『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行

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一章

聖女の思惑を×そう!その5

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 すこしだけ時間を巻き戻そう。
 転移させられたレーネたちの行方についてだ。

 聖女が勝ち誇った顔でハヤサカに指示を出し、レーネ、スレイ、フローラの三人をハヤサカの能力でどこか別の場所へと転移させた。
 光に包まれ、三人は別の空間へと移動する。
 そこは、クラスメイトが最初に召喚された広い部屋。じめじめした嫌な雰囲気が漂う場所であった。

 中央のあたりに人質になっているクラスメイト……サエキ、オオバヤシ、ミワの姿が確認できる。
 大人しい女の子たち故、イシイには逆らえないのだろう。
 彼女たちはイシイのグループに距離を置いていたため人質に選ばれた可能性が高い。
 また、鎖に繋がれた状態のオニズカとサカモトは傷だらけで横たわっている。
 前に俺に協力してイシイを殴ったのでやられたのであろう。

 他にも数名、座らされているクラスメイトがいる。
 それを取り囲むように立っているのはイシイ、ミカミ、ガネウチの三人だ。

「来た来た。クソセツカのお気に入りレーネちゃん。待ってたぜ。相変わらずマジで綺麗だな!! ちょっとあっちの世界でも見たことないレベルに可愛いわ。今すぐ裸にしてヤりてえー」

 下品な顔と知能は相変わらずだな。
 イシイはレーネの姿を見て喜びを露にした。この場所に彼女たちがやってきたということは、聖女の作戦が成功したということ。
 つまり状況からすれば、俺は何も出来ずに聖女の言いなりになったことが確定したのだ。
 イシイの気持ち悪さにレーネは思わず身を固める。

「っつ……!?」

「かぁわいいねえ。お兄さんとお話したくないの? でも、これからは身体と身体でお話する仲になるんだから、仲良くやってこうぜ。セツカのことなんて忘れさせてやるよ」

「うぅ、気持ち悪いです……」

 レーネは怯え、尻尾の毛がトゲトゲに変化し不快感を露にする。
 そんな彼女の反応に、逆に嬉しそうにするイシイ。
 
「そう言ってられんのも今のウチさ。セツカは負けた。俺は勝った。勝つ方についていた。これが重要なんだよ!! 最後に勝つのは結局この俺。あいつにやられた『契約』スキルも、今は聖女のおかげで格段にパワーアップしたのさ。『契約更新』なら、手を触れずに相手を思い通りにできる。だから君を今、この瞬間に俺の言いなりにするのも自由自在ってわけ」

「この世界に来てその能力で他人を思い通りにして、自分の快楽をむさぼってきたのですか?」

「そうさ。金があれば自由に使う。物があれば自由に利用する。だったら、力があれば自由にそれを有効活用して欲しいものを手にいれる。何も間違っちゃいない真理だろ? 俺は強い。俺は賢い。だから、俺には君を自由にする権利がある」

「おかしいです。それじゃ、わたしにはあなたを拒否する権利がない」

「あるわけねえだろ。権利は俺にしかないんだから」

 早速いかれた理論を振りかざしているみたいだな。権利の意味を辞書で引け。
 奴が主張するのは強権。または強制だ。
 
「楽しいなぁ、この世界は。女はやり放題だし、人は殺し放題。警察みたいな組織はあるっちゃああるが、俺の力を止めるような奴はいねえ。つまり俺が法律なんだぜ?」

「……許せない。わたしたちはあなたのモノじゃない!!」

「はいはい。レーネちゃんだっけ? そんなに睨むなよ。興奮してくんだろ?」

 へらへらと笑うイシイ。
 すると、背後に立っていたミカミが我慢できなかったのか薄気味悪いぼそぼそ声をあげた。

「……そんなことより、僕はあの子、貰っても、いいよね? 銀色髪の毛の、おひめさま」

「ミカミぃ。もうビンビンなんですかぁ!? ぎゃははっ。いいぜ。今回はお前らにも助けられたからな。あっちの銀髪の女はお前にやるよ。しっかり男の味を教え込んでやるんだな」

「……あ、ありがとうイシイ。ふ、ふふ。僕のおひめさま。綺麗にしてあげる」

「冗談じゃないです。森で矢を使って襲撃してきた方ですね? こっちを見ないでくださいな」

「けひ! いい、いいよぉ。僕のおひめさま!」

「……視線に品位がかけらも感じませんね。どれだけの女性を蔑ろにしてきたのやら」

 ミカミの薄気味悪い視線に晒されたスレイは、身震いをして拒否反応を露にした。
 女狂いのミカミ。どうしてあいつが捕まらないかといえばイシイの庇護下にいたからだ。
 こうしてイシイのおこぼれにあずかってきたクズなのだ。

