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四章

三人のこれまで

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 王城へと戻ってきた。
 色々と変わってしまったことも多いだろう。スレイの説明も途中だったし、まずは情報の収集から始めよう。
 城の広間へと戻ると、心配そうにスレイたちが待ち構えていた。
 スレイは俺の顔を見ると顔を綻ばせる。

「大丈夫でしたか? レーネに会えたのですね」

「ああ。敵の襲撃があったが、なんとか守りきれた」

「よかったですねレーネ! まさか神徒が出てくるとは……セツカ様だったからなんとかなりましたが。それはそうと、なんだかセツカ様のお顔が赤くないですか?」

「気のせいだ」

「?」

 さっきレーネと大人のキスをしたからだよ!
 とは恥ずかしくて言えなかった。
 スレイは首をかしげ、俺の隣にいるレーネは顔を真っ赤にしてうつむく。
 あんなことがあったなんてまだ信じられない。
 俺の中にはレーネのつたない感触がはっきりと残っている。

 いかん。
 こんなことを考えていては。
 俺は静かに暮らしたいのだ。
 そのためには、この世界は騒がしすぎる。
 たいして多くもない、自分の近くにいる大事な仲間を守る。そのくらい『殺す』スキルなら簡単だ。
 俺は心の動揺を『殺し』、やらなければいけないことに目を向ける。

「まずは皆の状況が知りたい。俺がいない間、どのようなことがあった? 改めて説明をしてくれないか?」

「喜んでご説明します。まずはレーネからどうぞ」

 レーネは気を取り直したように俺へと向き直る。

「はい。わたしはごしゅじんさまがきえてしまってから、ずっとハウフルさまについて修行をつづけていました。あのときミリアさんがうごけてわたしがうごけなかったのが……とてもくやしかったから」

「俺がレーネを守るつもりで突き飛ばしたんだ。気にしなくていい」

「いえ。わたしはもうごしゅじんさまをとられたくない……」

 そこまで口にして、レーネははっと口を押さえる。

「あ、あの、ごしゅじんさまを守りたくて」

「そうか」

 レーネがそう言ってくれるのは嬉しいけど。
 守るのは俺のほうだ。
 しかし彼女の強くなりたいという気持ちは本物で、戦いにしか興味が無さそうなハウフルを動かしたのもその気持ちが強大だったからだろう。
 レーネは修行によって強くなった。俺の加護がない状態でもかなり戦える部類になるだろう。
 もし望むならば。あとはこれから、俺のスキルによっていくらかの調整をすれば彼女はもっと強くなる。
 レーネはすごいな。並の努力では到達できない領域まで、自分の力で到達したのだ。
 想いの力でここまで努力できるのはすごいことだと思うぞ?

「ありがとうレーネ」

「……いいえ。ごしゅじんさまこそ」

「身体は大丈夫か?」

「は、はい」

「よくがんばったな」

「あ……ぅ」

 なんか……意識してしまう。
 なんだこの距離感は!?
 頭を撫でてやりたい気持ちもあるが、今それをしたらさっきのを思いだして顔が赤くなってしまいそうなのでやめておいた。
 レーネのほうも、頭を差し出そうとしつつも頬を染めてやめてしまった。
 俺たちは、いったいどうなってしまったんだ?

「怪しい」
「あやしぃですぅ」

 スレイとフローラは鬼のように鋭い視線をこちらに向けている。
 濡れ衣……ではないな。
 視線にいたたまれなくなった俺は、さっさと話を進めてもらうことにする。

「それで、スレイは?」

「はい。私は国王代理のセツカ様、立場上王女だったミリア様がいなくなってしまったので、臨時の『聖女』として国政にたずさわっていました」

「すごいじゃないか。スレイの歳で国政を?」

「いえ。セツカ様のクラスメイト様に支えられてここまでやってこれました。オニズカ様とサカモト様を筆頭に、この国の大臣として働いてくださる方の助けで私はここに立っています」

 なるほどな。
 幼かったスレイだが、権力的な順番からすれば聖女の子孫である彼女も国の施政にたずさわる身としてはおかしくない。
 元々は他国の王族ではあるが……複雑な事情だ。
 貴族たちは腐りきっていたし、変なやつらに任せるより全然良い選択だ。
 しかしスレイはイシュタル……アリエルに滅ぼされた自国の問題を悩んでいるようで。

