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四章
クラスメイトたち
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「ワンマン=ミリタリー?」
「そう。セツカ様なら知ってると思うけど、元の世界で世間を騒がせていた日本国籍の傭兵がいたでしょ?」
「そういえばニュースになっていたな。紛争地帯に現れる日本人。たったひとりで戦争を終わらせるという話だったが……現実味のないフェイクニュースだろう?」
「ところが、その日本人は実在したらしいの」
「まさか?」
「たぶんだけど、神徒のサトウがその日本人かも。彼は異世界にも関わらず、武器として元の世界の銃器をつかうのよ」
「残酷な男」
「そして。すごく強い」
サエキ、オオバヤシ、ミワたちが城へとやってきた。
彼女たちは……すっかり妙齢の女性へと変貌を遂げていた。
昔はオタクっぽく、おどおどしていたように思えたのだが。
今の彼女たちはなんと、ビキニアーマーのような装備を装着して歩き回っている。
なんというか、過酷な環境に慣れてしまったって感じだ。
目のやり場に困るのでせめて上着ぐらいは着てほしいものだ。
三人は我先に言ってくる。
「待ってたよセツカ様!」
「私たちが異世界の裏文化は発展させておいたから」
「いろいろ大変だったよ~セツカ様がいないと張り合いがなくてさ~」
「いきなり消えて悪かったな」
「いいよ。クラスメイトだもん」
「でも、ハヤサカちゃんにはフォローしといたほうがいいかも」
「とにかくセツカ様が無事でよかったよ」
こいつらは20歳になり完全に異世界に順応しているな。
こんがりと肌を日焼けさせ、まるでアマゾネスのようなたくましさだ。
ナカジマといい、お前らといい。
「やっぱ筋肉だよね。男なんかイラネ」
「STR極振り。筋トレ筋トレ♪」
「女はパワーだ。陽キャには負けない」
やれやれだ。
こじらせてんなー、色々と。
ワンマン=ミリタリー。
有名な伝説だ。
戦争の天才、サトウ。
幼少の頃から紛争地帯を転々とするサトウは、単独で戦争を終結させるほどの戦闘能力をもつという話だ。
にわかには信じられない。
なぜなら、スキルや魔法のあるこの世界の話ではない。
元の世界では、人間一個の能力などたかが知れているからだ。
それでもサトウは戦争をひとりで終わらせた。
サトウは世界中の軍部より喉から手が出るほど欲しがられていた最強の兵士だ。
米国は彼のために一個師団分用の予算を用意して迎えたが、サトウはそれを丁重に断ったという。
戦場に死神のように現れては、圧倒的なまでの戦闘技術で敵を皆殺しにする。
敵よりも味方に恐れられる男。何故ならば、敵対した者はすべからく命を失うから敵が残らない。
彼の戦闘を表すのにTASという言葉が用いられることがある。
それはゲームのエミュレータを使用したタイムアタック……ツール・アシステッド・スピードランを言い示すのだが、簡単に噛み砕けば神がかったスピードのスーパープレイ。
彼の視界に入った兵士は、魔術で攻撃を受けているような感覚を味わうという。
例えば、それがたった一丁の拳銃によるものであるというのに。
裏付けとして、大陸の80%ほどが敵による支配を受けたのだが。
その戦果の80%をサトウが出したものであるというらしいのだ。
広大な土地と防衛線があったのだぞ?
どうやって単独でそこまで戦えたというのだ。
どれだけ強い存在でも、戦争は数だ。陣地を制圧するのには数が必要なはずなのだ。
天才……か。
たった一言で片付けるのは容易だが。
それをこれから相手にしなければいけない可能性が高いというのは、かなり気が重くなる。
「またくるねセツカ様」
「お元気で」
「私たち、ギルドによくいるから」
サエキたちは冒険者として活動していくらしい。
あの戦争の一件から、自分たちだけでこの世界でどれだけ通用するかやってみたいと思ったらしいのだ。
俺たちがアラガミと戦うときは駆けつけてくれるらしいので、頼りにさせてもらおうかと思う。
さて。
失った時を埋めるように、次々と人が入れ替わりでやって来る。
次は誰なんだ?
