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四章
4年後の少女は
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ごつごつとした岩場が続く山あい、焼けたような真っ赤な地面の肌が露出している。
ここはオリエンテールからだいぶ遠い、魔王領土と呼ばれる危険地帯だ。
現在はアラガミの神徒との戦闘状態にあり、その最前線であるためこの世界で最も危険な場所と言っても過言ではない。
「ったく……どこに行ったっつーんだよ」
ガリガリと立派な赤いたてがみの生えた頭を掻くのは、魔王のひとりに数えられるハウフル。
彼はこんなところでいったい何をしているのだろうか?
「俺はそんなに鼻が効くタイプじゃねーんだから。ちょろちょろすんじゃねーって」
ぶつぶつとぼやきながら辺りを見回す。
しかし、目当ての人物は発見できないようだ。
「しかし……俺の『領域』を出し抜けるまでに成長するとはな。俺ぁこれでも魔王なんだぜ? まあ、修行をつけてやったのは俺なんだけどよ」
大きめの岩に腰かける。
誰かを探すのを諦めたのか、それとも。
「ま、なんかあったら向かうとしますか。それまでお昼寝だぜ」
なんとハウフルはふて寝をしてしまった。
大きなからだをして、まるで猫科の小動物である。
「ひゃっはー。いい感じの子みっけ!!」
「こんなところで何してんの?」
「ここはねー、君みたいなかわいこちゃんがくるとこじゃないよー?」
まるでテンプレートを体現したかのような展開。
灰色のフードつきローブを被った少女が、巨大な体の男三人に絡まれる。
しかし一般的でないとすれば、その三人の強さだろう。
チンピラとは一線を画す彼らの強力な戦闘力は、洗練された装備や身のこなしの軽さから見てとれる。
かなりの手練れ、それも冒険者でいえばトップレベル並みといえるだろう。
三人は丁寧に自己紹介までしてくれるようだ。
「俺たちはメカニカル=シール様の配下だぜ」
「んーきみは見覚えがあるぞー」
「獣人の女……ハウフルの尻を追っかける奴隷女かよ」
「はははっ」
「ちげえねえな」
「おい、獣王とやらはどうした? いても負けねえけどな?」
やいのやいのどやされるも、ローブの少女は微動だにしない。動揺している様子もない。
彼女はゆっくりとフードを取り払う。
「…………」
三人の男は言葉を失う。
あらわれた姿はあまりにも美しく、あまりも儚かったからだ。
金色に輝く長髪、大きく特徴的なとがった獣耳、濡れたような青い瞳は泣いているようにすらみえる。
端正な顔立ちはまるで運命に愛されたものの風格さえ漂う。
14歳くらいの、適齢の女の子だ。
男たちは思わず任務を忘れて低級なチンピラ風情のようにこの女を犯しつくしたい衝動にかられた。
「へ、へっ……なんだこいつ」
「けっこうかわいいじゃんか」
「俺らの奴隷になれよ」
しかし、少女はまったく彼らを見ていないように思えた。
それどころか、心がその場所にはなく、ぬけがらとして動いているかのような温度で、
「イージーコースか、ハードコースです……」
とつぶやいた。
つまり、立ち去れば見逃す。
戦えば?
「ころします」
「は?」
「お前みたいな女に俺らが殺されるとでも?」
「さっさと仕事を済ませようぜ? こいつは捕まえて後で楽しもう」
男たちは剣をかまえる。
魔法剣というめずらしい戦闘スタイルを使うらしい。
三人は隙が生まれないように、連続攻撃できるように位置どる。
口では余裕めいたことを言っておきながら、男たちは少女に一切の手加減をする気がないようだ。
「血爪(けっそう)」
ザンッ。
たいした技を出す必要もない。
少女はそう言いたげな表情で、三人の立っていた場所を振り返った。
彼らはバラバラになり、無言を貫いている。
あっけない最後。弱すぎる結末。
「ごしゅじんさま、レーネはまた殺しました」
少女は祈りを捧げる。
神でも死体でもなく、たったひとりの男に向かって。
「相手にならない。これじゃいつまでたっても強くなりません……どうしたら。わたしはごしゅじんさまに会えるんだろう」
14歳になったレーネは美しく成長していた。
手足はすらりと延び、顔立ちに幼さは残るものの、凛とした雰囲気をまとうようになった。
女らしさを主張し始めた自分の身体にレーネはどう振る舞っていいかわからないでいた。
ローブを着用するのはそういった自分の容姿を隠すためでもある。
レーネははっきり言ってあの人以外に自分の姿を晒すのは我慢がならない行為であった。
あの日、かりそめの勝利に浮かれて彼に優しくしてもらった後。
彼は光の中に消えてしまった。
ミリアは彼についていったのに、どうして自分は取り残されたのだろう?
レーネは後悔した。あのとき動けなかった自分を恨んだ。
だから、強くなろうと決めた。
セツカに与えられた力はもちろん、自分なりになにかを掴まなくては。
そうして獣王ハウフルに弟子入りしたのであった。
彼女の顔から笑顔が消えて、四年と三ヶ月になる。
「すぐに会えるぜぇ?」
「!?」
背後から聞こえた声に、レーネは驚きを隠せなかった。
しまった。
三人の男たちは、体をバラバラにされながらも死んでいなかったのだ。
男たちの頭部が不気味に喋る。
「レイゼイ=セツカはアラガミ様に目をつけられたんだ。今ごろ死んでいるさ」
「残念だったなぁ、てめえらアホどもの希望はすでに失われてんだよ」
「天国で報告しな。俺たちにたっぷりと可愛がってもらったってな」
「くっ!?」
男たちの身体は空中に浮かび、レーネへと襲いかかる。バラバラにした手足たちにあっという間に四肢を押さえつけられてしまうレーネ。
アラガミの配下であるメカニカル=シール。
その部下である三人はかなりの手練れであった。
レーネは身動きが取れなくなる。
だめだ。
このままでは、この男たちに自由にされてしまう。
こんなに簡単に私は負ける。
あんなに修行したのに、すこしもご主人様には近づいていないのか。
レーネの瞳から涙が溢れる。それがまた、三人の男たちを興奮させた。
男たちの毒牙が乙女に届きかけたとき。
ーーガッッ!!
圧倒的なまでの突風が、男たちを襲う。
レーネにまとわりつく不気味な男たちの身体は、吹き飛ばされて岩に叩きつけられる。
(この力……この圧倒的な力は、まさかごしゅじんさま?)
今まさに乱暴をされそうだったにもかかわらず、レーネは目を輝かせてあの人の姿を探した。
しかし聴こえてきた声は、まったく予想をしていなかった人物のもの。
「あいかわらず甘々ですねぇ。死亡確認くらいしたらどうですか?」
「あなた……どうして!?」
「お久しぶりです。聖女アリエル只今戻りました。ふふ」
「そんな……あなたはごしゅじんさまが封印したはず!!」
「でちゃいました♡」
ぺろりと真っ赤な舌を出す人物は、確かに聖女アリエルであった。
以前敵として戦い、今、一番会いたくない人物。
しかしレーネが解せなかったのは、どうしてアリエルが助けてくれたのかということだ。
驚くレーネを尻目に、アリエルは三人の男たちが吹き飛んだ先を指差す。
「メカニカル=シールの配下は機械種(マーシナリ)です。どうやら、身体の6割ほどが機械で出来ているのでバラバラになっても死ななかったみたいですね。見てください、血が一切出ていません」
アリエルが指摘した通り、男たちの傷口からは一切の血液が溢れていなかった。
機械種(マーシナリ)。
メカニカル=シールを筆頭としたアラガミに従うとされる種族のことだが、何故アリエルはその情報をレーネに伝えるのだろうか?
