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一章
聖女の思惑を×そう!その2
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「せ、聖女様!? あなた様がこんなところに自らいらっしゃるなんて……いったい何が?」
「レッドアイズの剣鬼ミリアですね。お噂は聞いておりますよ? ペニーワイズの保険があなたですか。まあ、戦力としては申し分ないですが、それはあくまで一般基準なのです。私はセツカ様に用事があります。あなたは大人しくしてくださいね?」
「そんな……聖女様どうして!? セツカになにをするつもりですかっ!?」
聖女アリエル。自称18歳。
目の覚めるような長い青髪に、細くしなやかな身体。
純白の修道服ローブのような格好をし、長い髪をさらりとかきあげて細い首筋をちらつかせる。
オリエンテール公国の勇者を導く存在であり、国民にとって王と並んで希望の象徴でもある。
いや、それ以上の存在かもしれない。たぐい稀なる美貌と才能で庶民を導く救いの女神。
アリエルの役目は、召喚された人間に強力なスキルを授けるかなり重要なもの。
伝説の勇者を除いて、魔王と戦えるのは彼女くらいしかいない。
彼女の評価はそんなものだろう。
「思ったよりも早かったのですね。ボブリスはおろか、雷龍神ウルティウスまで倒してしまうとは予想以上ですよ。セツカ様の評価をあらためねばいけませんね?」
にっこりと微笑みを浮かべているが。
奴の腹の中はどす黒い。
使えないとわかったら即座に俺を切り捨てたのだ。それも拷問までしてスキルの有無を確かめて。
結果、『殺す』スキルは他のクラスメイトと違い与えられた力ではなかった。
元々あった力なので俺の意思に反しては発動しなかったのである。
正直、もう関係ない女だ。
顔も見たくない。
「……まさかと思うが、俺を誘き出すためにここまで面倒なことをたくらんだのか? ボブリスなどという小物まで使って?」
「いいえ。さすがの私も、こうも簡単にセツカ様が動いてくださるとは思いませんでしたからね。私の目的はあくまで不死者の心臓です。その過程でボブリスを利用したのは、あなたのクラスメイト。この方たちに対人間の戦闘経験を積んでいただこうと考えたからですよ」
「対人間だと?」
「ですが、必要なくなりました。ええ、ええ。これはこれでいいんです。対人戦はまた今度で、今回は別のやりかたに変更します。私の経験にはなるでしょう。勉強させてください。セツカ様、今回はあなたを倒します。うふ」
そうやって聖女アリエルが振り向くと、そこには大勢のクラスメイトたちが立っていた。
剣や盾などを装備し、遠足気分なのだろうかへらへら笑っているものもいる。
俺の姿をみつけたクラスメイトたちはやや驚いた顔をしていた。
「せ、セツカ!?」
「やっぱ、生きてたの?」
「今までどこにいたんだよ?」
「ここって最下層でしょ? なんてこんなとこに?」
クラスメイトの馬鹿連中は知らないだろう。
何故最初に武器をつきつけられながらスキルを付与されたのか。
どうして愚かで自分勝手なイシイがなんの罰も受けずにアリエルに重宝されているか。
そして俺すらもそれは知り得ることではなかったのだ。
アリエルにとって、全ては駒でしかない。
駒同士をぶつける時がやってきたにすぎなかったのだ。
「さて、今ですイシイ様。あなたの力で、セツカ様に復讐なさるなら『今』を逃す手はございません。さあ、新たな力を発動させてください!」
天を仰ぎ両手を広げたアリエル。
イシイはこの場にいない。恐らく魔法で外部に通信しているのだろう。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………。
地鳴りが響く。
ダンジョン内部がうごめくように震える。
「イシイ様の『契約更新』です。セツカ様ったら、イシイ様にひどいことをなさるのですねえ。おかげで解呪にかなり手間取りましたよ。ですが、これでこのダンジョンはイシイ様の契約下におかれました。入り口は完全に塞いでもらいますね?」
ダンジョン自体を契約下においただと?
