26 / 149
一章
聖女の思惑を×そう!その3
しおりを挟む聖女が去ったあと、塞がれていたダンジョン出口は元に戻ったようだ。
イシイのスキルの影響から離れたためだろう。
俺たちは街へと戻ってきた。
「貴様がセツカだな。聖女様がお呼びだ!! 三人の子供も一緒に来いとのことだ」
そうすると待ち構えていた兵士にこう呼び掛けられたのである。
聖女は王城へと先に戻ったみたいだな。俺を呼び出したということは待ち受ける準備が整ったということか。
仕方ない。王城へと向かうか。
「セツカ……」
「心配しなくていいミリア。大丈夫だ」
心配そうに俺の顔をのぞきこむミリア。不安の色が見えるな。
元々ミリアはこの件に無関係だ。こいつは置いていくか。
「嫌よ!! あたしもついていくわ。セツカを守るんだから!!」
「無理をするな。相手は聖女。お前の国のお偉い様だぞ?」
「そんなの関係ない! あなたがあんな目にあったと知って、そしてまたあの女に酷いことをされると知っていて……あたしはあなたを送り出せるほど人間できてないの!!」
「お前がもし聖女に敵対したら冒険者ギルドに迷惑がかかるんじゃないか?」
「そんなの……だって、嫌よ!!」
「ペニーワイズだって許さないだろう」
「許しますー」
すると、背後からペニーワイズの声がしたのである。
どうやら戻ってきた俺たちの姿を見つけて、冒険者ギルドからやって来たみたいだな。
一体いつからいたんだあの女は?
「行ってくださいー。ミリアにはその資格がありますー」
「ありがとうお母さん!」
「しかし」
「セツカ様。ミリアは以前お話した通り、私の実の子ではありません。本当の父と母を知らない可哀想な子です。このような事態になったからにはお話しますが。前国王ハーベストと、妃ピピンの間にできた子がミリアなのです」
は?
おいおい、何気に爆弾発言じゃないか?
もしペニーワイズの話が本当だとしたら、普通に考えたらミリアに王位の継承権があるってことだろ?
だったら今の王って誰なんだ? 勝手に王を名乗っているのか?
大スキャンダルじゃないか。
「えっ……だって、あたしは捨てられた子だって、お母さんが拾ってくれたって」
「ミリア。あなたは大きくなりました。あなたの実の両親は、今の国王ルーイーズによる策略によって亡きものにされました。今回の騒動で確信を持てました。恐らく聖女と国王が共謀したのでしょう。私はあなたを守りたかった。生まれたばかりのあなたを、ルーイーズの手から逃れるため死んだように偽装して別人として人生を歩ませたかったのです。恨んでください。私は、あなたに嘘を吹き込んで育て続けました。本当の両親を知っていたのです」
「お母さん……」
「ごめんなさいミリア。私は、母を名乗る資格がありませんね。城から脱出した兵士の亡骸が抱えた赤子のミリアを拾ったとき、あまりの可愛さに命を懸けて育てると決めました。気がついたら女だてらにギルド長なんてやってます。怪我で子供を産めない身体になったので、なおさらミリアにこだわったのでしょうね……」
ペニーワイズは涙を流す。
彼女が今の地位まで登りつめたのは、ミリアを育てるために努力した結果だということか。
「そんなことない! あたしのお母さんはひとりだけだし!!」
「……ミリア!?」
「お母さん!! 育ててくれてありがとう」
「ミリア……ごめんなさいね、ミリア」
ペニーワイズに抱きついたミリア。
まあ、この二人を見ていればわかることだが普通の親子よりも親子をしている。
羨ましいくらいだ。
……って、俺は何を見せられているのだろうか?
