『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行

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四章

死の運命を×そう!

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 ゆらりと不気味な影が二人の少女に迫っていた。
 メカニカル=シールはゆっくり歩きながらぶつぶつと呟く。

「ああ逃げた。追うのめんどう。レーネというのは君だね? ボクのために自殺してよ?」

 ふたたび魔王領土辺境。
 どうやら奴はレーネを目的として追ってくるらしいが。
 二人は岩場を駆け抜け、殺風景な森の中へと入る。
 レーネはアリエルに手を取られ走りつつも、後ろを振り返る。
 これまでのように、オリエンテールを害する者は排除しないと……。
 レーネは声をやや荒らげる。

「はなしてください! あんなやつ……ごしゅじんさまがいないんだから、わたしが倒さないと」

「無理ですよ、常識的に考えてください。メカニカル=シールはアラガミの直属の部下のような立ち位置です。世界の何よりも強力な厄災と伝わるアラガミの配下ですよ?」

「だからといって、しっぽをまいてにげるなんてっ!!」

「冗談はお尻にはえた可愛らしい尻尾だけにしてくださいよ。私とレーネさんが束になっても敵わない。だったら、私のすることはひとつです」

「すること?」

「はい。時間稼ぎです」

 アリエルは微笑する。
 まるで、このあとの展開を彼女は知っているかのように。
 追跡者はどんどん接近してくる。

「……悲しいなぁ。そんなに逃げるんだ。別にいいけど。ボクはちょっと傷つくなあ」

 メカニカル=シール。
 白黒のローブを身に付けた、手足が異様に細長い襲撃者。
 彼、もしくは彼女は中性的な顔立ちを一切動かすことなく、アシンメトリーな前髪をいじりながら追ってくる。
 普通の人間が走るような体勢ではなく、まるでゆっくり歩いているかのような動きでレーネとアリエルに迫ってくるのだ。
 それでいて、どんどんと距離は詰めてくる。
 98%
 じつに体のほとんどが機械で構成されているメカニカル=シールは、ヒトの枠にとらわれない動きを可能にしている。
 歩いているように見えて、メカニカル=シールの足はものすごい速度で回転しているのだ。
 アリエルはやや顔を歪め微笑んだ。

「早いですね……離れるどころか近づいてきています。これでも世界でトップレベルの速度付与魔法を私とレーネさんにかけているのですけど、自信なくします」

「たたかいましょう。このままではにげきれません」

 レーネの瞳には闘志がみなぎっている。
 それはたしかな勇気によるもの。だが、相手が悪い。

「やれやれですね。レーネさんがその気ならつきあいますが、私はおすすめしません」

 そう言いつつもアリエルは決心を固める。
 彼女はいきなり追いすがるメカニカル=シールに対し振り向くと、両手を突き出した。

「真空命題(アストラタクト)・虚空(ノーバディ)付与魔法として絶対零度(アブソリュート)」

 アリエルの両手から、風と氷の最強魔法が繰り出される。
 真空命題・虚空+絶対零度。
 混合された威力は、爆発的な破壊力をともない、周囲の木々をなぎ倒す。
 広範囲の風魔法を強引に凍らせて破壊の砲撃と化したのだ。

 ギュォッ。

 バガァンッ!!!

 メカニカル=シールは砲撃によって吹き飛ばされた。
 元聖女の本気を目の当たりにしたレーネは唾をのむ。
 飄々としているこの女(アリエル)、かなりの戦闘力を隠しているみたいだ。
 レーネとアリエルの背後は砂塵が舞い、地面がえぐれ、生き残る者はいないように思えた。
 が、ゆらりと砂煙の中から人影がやってくる。

「…………ひどいなあ。どうしていきなり攻撃するんだろう。きっとボクを嫌いなんだ」

「あれで無傷とか。物語の主人公ですか?」

 アリエルは苦い顔で尋ねた。
 メカニカル=シールはアリエルを無視し、レーネを不気味にじっとみつめている。

「でも、ボクは人間が大嫌いだから、おあいこだね」

「お話が通じるタイプではなさそうですね」

 アリエルは再び両手を突きだす。

「再発動(リ・ロード)」

 全く同じ威力の魔法の短縮発動。
 アリエルによってしかなし得ない魔法の深淵。あのひとに愛された才能のあかし。
 爆発的な破壊が直接メカニカル=シールにぶつけられ、周囲ごと吹き飛んだかに思えた。
 が、アリエルの表情は固い。

「この距離でも無傷ですか……」

「そんなにボクが嫌いかい?」

「ならば。爆発魔法で体内から吹き飛ばしましょうか。流石に中は精密機器だと私は思うのです。『座標指定炸裂魔法詠唱』……」

 アリエルは敵を体内から爆破するために詠唱を始める。
 これならば、どれだけ相手が頑丈だろうが関係ない。
 内側から燃やし尽くせばさすがに倒せるだろうと考えたのだ。
 すると、メカニカル=シールは不気味に嗤い口許を動かした。




「『回れ』」




 巨大な炸裂。
 しかしそれはメカニカル=シールの体内からではなく、アリエルの至近距離で起きたものであった。

 魔法の反射なのか。
 もしくは発動そのものを狂わせたのだろうか?
 