「国を失い苦しんでいたイシュタルの民もオリエンテールに招き入れました。復興は……どうなんでしょう。自分の生い立ちを知り、どうすべきか悩んでもいます」

「オリエンテールとイシュタルの連合国という形はどうだ? 滅ぼされた側としては納得できないかもしれないが」

 俺の提案に、スレイは目を輝かせる。

「やはりセツカ様のお考えは深い。セツカ様のご提案の通りにすれば民のことを第一に考えられます。しかし私は結局、憎いはずのオリエンテールで一時的とはいえ最高権力者をやっているのですから。因果なものですね」

「よくがんばったな。ひとりで大変だっただろう?」

「あぁっ……すみません、涙がっ。スレイはセツカ様のそのお言葉をいただけるだけで、どんな苦難にも耐えてみせます。なんでもお任せください」

「これからも頼む。だが、俺がいるから一人で背負う必要はない」

「セツカ様がお喜びになるなら、スレイはどんなに重い運命だろうと背負う覚悟があります」

「あ、ああ」

 スレイ、顔を近づけてきてぐいぐい迫ってくるな。
 まあ彼女も並ではない努力を重ねてきたみたいだ。なにせ国の政治を細腕にまかされたのだ。
 クラスメイトの補佐があるとはいえ……最終的な決定はすべてスレイが行ってきたのだろう。
 その重荷は一度でもやったことがある者にしかわからないものだ。

「ふーちゃんはセツカちゃんをずーっと探してましたぁ」

 フローラは待ちきれないような、弾んだ声で報告する。

「セツカちゃんが消えてしまってから、みんなで探しました。でもぜんぜん手がかりがないし、まるで世界からセツカちゃんの痕跡がすべて消えてしまったみたいでしたぁ。アラガミの攻撃で死んだのなら何かしらの手がかりは残るはず。でも何もないならきっとセツカちゃんは自分で自分を『殺し』たんだ。そんな仮説からふーちゃんたちは始めたのです」

「なるほどな。俺の『殺す』スキルにより、アラガミからの攻撃を回避するために神域に飛ばされたんだが……こっちでは手がかりすらなかったのだな?」

 悪いことをしたな。
 彼女たちにとって俺はいきなり消えてしまったことになる。

「ええ。だから、ふーちゃん、ナカジマさん、ハヤサカさんサムズさん以下数十名の捜索隊でセツカちゃんを探していました。世界のあらゆる場所を探索するうちに、捜索隊内で結婚するものや子供ができるものもでて、ナカジマさんは筋肉の化け物と化し。ハヤサカさんはぼっちを加速させて。神徒の部下との戦闘などをこなしつつ各地を探し、最終的に最後の頼みの綱として神域の伝説にたどり着きました。神域の入り口までに一緒にこれる戦闘力だったのが、鍛え上げた筋肉をもつナカジマさんとぼっちを加速させたハヤサカさんだったのですが……残念ながらハヤサカさんは間のわるいことに前日に食べたもちもち兎が生焼けだったらしくお腹を壊して療養中なのですぅ」

「待って。フローラのところだけ情報量多すぎて整理できない。とにかく、みんなで俺を探してくれたと?」

「そうですぅ。そしたらハヤサカさんがピーピーになったのですぅ。セツカちゃんに会うことを楽しみにしていたのでかわいそうですぅ」
 
「ハヤサカの件、重要か? まあ……探してくれてありがとうな」

 もちもち兎で腹壊すとか、かわいそうではあるが……。
 色々気になるポイントを逃した気がする。
 しかしフローラも俺を探す過程でかなりの修羅場を潜っているみたいだな。
 堂々とした態度からは、成長率の高さを感じる。
 しかも胸もさらに大きく育っているのが恐ろしい。
 ていうか、ピンポイントで俺が出てくるところを当てるとかすごすぎる。
 もしかしてもうすこし俺が神域に閉じ込められていたら、この子が出してくれたかもしれないな。

「いいえー。ふーちゃんにはセツカちゃんのことがわかるんです!! 力が足りなくてもっともっと時間が掛かっちゃう予定でしたが……セツカちゃんが出てきたので万々歳ですぅ。あいたかったです!!」

 小躍りするように跳び跳ねたフローラは、そのまま俺の胸に飛び込んでくる。
 むにゅと押し潰されるやわらかな感覚を感じながら、何故か俺はレーネの顔色を気にしていたりするのだった。
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