「お久しぶりです、セツカ様」
「サムズか? 変わってないな」
「セツカ様も。お変わりないようで嬉しく存じます。くくくっ。ほんものだ!!」
「気持ち悪いくらいの笑顔だな?」
「当たり前でしょう。あなたをどれだけ待ちわびたことか!」
サムズはというと全く変わっていなかった。
しいていえば、すこし太ったか?
顔色もつやつやしているようには思えるな。
「セツカ様にお伝えしたいことがありまして」
「なんだ?」
「ふふふ」
「だから、なんだ?」
「じつはですね」
「はやく言え」
「実は僕、結婚しまして」
「へえ、おめでとう。誰と?」
「セツカ様のクラスメイト様です」
「え!?」
まじで!?
それは気になる。
それは……そうか。確かに、みんな20歳だもん結婚だってできるよな。
いや、この国の法律だと王族なら何歳でも結婚はできるらしいが。
いや誰!? サムズのやつ誰と結婚したんだ?
「んふーっ。気になります?」
「気になる。教えろ」
「えーどうしよっかな」
「スキル!」
●サムズの心理障壁を『殺し』ます。
「セツカ様にお教えします。僕はミズハラ、コイケ、エンドウ様と結婚しました」
「ええ……まさかのトリプル婚かよ」
「あっセツカ様ひどい!! 僕にスキル使わないでくださいよ!! せっかくサプライズしようと思ったのに!」
「お前……よりにもよってあの三人組と?」
ミズハラ、コイケ、エンドウはイシイ組と呼ばれていたギャル三人組だ。
はっきり言って……いや、顔は人の好みだ。
しかし、俺のいない間になにがあったのだろう?
サムズとあの三人に接点なんてあったか?
全然ピンとこないな。
「セツカ様がいなくなってしまってから、仕方がないので僕は商売に専念しました。幸い、セツカ様が残して下さったアイデアはありましたので、最初は母と一緒にふたりでやっていましたが、販路が拡大すると人手が不足しまして」
「あの後もしっかり商売を続けていたんだな」
「はい。そして、そんな時に出会ったのが戦いを苦手としていたミズハラ、コイケ、エンドウ様たちでした。彼女たちのスキルは激しくなる戦闘についていけず、三人はとても落ち込んでいる様子でした」
「まあ、奴らのは可もなく不可もなくといったスキルだった」
「僕はそのころにはかなりのお金持ちだったので、一気に三人。ハウスメイド兼従業員として働いてもらうことにしたのです。ふふ、そうしたら、なんと三人とも僕のことを好きになってくれたんですよー」
「へぇ」
あれ?
好きになるプロセスが抜けている気がするが?
まあ、とにかく話を聞いていようか。
「いやーめちゃめちゃかわいいです。ミズハラさんも、コイケさんも、エンドウさんも。ほんとうに僕は幸せものだなぁ」
「なーんか、怪しくないか?」
「いえ? 三人とも、毎日おいしいご飯と宝石をあげるだけですっかり僕にメロメロなんですよー。ほんとにいい子たちです」
「なるほどな」
サムズのやつ……すっかり骨抜きにされおって。
おいミズハラ、コイケ、エンドウ。
お前らたくましいな。
まあ、サムズが本気で三人に惚れていて幸せそうなのであえて俺からは何も言うことはないな。
お幸せに、ということだ。
「子供も生まれるので、セツカ様が最初に抱いてくださいね」
「ゴホッオホッ……子供!?」
「はいっ。三人とも妊娠しまして、もうすぐ産まれます」
「ま、まじですか。おめでとう」
「まじです! ありがとうございます!」
すんごい嬉しそうな笑顔で、るんるんのままサムズは帰っていった。
なんか色々と合点がいった。
サムズの母親ならイシイ組との結婚に反対しそうなものだけど、あの三人は無駄にバイタリティが高いからなぁ。
早めに息子の子供を産んでくれるとわかって、サムズの母は喜んで受け入れたのかも。
ていうか普通に三重婚だし、三人とも妊娠ってどんだけ……俺たちまだ高校生……あ、これはもう違うか。
すごいな。こっちの世界で、新しい命が生まれるのか。
はっきりいって、あんまり現実感が湧いてこない。
でも彼ら彼女らはこの世界で子供を育てる決意をしたんだ。
最後にやってきたのは、男と女だった。
一人は見覚えあるのだが。
クラスメイトのキシ。いつもアマネと二人でいる、オカマっぽい奴らの男っぽい方だ。
「お久しぶりだねセッちゃん~!! 元気にしてた? 俺たちは元気だよ。獣人の子たちと一緒に商売も細々だけど続けてる。神徒なんてのが出てきたから、どっちかというとみんなで農園を経営してる感じになってるけど」
「久しぶりだな、そうなのか。キシ、背が伸びたか?」
「そうなんだ。あの歳からさらに伸びるとは思ってなかったけどね」
「アマネは?」
ていうか、キシが可愛らしい女と一緒にいる。
こんな所をアマネに見られたら完全に終了案件だと思うのだが。