 なんらかの力で、アリエルは自らの魔法を受けてしまったのだ。
 吹き飛ばされた彼女は血だらけになって倒れこむ。

「かはっ……」

「大丈夫ですか!?」

「レーネさん……しくりました」

 アリエルは動けない。
 守られたレーネは動揺を隠せなかった。
 悪人の代表のような女が、どうして自分を助けるのだろうか?

「どうして、どうしてわたしを守るのですか!?」

「セツカ様なら。あなたたちなら、私に出来なかったことをやすやすとやってのける可能性があるでしょう?」

「え……?」

「いえ、こちらの話なのですよ……ううっ。私は動けません。先に逃げてください。私のことは気にしないで」

 倒れたアリエルはレーネを先に逃げるように促す。
 この状況で置いていったら、アリエルは確実に始末されてしまうだろう。
 答えなど最初から決まっていた。
 レーネは一瞬の迷いもなく答える。

「いっしょににげましょう」

「はは……あまいですよ、レーネさん。私はあなたたちを苦しめた聖女アリエルなんですよ?」

「はい。誰だろうと助けてくれたひとをおいていくレーネを、ごしゅじんさまが好きになるはずがない」

「……あなたたちの、そういうところが嫌いでした。でも、私ももう少し……がんばってみましょうかね」

 アリエルは力をふりしぼりレーネに対し付与魔法を重ねがけする。
 レーネの能力がさらに向上し、戦闘能力は最大限に発揮される。
 メカニカル=シールは不気味にレーネを見つめたまま言った。

「いやだなあ。これじゃあ、まるでボクが悪者みたいじゃないか」

「まけないっ!!」

 レーネは飛び出し、研ぎ澄ませた爪の一撃をメカニカル=シールの首筋へめがけはなった。
 さらに強化された身体能力と、極限まで鍛えられた格闘術。
 レーネはセツカと離れていた間、一切の妥協をしなかった。
 例えば一年が365日あるとするならば、レーネはそのすべての日と時間を彼との再開に向けた己を高める準備期間にあてた。
 こんな相手に負けるはずがないんだ。そう信じて……。
 
「ボクを嫌うやつなんて、『回って』しまえばいい」

「なっ!?」

 レーネはいつのまにか、アリエルの倒れた姿を見ていた。
 それは、無防備に敵に背後を向けているということ。
 どうやって、なぜ?
 いつのまに?
 触れられてすらいないのに、なぜ向きが変わったの?
 レーネは急いで背後のメカニカル=シールへと向き直ろうとする。
 しかし間に合わない。
 メカニカル=シールの右手は、手首から先が超高速で回転している。


 ギュルルルルルルルルルルルルルルッ!!


「回転回転。超速回転ドリルで、死んじゃえよ」

「っ…………!?」


 レーネは目をつむった。
 あれだけ我慢しようと覚悟を決めたのに。
 ぜったいにごしゅじんさまが帰るまで負けないと決めたのに。
 決して怖がらないと決心したのに。
 弱音ははかないと決意したのに。

(こわい……ごしゅじんさま……っ)



 背中をえぐるドリルは…………。



 いつまでたっても感触がやってこなかった。



 レーネはゆっくりと目をあける。
 すると、メカニカル=シールは不機嫌な顔である人物を睨んでいた。

「誰だいキミは? ボクの回転ドリルを止めたね?」

「……間に合ったか」





 その人物は、メカニカル=シールの右腕をレーネの背中に到達する寸前で何の抵抗もなく抑えてみせた。
 レーネはその人物を知っている。
 誰よりもその人物をよく知っている。

「ごしゅじんさま……」

「遅くなった。待たせたな」

「ああ…………っ。あの、あ……っ。逢いたかった……です」

「ああ」
     

 四年と三ヶ月も経過したにも関わらず、レーネの心のなかは彼のことで溢れていた。
 感情があふれでるのと連動するように、少女の瞳からは涙がつたう。
 その人物は優しくつたう涙を拭ってやり、レーネは安心して身を任せる。

「ほんとうに。かえって……きたんですね」

 なんという幸福。
 とてもうれしい。ほんとうにうれしい……。
 主人の帰還に、レーネは身が震えるほどの喜びを感じるのであった。
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