『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行

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四章

三人の神徒

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 その場所はまさに世界のなれの果てと表現するのがふさわしい風景であった。
 破壊の限りを尽くされた都市は瓦礫に埋もれ、辺りには人骨が散乱している。
 すこしばかり開けた場所があり、そこには男性が一人、瓦礫の山に腰かけている。
 短い黒髪。サングラスで視線を隠し、ミリタリーズボンとベスト、インナーにはカーキ色のタンクトップというまるで軍人のような格好だ。
 男の胸元には、何に使うのか何種類もの大量の鍵束がくくられ吊るされている。



 カチン。

 シュボッ。




「すぅ…………はぁーっ」

 男はこの世界にあるはずのない道具、オイルライターを使用し。
 この世界にあるはずのない嗜好品、紙巻きタバコを口にくわえ、大きく息を吐く。
 男が吐いた紫煙はゆっくりと空へとたちのぼり消える。

 違和感を感じるものはまだある。
 男の隣に鎮座しているのは、鋼鉄の塊だ。
 高さ二メートルほどもある、観音開き。鎖でぐるぐる巻きにされたそれは、この世界にはない概念。

 拷問器具『鉄の処女』だ。

 中世の拷問器具で、扉を開いた内部には鋭い棘が設置してあり。
 中に閉じ込めた罪人を拷問するための棺なのだが、どうしてここにあるのか。
 どうやってこんなに重いものをここに運んだのか。
 何のためにここに持ってきたのか。

 男の他に、理由を知るものはいないだろう。

「おまたせ・しました」


 パァン!!


 乾いた破裂音。
 その音は、男の右手から発せられたものだ。
 軍人のような格好をした男の手に握られているのは41口径デリンジャー。要人の暗殺などに使われる、小型で速射性の高い拳銃だ。

「ちょっと・わたしです。撃たないでくださいな。そのケンジュウとやらは音が大きくて嫌いです」

「すぅ……はぁーっ。気配を消して近づくからだ。時間にも遅れている」

「ごめんなさい。サトウ様は用心深い・ですからね。ちょっとためしてみたのです」

「…………次は殺す」

 サトウと呼ばれた男が弾丸をはなった相手は、アンリエッタ。
 完璧な軌道で、アンリエッタの眉間に直撃するコースであった。
 しかし弾丸は当たらなかった。
 彼女はケロリとした態度で、メカニカル=シールを引きずって近づいてくる。

「こわい・です。ねえメカニカル=シール?」

「ボクは……どうして。ボクは、ボクのほうが……」

「はぁ。この通り、この子はこんな感じなので。アラガミ様のいう通り、レーネを殺すには・まだ早すぎたのかもしれませんね」

「失敗か」

「もうすこしでした。よくやったほうではあるんですが……置き土産もできましたし、結果としては上々・ですね」

「………すぅ……はぁーっ。そうか」

 サトウは深く煙を吐いた。
 アンリエッタは顔をしかめる。

「ごほ・ごほ。ちょっとどうにかならないんですか、それ? 煙たくて、わたしにはちっとも良さがわからないです」

「悪いな」

「本当に・悪いと思っています?」

「……すぅ……はぁっ。ああ」

「ごほごほ・もう!! アラガミ様も、こんなの体に良くないと思いますよね?」

 アンリエッタが話かけたのは、『鉄の処女』に対してだ。
 すると、鉄の処女に刻まれた彫刻の少女の瞳の部分から、ドロリと血液のような真っ赤な液体が流れ落ちてきたではないか。

「…………アラガミ様が・悲しまれている」
「ごめんなさいアラガミ様、ボクがしっかりできなかったから!!」
「すぅ…………はぁっ。ちっ」

 鉄の処女は泣いているかのように血液を流し。
 さらに隙間からは滝のように血を溢れさせる。
 まるであまりの出来事に耐えきれないといったようすで、怒りに震えるかのように重い鉄棺を震えさせ。
 アラガミ様と三人が崇める『鉄の処女』は空中へと浮かび上がった。

 フッ。

 次の瞬間には、その姿は消滅していた。
 まるで最初からそこにはなにもなかったかのように。

「とうとうお動きになられる・ということで間違いないでしょうかね。お待ちかねの人間皆殺しタイムです。わたしは待ちくたびれてしまいましたよ……この白いドレスを、嘘つき人間どもで真っ赤に染める快楽のときをね!!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……ボクは、ボクは」
「動いていいんだな? 俺は勝手にやらせてもらう。約束さえ果たしてくれるならなんでもいいんでな」

 アンリエッタは顔を歪ませ笑顔をつくり。
 メカニカル=シールはセツカにもぎ取られた腕を抱えうずくまる。
 サトウはタバコを足で踏み消すと、そのままどこかへと歩き去ってしまった。

 アンリエッタはうずくまって動かないメカニカル=シールに声をかける。

「……腕を直して・おきなさいな。あなたのスキルならば、簡単にできることでしょう?」

「アンリエッタ。ボクはどうして、98%『だけ』機械だったのだろう? あのペニーワイズだって人間のように死んだし、不死の魔王はまるで人間のような振るまいをしている。でもボクは……あきらかに人間じゃないのに、どうして。アラガミ様にお選び頂けたのだろう?」

「そんなことを・考えてはいけません。すべてはアラガミ様の思うままでしょう、メカニカル=シール。あなたは選ばれた。力がある。人間が憎い。それでいいでしょう?」

「それもそうだね、アンリエッタ。ボクは人間が憎い。ボクは選ばれしものだ」

「はい・よくできました」

 アンリエッタが去る。
 自らの右腕を、無事だった左腕で持ち上げたメカニカル=シールは。

「怪我をするって、こんな感じなのか? ボクにはわからない感情だ」

 『回す』スキルを使って、絶ち切られた部分の接合を始める。
 全くの元通りにも戻せるのだが……。
 何を思ったのか、メカニカル=シールはセツカに曲げられたフレームの一部を修復せずに残しておくのであった。

「ふふ……ボクも怪我をしたみたいだ」
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