それよりも、イシイの能力を元に戻しただと?
あの厄介な能力が戻ったということは、クラスメイトたちは?
「すまんセツカ、逆らえないんだ……」
「イシイに契約させられて、無理やりダンジョンにつれてこられて」
「聖女様に反抗すると、キシやアマネのようになるから……」
なるほどな。
クラスメイトたちは怯えて卑屈な態度をとる。
結局、恐怖政治のようなやりかたでクラスメイトたちを従わせているわけか。
面倒だな。
■――仕組みを『殺し』ます。
「動かないでくださいよ、セツカ様?」
聖女アリエルはニマリといやらしい笑いかたをした。
「あなたのクラスメイトの数、足りないとは思いませんでしたか?」
確かに、この場にいないであろうイシイを除いても十数人しかいない。
オニズカやサカモトもこの場にいないようだ。
「どこにいて、なにをされそうになっているんでしょうねえ。もしセツカ様がその反則めいたスキルを使おうものなら、セツカ様のお仲間はいったいどうなってしまうんでしょう?」
「…………俺には関係ない。そいつらがどうなろうと気にしない」
元々ボッチだからな。
クラスメイトがどうされようが俺には関係が……。
「嘘ばっかりですねえ!! セツカ様は嘘つきです。いいですか? この世界はあなたたちが住んでいたような、生まれてすぐ誰かが守ってくれる保証をしてくれるような、夜道を女性が一人であるいて無事で帰ってこれるような、そんな最高な世界じゃないんですよ。隙を見せたら死ぬ。そういう世界なんです。なのにあなたたちはすこーし強い力を授かると、『チートスキル』と言って浮かれはしゃぐ。平和でやっさしいセツカ様の思考は手に取るようにわかります。知っている人間が死ぬのが嫌なんですねえ。チートスキルを出来るだけ良いことに使いたいんですよねえ。仕方ありません簡単に変えられるものじゃないんですよ。でも、銃を持っても死ぬときは死ぬんですよ?」
「言いたいことはそれだけか。スキル発動、『殺……』」
「発動したらクラスメイトが三人死にます」
「くっ……」
アリエルの言葉に、とっさにスキル発動をためらってしまった。
俺は自分の気持ちがわからなかった。
クラスメイトに死んでほしくないのだろうか?
何故だ?
「あは。あはははははっ。あははははははっ!! かわいいっ!! 殺せないの!? クラスメイトが三人も残酷に殺されちゃうかもしれないから、こんなひ弱な私に、かわいい女の子に裸にされてあんなに拷問されて痛め付けられたのに、この私聖女アリエルを殺せないの? かわいいよキミ! だから甘いんだよね!! 甘すぎなんだよ!! 甘すぎっ!!」
自分をかわいいと言う女にロクなのはいない件。
奴は何が面白かったのか、ケタケタ嗤って身をよじり喜んでいる。異常者なんじゃないだろうか?
スキル。捕らえられているクラスメイトの場所を探知できないか?