女はぽってりとした唇を動かした。
「わたしだよ、セッちゃん」
「…………はい!?」
「びっくりした? わたし、アマネだよ」
「いや。お前はアマネではない。何故なら、アマネは男だ」
「女になったの」
「いや、男は女にはなれない」
「伝説のレアアイテムで、わたし女になったのセッちゃん。元には戻れないけど、後悔はしてないわ」
「まじですか」
アマネはこの4年のうちに見つけた異世界のアイテムで性別を変えていた。
色々な葛藤があったのだろうと思う。
それでも、彼らの選択は。
「セッちゃんがいたから。わたし、勇気を出せたんだよ?」
「俺? どうして?」
「だって。セッちゃんがいなかったら、私たち遺跡ダンジョンで死んでたし。クラスメイトたちみんな、多かれ少なかれあなたの影響を受けているの。一歩踏み出せたのは、セッちゃんのおかげ」
「ありがとうな。俺も悩んだけど、アマネがなりたいなら……って」
二人は手を繋ぎ、幸せそうに微笑んだ。
「本当にありがとうセッちゃん」
「もうこの気持ちを伝えられないんじゃないかと思って。ひやひやしてた。なんでも協力するから、いつでも頼ってね」
「ああ。わかった。そのときは頼む」
キシとアマネは手を繋ぎながらこの場を後にした。
何故かはわからんが、俺に伝えたかったらしい。それが何よりも重要なことだと考えていたそうだ。
時が進むのは必ずしも残酷なことばかりではない。
クラスメイトたちは希望を胸にこの世界で努力していたんだな。
そのことが判明しただけでも、俺の気持ちは胸がすくようにすっとしたのだった。
「そう。セツカ様なら知ってると思うけど、元の世界で世間を騒がせていた日本国籍の傭兵がいたでしょ?」
「そういえばニュースになっていたな。紛争地帯に現れる日本人。たったひとりで戦争を終わらせるという話だったが……現実味のないフェイクニュースだろう?」
「ところが、その日本人は実在したらしいの」
「まさか?」
「たぶんだけど、神徒のサトウがその日本人かも。彼は異世界にも関わらず、武器として元の世界の銃器をつかうのよ」
「残酷な男」
「そして。すごく強い」
サエキ、オオバヤシ、ミワたちが城へとやってきた。
彼女たちは……すっかり妙齢の女性へと変貌を遂げていた。
昔はオタクっぽく、おどおどしていたように思えたのだが。
今の彼女たちはなんと、ビキニアーマーのような装備を装着して歩き回っている。
なんというか、過酷な環境に慣れてしまったって感じだ。
目のやり場に困るのでせめて上着ぐらいは着てほしいものだ。
三人は我先に言ってくる。
「待ってたよセツカ様!」
「私たちが異世界の裏文化は発展させておいたから」
「いろいろ大変だったよ~セツカ様がいないと張り合いがなくてさ~」
「いきなり消えて悪かったな」
「いいよ。クラスメイトだもん」
「でも、ハヤサカちゃんにはフォローしといたほうがいいかも」
「とにかくセツカ様が無事でよかったよ」
こいつらは20歳になり完全に異世界に順応しているな。
こんがりと肌を日焼けさせ、まるでアマゾネスのようなたくましさだ。
ナカジマといい、お前らといい。
「やっぱ筋肉だよね。男なんかイラネ」
「STR極振り。筋トレ筋トレ♪」
「女はパワーだ。陽キャには負けない」
やれやれだ。
こじらせてんなー、色々と。
ワンマン=ミリタリー。
有名な伝説だ。
戦争の天才、サトウ。
幼少の頃から紛争地帯を転々とするサトウは、単独で戦争を終結させるほどの戦闘能力をもつという話だ。
にわかには信じられない。
なぜなら、スキルや魔法のあるこの世界の話ではない。
元の世界では、人間一個の能力などたかが知れているからだ。
それでもサトウは戦争をひとりで終わらせた。
サトウは世界中の軍部より喉から手が出るほど欲しがられていた最強の兵士だ。
米国は彼のために一個師団分用の予算を用意して迎えたが、サトウはそれを丁重に断ったという。
戦場に死神のように現れては、圧倒的なまでの戦闘技術で敵を皆殺しにする。
敵よりも味方に恐れられる男。何故ならば、敵対した者はすべからく命を失うから敵が残らない。
彼の戦闘を表すのにTASという言葉が用いられることがある。
それはゲームのエミュレータを使用したタイムアタック……ツール・アシステッド・スピードランを言い示すのだが、簡単に噛み砕けば神がかったスピードのスーパープレイ。
彼の視界に入った兵士は、魔術で攻撃を受けているような感覚を味わうという。
例えば、それがたった一丁の拳銃によるものであるというのに。
裏付けとして、大陸の80%ほどが敵による支配を受けたのだが。
その戦果の80%をサトウが出したものであるというらしいのだ。
広大な土地と防衛線があったのだぞ?
どうやって単独でそこまで戦えたというのだ。
どれだけ強い存在でも、戦争は数だ。陣地を制圧するのには数が必要なはずなのだ。
天才……か。
たった一言で片付けるのは容易だが。
それをこれから相手にしなければいけない可能性が高いというのは、かなり気が重くなる。
「またくるねセツカ様」
「お元気で」
「私たち、ギルドによくいるから」
サエキたちは冒険者として活動していくらしい。
あの戦争の一件から、自分たちだけでこの世界でどれだけ通用するかやってみたいと思ったらしいのだ。
俺たちがアラガミと戦うときは駆けつけてくれるらしいので、頼りにさせてもらおうかと思う。
さて。
失った時を埋めるように、次々と人が入れ替わりでやって来る。
次は誰なんだ?
「お久しぶりです、セツカ様」
「サムズか? 変わってないな」
「セツカ様も。お変わりないようで嬉しく存じます。くくくっ。ほんものだ!!」
「気持ち悪いくらいの笑顔だな?」
「当たり前でしょう。あなたをどれだけ待ちわびたことか!」
サムズはというと全く変わっていなかった。
しいていえば、すこし太ったか?
顔色もつやつやしているようには思えるな。
「セツカ様にお伝えしたいことがありまして」
「なんだ?」
「ふふふ」
「だから、なんだ?」
「じつはですね」
「はやく言え」
「実は僕、結婚しまして」
「へえ、おめでとう。誰と?」
「セツカ様のクラスメイト様です」
「え!?」
まじで!?
それは気になる。
それは……そうか。確かに、みんな20歳だもん結婚だってできるよな。
いや、この国の法律だと王族なら何歳でも結婚はできるらしいが。
いや誰!? サムズのやつ誰と結婚したんだ?
「んふーっ。気になります?」
「気になる。教えろ」
「えーどうしよっかな」
「スキル!」
●サムズの心理障壁を『殺し』ます。
「セツカ様にお教えします。僕はミズハラ、コイケ、エンドウ様と結婚しました」
「ええ……まさかのトリプル婚かよ」
「あっセツカ様ひどい!! 僕にスキル使わないでくださいよ!! せっかくサプライズしようと思ったのに!」
「お前……よりにもよってあの三人組と?」
ミズハラ、コイケ、エンドウはイシイ組と呼ばれていたギャル三人組だ。
はっきり言って……いや、顔は人の好みだ。
しかし、俺のいない間になにがあったのだろう?
サムズとあの三人に接点なんてあったか?
全然ピンとこないな。
「セツカ様がいなくなってしまってから、仕方がないので僕は商売に専念しました。幸い、セツカ様が残して下さったアイデアはありましたので、最初は母と一緒にふたりでやっていましたが、販路が拡大すると人手が不足しまして」
「あの後もしっかり商売を続けていたんだな」
「はい。そして、そんな時に出会ったのが戦いを苦手としていたミズハラ、コイケ、エンドウ様たちでした。彼女たちのスキルは激しくなる戦闘についていけず、三人はとても落ち込んでいる様子でした」
「まあ、奴らのは可もなく不可もなくといったスキルだった」
「僕はそのころにはかなりのお金持ちだったので、一気に三人。ハウスメイド兼従業員として働いてもらうことにしたのです。ふふ、そうしたら、なんと三人とも僕のことを好きになってくれたんですよー」
「へぇ」
あれ?
好きになるプロセスが抜けている気がするが?
まあ、とにかく話を聞いていようか。
「いやーめちゃめちゃかわいいです。ミズハラさんも、コイケさんも、エンドウさんも。ほんとうに僕は幸せものだなぁ」
「なーんか、怪しくないか?」
「いえ? 三人とも、毎日おいしいご飯と宝石をあげるだけですっかり僕にメロメロなんですよー。ほんとにいい子たちです」
「なるほどな」
サムズのやつ……すっかり骨抜きにされおって。
おいミズハラ、コイケ、エンドウ。
お前らたくましいな。
まあ、サムズが本気で三人に惚れていて幸せそうなのであえて俺からは何も言うことはないな。
お幸せに、ということだ。
「子供も生まれるので、セツカ様が最初に抱いてくださいね」
「ゴホッオホッ……子供!?」
「はいっ。三人とも妊娠しまして、もうすぐ産まれます」
「ま、まじですか。おめでとう」
「まじです! ありがとうございます!」
すんごい嬉しそうな笑顔で、るんるんのままサムズは帰っていった。
なんか色々と合点がいった。
サムズの母親ならイシイ組との結婚に反対しそうなものだけど、あの三人は無駄にバイタリティが高いからなぁ。
早めに息子の子供を産んでくれるとわかって、サムズの母は喜んで受け入れたのかも。
ていうか普通に三重婚だし、三人とも妊娠ってどんだけ……俺たちまだ高校生……あ、これはもう違うか。
すごいな。こっちの世界で、新しい命が生まれるのか。
はっきりいって、あんまり現実感が湧いてこない。
でも彼ら彼女らはこの世界で子供を育てる決意をしたんだ。
最後にやってきたのは、男と女だった。
一人は見覚えあるのだが。
クラスメイトのキシ。いつもアマネと二人でいる、オカマっぽい奴らの男っぽい方だ。
「お久しぶりだねセッちゃん~!! 元気にしてた? 俺たちは元気だよ。獣人の子たちと一緒に商売も細々だけど続けてる。神徒なんてのが出てきたから、どっちかというとみんなで農園を経営してる感じになってるけど」
「久しぶりだな、そうなのか。キシ、背が伸びたか?」
「そうなんだ。あの歳からさらに伸びるとは思ってなかったけどね」
「アマネは?」
ていうか、キシが可愛らしい女と一緒にいる。
こんな所をアマネに見られたら完全に終了案件だと思うのだが。
女はぽってりとした唇を動かした。
「わたしだよ、セッちゃん」
「…………はい!?」
「びっくりした? わたし、アマネだよ」
「いや。お前はアマネではない。何故なら、アマネは男だ」
「女になったの」
「いや、男は女にはなれない」
「伝説のレアアイテムで、わたし女になったのセッちゃん。元には戻れないけど、後悔はしてないわ」
「まじですか」
アマネはこの4年のうちに見つけた異世界のアイテムで性別を変えていた。
色々な葛藤があったのだろうと思う。
それでも、彼らの選択は。
「セッちゃんがいたから。わたし、勇気を出せたんだよ?」
「俺? どうして?」
「だって。セッちゃんがいなかったら、私たち遺跡ダンジョンで死んでたし。クラスメイトたちみんな、多かれ少なかれあなたの影響を受けているの。一歩踏み出せたのは、セッちゃんのおかげ」
「ありがとうな。俺も悩んだけど、アマネがなりたいなら……って」
二人は手を繋ぎ、幸せそうに微笑んだ。
「本当にありがとうセッちゃん」
「もうこの気持ちを伝えられないんじゃないかと思って。ひやひやしてた。なんでも協力するから、いつでも頼ってね」
「ああ。わかった。そのときは頼む」
キシとアマネは手を繋ぎながらこの場を後にした。
何故かはわからんが、俺に伝えたかったらしい。それが何よりも重要なことだと考えていたそうだ。
時が進むのは必ずしも残酷なことばかりではない。
クラスメイトたちは希望を胸にこの世界で努力していたんだな。
そのことが判明しただけでも、俺の気持ちは胸がすくようにすっとしたのだった。
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