『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行

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一章

聖女の思惑を×そう!その1

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 遺跡ダンジョン50階層にやってきた。
 迷宮探査Sのスキルを『殺し』た結果によると、キシとアマネはまだダンジョンの入り口付近にいるみたいだった。
 奴らに元奴隷獣人たちの回収を任せるとするか。面倒ごとは押し付けよう。

「キシ。アマネ。聞こえるな? 魔力通信の仕組みを『殺し』てお前たちの脳内に話しかけている。ボブリスの奴隷だった女の子たちがそっちに行くから、面倒を見てやってくれ。万が一ボブリスが生きてたどりついたら……そいつはその女の子たちをかなり酷い目にあわせた悪人だ。殺してもいいぞ?」

(わっ! セッちゃんの声が頭のなかに聞こえる!? アマネ、今の聞いたかい?)
(聞こえていたよキシきゅん。ちょうど私のスキル、『癒しの手』が復活したよセッちゃん!! 置き去りにされた女の子の回復はまかせて!!)
(ところでセッちゃん。その悪人って、男のひと? セッちゃんを困らせるような奴、俺がアッーーー!!しようか?)
(えーキシきゅん何考えてるのサイテー。でも女の子を傷つける男のひとになら、キシきゅんの『トラウマハンド』を後ろからねじ込むのもいいかも♡ ちなみにトラウマハンドはキシきゅんの夜の技で、スキルじゃないよっ)
(ああ。俺のスキルは『能力値上昇付加』だよ。人をサポートする能力だから、いつかセッちゃんの役に立てたらいいな)
(そうそう。えーでも、知らない人にキシきゅんが触れるのヤダなー)
(アマネ。俺はお前以外に興味はない。あくまでその悪人の治療目的さ)
(キシきゅん。かっこいい。セッちゃんの次に!)
(アマネ……それって最高の誉め言葉だぜっ)


「うるさい!!」


(ああん、セッちゃん待ってー)
(セッちゃん、がんばってー)

 あいつら勝手に頭の中で喋る。たまらない。この魔法は一方通行にしよう。そうしよう。
 俺は強引に通信を切ったのである。
 さて、後顧の憂いはこれでひとまずなくなった。
 俺たちはさっさと最後の部屋へと足を踏み入れる。

「ふう。到着しましたご主人様~!! ここがいちばんしたのおへやみたいです。とっても広いですね?」
「あっという間でした。初体験でしたが、ダンジョンはいいものです。王国を復活できたら、庶民にこの喜びを分かち合えるようにダンジョン事業に力を入れるべきですね。そしてセツカ様といずれできる子供たちと一緒に、親子でダンジョンに挑戦です。ふふふ」
「スレイ。妄想している場合じゃないですぅ。ボスですよボス。精霊神のふーちゃんもびっくり。あれはもしかして、龍なのではぁ?」

「気を付けろみんな。どうやらここがボス部屋らしい」

 あと残るのは。

 グロロロロロォ…………。

 不死者の心臓を守護している、ダンジョンボスのみか。
 雷龍神ウルティウス。
 鑑定ではそういう名前が出ている。
 例えるならティラノサウルスに小さな羽を生やしたようなアンバランスな恐竜だ。
 大きな口から覗いている牙の本数がものすごく、あれに噛まれたら穴だらけになってしまいそうだな。 

「そんな……まさか本物の龍が出てくるなんて。そんな馬鹿なことって……だって、遺跡ダンジョンなんて辺境だからあんまり強い魔物がいないはずだったのに。こんな化け物が出てくるなんて聞いてない。セツカ、一旦逃げましょう!! アレは相手しちゃダメ。S級をあと20人は呼ばないと……」

 などと怯え、ミリアは腰を抜かしつつ怖じけづいている。
 うーん。俺は違和感を拭えなかった。

「他の魔物とどう違うんだ? 全く同じに見えるんだが?」

「あんたバカぁ!?」

 無礼だな?
 ビビって地面を這いつくばっているお前のほうが馬鹿っぽいのに。

「神なのあれは!! 竜じゃなくて龍だから!! ぜったいに怒らせちゃダメよ?」

 はぁ。竜も龍も同じだと思うが。
 龍に怒るとか感情あるのかね?
 しかしどちらかといえば、お前が持っている剣ドラゴンスレイブ(意訳・龍を葬る剣)が一番怒ると思うぞ?