■――ダンジョンの権限を支配されており、探知できません。外部に脱出する必要があります。
くそっ。だからイシイを外部に残したのか。
この分だとイシイ本体も探知できないか。
「セツカ様。さっきスキルを使いましたよね? あーあ、でも一回だけ許してあげます。立場が違うので。私はセツカ様に慈悲を与える立場。セツカ様は私にかしずいて教えを乞う立場。良かったですね、私が寛大で!! はあ、私って優しいな。クラスメイトの女の子たち三人……サエキ、オオバヤシ、ミワ様の命はセツカ様の態度に懸かっていると自覚してくださいね?」
交渉に慣れている。
具体的な名前を出し、不安をあおる気だ。
悔しいが聖女アリエルはスキル戦に非常にこなれている印象だ。
俺の『殺す』スキルの効果範囲も、俺が認知する範囲に限って発動すると知ってか知らずかそういう手札を切ってくる。
ここからでは三人の安否を確認できない。
クラスメイトの人質はもしかしたらブラフかもしれない。
しかし。今回は。
「わかった。俺の負けだ」
「あはっ!! そうそう、それでいいんです。チェックメイトというものですね。セツカ様もやっぱこの程度かー。もうちょっと頑張ると思ったけど、結局詰めが甘いんですよね。でも、私のものになるならすこしはいい思いさせてあげますから安心してください。イシイ様の能力は限定的なのであなたのような力がほしいのです。以前拷問したのは勘違いからくるすれ違いです。むしろ感謝してほしいです。こんな美少女から責めてもらえたんですから」
「……ちょっと考える時間が欲しい。それにこの子たちもいる」
俺は不安そうな顔をしている女の子たちを抱き寄せる。
「うそ……聖女様、うそでしょ?」
ミリアは普段見ていた聖女のあまりの変貌ぶりに放心している様子であった。
無理もない。勝ったとわかると発情したような顔になって嗤い続けているからな。
聖女というより痴女だな。
「ああ、いーですよ。この前深淵の森の呪いを跳ね返したことは不問にしますから、これからは心を入れ換えて私の下で働いてくださいね。あとスレイ姫、このたびはご愁傷様でした。国をなくしたようですね。ふふふっ」
しれっとスレイに対し言ってのけるアリエル。
七人衆に依頼したのはオリエンテール。
何らかの思惑があってスレイを狙っていたのはこいつらだ。
つまりはこいつこそスレイの両親の仇のような相手なのだが、ここはぐっと抑える。
スレイは震えていたが、なんとか耐えていた。
「それじゃ、不死者の心臓は私が貰っていきますね。元々はこれを手に入れるのが目的でしたから。しかしいやー楽な仕事でした。セツカ様のおかげで計画の前倒しと、戦力の増強が一気にできましたよ。あなたが生きていると聞いてからかなり慎重にことを運んできましたが、そんなの必要なかったですね。甘すぎです。結局あなたはクラスメイトを殺せない。イシイ様やガネウチ様、ミカミ様も殺しておくべきだったんですよ。それじゃ、あとで王城に来てくださいね。すっごく面白いものを見せてあげますから!」
そう言うと俺の手から宝石を奪い取り、ぞろぞろとクラスメイトたちを引き連れてアリエルは帰っていった。
うなだれる女の子たち。
沈黙する俺。
すると、背後からミリアが抱きついてきた。
腕を胸に回され背中に顔を押し付けられぎゅっと抱き締められる。力が強い。
どうしたんだ、泣いているのか?
「……ごめん。私がついていながら、なんにも出来なかった。まさか聖女様があんな人だったなんて。セツカ、どんなことがあっても私は味方だから。だから聖女なんかの言うこと聞く必要ないよ!! 人質の解放だったら、ギルドのみんなも協力してくれると思う。だから、元気を出して」
「ぷ」
「ぷ?」
「あはははは!! くすぐったいぞミリア。離れろ。何も問題はないんだ」
「へ!?」
驚いたミリアは鼻をグズらせながら背中から顔を離す。
「ど、どういうこと?」
「みんなも、ありがとう。もう大丈夫だ」
「ご主人様、えんぎ上手です~わたしもご主人様のように顔にださないようにしたかったのに~。ひどい女の人でした!!」
「ふーちゃんもうすこしで限界でした。あの女の人を消し飛ばしそうになったのは三十回以上ですぅ!!」
レーネとフローラはぷんぷんと怒りを露にしている。
俺はスレイの目の前にしゃがみ、目線を合わせる。
「よく耐えたね。あいつの言葉は君の心をえぐるナイフのようだった」
「セツカ様が一緒にいてくれたからです!! 私は、スレイはほんとうはくやしい。でも、全てが明らかになるまでは絶対に泣きたくないです!!」
「よしよし。えらいぞスレイ。ちゃんと上手くいった。お前たちのおかげだぞ?」
甘い。
聖女アリエルは俺に対しそう言った。
そっくりそのままその言葉を返そう。
俺を飼おうと考えるだなんて。
吐き気を催すほど甘すぎる。
「レッドアイズの剣鬼ミリアですね。お噂は聞いておりますよ? ペニーワイズの保険があなたですか。まあ、戦力としては申し分ないですが、それはあくまで一般基準なのです。私はセツカ様に用事があります。あなたは大人しくしてくださいね?」
「そんな……聖女様どうして!? セツカになにをするつもりですかっ!?」
聖女アリエル。自称18歳。
目の覚めるような長い青髪に、細くしなやかな身体。
純白の修道服ローブのような格好をし、長い髪をさらりとかきあげて細い首筋をちらつかせる。
オリエンテール公国の勇者を導く存在であり、国民にとって王と並んで希望の象徴でもある。
いや、それ以上の存在かもしれない。たぐい稀なる美貌と才能で庶民を導く救いの女神。
アリエルの役目は、召喚された人間に強力なスキルを授けるかなり重要なもの。
伝説の勇者を除いて、魔王と戦えるのは彼女くらいしかいない。
彼女の評価はそんなものだろう。
「思ったよりも早かったのですね。ボブリスはおろか、雷龍神ウルティウスまで倒してしまうとは予想以上ですよ。セツカ様の評価をあらためねばいけませんね?」
にっこりと微笑みを浮かべているが。
奴の腹の中はどす黒い。
使えないとわかったら即座に俺を切り捨てたのだ。それも拷問までしてスキルの有無を確かめて。
結果、『殺す』スキルは他のクラスメイトと違い与えられた力ではなかった。
元々あった力なので俺の意思に反しては発動しなかったのである。
正直、もう関係ない女だ。
顔も見たくない。
「……まさかと思うが、俺を誘き出すためにここまで面倒なことをたくらんだのか? ボブリスなどという小物まで使って?」
「いいえ。さすがの私も、こうも簡単にセツカ様が動いてくださるとは思いませんでしたからね。私の目的はあくまで不死者の心臓です。その過程でボブリスを利用したのは、あなたのクラスメイト。この方たちに対人間の戦闘経験を積んでいただこうと考えたからですよ」
「対人間だと?」
「ですが、必要なくなりました。ええ、ええ。これはこれでいいんです。対人戦はまた今度で、今回は別のやりかたに変更します。私の経験にはなるでしょう。勉強させてください。セツカ様、今回はあなたを倒します。うふ」
そうやって聖女アリエルが振り向くと、そこには大勢のクラスメイトたちが立っていた。
剣や盾などを装備し、遠足気分なのだろうかへらへら笑っているものもいる。
俺の姿をみつけたクラスメイトたちはやや驚いた顔をしていた。
「せ、セツカ!?」
「やっぱ、生きてたの?」
「今までどこにいたんだよ?」
「ここって最下層でしょ? なんてこんなとこに?」
クラスメイトの馬鹿連中は知らないだろう。
何故最初に武器をつきつけられながらスキルを付与されたのか。
どうして愚かで自分勝手なイシイがなんの罰も受けずにアリエルに重宝されているか。
そして俺すらもそれは知り得ることではなかったのだ。
アリエルにとって、全ては駒でしかない。
駒同士をぶつける時がやってきたにすぎなかったのだ。
「さて、今ですイシイ様。あなたの力で、セツカ様に復讐なさるなら『今』を逃す手はございません。さあ、新たな力を発動させてください!」
天を仰ぎ両手を広げたアリエル。
イシイはこの場にいない。恐らく魔法で外部に通信しているのだろう。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………。
地鳴りが響く。
ダンジョン内部がうごめくように震える。
「イシイ様の『契約更新』です。セツカ様ったら、イシイ様にひどいことをなさるのですねえ。おかげで解呪にかなり手間取りましたよ。ですが、これでこのダンジョンはイシイ様の契約下におかれました。入り口は完全に塞いでもらいますね?」
ダンジョン自体を契約下においただと?
それよりも、イシイの能力を元に戻しただと?
あの厄介な能力が戻ったということは、クラスメイトたちは?
