『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行

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聖女の章

その2

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「眼がいちばんおいしいんだ。遠慮せずにたべるといい」

(ぜったいにいやです)

 結局、私はカマキリハンターX……聖女サリアナに連れられてヘンな建物の元へとやってきた。
 白塗りで、まるで彼女が住むために森の中に建てたかのような可笑しな建造物。
 だけどどんなモンスターもその近くを嫌がってやってこないようだった。
 倒したカマキリを魔力で豪快に焼いて、サリアナはむしゃむしゃと平らげる。
 見た目によらず大食いなのであった。

「あの」

「なにも話す必要はないよ。だいたいわかる。君が必要だと思う間は、ここにいるといい」

「じゃあ、ずっと」

「図々しいんだね? でも、まあ君のような綺麗な子なら大歓迎かな。まるで魔法に愛されて生まれたような見た目じゃないか。はっきりいって私の好みだね」

 なにを言ってるんだこの人は?
 私なんか、結局のところ家族に捨てられて。
 助けてくれる人なんて誰もいなくて。

「突出したちからをもつと排除される。君は媚びることなく生きることを決めた美しい子だ。眼をみればわかる」

「カマキリの眼をバリバリ食べながら言われても……」

「ん。ホントおいしいんだよコレ。お酒にも合うし、どうして冒険者の間で流行らないか疑問なんだ」

「流行る以前に殺されるからだよっ!! 一撃でやっつけるあんたがおかしい!!」

「あはは。食べてみる?」

「いらねっつーの」

 結局、サリアナは詳しく事情を聞こうとはしなかった。
 話すことといってもだいたいが食事中にしちゃいけない感じのヤツだったのでこっちとしてもありがたかった。
 もう過去は過去。
 助けてもらった命だ。有効に使わせてもらいますよ。

「まっず」

 カマキリの肉。かじってみたけどあんまり好みじゃなかった。
 塩味きいてるですね。





 こうして私はサリアナの元で暮らすことになった。
 いざ暮らしてみると、森での生活はとても快適だった。何より煩わしい人間関係が一切ない。
 サリアナがここにいるのもそういう事情があるのかと勘ぐったけど。

「ねえねえ。みてよアリー。ゴブリンフェイス」

「……ぷっ」

「ねえ笑った? ぜったい今、笑ったよね? ねえねえ? 私の渾身の変顔で、クールがかっこいいといまだに勘違いしてる系のアリーちゃん笑っちゃった?」

「ちっ。夕食の準備をしているのですから邪魔をしないでください。刺しますよ?」

「いやーん。こんやの夜食はわ・た・し?」

「すこしでいい。静かにしろサリー」

「あ、サリーって呼んでくれた。サリアナさんとかサリアナさまとか他人行儀だったクセに、とうとう私を受け入れてくれたのかな?」

(めっちゃ喋る。この聖女、めっちゃ喋る人でした)

 彼女も、寂しいとか考えるのかな?
 私はサリアナの使用人というか、見習いのような形で彼女と供に過ごすようになった。
 基本的にサリアナは森で静かに暮らしているけど、たまに王都の仕事(ハート)とか言って街に繰り出していく。
 私はサリアナが仕事で家を空けるたび、父親に追いかけられる夢をみた。
 なんであいつなんですか……。
 隠れて泣いていたけれど、ぜったいにサリアナにその姿を見せたことはない。
 サリアナは仕事から帰ってきたら決まって私を抱き締めてくれた。

「こっちに来なよ、アリー。私の胸に顔をうずめて」

「そんなこと……」

「いいんだ。寂しい思いをさせてごめんね」

「サリー……わたし」

「よしよし。こんやはずっと頭を撫でてあげよう。カマキリハンターXは一晩中君のものさ」

「トラウマ思い出すからぁ!!」

 彼女はずるい。
 私のきもちに気づいてない。
 好き。
 人としてとか、半端なきもちじゃない。
 大好きになってしまったんです、サリー。
 ずるいじゃないですか。おとぎ話の王子さまの役割を全部されて、惚れないわけないじゃないですか。

 サリアナと私は、何をするにも一緒になった。
 食事。
 お風呂。
 睡眠。
 彼女と片時でも離れるのが嫌だった。
 私が甘えると、彼女はなんでも受け入れてくれた。

 私も彼女のためになんでも差し出そう。
 ……なんにも持ってないのだけれど。

 やがて同じベッドで寝るようになり、私は彼女のしなやかな身体を抱き締めながらこう告白した。
 やわらかなお尻、非の打ち所のない背中にぎゅっとしがみついて私の貧相な身体を押し付ける。

「愛しています。サリアナ」

「私もだよアリー。君は本当にけなげだね」

「そうじゃないんです!! 本当に、大好きで、あなたのことが……お願いです。きもちよく、しますから……っ」

「んっ……くふふっ。くすぐったいよアリー。ふふ、君は大人なんだね」

「わたしは……っ」

 罪悪感で壊れてしまいそうだった。
 彼女はそんな私をいつもと変わらないように愛してくれ、癒してくれ、そして許してくれた。
 求めすぎたんだ。
 いいじゃないか、サリーとこの関係が続けば私は幸せだ。
 私は自分にそう言い聞かせ、彼女の胸の中で眠りにつく。

 こんな幸せがいつまでも続けばいいと思っていた。
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