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二章

サムズの母を×そう!戦いの前準備

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「俺たちが盾になるように前面に出て……」
「いや、兵士の人たちの方がこういう戦いには慣れてると思うし」
「アンデッドって怖い……いったいどんな敵なの?」
「敵の数、多すぎだよね……」

 皆が顔をつき合わせる中、俺は少しばかり前の出来事を思い返していた。

 城へ来る途中、俺たちはある場所へと寄り道をした。

 オリエンテール王都。
 商業ギルドのほど近くに、各地からの交易品が集まる、商館が集まる下町がある。
 その中のひとつ、小さなアパートの一室が若手商人サムズの家だ。
 サムズは、ここに病気の母親と二人で暮らしている商人ギルドの若手商人だ。
 過去に商人ギルドとのいざこざがあったとき、自分がやったと正直に名乗り出たので信用してその後も取引を継続している。
 アンデッド襲撃を受け、俺たちはまずサムズの元へと向かったのだった。

「ようこそおいでくださいました、セツカ様。それに、レーネ様、スレイ様、フローラ様たちも相変わらずお美しい。こんな狭苦しいところで申し訳ありませんが、どうぞ」

「かまわん。商売はなかなかのようだな」

「おかげさまで、もうすこし金を貯めたら新しい屋敷へと引っ越そうと考えています。最近、母の調子も良くなってきたもので」

「そうだったな。サムズ、母の容態を見せてみろ」

「はい。母もよろこびます!」

 サムズに家の中を案内される。
 日当たりのよい小部屋に、サムズの母は寝かされていた。
 サムズの母は、ひどく顔色が悪いながらも、俺たちが部屋に入るとベッドから体を起こそうとする。
 彼女はかなりやつれた表情をしていた。

「いつも息子からお話はうかがっております。どうか、息子をこれからもよろしくお願いいたします……」

「無理をして体を起こす必要はない。こちらも、サムズの商才には世話になっている」

 俺は体を起こそうとするサムズの母を制し、彼女の病状をうかがってみる。
 『殺す』スキルなら、こういうこともできる。



 ■――原子を『殺し』崩壊させX線照射。レントゲンと、スキル鑑定を利用した複合的な病状を推定中……。
 ・・・・・・・・
 ■――診断完了。彼女の病名は、現実世界でいうところの、末期ガンです。



「どうですかセツカ様? あれからセツカ様のおかげで、高額な回復薬を使ったり魔法使い様にも診てもらえてます。顔色も、すこしは良くなったと思うんです。母はきっとあとすこしで治ると思うんですよね。私もお仕事がんばりますよ!!」

「こらこら、サムズ。セツカ様に迷惑かけちゃいけないよ。ごほ、ごほっ」

「お母さん、寝てないと。ちゃんと体力をつけてもらって、お金をためて新しい屋敷で商売始めるんでしょ?」

「そうだねぇ……」

 サムズの母は遠い目をして外の景色を眺めた。
 サムズがわざわざ彼女を日当たりのいい部屋に寝かせているのは元気な気分になってほしいからだろう。
 目を細めて外の景色を眺めるサムズの母は、なにかを悟ったような表情をしていた。
 たしかにこの世界のポーションや魔法はすばらしいが、治らない病気もある。
 彼女は、不治の病に侵されていた。
 
「また、店に立てたらいいねぇ」

「立てるよ。お母さんは商人ギルドの優秀な女商人だったんだ。だから、一緒にやればもっといっぱい売れるさ。みたでしょ、セツカ様の商品。とても斬新で、わくわくして、幸せな気持ちになれる。あんなのを広めるのは商人冥利につきるじゃないか」

「ほんとにあんたは、いい子だよ……ごほっ、ごほっ」

 咳き込んだサムズの母は、口を抑えた手を見てはっと隠した。
 吐血。
 息子に見せまいと、ぎゅっと震える手をにぎる。
 サムズはその様子に気づいていない。
 その様子を見て我慢できなかったのか、レーネは俺の腕をぎゅと握り不安そうな顔をした。

「ご主人様……」

「ああ。わかっている」

 簡単に答えを出していい問題ではない。
 人の寿命は、神が与えたものなのだろうか?
 病気で死ぬことは、寿命で死んだといえるのだろうか?
 俺は答えを持っていない。
 だが、それを運命だと言うならばいくらでも否定してみせる。

 目の前に運命があるなら、傲慢にそれを『殺し』てやるよ。

 苦しそうに咳き込むサムズの母に対し、右手をかざす。

 ■――ガン細胞を『殺し』ます。人体の活性化を実行。酸化した細胞を『殺し』排除します。

 光に包まれるサムズの母。

「ご主人さまっ!! わたしのときと同じひかりですっ!!」

 飛びはねて喜ぶレーネ。
 あっけにとられたサムズはただただ光る母親の姿を呆けて眺めていた。


「ウチでご飯食べていってくださいねぇ!! セツカ様も、お嬢ちゃんたちも。おばちゃん、露店もやってたから料理のうでは格別だよ!」

「お、お母さん……あなた僕のお、お母さんであってるよね?」

「なにいってんだい、サムズ! どっからどうみてもお母さんでしょうが?」

「あんたみたいな若い女しらないよっ!?」

「やーねぇ。サムズ。どっからどうみてもあんたのお・か・あ・さ・ん」

「ウインクすな!! 投げキスすな!! セツカ様ぁー! 母がピチピチギャルになってしまいましたーっ!?」

 ちょっとミスった。
 スキルのやつ、病気を殺しすぎてサムズの母の見た目を若返らせてしまったらしい。
 せわしなく部屋の中を動き回るようになったサムズの母は、どっからどうみても健康体だ。
 妙齢、まるで20代前半の見た目になってしまったのが驚きだが。
 むしろサムズの言う通りピチピチギャル(死語)のように元気だ。