「すまんセツカ、逆らえないんだ……」
「イシイに契約させられて、無理やりダンジョンにつれてこられて」
「聖女様に反抗すると、キシやアマネのようになるから……」
なるほどな。
クラスメイトたちは怯えて卑屈な態度をとる。
結局、恐怖政治のようなやりかたでクラスメイトたちを従わせているわけか。
面倒だな。
■――仕組みを『殺し』ます。
「動かないでくださいよ、セツカ様?」
聖女アリエルはニマリといやらしい笑いかたをした。
「あなたのクラスメイトの数、足りないとは思いませんでしたか?」
確かに、この場にいないであろうイシイを除いても十数人しかいない。
オニズカやサカモトもこの場にいないようだ。
「どこにいて、なにをされそうになっているんでしょうねえ。もしセツカ様がその反則めいたスキルを使おうものなら、セツカ様のお仲間はいったいどうなってしまうんでしょう?」
「…………俺には関係ない。そいつらがどうなろうと気にしない」
元々ボッチだからな。
クラスメイトがどうされようが俺には関係が……。
「嘘ばっかりですねえ!! セツカ様は嘘つきです。いいですか? この世界はあなたたちが住んでいたような、生まれてすぐ誰かが守ってくれる保証をしてくれるような、夜道を女性が一人であるいて無事で帰ってこれるような、そんな最高な世界じゃないんですよ。隙を見せたら死ぬ。そういう世界なんです。なのにあなたたちはすこーし強い力を授かると、『チートスキル』と言って浮かれはしゃぐ。平和でやっさしいセツカ様の思考は手に取るようにわかります。知っている人間が死ぬのが嫌なんですねえ。チートスキルを出来るだけ良いことに使いたいんですよねえ。仕方ありません簡単に変えられるものじゃないんですよ。でも、銃を持っても死ぬときは死ぬんですよ?」
「言いたいことはそれだけか。スキル発動、『殺……』」
「発動したらクラスメイトが三人死にます」
「くっ……」
アリエルの言葉に、とっさにスキル発動をためらってしまった。
俺は自分の気持ちがわからなかった。
クラスメイトに死んでほしくないのだろうか?
何故だ?
「あは。あはははははっ。あははははははっ!! かわいいっ!! 殺せないの!? クラスメイトが三人も残酷に殺されちゃうかもしれないから、こんなひ弱な私に、かわいい女の子に裸にされてあんなに拷問されて痛め付けられたのに、この私聖女アリエルを殺せないの? かわいいよキミ! だから甘いんだよね!! 甘すぎなんだよ!! 甘すぎっ!!」
自分をかわいいと言う女にロクなのはいない件。
奴は何が面白かったのか、ケタケタ嗤って身をよじり喜んでいる。異常者なんじゃないだろうか?
スキル。捕らえられているクラスメイトの場所を探知できないか?
