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三章
ハイエルフの真実を×そう!
しおりを挟むハイエルフの族長の女は、まるでフローラにそっくりだ。
薄い緑がかった美しい髪色、神秘的な瞳の色。
それに胸のサイズまで。
ここが神域でなかったら彼女をフローラと見間違えたかもしれない。
ハイエルフの女は、まるでハープの音色のような心地いい声で尋ねてくる。
「あなた様のお名前は?」
「セツカだ」
「……よい名ですね。私はロウエル。ハイエルフの村エウロパで族長をしています……先程は失礼をいたしました。私や村のものたちは、数千年から数万年は『人間』というものに関わりを持たずに生きてきました。あなた方の姿をみて驚いてしまったのです」
「なるほどな。よそよそしさの理由はそういうことか」
おくゆかしく頭を下げるロウエルの態度はしっかりとしていて、先程の村で感じたような好奇の目は感じなかった。
閉鎖空間にある村だ。顔見知りだけで長い間やってきたことが予想できる。
ロウエルはにっこりと手を合わせ微笑む。困った。仕草までフローラそのものだ。
「みんな、あなたたちが嫌いというわけではないのですよ?」
「知っている。嫌だったら宿に泊めてくれないだろう」
「ふふ、カジマールの宿屋にお泊まりなのですね? お客様は300年ぶりです。ベッドも清潔で、食事もおいしいです」
「はぁ。なんだかスケールが壮大だな。ハイエルフならではの時間感覚なのか?」
「うふ。ええ、100年前なんて昨日のような感覚です。本当に……」
言葉をつまらせるロウエル。
彼女は瞳を潤ませ、何か考え事をしている様子だ。
「ごめんなさい。それで、ここで何をなされているのですか?」
顔をあげたロウエルが尋ねてきた。
俺は普通に答える。
「修行だ」
「あら。たくましいのですね」
「俺ではなく、ミリアとレイブンのだがな」
「ご一緒されていたお二人の美しい女性ですね。強くて聡明そうな」
「すまん。人違いなのかもしれん」
レイブンはともかく、ミリアは聡明だっただろうか?
つうか普通にレイブンが女だと見抜いてるなこのハイエルフ。なかなか鋭い女だ。
ともかく、俺たちがここに来た経緯などをロウエルに話した。
彼女は俺たちの事情を理解して、村の皆に説明してくれる役割を果たしてくれることになったのだが……。
「……いま聞かなきゃ、いまあの子のこと聞かなきゃ。勇気を出して、ロウエル……」
ロウエルは胸のあたりを抑え、深刻そうな顔でぶつぶつ呟いている。
……本当に似ているな。
レイブンと戦ったとき、フローラにはこうやって一人で抱え込む癖があることに気がついた。
いつもは大人ぶって余裕な態度を見せている彼女も、実は内心いっぱいいっぱいだったりする。
ロウエルとフローラは重なる点が多すぎるな。
俺はそんなロウエルに助け船を出す。
「何か聞きたいことがあるのか?」
「あ……その、わたし」
「なんでもいい。話してみるといい」
「私……のあの子。フローラは元気ですか? あなたが私を見たとき、フローラと呼びました。あれから長い年月が経ています。ありえないことではありますが、もし神様がいるならば……あの子をどうか解放してあげて、と」
私のフローラ。
どうやら奇跡のような偶然が重なったみたいだな。
このロウエルという名のハイエルフは、フローラの母親らしい。
詳しく話を聞くと、複雑な事情が絡み合っていることに気がついた。
3000年前、フローラはアリエルによって深淵の森に封印された。
その理由は様々なものが推測されるが、森から溢れる『呪い』を封印するためだとフローラは言っていた。
ロウエルは当時、森で暮らすエルフのひとり。
子供として幼いフローラと、オリエンテールとの戦いで命を落とした夫という家族がいた。
大規模なエルフ狩りが行われ、封印されていたフローラのように『素材』として使用されることを危惧したロウエルたちは人間に犯されることのない領域に逃げることを画策する。
それが神域。
子供を奪われたエルフ、ロウエルは神域で長い時間をかけ、ハイエルフに変化していたのだった。
「私はあの子を見捨てました」
ロウエルはそう言った。
捕らえられたエルフの末路は残酷なものだ。
フローラは死んだものと考え、忘れようとして数千年もこの場所で過ごしてきた。
しかしふと現れた人間、俺の口からその名前が発せられたので動揺してしまったという。
長い長い年月、片時も忘れたことなどない。
彼女の深い瞳にはそう書いてあった。
「安心するといい。フローラは生きている」
「本当ですか!?」
「ああ。それに封印は解除した」
「あの子が……いきてる。それに、森の封印を解除されたので!? ああ、こんな日が来るなんて!!」
ロウエルは小躍りして喜んだ。
まるで妖精のタップダンス。
よほど嬉しかったのだろう。ロウエルは心から喜んでいるようだ。
「嬉しい、ありがとうございますセツカ様! みんなにも伝えないと!」
「それよりも」
俺は気になっていたことを尋ねる。
「どうしてここから出ない? 子供がいるなら、なぜ会いにいかない?」
死んだと思っていたとしても。
こんな閉鎖空間に引きこもる理由にはならない。
「それは……」
ロウエルは悲しい目をしながら遠くを指差す。
その方角には、神域に入って最初に目についた大樹。
「あれはただの『木』ではありませんセツカ様。GW(グレート・ウォール)。超巨大な、植物型の世界を隔てる壁です。成長速度、硬度、標高が無限に増大を続ける、この世界が見放された理由のひとつです」
GW(グレート・ウォール)。
神域世界と異世界を隔てる、文字通り壁を担う大樹型のプログラムだ。
自己成長、自己再生、自己進化が組み込まれていて神域を安定させる役割をもっている。
が、あまりにも成長しすぎた。
無限に成長を続ける大樹のおかげで、世界の行き来は不可能になった。
3000年前ならば魔力の高いエルフがこの世界へと逃げ込むことは可能だったが、この世界から異世界へと戻ることは不可能だった。
誰もその事実を想定できなかったのだ。
悪いことに、エルフは魔力以外はさほど能力的に高くはなく。
レベルをあげたり、修練を積んで脱出を試みたものもいたが結局は閉じ込められたままだった。
ロウエルはあきらめた表情で、その大樹をぼうっと見つめこう言った。
「会いたい……けど、無理なんですよ」
憎しみなどとっくに通り越した感情。
子と生き別れたロウエルは絶望を受け入れることに慣れていた。
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