「じゃあ俺はこっちのロリ巨乳かぁ!! よっしゃ、ヤりまくんぞ!! 最近、普通の女とやんの飽きてきてたかんな。だってすぐに壊れるし」

「ガネウチにはあのエルフ女が丁度いいぜ。あいつ精霊神らしいから、多少荒っぽく扱っても壊れねえからな。まったく、すぐに女を壊すからお前には苦労するぜ」

「わりいわりい。イシイ、感謝してるぜぇ。うわ、乳でかっ。肌とかつやつやじゃん。めっちゃタイプだわー」
 
「すこしでもふーちゃんに触ったら許さないですぅ。近づくなですぅ」

「うけんだけど。近づくに決まってんじゃーん。精霊神って首絞めたらどのくらい耐えるかな?」

「なんという目ですかぁ。あなたに良心は存在していないようですねぇ」

 ガネウチの不気味な眼光に、フローラは思わず後ずさる。
 奴の視線は彼女の胸や尻にしか注がれておらず、けだもの以下の劣情しか脳内に存在しないことは明らかだ。
 奴の取り巻きだった女たちは、結局奴に壊されてしまったらしいな。
 イシイはレーネに近づいてくる。相当うれしいのかニヤケ顔だ。
  
「反抗したら聖女のところにいるセツカがタイヘンなことになるぜ? な、レーネちゃん。俺のモノになれ。スキルで言うことを聞かせてもいいが、それじゃあ詰まらねえからな」

「わたしの名を呼ぶなクズっ。わたしはご主人様とずっと一緒だっ!」

「へへっ。言ってろ。すぐに自分から欲しがるようになるって」

 勝ち誇った顔でレーネの頬に手を触れようとするイシイ。
 と、その瞬間。

「俺の子供たちに触るな」

 イシイの手が勢いよく弾かれたのである。
 そう、俺がイシイの手を払ったのだ。
 突然現れた俺の姿に、イシイたちに向けるのとは全く真逆の、はちきれんばかりに嬉しそうな笑顔をする女の子たち。

「ご主人様!! ありがとうございます!! わざとでもイシイと会話するの嫌でしたー。だっこしてください!」
「演技とはいえ。あの方たちと話すのは非常に不愉快でしたー。なでなでして欲しいですセツカ様!!」
「びっくりするぐらい救いようのない人たちですぅ。こっちまで汚れちゃう。セツカちゃん、ぎゅってして浄化して欲しいですぅ」

 と、抱きついてきた。
 ちょっと待ってくれ、まだ早い。
 イシイがアホ顔で俺の解説を待ってくれているからな。

「は? せ、セツカ? えっ、なんでお前がここに?」

「触るな。お前の馬鹿がうつったらどうするんだ」

 イシイの手を払った部分をハンカチで拭く。
 当然の行為だ。

「どうして……だって、お前は聖女のところにいるはずだろう? 負けたお前を聖女が言いなりにするはずだ。この場所に人質がいることは俺のスキルの効果でわからないはずだ!! 絶対にお前がここに来れるはずがないんだっ!!」

「はぁ。愚かさも極まってくると笑えてくるな。俺は聖女じゃなく、こっちの方に来たんだよ」

「は? ど、どういう意味だよ!?」

 王城へとやってくる前。
 俺はスキルを使いとある実験を試みた。
 ■――概念を『殺し』ます。再構築。レイゼイ=セツカの同位体を作成。維持可能時間3600秒。

「俺が本物で、聖女の方にいるのはコピーした俺だ。俺はレーネが首に下げている迷宮尺皮袋の中に入り、お前が隠れるこの場所まで運んでもらった。これでイシイ、こそこそ隠れるお前を探す手間が省けたわけだな」

「な、なにぃぃぃいい!? じゃあ、あっちにいるセツカは偽物……」

「いや、正確に言えばどちらも本物だ。思考も繋がっている。だが、あっちは時間が来たら消えてしまうがな」

「セツカてめえええ!! 俺を騙しやがったなこのボケクソがぁあああっ!! 折角俺が『契約更新』でシールド張ってたのに、こそこそ隠れて突破してきやがってこの卑怯者がぁぁああ!!」

 イシイは声を荒らげ感情を露にした。
 人質をとって脅してきたお前らが言うな。

「勘違いするな」

 俺はイシイを指差し事実を伝える。

「お前のスキルで作ったおままごとの隠蔽工作など最初から突破できる。俺がそれをやらなかったのは、自分の中に生まれた疑問を解消するのに考える時間が欲しかったからだ」

「疑問……だとぉ!?」

「そうだ」

 これは最初から俺の中で生まれた疑問との戦い。
 当初からこいつらなど眼中にはなかったのである。


「どうして、お前らを最初に『殺さ』なかったのか。この疑問に答えが出そうなんだよ、イシイ」
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