上 下
90 / 149
四章

ハーレム×ラプソディ①

しおりを挟む
 思い立ったが吉日というような感じでトントン拍子に決闘が決まり。
 城に併設されたコロシアムに連れ出された俺は、控え室のような場所で大きなため息をついていた。

「はぁ」

「とうとうセツカ様でも逃げられなくなったのですね!!」

「サムズ。やけに嬉しそうじゃないか?」

「いえいえ。レーネ様とミリア様の対決……気になるじゃないですか。国民の皆もこうして駆けつけました。王女の資格をもつミリア様か、もしくはセツカ様と最初からずっと一緒にいらっしゃるレーネ様が第一婦人になるのか。皆の一番の感心ごとです!」

「はぁ。まずは神徒とやらに攻められている人類やアラガミに滅ぼされかけている世界を憂え」

「まずはセツカ様の結婚。次が世界の滅亡です!」

「いや、ダメだろ……」

 やれやれだよ。
 俺のことなんかに注目するよりも、もっとやることあるだろう。ねえ?
 大盛況といった周囲の様子にドン引きしている俺は、全く憂鬱な気分である。
 しかし民衆は熱意をもって俺たちを迎えてくれていた。
 なんだろう、この雰囲気。

「セツカ様ーっ!!」
「どっちが勝っても、恨みっこなしでお願いしますぞ」
「頑張れレーネ様!! 頑張れミリア様!!」
「お二人ともお美しい……」
「セツカ様万歳! セツカ様むしろわたしと結婚してー!!」

 …………まるで祭りか。
 ちなみに会場の設営、民衆の食料や飲み物はサムズ商会が提供している。完全なるマッチポンプである。

「僕も嫁がいるので、セツカ様には毎度稼がせてもらい本当に感謝感激でございます。ああ、これで子供をいい学校に通わせられる」

「お前はブレなくて本当に安心する」

「ふふ、僕の人生はセツカ様と共に。すべてはセツカ様のお陰なのですから、死ねと言われれば死ぬ所存です」

「ぬかせ。あの三人に恨まれたくはないね」

 本当に口が回るようになったなサムズ。
 自信に満ちた表情はまさに一介の商人。駆け出しだったあの頃からとんでもない成長を遂げている。
 駆け引きなら商人の中で一番だろう。その証拠に、現在のオリエンテール商人ギルドのトップは彼が務めているのだから。
 ほくほくした顔で、サムズは控え室を出ていく。おそらく嫁にした三人と決闘を眺めるのだろう。

「それではセツカ様。ご武運を」

「……なんだろう。俺が戦うわけではないのでそう言われるのはおかしいのだが、そう言われて正しい気がしてきた」

「結婚は闘いですよセツカ様」

「なんかむかつく」

 先に大人になっちまったなー。的な雰囲気を出しながらサムズは離れていった。
 あいつ腹がたつな。まあ、先に結婚したし、経験が豊富という意味ではそうなのだろうが。
 ま……いっか。
 サムズだし。
 そんなことよりも、目の前の問題が現在進行形なんだよな。



「セツカ様、ここにいたのですね」

 スレイが部屋へ来て、隣にやってきた。一緒に観戦するらしい。
 黒のドレスに銀色の髪が輝き、美しい女神の微笑みをしっとりと闇の中に浮かび上がらせる。
 暗闇でも決して消えることのない希望。例えるならそんな感じの美貌だ。
 スレイは頭を傾け、俺の顔を覗きこんでくる。

「セツカ様、心の準備はよろしいのですか?」

「スレイか。出来ていると言えば嘘になる。俺たちはこうなる以外、道がないのか? 例えばだが答えを保留して、皆で仲良く暮らすということは出来ないだろうか?」

「……お気持ちはよくわかります。セツカ様のご出身の国では、一夫一妻があたりまえ。オリエンテールのような一夫多妻の文化もなければ、ご結婚もずいぶんと決断を要するものだと聞きました」

 スレイの言うとおりだ。
 日本はそう簡単に結婚する文化ではなかった。
 この国よりもずいぶんと平和なのに、生まれる子供は年々減り続けるおかしな現象が起きるほどに。
 スレイは目を伏せ、手を握ってくる。

「明日、起きたらセツカ様に会えないかもしれない。一度別れたら何年も会えないかもしれない……この世界は本当に残酷です。私もレーネもフローラも、何度も何度も泣いて、歯を食いしばって、セツカ様がいない日々に耐えてきました。あなたに二度と会えないかもしれない絶望の中で生きるのは、まるで生きながら『殺され』ているよう」

「そこまで……考えていたのか」

「一緒になりましょうセツカ様。二度とわたしたちの前から離れないという保証がほしいのです。レーネは口下手なので代わりに私が言います。私たちはセツカ様の印が欲しいのです」

「し、しるし!?」

「つまり性行為です」

「えぇ……オブラートに包まず言っちゃうの!?」

 顔を真っ赤に爆発させて手を握ってくるスレイは、まるで乙女が恥じらうような表情で上目使いをしてくるのだった。
 うーん、かわいい。
 いや、違う、違う。

「セツカ様と、私の子供なら世界一かわいいと思うのですが?」

「確かに、スレイの子供はかわいいと思うけど……急にどうした!?」

「せっかくなので、私と子供作りませんか?」

「せっかくじゃないときってある!?」

「私はセツカ様としたいです。今がチャンスなんです」

 真顔になったスレイは外部へと繋がる扉を鋭く指差した。
 聖女の子孫であるスレイの魔力が通った扉は、ガッチリと鍵が閉まり開かなくなる。
 どうしたのスレイ。真顔怖いんですけど。
 魔法の悪用やめたげて!?
 閉じ込められて若干焦る。スキルを使えば出れるだろうが……。
 スレイは祈りを捧げるように両手を合わせた。

「セツカ様のスキルさん。今だけは発動しないでください」

 ●わかりました。

 わかっちゃダメだろ!?おぉい!?
 どういうことなのスキル!?
 スレイが迫ってくる。吐息のかかる距離に、少女の顔が接近する。

「レーネとミリアさんはバ……ちょっと単細胞なので、正攻法しか思い付きません。フローラにはミリアさんの件で大事な『仕事』をお願いしました。つまり、今、この場で決闘が始まるまでの間、私とセツカ様のふたりっきりの時間ができたということ!! 今が私の最後のチャンスです」

「賢さを悪用するなよ……? な?」

「レーネにはいつも遠慮してきました。でも、本当は私だって一番がいいに決まってるじゃないですか。レーネは正直なのでセツカ様とキスしたことを私とフローラに話しました。そのとき、私の心はやっぱり炎で燃え盛るようだった。どうしてレーネ
のキスを自慢されなきゃいけないの!? 私のほうが可愛いもん!! 私のほうが、私のほうがセツカ様にっ……くっ。ちょっとセツカ様のせいで発作が……すこし待ってくださいね?」

 スレイは胸元からなにやら袋を取り出す。
 開けると、見覚えのある布地がその中から出てきたのであった。
 スレイは思いっきりその布地に顔を突っ込み、深呼吸を繰り返す。

「すぅ、はぁ。すう、はぁ……すぅ、はぁ。んぅ。セツカ様ぁ!!」

 うわ俺のパンツじゃん……まだ持ってたのかよー!?
 くしゃくしゃに握りしめ、顔を押し付けている。どんだけだよ。
 スレイは何度か深呼吸を繰り返すと、恍惚とした表情でこちらに視線を戻し言った。

「だいすきです」
「その告白は無理がある」

 冷静に突っ込んではいるものの。
 スレイがしなだれかかってきたとき、身体の芯からぞわぞわとする感覚を感じた。
 天性の魔性をもつスレイがこんなに近くにいるのだ。それに二人っきり。
 相手はその気で、『殺す』スキルはヘソを曲げている。

 ……あれ、ヤバくないか!?!?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

処理中です...