『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行

文字の大きさ
上 下
65 / 149
三章

魔王の提案を×そう!

しおりを挟む
 暗殺者を束ねるという魔王レイブンは立ち上がり、俺に向かって手を出した。
 敵の敵は味方だということか?
 どうもスリザリや他の魔王は一枚岩……同じ考えで動いているわけでもないらしく。
 きっと俺を育てるなどと考えているのはコイツくらいのものだろう。

「……さあ我の手を取るのだレイゼイ=セツカ。暗殺の王、レイブンが稽古をつけてやろう」

 レイブンはよく見てみれば確かに小さな女の子の手を俺に向かって差し出しこう言った。
 やれやれ。
 なので俺は、はっきりとこう答えたんだ。

「嫌だ」

「…………ん? 聞き間違いか?」

「断る」

「……貴様。話を聞いていたのか? 我らは幾年月も前からアラガミへの対抗手段を考えてきた。貴様ごときが思いつく手段の何倍も多くな。バカなことは考えず言うことを聞け」

 レイブンはまさか断られるとは考えていなかったのか、殺気を放ちそう言う。
 はぁ、勘違いしているな。
 俺が考えているのはもっと別のことだ。

「以前お前に攻撃されたことについての謝罪がないが? それにフローラをけなして泣かせただろ? あの件が未解決だ」

「は!? 世界の危機だというのにそんなことにこだわっていたのか? くだらん。我はあんな乳エルフのことはもう忘れてしまったぞ?」

「はぁ……」

「んな……!? そんなことはどうでもいいではないか!! 第一、魔王である我が貴様やエルフに謝る義理などまったくないっ」

「へぇ、ふぅん。そういう考えなのか」

 俺はわざとらしく大きなため息をつき。
 顎に手をあて、遠い目をしながらあの光景を思い出す。

「やはりパンツもろくにはけない魔王とは一緒にやっていけないな」

「…………なぁ……っ!?」

「まさか露出癖趣味があったとは……暗殺魔王はずいぶんと開放的なんだな」

「おま、やくそくっ。やくそく!!」

「やく……そく? 俺もお前と同じで忘れっぽいんだ。なあミリア。パンツをはかない女がいるとしたらどう思う? 暗殺を得意とする奴なんだが……実はマントの下は過激なんだ」

「えっ……何の話? パンツをはかないのはちょっと、近づきにくいかなー」

「わーっ!? わぁーっ!?!?」

 レイブンは手をバタバタさせながら俺の話をさえぎった。
 まったく話についていけていないミリア。
 よかった自分が女だとバレてないとほっと息をつくレイブン。
 むしろなぜ隠す。
 ミリアは俺とレイブンの駆け引きなど露知らずだ。

「ていうかそういえば、いつのまにセツカは暗殺の王『レイブン』と仲良くなったの!? 人脈すごすぎ……」

「道端で殺されかけてね。迷惑な話だ」

「うぅ……レイゼイ=セツカ貴様。我を辱しめるつもりか!? ありえないぞ貴様。暗殺者よりも鬼畜な奴め。ぜったいに内緒にすると誓ったではないか!!」

「お前の態度しだいだ」

「なんて男だ……ぜったいに暗殺してやる。油断したところを背後からさっくりとしてやるもん。ぶつぶつ」

「聞こえてるぞノーパン暗殺者」

「おおおおい!! ばれるって!! せめて少しぐらい言葉の綾というものに包め!! 我の静かでかっこいいイメージが台無しじゃないか!!」

「静かでかっこいい……? 小さくてこじんまりの間違いじゃないのか?」

「…………我の胸のことを言っているのだったら本気で殺すからなセツカ!? 小さい上にこじんまりと過剰に修飾する意味はなんだ? 我を愚弄しておるだろうこの悪鬼のような男め!!」

「自分から『約束』のこと言ってしまってるが? いいのか?」

 俺はべつになにが『小さくてこじんまり』だとは言っていない。
 レイブンの胸は、みんな違ってみんないい。そういう有名な言葉に従おう。
 レイブンは自分から隠している性別のことを告げてしまっているようなものだ。

「あ」

「俺は約束を守ったぞ?」

「くそう……なんという策士なのだセツカ。我をこんな風に追い込むなどとは。さすがは我がライバル」

「何もしていないが?」

「くぅ。わかった……どうにでもなれ」


 というやりとりがあり。
 レイブンは俺に頭を下げる。

「この前は、すまなかった。我らの都合で貴様に攻撃を仕掛けたことを謝ろう。それと、巨乳のエルフにも悪かったと言っておいてくれ。これでいいか?」

「それは直接言え」

「くっ……屈辱」

「よしよし。ちゃんと謝れたな。偉いぞ?」

「おい! 頭を撫でるなバカ。我のほうが立場は上だぞ?」

「はいはい」

「にゃあぁあ!? 我を子供扱いするな!!」

 ごしごしと頭を撫でてやると、きゃっきゃと喜ぶレイブン。
 やれやれ。やっぱり胸がちいさ……子供だな。

「おい!! 我は喜んでないぞ!? 撫でるなぁぁっ……」

「よしよし」

「え!? セツカってば魔王を手玉にとってる!? ってか今、スキル使えないんじゃなかったの? なのに魔王をこんな扱い出来ちゃうの!? え、すごすぎて意味わかんないよ……」

 さて。
 レイブンからの謝罪をうけ、俺の中のわだかまりが解消したこともあり。
 同行するのはさほど問題ではなくなったのだが。

「レイブン。お前は俺を鍛えると言ったな?」

「……ああ。この『神域』からの脱出には特殊なステータス『タマシイ』の成長が必要だ。隠しステータスとでも言おうか。それが高くないと脱出ができないのだ」

「なるほどな」

「貴重な情報に感謝しろ。我が来なかったら貴様はこの空間に閉じ込められたままだ」

 俺はレイブンがもたらした情報にややがっかりした。
 すべて予想の範囲内であったからだ。

「レイブン。俺を鍛える必要はない」

「……なんだと?」

 俺の言葉に驚きを露にするレイブン。
 だったらはっきり伝えるしかないな。



「逆だ。俺がお前とミリアを鍛える」

「…………はぁ!?」

「え、わ、わたしも!?」


 俺は二人を前に宣言したのだった。
しおりを挟む
感想 193

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

処理中です...