「セツカ様はすごいねぇ。手をかざしてもらったら、すっかり元気になっちゃったよ。商人ギルドの看板娘と呼ばれていたころの感覚が戻ってきたよっ」

「それはよかった」

「ありがとうねぇ。サムズでよかったら、いつでもこきつかってくださいね。私もなんでも協力するよ!」

「助かる。そうさせてもらおう」

「お母さんもういいから。セツカ様、ほんっとうにありがとうございました!! まさか母の病気を完治してしまうとは……あまりの奇跡に、涙が止まりません。どうか私の財産をすべてもらってください」

「いらん。お前の母の話は、以前から気にはなっていたからな。それより、本題に入りたい」

 サムズの母の病気が治ったのは良かったが、それが目的ではなかったのだ。
 台所へ向かったサムズの母をよそに、俺たちはひとつの小部屋に集まった。
 頭を商人モードに切り替えたサムズは、真面目な口調で俺に尋ねる。
 
「して、セツカ様。今日はいったいどのようなご用件だったので?」

「アンデッドがこの国に攻めてきている」

「……本当ですか!? アンデッドなど……まさか、魔王スリザリ!?」

「話が早くて助かる。そいつが迷惑にもこのオリエンテールを目指しているらしい」

「なんということだ……」

 一言で話を理解できるのが、サムズが優秀な理由だ。
 若手商人であるサムズも、魔王スリザリの脅威は理解しているらしい。
 やがてこの国の一般市民にも混乱が巻き起こるだろう。
 商売において冷静なサムズでも、俺の言葉からそこまで予測して冷や汗を隠しきれないようであった。

「こいつを見てほしい」

 迷宮尺皮袋から、あるものを取り出す。
 それを見た瞬間、サムズは数歩ほど飛びずさった。

「ひいっ……す、スケルトンですかっ!?」

「ああ」

 カタカタカタカタッ。
 震える骨、スケルトンウォーリアーだ。
 軍勢からはぐれていたアンデッドの一体を捕獲してきた。
 皮袋から取り出すと、カタカタと全身の骨を鳴らし震わせている。
 『殺す』スキルによって動きを止めているため、抵抗はできないはずだ。
 部屋の真ん中で、金縛りになったように棒立ちになるスケルトンの兵士。
 不気味に穴が開いた眼窩の奥は真っ暗闇が広がっている。
 怯えたサムズは恐る恐る尋ねた。

「い、生きたまま捕獲してきたのですかセツカ様!?」

「生きているのか、コレは? まあ見てくれ」

 スキルに命じる。『殺せ』。
 バガァン……ッ。
 スキルの効果によりスケルトンの骨は粉々に砕け散った。
 パアッと表情を明るくするサムズ。
 俺の能力で楽々と殺せたと思ったのだろう。

「すごい……セツカ様なら、コイツらが何体やってきても問題ないですね!! これなら安心だ。よかった……」

「よく見ろ」

 粉々になって床に散らばったスケルトンの骨が、震え出す。
 すると、巻き戻し再生されるかのように元の形に修復されていく。
 再び立ち上がるスケルトン兵士。

「ばっ、馬鹿なっ!? 粉々にされたスケルトンが復活など……あ、ありない。セツカ様、ありえませんよこのスケルトン。これではまるで……」

「完全なる不死だ」

「嘘だ……こんな相手、倒す手段がない。普通はアンデッドでもある程度体が欠損すれば動かなくなります。粉々となれば、絶対に死ぬはずなのに」

「そう。俺たちはもう軍勢の撃破を試してみた。そうしたら、このスケルトンは『殺せ』なかった。スリザリの軍勢は普通の手段では『殺せ』ない。そこで、お前の知恵を借りたいと思ってな」

「私を……頼る。ですか? 私のような商人にセツカ様を助けることができますか?」

「ああ。これを見てくれ」

 袋から取り出したのは、街の教会で貰える聖水だ。
 どの街でも貰える小程度の効果を持つ、闇から守る加護をもつ聖水。
 それをスケルトンに対し振りかける。

 ギィイイイイ……ッ。

 煙をあげて苦しむスケルトン。
 しかし、効果が小さいのか浄化までは至らない。
 そこへ、スキルの効果を発動させる。

 ■――聖水の効果限界を『殺し』ます。

 今度は、スケルトンの骨が、じゅうじゅうと溶け始めた。

「どうだ?」

 その様子を眺めながらサムズに尋ねると、サムズは口を開けて驚きながらも。
 俺の考えていることを理解したらしく、口許を緩ませ不敵な笑みを浮かべる。

「なるほど。……セツカ様、これは忙しくなりそうですね」

「頼めるか?」

「任せてください! 請求は王国あてでよろしいでしょうか?」

「かまわない。ミリアのつけにしておいてくれ」

 これで前準備は整った。
 ちなみにサムズの母の手料理は美味かった。俺たちが出発すると同時に、サムズも大急ぎで商人ギルドに向かい、その足で街の教会へと向かう。




 この戦争に勝利する切り札は水面下で集められている。
 あとは、クラスメイトとこの国の軍隊がどう動くかに戦いは懸かっているのだが。


「ていうか、セツカが国王っておかしくね?」
「だよな」
「あいつ別になんもやってないじゃん?」
「そーそー」



 クラスメイトの中に、不満げな表情を浮かべる者がいることに俺は気がついたのだった。
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