『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行

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四章

魅惑されたミリアを×そう!

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 王都の風景は変わったが、森の中は3000年間、まるで変化がないと言ってもいい。
 夜になれば凶悪なモンスターが徘徊し、白い教会の周囲のほかは超危険地帯と化す。
 そんな危ない森に、小さな影が動いていた。
 赤い髪の少女だ。
 彼女はまるで慣れた道を歩くかのように、白い教会に対して進んでいく。
 モンスターたちも彼女の只者ならぬ身のこなしに手を出してこない。
 やがて少女は木陰に身を隠し、淡い光がのぞく教会の窓をじっと眺める。

「セツカ……」

 その少女は、マントを羽織ったミリア。
 楽しそうに女の子たちと団らんするセツカの姿をみた彼女はぼうっと表情のない顔で見つめ続ける。

 メキメキッ。

 手をかけていた木が、まるで紙屑のように砕けてしまった。
 幸せそうな光景におもわず力が入ったみたいだ。
 それでもミリアは全く微動だにせず、じっと観察を続けていた。
 やがて家の灯りは消され、中のものは就寝するようだ。
 ようやく少女はその場を離れる。まるで影のように、音もなくその場を消えるのであった。


 ●


「この天井も久しぶりだな」

 俺は部屋へと戻り、眠りにつこうとしていた。
 ぶっちゃけ一緒に寝ようとレーネたちに言われたのだが。つうか、ハヤサカもすごくエロいパジャマで誘ってきたのだが。
 昔なら普通に寝てたけど、今のあの子たちと一緒に寝るのはさすがにまずい。
 俺の衝動が……ねえ?

 ●思春期特有の生理現象です。『殺す』必要がないのでは? 彼女たちも望んでいますし。

「ふざけろ。覚悟と時間がいるだろう」

 ●そういうものでしょうか? わからないですね。さっさと何人でも妊娠させればいいのでは? おやすみなさい。

 なんだ? 冷たいな『殺す』スキル。
 俺だって考えていないわけではない。
 レーネとの一件があり、さすがに気づいたのだ。

 あれ!? もしかして、レーネたち俺のこと好きだったんじゃね? とな。

 スキルに相談したら、●は?そこからですか?みたいなことを言われたが。
 レーネとキスした後もめちゃめちゃ機嫌悪かったし、スキルにはやっぱり性別があるのだろうか?
 とにかく……レーネたち三人のことは本気で考えておかなければいけないな。

 ……レーネたちだけじゃなかったな。
 あいつも。
 そういえばあいつ、大丈夫なのか? 結局城には来なかったし、心配だから朝イチで確認しないとな。
 んうぅ。クソ!

 つうかハヤサカまでこじらせてるとは、俺も想像していなかった。
 彼女は年齢でいえば20歳だからな。
 まさかその歳まで俺のことを気にし続けていたとは……。
 いったい俺はどうすれば?

 やめよう。
 人に好かれるのは慣れていないから、疲れる。
 スキルに言わせれば気づかないほうが異常らしいが、俺にとっては今でも不安だ。
 妹を、セツナをあんなミスで失った俺に、愛される資格なんてないんだから。

「結婚……か。キシとアマネもそのうち結婚式をあげると言っていた。サムズは三人もお嫁さんがいる。三人? 俺はこの世界でレーネたちと……ぐわぁああああ想像できん。無理だ無理!! 俺に他人を幸せにできるのか!?」

 枕に顔を突っ込み、足をバタバタさせる。
 胃がキリキリするような生活を送ってきた。
 いきなりたくさんのとびきり甘いケーキを用意されても、俺は食べ方を知らないというものなのだ。

 しばらくすると、疲れて眠ってしまった。
 スリザリからの神域の件、とても色々あった。筆舌に尽くしがたい。
 泥のような眠りに襲われる。
 少女の侵入に気がつくはずもなかった。元々、彼女には『危険察知(アラート)』を設定していない。

 ・・・

「ねえ・セツカ」

「ん……」

 背中から聞こえた声に、ぼんやりと目をあける。
 心地いい声だ。聞き覚えのある、あいつの……。

「おきちゃった?」

「お前……なにを!?」

「動かないで。あたし・裸だから」

「は?」

 ミリアはまるで挑発するような声色で、俺の耳元で囁いた。
 背後から押し付けられた感触が柔らかい。
 すべすべの脚が太股に絡んできて、情けない悲鳴をあげそうになる。
 肌着の中に入ってきた細腕は、汗ばんだ腹や胸を蛇のようになで回した。
 ぞわりと快感がつきぬける。
 なにベッドに勝手に入ってきて……るんだ!?

「すごいねセツカ・たくましい身体。しっかり男の子なんだ?」

「自分がやっていることをわかっているのか!?」

「知ってるよ・あたしはこうやってセツカと子供をつくるんだ」

「はぁ……っ!?」

 ミリアがぶっ壊れた。
 こんなミリア、俺は知らない。

「こうすると・気持ちいいでしょう?」

「バカ、やめろっ」

 指先を立てたミリアは、ゆっくりといやらしい声を出しながら愛撫をしてくる。
 正直いって、我慢ならん状況だ。

「いいの・セツカの都合のいいように、あたしを使ってくれていいから。なんでもするよ? どんな命令でもきく。すっごく気持ちのいいことをしてあげる」

「ふざけ……っんな!!」

 ミリアの手がどんどんと下へと向かっていくのを感じ、俺は勢いよく立ち上がった。
 はっきりと理解した。
 ミリアは何者かにあやつられている。
 はっきりと見据える。
 彼女は暗闇で光っているような、美しい身体をしていた。
 こんなときだが、不謹慎ながらも興奮してしまいそうだ。
 一寸の汚れもない。そんな身体を震わせてミリアは顔を火照らせる。

「セツカぁ……欲しいよぉ。おねがい・ちょうだい?」

「ミリア、目を覚ませ。お前はあやつられているんだ」

「違うよ・これはあたしの本当の気持ち。セツカが欲しくて欲しくて、たまらないんだよ」

「お前いい加減に……スキル!!」

 ●第六感センサーによると、ミリアはアンリエッタにより攻撃を受けています。計算……判明。『惑わす』スキル。
  アンリエッタの能力は、すべての存在を『魅惑』するスキルだと類推します。

「ミリアの状態異常を解除しろ!!」

 ●承知しました。魅惑状態を『殺し』ます……失敗。強すぎるミリアの想いが『殺す』ことを阻んでいます。

「なんだと!?」

 原因が判明したというのに、ミリアの状態異常を殺せないだと!?
 強すぎる想いとはなんだ?
 なぜ、魅惑状態が解除されることをミリアは拒んでいるんだ。
 ミリアはとろけた瞳で、俺に掴みかかってきた。

「だいすきだよセツカ。最初にであったときから、ずっとずっと好き。えへへ。言っちゃった。でも知ってるんだ、セツカはレーネちゃんのことが好き。あたしが選ばれないことは知ってる。だからね、あたしはセツカに選ばれなくてもいいの。だけどお願い……あたしを抱いて? 一度でいいから、あたしを必要として? 家族だって言って?」

「ミリア……」

「まぼろしを見ていれば、セツカがいつまでも目の前にいてくれるから。セツカも居なくなっちゃったら、あたしどうかしちゃう。おかしくなっちゃう。だから、あたしのこと……愛してよ!!」

「くっ」

 そこまで思いつめていたとは。
 そこまで俺を強く想ってくれていたとは。
 
 ●どうしますか? ミリアを『殺し』ますか?

 スキルは最悪の選択を提案してくる。
 そうだな。このまま俺がミリアを受け入れてしまったら、敵の思う壺ということ。
 ミリアの想いは強固で、簡単には突破できそうにない。
 スキルの案は戦略的には間違ってはいない。
 だが!

「たくさん尽くしてあげるからっ!!」

「ミリアっ!!」

「……えっ」

「悪いな。触らせてもらうぞ」

 俺は、裸のまま俺に向かって飛び込んできたミリアを、しっかりと抱き締めていた。
 聞き覚えのある女の声が頭に響く。

(いひひひっ・完全に思い通り。このまま押し倒すのですミリアさん。そして、セツカ様と一緒になってしまいなさいな)

 雑音が俺の中へと流れ込んできた。
 そういう事か。
 …………この、クソビッチアマがっ!!
 絶対に許さん。
 ミリアを抱き締めつつ、無表情のまま闘志を瞳に灯す。

 ●提案します。このままでは、アンリエッタによりセツカ本体が『惑わ』されます。ミリアを『殺す』ことを提案します。

「黙って見ていろスキル!」

 俺は声を荒らげ、ミリアを抱き締める力を強めた。
 ミリアはいやらしく微笑む。
 いや違う。その顔は笑ってない。彼女の笑顔はもっと違うんだ。

「セツカぁ……」
「ミリア。俺が知っている女の子はな、とても非常識なやつだったよ。初めて会うにも関わらず、肩をぶつけてきたかと思うといきなり自己紹介なんかをおっぱじめて。何が気に入らなかったのか暴れたあげくに、号泣して俺に謝罪して逃げ出したのが最初の出会いさ。はっきり言って嫌いだったよ。俺はうるさいやつが嫌いなんだ。でもな、彼女は何度も俺の元へと訪ねてきては、底抜けに明るい笑顔を見せてくれたんだ。俺はというと、同世代に嫌われていたからね。その女の子が最初の友達みたいなものさ。俺は彼女の笑った顔が好きだった。意地悪をするのはな……彼女とまともに会話をすると、照れるからだよ。認めたくねーよそんなの。辛いことばっかなのに、笑ってる女の子なんて反則だろ? マジで可愛いだろそれ? 自分の命が危ないのに、神域までついてきてくれるのなんてどんな女だよ……お前の気持ちにだって。俺だって、そこまで鈍感じゃない!!」
「あ……あっ……セツカ……あたし、セツカ……っ!!」
「泣くんじゃないミリア。笑え。俺の近くで笑っていろ。ずっとだ。永遠に笑っていろって言ってんだよ!!」
「うぅぅうっ。あぁっ……はい! わかった! ごめんなさい、あたし」
「一度しか言わないからよく聞け。お前がいないと困る。好きだから、しっかりしろ!!」

 ぱきん。
 ガラス玉にヒビが入るような音がした。

(くっ・ありえない。わたしのスキルを解除するなど不可能のはず)

「うっせえ。殺すぞ出歯亀?」

(ひぃっ!?)

「ミリアの中から消え失せろ」

 俺は一言。
 どこかで見ているだろうゴミ女に向けてそう呟くと、ミリアの顎を引き寄せた。

「…………んっ」
「ふぅ……っ!?」

 そのまま口づけを交わす。
 目を瞑り、されるがままになるミリア。もう、泣いてはいなかった。
 とろけるようなミリアとのキスは、ふんわりと甘い味だった。
 スキル発動だ。



 ●アンリエッタの『魅惑』を『殺し』ます……成功。ミリアは通常状態へと戻ります。 
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