「んで、行くのか行かないのか?」
「行くっ!! セツカを守るよ。S級冒険者の力を今こそ発揮してあげるんだから。それに、あたしの両親がどうなったのか、直接聞いてみたい」
「冒険者ギルドもすぐに動く準備ができてますー。セツカ様のためならいつでもギルドを動かせますよー?」
やれやれである。
さて、準備は完了だ。
そうして俺とミリア。レーネ、スレイ、フローラは城へと向かった。
城は地下に牢獄がある巨大な構造物で、周囲には堅牢な城壁、石造りの街が建ち並ぶ重厚な造りになっている。
久しぶりというか、一回しか来ていないからほとんど何があったから忘れてしまったな。
前よりも寂れているようには思える。
城門を潜る際に武器のチェックを受け、丸腰にされた俺たちはそのまま豪奢な広間へと案内された。
そこには聖女とクラスメイトたちが待ち受けていた。
「またお会い出来ましたね、セツカ様。なんでいるんですミリア様? そして可愛らしい女の子たち♡ ようこそ王城へ。久しぶりのこの場所はいかがですか? なにか思いだします? 例えば私に足蹴にされて泣き言を口走ったあの時のこととか?」
「……用件は? さっさと済ませればいいだろう?」
「まあまあ焦ることないでしょう? お会いしたかったですよセツカ様」
「俺は全く会いたくなかったがな」
聖女。
本当に腹が立つ女だな。
勝ち誇った表情で微笑みを浮かべるクソ女。
そして例のごとくクラスメイトの数が足りていない。人質のつもりなのだろう。
「へえ、そのような態度はよくありませんねえセツカ様。私とあなたでは立場が違います。すべてのカードが私のもとへと集っているのです。そして最後の仕上げがこの場所で完了するのですよ」
「仕上げか。勝手にやっていてほしい」
「いえいえ。これから貴方にはもっともっと働いてもらいます。さあ、手始めに……」
聖女は指差した。
その先には、レーネたち三人の女の子の姿が。
「あの子たちを差し出してください」
「なんだと!?」
「はぁ。甘く見られたものです。あなたの切り札はその三人の女の子たちですね? あなた自身の能力も恐ろしいものですが、知り合いが人質になっていればその力も発揮できないと証明されました。しかしその女の子たちは違いますね? あなたの危機に対し極度に反応する可能性が残されています。だから、彼女たちはこちらで預かります。ええ、ええ!」
こいつっ!?
聖女は口許を邪悪に緩ませ笑顔をみせる。
拷問された時からあの笑いは何度も見ている。勝ち誇った顔。
「さあ、さあ、さあセツカ様。選びましょう。あなたのクラスメイトは今、首筋にナイフを突きつけられている。そしてその数は数人から十数人。イシイ様が空間を『契約更新』しているので場所はわからない。三人を差し出せば、少なくとも今は皆の命が助けられる。さあ選択ですセツカ様ぁ!!」
「くそっ」
「残念でしたねえ。もしかしてこの女の子たちに私を襲わせるつもりでした? 不意をつく予定でした? 無理ですよ無理無理。あなたにはむ・り」
聖女は耳元でねっとりささやく。
しゅんと耳が垂れ下がったレーネ、悔しそうに涙をためたスレイ。うなだれた様子のフローラが聖女のもとへと歩みでる。
「ご主人様、わたしはだいじょうぶですから……」
「うう、セツカ様」
「ふーちゃん残念ですぅ」
「あははははっ!! どうやったらこんなに強く育てられるんですか? 危険ですねえ。でもダメですよあなたたち。あなたたちも反抗したら大好きなセツカ様が酷い目にあうのですから、よく従うのですよ? イシイ様に」
なんだと!?
イシイのもとへとレーネ達を送るというのか?
「腹が立つんですよ。このガキどもは調子にのっています。私よりも若くてかわいいなんて万死です。なので、イシイ様に調教してもらいましょう。精神的、肉体的にねえ。はははっ!! 気に障るんですよちょっと見た目がいいからって悲劇のヒロインぶりやがって。では、転送。ハヤサカ様?」
「で、でも」
「早くしてください。あなたをイシイ様のところに送りますよ?」
「うぅ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
『転送』の能力を持つらしい気の弱い女子ハヤサカによってレーネとスレイ、フローラはどこかに転送された。
恐らく、聖女の言った通りならイシイの待ち構える人質が保管された場所だろう。
それを見届けた聖女はさも愉快そうに両手を広げ嗤う。
「だいじょうぶですよぉ。イシイ様だってちょっと味見をするだけですってぇ!! 乙女のはじめてをじっくりねっとり味わうだけですってえ! だから泣かないでセツカ様!! 女の子たち傷物になったからって泣かないで? あはははっ」
「……こんなことのためだけに、俺をここに呼んだのか?」
「ん、まあセツカ様を痛め付けるこれも最高に気持ちいいですが、むしろ本題はこれからなんですよ」
そう言うと、聖女はカーテンを開く。
隠されていた場所からは王座と、そこに座る人物がいた。
威厳がありそうな髭を蓄えた、太った人物。
拷問された時に聖女のとなりにいた人物か。
「オリエンテールの王、ルーイーズ様ですね」
「ははは。聖女アリエルよ良くやった。これでオリエンテールの戦力も磐石。褒めてつかわすぞ」
「うるさいぞ愚か者。お前の役目はここで終わりです」
「なっ……あ、アリエルこれは!?」
アリエルが右手を払うと、ルーイーズの首がごろりと胴から離れた。
そのまま地面へと落ち、血が勢い良く吹き出す。
「と、いうわけで国王ルーイーズ様は逆賊セツカによって殺害されてしまったわけですね。これは大変大変」
そういうことか。
俺をスケープゴートにして、聖女は国を盗るつもりだとでもいうのだろうか?
妖しく微笑む聖女の視線がねっとり舐めるようにこちらに投げかけられていた。
0
お気に入りに追加
3,421
あなたにおすすめの小説

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります
しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。
納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。
ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。
そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。
竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる