『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行

文字の大きさ
上 下
49 / 149
二章

戦争開始・スレイの活躍ーー聖女の系譜

しおりを挟む

 そうだっ、ユキちゃん!
 背後にいるユキちゃんの存在を思い慌てて振り返ると、彼は顔を真下に向けていた。未だぼろぼろと涙が地面へ落ちていく。土は雨が降ったかのように所々色を濃くしていた。
「ユキくん・・・・・・」
「ふっ――
 小さく声をかけると、ユキちゃんは声を漏らしてしゃがみ込んでしまった。手で次から次へと流れてくる涙を拭い取り、静かに泣いている。まさにしくしくという言葉が当てはまるような泣き方だ。見ているだけで胸が締め付けられた。
 どう声をかけていいかわからない。目の前で思いきり泣いている人を励ましたりするなんて、今まで友達すらまともにいなかった俺にとっては難易度が高い行為なのだ。
 どう声をかければ良い?なんて言えば良い?肩を優しく叩く?背中を擦る?それともやさしく抱きしめる・・・・・・?
 最近コンからもの凄く拒絶されたことが頭に残っており、行動に移すことが憚られた。突然身体に触れたら、嫌われてしまうかもしれない。
 結局俺は、何を言うことも何をすることもできず、落ちて潰れてしまったおにぎりを黙って拾うことにした。手に触れる米粒の塊は、まだ温かい。せっかくユキちゃんが心を込めて握ってくれたおにぎり。俺の、懐かしき故郷の食べ物。
 湯気を立てていたものは、今は割れて中身が零れてしまっていた。悲しい。
 トレーの砂を払い拾い上げたおにぎりを二つ、その上に置く。中身がほとんど零れてしまったお椀も、外側に垂れた汁を拭って隣に置いた。
 もったいない・・・・・・。砂に塗れた食事を見て、そう思った。味噌汁の方はほぼ残っていないが、おにぎりなら砂を払えばギリギリいけるか・・・・・・?
「昨日、両親から送られてきたんです・・・・・・」
 おにぎりを手に取り食べられるか考えていたら、少し涙が引いたらしいユキちゃんが涙声で話し始めた。
「僕の両親、近くの農場で畑やってて・・・時々作ったものを送ってくれるんです。か、顔のせいで米しか作らせて貰えなくて経済的にもぎりぎりのところだったんですけど、ナナミさんのお陰で段々その味が認知されるようになって、それで売れ行きも良くなってきて。だから、そのお礼だって、昨日店宛てに届いたんです。だから、今日はおにぎりにしようって思って・・・・・・」
 そこまで言うと、ユキちゃんの目から再び涙が滲んできた。今手の上にあるおにぎりに、そんな背景があったなんて。普通の、いや普通と言ったら語弊があるけど、近くの卸業者の人から入手したいつもの米とはひと味違うとは思っていたが、まさかユキちゃんのご両親が作られたものだったとは思わなかった。
「せっかく、父さんたちがつくってくれたのにっ・・・・・・」
 潤んだ瞳で俺の手の中の崩れたおにぎりを見て、ユキちゃんは再び泣いた。
 自分の親が作ってくれたものがこんな目に遭わされたら、それは悲しいよな・・・・・・。ユキちゃんの泣き声に心臓がズキズキと痛む。鼻を啜る彼の横で、俺も目の奥がじんと熱くなってきた。
 砂の付いたおにぎりが滲んでくる。俺は考えるよりも先に手を動かしていた。
「なっ、ナナミさんっ!!?何やってるんですか!?汚いですやめてください!!!」
 砂粒の付いた面を剥って無事な部分を口に入れた俺にユキちゃんは驚愕し、細い腕からは想像できない程の強い力で腕を掴み、さらに口に運ぶのを阻止してきた。驚きのためか涙は吹き飛んでおり、食べ物ではない物を口に含んだ赤ん坊に対して『ぺっしなさい、ぺっ!』と言っている母親のようになってる。
「おいしい。ユキちゃんのご両親が作ってくれたお米、めちゃくちゃおいしいよ」
 少しだけ涙が出てしまったかもしれない。恥ずかしながらやや震えた声でそう告げると、ユキちゃんはまたまた泣いてしまったのだった。


しおりを挟む
感想 193

あなたにおすすめの小説

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

処理中です...