レーネは口調を荒らげる。
「どうしてっ!? 助けるとでも言うのですかっ!? あなたのしたことは、絶対に許されないことなんですよ?」
「知ってますよ。耳元で怒鳴らないで下さいね? セツカ様、見つからないんでしょう? だったら、私は自分のしたいように動きます。私は彼が与えてくれた罰を受けて、それで出てきたんです。あなたにとやかく言われる筋合いはないですね」
「それは……でも、どうして?」
「目的の一致ですよ。友情とか愛情はないので悪しからず」
と、会話をしているレーネとアリエルを遮るように三人の男たちが襲いかかる。
レーネによってバラバラにされた身体は元どおりのようにくっつき、三人とも魔力のこもった剣による強力な斬撃を放つつもりだ。
「バレちまったぜぇ」
「俺たちは人間とちがってやわじゃねえ」
「一人増えたが、楽しみも増えたな! こっちも美人だぜ!」
「うるさいです」
「黙って下さい話の途中なので」
タネの明らかになった手品ほどつまらないものはない。
レーネは爪で細切れにまで刻み、アリエルはあくびをしながらその死体を焼却する。
二人の協力で、三人の男たちは一瞬でこの世から消滅した。
アリエルはにっこりと微笑みながら、レーネの手を握る。
「オリエンテールに、私の国へ連れて行って下さいな。今、あの国は誰が治めているので?」
「ふざけないでください。オリエンテールは、スレイが臨時の指導者になり運営しています。あなたの戻る場所なんてどこにもありません!」
「へぇ、あの子が。……因果ですねえ。困りました。私、住む場所も食べるものも、お着替えもなくて。このままでは餓死ですよ?」
「うそばっかり。すこしも汚れていない服を着て、肌だってあのときのまま」
「これは加護のおかげなんです。お願いしますよ、助けてあげたじゃないですか?」
「いやです。はなして……」
「待って下さい。レーネさん、ちょっとミスりました。ヤバイのが来てしまったみたいですねえ」
襲撃者は三人の男たちだけではなかったようだ。
異様に細い手足、アシンメトリーな髪型が特徴の中性的な人物がぼうっとレーネたちを眺めていたのだ。
その人物は聞き取れないような小さな声で呟いた。
「……心配になったから来てみれば。人間って残酷だなぁ。ボクたちはただ生きたいだけだというのになぁ。死ねばいいのに……。死ねばいいのに……」
「あなたは、だれ?」
「あーレーネさん。あれ、メカニカル=シールです。アラガミの神徒の。ちょっと、無理ですね。逃げましょう」
額に冷や汗を浮かべたアリエルは、レーネの手をとりこの場を切り抜ける方法を模索していたのだった。
ここはオリエンテールからだいぶ遠い、魔王領土と呼ばれる危険地帯だ。
現在はアラガミの神徒との戦闘状態にあり、その最前線であるためこの世界で最も危険な場所と言っても過言ではない。
「ったく……どこに行ったっつーんだよ」
ガリガリと立派な赤いたてがみの生えた頭を掻くのは、魔王のひとりに数えられるハウフル。
彼はこんなところでいったい何をしているのだろうか?
「俺はそんなに鼻が効くタイプじゃねーんだから。ちょろちょろすんじゃねーって」
ぶつぶつとぼやきながら辺りを見回す。
しかし、目当ての人物は発見できないようだ。
「しかし……俺の『領域』を出し抜けるまでに成長するとはな。俺ぁこれでも魔王なんだぜ? まあ、修行をつけてやったのは俺なんだけどよ」
大きめの岩に腰かける。
誰かを探すのを諦めたのか、それとも。
「ま、なんかあったら向かうとしますか。それまでお昼寝だぜ」
なんとハウフルはふて寝をしてしまった。
大きなからだをして、まるで猫科の小動物である。
「ひゃっはー。いい感じの子みっけ!!」
「こんなところで何してんの?」
「ここはねー、君みたいなかわいこちゃんがくるとこじゃないよー?」
まるでテンプレートを体現したかのような展開。
灰色のフードつきローブを被った少女が、巨大な体の男三人に絡まれる。
しかし一般的でないとすれば、その三人の強さだろう。
チンピラとは一線を画す彼らの強力な戦闘力は、洗練された装備や身のこなしの軽さから見てとれる。
かなりの手練れ、それも冒険者でいえばトップレベル並みといえるだろう。
三人は丁寧に自己紹介までしてくれるようだ。
「俺たちはメカニカル=シール様の配下だぜ」
「んーきみは見覚えがあるぞー」
「獣人の女……ハウフルの尻を追っかける奴隷女かよ」
「はははっ」
「ちげえねえな」
「おい、獣王とやらはどうした? いても負けねえけどな?」
やいのやいのどやされるも、ローブの少女は微動だにしない。動揺している様子もない。
彼女はゆっくりとフードを取り払う。
「…………」
三人の男は言葉を失う。
あらわれた姿はあまりにも美しく、あまりも儚かったからだ。
金色に輝く長髪、大きく特徴的なとがった獣耳、濡れたような青い瞳は泣いているようにすらみえる。
端正な顔立ちはまるで運命に愛されたものの風格さえ漂う。
14歳くらいの、適齢の女の子だ。
男たちは思わず任務を忘れて低級なチンピラ風情のようにこの女を犯しつくしたい衝動にかられた。
「へ、へっ……なんだこいつ」
「けっこうかわいいじゃんか」
「俺らの奴隷になれよ」
しかし、少女はまったく彼らを見ていないように思えた。
それどころか、心がその場所にはなく、ぬけがらとして動いているかのような温度で、
「イージーコースか、ハードコースです……」
とつぶやいた。
つまり、立ち去れば見逃す。
戦えば?
「ころします」
「は?」
「お前みたいな女に俺らが殺されるとでも?」
「さっさと仕事を済ませようぜ? こいつは捕まえて後で楽しもう」
男たちは剣をかまえる。
魔法剣というめずらしい戦闘スタイルを使うらしい。
三人は隙が生まれないように、連続攻撃できるように位置どる。
口では余裕めいたことを言っておきながら、男たちは少女に一切の手加減をする気がないようだ。
「血爪(けっそう)」
ザンッ。
たいした技を出す必要もない。
少女はそう言いたげな表情で、三人の立っていた場所を振り返った。
彼らはバラバラになり、無言を貫いている。
あっけない最後。弱すぎる結末。
「ごしゅじんさま、レーネはまた殺しました」
少女は祈りを捧げる。
神でも死体でもなく、たったひとりの男に向かって。
「相手にならない。これじゃいつまでたっても強くなりません……どうしたら。わたしはごしゅじんさまに会えるんだろう」
14歳になったレーネは美しく成長していた。
手足はすらりと延び、顔立ちに幼さは残るものの、凛とした雰囲気をまとうようになった。
女らしさを主張し始めた自分の身体にレーネはどう振る舞っていいかわからないでいた。
ローブを着用するのはそういった自分の容姿を隠すためでもある。
レーネははっきり言ってあの人以外に自分の姿を晒すのは我慢がならない行為であった。
あの日、かりそめの勝利に浮かれて彼に優しくしてもらった後。
彼は光の中に消えてしまった。
ミリアは彼についていったのに、どうして自分は取り残されたのだろう?
レーネは後悔した。あのとき動けなかった自分を恨んだ。
だから、強くなろうと決めた。
セツカに与えられた力はもちろん、自分なりになにかを掴まなくては。
そうして獣王ハウフルに弟子入りしたのであった。
彼女の顔から笑顔が消えて、四年と三ヶ月になる。
「すぐに会えるぜぇ?」
「!?」
背後から聞こえた声に、レーネは驚きを隠せなかった。
しまった。
三人の男たちは、体をバラバラにされながらも死んでいなかったのだ。
男たちの頭部が不気味に喋る。
「レイゼイ=セツカはアラガミ様に目をつけられたんだ。今ごろ死んでいるさ」
「残念だったなぁ、てめえらアホどもの希望はすでに失われてんだよ」
「天国で報告しな。俺たちにたっぷりと可愛がってもらったってな」
「くっ!?」
男たちの身体は空中に浮かび、レーネへと襲いかかる。バラバラにした手足たちにあっという間に四肢を押さえつけられてしまうレーネ。
アラガミの配下であるメカニカル=シール。
その部下である三人はかなりの手練れであった。
レーネは身動きが取れなくなる。
だめだ。
このままでは、この男たちに自由にされてしまう。
こんなに簡単に私は負ける。
あんなに修行したのに、すこしもご主人様には近づいていないのか。
レーネの瞳から涙が溢れる。それがまた、三人の男たちを興奮させた。
男たちの毒牙が乙女に届きかけたとき。
ーーガッッ!!
圧倒的なまでの突風が、男たちを襲う。
レーネにまとわりつく不気味な男たちの身体は、吹き飛ばされて岩に叩きつけられる。
(この力……この圧倒的な力は、まさかごしゅじんさま?)
今まさに乱暴をされそうだったにもかかわらず、レーネは目を輝かせてあの人の姿を探した。
しかし聴こえてきた声は、まったく予想をしていなかった人物のもの。
「あいかわらず甘々ですねぇ。死亡確認くらいしたらどうですか?」
「あなた……どうして!?」
「お久しぶりです。聖女アリエル只今戻りました。ふふ」
「そんな……あなたはごしゅじんさまが封印したはず!!」
「でちゃいました♡」
ぺろりと真っ赤な舌を出す人物は、確かに聖女アリエルであった。
以前敵として戦い、今、一番会いたくない人物。
しかしレーネが解せなかったのは、どうしてアリエルが助けてくれたのかということだ。
驚くレーネを尻目に、アリエルは三人の男たちが吹き飛んだ先を指差す。
「メカニカル=シールの配下は機械種(マーシナリ)です。どうやら、身体の6割ほどが機械で出来ているのでバラバラになっても死ななかったみたいですね。見てください、血が一切出ていません」
アリエルが指摘した通り、男たちの傷口からは一切の血液が溢れていなかった。
機械種(マーシナリ)。
メカニカル=シールを筆頭としたアラガミに従うとされる種族のことだが、何故アリエルはその情報をレーネに伝えるのだろうか?
レーネは口調を荒らげる。
「どうしてっ!? 助けるとでも言うのですかっ!? あなたのしたことは、絶対に許されないことなんですよ?」
「知ってますよ。耳元で怒鳴らないで下さいね? セツカ様、見つからないんでしょう? だったら、私は自分のしたいように動きます。私は彼が与えてくれた罰を受けて、それで出てきたんです。あなたにとやかく言われる筋合いはないですね」
「それは……でも、どうして?」
「目的の一致ですよ。友情とか愛情はないので悪しからず」
と、会話をしているレーネとアリエルを遮るように三人の男たちが襲いかかる。
レーネによってバラバラにされた身体は元どおりのようにくっつき、三人とも魔力のこもった剣による強力な斬撃を放つつもりだ。
「バレちまったぜぇ」
「俺たちは人間とちがってやわじゃねえ」
「一人増えたが、楽しみも増えたな! こっちも美人だぜ!」
「うるさいです」
「黙って下さい話の途中なので」
タネの明らかになった手品ほどつまらないものはない。
レーネは爪で細切れにまで刻み、アリエルはあくびをしながらその死体を焼却する。
二人の協力で、三人の男たちは一瞬でこの世から消滅した。
アリエルはにっこりと微笑みながら、レーネの手を握る。
「オリエンテールに、私の国へ連れて行って下さいな。今、あの国は誰が治めているので?」
「ふざけないでください。オリエンテールは、スレイが臨時の指導者になり運営しています。あなたの戻る場所なんてどこにもありません!」
「へぇ、あの子が。……因果ですねえ。困りました。私、住む場所も食べるものも、お着替えもなくて。このままでは餓死ですよ?」
「うそばっかり。すこしも汚れていない服を着て、肌だってあのときのまま」
「これは加護のおかげなんです。お願いしますよ、助けてあげたじゃないですか?」
「いやです。はなして……」
「待って下さい。レーネさん、ちょっとミスりました。ヤバイのが来てしまったみたいですねえ」
襲撃者は三人の男たちだけではなかったようだ。
異様に細い手足、アシンメトリーな髪型が特徴の中性的な人物がぼうっとレーネたちを眺めていたのだ。
その人物は聞き取れないような小さな声で呟いた。
「……心配になったから来てみれば。人間って残酷だなぁ。ボクたちはただ生きたいだけだというのになぁ。死ねばいいのに……。死ねばいいのに……」
「あなたは、だれ?」
「あーレーネさん。あれ、メカニカル=シールです。アラガミの神徒の。ちょっと、無理ですね。逃げましょう」
額に冷や汗を浮かべたアリエルは、レーネの手をとりこの場を切り抜ける方法を模索していたのだった。
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