■――ダンジョンの権限を支配されており、探知できません。外部に脱出する必要があります。
くそっ。だからイシイを外部に残したのか。
この分だとイシイ本体も探知できないか。
「セツカ様。さっきスキルを使いましたよね? あーあ、でも一回だけ許してあげます。立場が違うので。私はセツカ様に慈悲を与える立場。セツカ様は私にかしずいて教えを乞う立場。良かったですね、私が寛大で!! はあ、私って優しいな。クラスメイトの女の子たち三人……サエキ、オオバヤシ、ミワ様の命はセツカ様の態度に懸かっていると自覚してくださいね?」
交渉に慣れている。
具体的な名前を出し、不安をあおる気だ。
悔しいが聖女アリエルはスキル戦に非常にこなれている印象だ。
俺の『殺す』スキルの効果範囲も、俺が認知する範囲に限って発動すると知ってか知らずかそういう手札を切ってくる。
ここからでは三人の安否を確認できない。
クラスメイトの人質はもしかしたらブラフかもしれない。
しかし。今回は。
「わかった。俺の負けだ」
「あはっ!! そうそう、それでいいんです。チェックメイトというものですね。セツカ様もやっぱこの程度かー。もうちょっと頑張ると思ったけど、結局詰めが甘いんですよね。でも、私のものになるならすこしはいい思いさせてあげますから安心してください。イシイ様の能力は限定的なのであなたのような力がほしいのです。以前拷問したのは勘違いからくるすれ違いです。むしろ感謝してほしいです。こんな美少女から責めてもらえたんですから」
「……ちょっと考える時間が欲しい。それにこの子たちもいる」
俺は不安そうな顔をしている女の子たちを抱き寄せる。
「うそ……聖女様、うそでしょ?」
ミリアは普段見ていた聖女のあまりの変貌ぶりに放心している様子であった。
無理もない。勝ったとわかると発情したような顔になって嗤い続けているからな。
聖女というより痴女だな。
「ああ、いーですよ。この前深淵の森の呪いを跳ね返したことは不問にしますから、これからは心を入れ換えて私の下で働いてくださいね。あとスレイ姫、このたびはご愁傷様でした。国をなくしたようですね。ふふふっ」
しれっとスレイに対し言ってのけるアリエル。
七人衆に依頼したのはオリエンテール。
何らかの思惑があってスレイを狙っていたのはこいつらだ。
つまりはこいつこそスレイの両親の仇のような相手なのだが、ここはぐっと抑える。
スレイは震えていたが、なんとか耐えていた。
「それじゃ、不死者の心臓は私が貰っていきますね。元々はこれを手に入れるのが目的でしたから。しかしいやー楽な仕事でした。セツカ様のおかげで計画の前倒しと、戦力の増強が一気にできましたよ。あなたが生きていると聞いてからかなり慎重にことを運んできましたが、そんなの必要なかったですね。甘すぎです。結局あなたはクラスメイトを殺せない。イシイ様やガネウチ様、ミカミ様も殺しておくべきだったんですよ。それじゃ、あとで王城に来てくださいね。すっごく面白いものを見せてあげますから!」
そう言うと俺の手から宝石を奪い取り、ぞろぞろとクラスメイトたちを引き連れてアリエルは帰っていった。
うなだれる女の子たち。
沈黙する俺。
すると、背後からミリアが抱きついてきた。
腕を胸に回され背中に顔を押し付けられぎゅっと抱き締められる。力が強い。
どうしたんだ、泣いているのか?
「……ごめん。私がついていながら、なんにも出来なかった。まさか聖女様があんな人だったなんて。セツカ、どんなことがあっても私は味方だから。だから聖女なんかの言うこと聞く必要ないよ!! 人質の解放だったら、ギルドのみんなも協力してくれると思う。だから、元気を出して」
「ぷ」
「ぷ?」
「あはははは!! くすぐったいぞミリア。離れろ。何も問題はないんだ」
「へ!?」
驚いたミリアは鼻をグズらせながら背中から顔を離す。
「ど、どういうこと?」
「みんなも、ありがとう。もう大丈夫だ」
「ご主人様、えんぎ上手です~わたしもご主人様のように顔にださないようにしたかったのに~。ひどい女の人でした!!」
「ふーちゃんもうすこしで限界でした。あの女の人を消し飛ばしそうになったのは三十回以上ですぅ!!」
レーネとフローラはぷんぷんと怒りを露にしている。
俺はスレイの目の前にしゃがみ、目線を合わせる。
「よく耐えたね。あいつの言葉は君の心をえぐるナイフのようだった」
「セツカ様が一緒にいてくれたからです!! 私は、スレイはほんとうはくやしい。でも、全てが明らかになるまでは絶対に泣きたくないです!!」
「よしよし。えらいぞスレイ。ちゃんと上手くいった。お前たちのおかげだぞ?」
甘い。
聖女アリエルは俺に対しそう言った。
そっくりそのままその言葉を返そう。
俺を飼おうと考えるだなんて。
吐き気を催すほど甘すぎる。
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能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
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最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
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「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
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異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
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神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
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