 理(ことわり)を殺してまで生き返らせることが本当に正しいのだろうか?
 しっかりと考えたうえでも、その答えが合っているとは限らないのだ。
 同じことは『殺す』ことにも言える。
 この世界では元の世界よりも簡単に命のやりとりがなされ、人など奴隷として扱われ命を軽視される。
 オリエンテール周辺は変えたつもりだが、神徒とやらが出没してまた世の中が荒れてしまった。
 お前ら簡単に殺すとか言っているが、人間の細胞の数を知っているか?
 37兆個だ。ひとりの人間が死ねば、37兆の細胞が死ぬんだ。
 それがどれだけ大変なことか理解して、他人を傷つけているのだろうか?
 そして復活させるのが、どれだけ大変だと考えているのか。

「せ、セツカくんのお顔がもとに戻ってます」

「ん?」

 隣にやってきたのはハヤサカ。
 中学から一緒の、もはや腐れ縁とも言える謎女だ。
 ……帰れよ!!!!
 ワープできるからって来るなやっ。
 こいつもさっきどさくさにまぎれ告白してきたな。スルーしちゃったが。
 顔やスタイルはぜんぜん悪くない。むしろ意外なほど美少女だと言えるだろう。
 性格がなぁ……。

「さっき、すっごく笑ってたのに」
「俺が?」
「はい。まるで中学校のときのセツカくんに戻ったみたい。あの明るくてクラスの中心って感じの」
「なんだそれ。別人の話なんじゃないかと思えるよ」

 中学の頃からガラリと変わったのは仕方がないだろう。
 妹を失ってから、俺は周囲に気を使うことは一切できなくなった。
 ハヤサカはずっとそんな俺のことを観察していたらしいが、ちょっとキモいな。
 けっこうキモいわ。ドン引きだわ。なんだこいつ。

「あの、妹さんがご病気で亡くなられてから……セツカくんぜんぜん笑わなくなったから」
「ん?」
「さっきの笑顔は、ちょっとだけ昔の笑顔に似てました!!」
「ちょっと待て。話がおかしい」

 首をかしげるハヤサカだが、そうしたいのは俺のほうだ。
 けっこうな事件になった妹の事故の話は有名だぞ?
 病気で死んだはずがない。だって目の前で車に轢かれた光景がまだ脳裏に焼き付いて離れないのだから。

「あ、あの。不治の病で……治療のかいもむなしく。セツカくん毎日病院に言って看病してたんだけれど、妹さん亡くなっちゃって。自分のせいだーって」
「はぁ?」
「あ、あれ? わわわたしおかしくなっちゃったかも。セツカくんのほうが正しいと思う」
「ちょっと……すまん、スキルを使わせてくれ」
「うん、いいよ」

 ●心理障壁を『殺し』ます。ハヤサカは嘘を言っていません。

「…………バカな。どういうこと、だ?」

 『殺す』スキルが間違うことはありえない。
 俺とハヤサカの中で、妹の死因が違っている、だと?
 ちょっとまて。
 これはどういうことを意味しているんだ?
 いったい、なにが起きている?

 不安そうに俺の顔を見つめてくるクラスメイトのハヤサカ。



 __いったい、こいつは何者なんだ!? 







4章了
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