『くだらん人間。退け!! この先は通さん』

 あ。喋ったな。ティラノサウルス。

「ひゃあっ!? や、ヤバイ奴だわっ!! 人語を理解する龍なんてガチ神上位レベルじゃないっ!! 無理無理ぃっ。アアハハハハァンーー!! お母さん助けて!? 知ってたのコレぇ!? ヤバイんですけど!?!?」

 落ち着けミリア。それでは陸に打ち上げられのたうち回る魚だ。
 頭を抑えてビクンビクン動き回るな。見てみろ、レーネやスレイ。フローラたちはあの龍を見て目をキラキラさせているぞ?
 「みたことない、かわいいとかげさんですねー」「あのバチバチ雷を生み出す仕組みが気になります」「ふーちゃん、食べてみたいですぅ」などと落ち着いたものだ。子供は好奇心旺盛である。
 しかし。

『人間ども……小五月蝿いぞ!! 貴様らごときは戦うに値しない。帰れ』

 などと龍に言われてしまったのである。
 何様なんだ爬虫類。なんかムカつくな。
 はあ、仕方ない。

「龍。お前に言っておきたいことがある」

『なんだ人間? 雑魚が喋るな小僧』

「ここに寝転がっている女だがな。こいつの剣の名前はドラゴンスレイブだ」

「あーあーあーあーっ!!! ドラゴン最高!! セツカあああんお願いっ。それ駄目だってぇ。あれヤバイからっ!! なんでもするから内緒にしてっ? ねっ? なんでもしますからぁ!!」

 しばし沈黙を挟み。

『女。貴様は龍を怒らせた。どういう意味かわかっているな?』

「イヤァアアアアンわかりましぇん!? ドラゴン様、聞き間違いではぁ?」

『龍の耳にききまちがいはあり得ぬ』

「あは……で、ですよねぇえええええ!? せ、セツカぁあああ。おねがい、おねがいだから助けて。殺気がヤバイ。ころされちゃうにょ。この部屋の中でどうしてかあの龍あたしだけを殺すきマンマンだよぉ。濡れ衣なのぉ!!」

 濡れ衣ではない。
 しかしさて、少しは面白くなってきたみたいだな。
 やる気になった龍は姿勢を低くし、突進の構えをする。
 巨体で突っ込みつつ巨大な顎で敵を砕くというわけか。
 俺は転がるミリアの前に立ちはだかり、龍を見据える。このデカブツめ。

『我が名は雷龍神ウルティウス。雷を纏った突進は空間跳躍を思わせるほどの速度を誇るのだ!! 古の勇者とはよく戦った!!  決着はつかなかったがな。貴様は瞬きをする間にあの世へと送られる。我が牙が八つ裂きにしてくれようぞ』

「スキル発動」

 ■――承知しました。雷龍神ウルティウスを『殺し』ます。

『がっはっ!? なっっ!? だ、ダメージだとっ!?!? 貴様何を……龍の身体に一体何をっ!?』

 ■――雷龍の概念ごと『殺す』必要がありました。一撃とはいきませんでしたね。

『ば、馬鹿なっ!?!? お前のやっていることは、か、神殺しっ。神殺しなのだぞっ!?!? ちょっ、ちょっと待って……』

 うるさいな。
 焦ったからといって今さら慌てるな。

『ギャァアアアアアオオオオン……』

 ■――概念消去完了。ウルティウス消滅。次のリスポーンは一万年後です。


 やれやれ。
 ダンジョンに湧く程度のモンスターが神など名乗るな。
 神とはもっと無慈悲で無選別で、無遠慮な存在なんだよ。俺程度に倒されるお前があの冷酷で残酷な神である訳がない。
 ドシンと身体を横たえたそのドラゴンは、ピクリとも動かなくなった。
 やっぱりな。ゴブリンと大差ない。

「はうぅぅっ!! ご主人様すごい!! ドラゴンまでたおしちゃった。わたしのご主人様はせかいいちぃ!!」
「これでセツカ様が実際に神を越えていることが証明されましたね。もしかしたら天界が動く事案かもしれませんが、セツカ様が負ける気がしません。スレイおみそれいたしました!!」
「ふーちゃんホントに驚いちゃいましたぁ。あの雷神はなかなかの神格をもつ龍でしたが、セツカちゃんにかかれば他の魔物と同じなんですねぇ。強くてかっこよすぎですぅ。ああ、セツカちゃんと一緒に暮らせてふーちゃん幸せ!!」

 みんな褒めすぎなのである。
 かといって俺のスキル程度で抜かれる神()もかなり問題だと思うが。
 まあ、嬉しかったので照れ隠しにみんなの頭を撫でておいた。
 キャッキャと抱きついてきて暖かい。柔らかい彼女たちの身体が押し付けられる。尊いな、この感触。

「ありがどうね″っ! ありがどうね″っ! セツカのおかげで命拾いしたよぉ!! 死ぬかと思ったんだよぉ!!」

 涙と鼻水でだらだらのミリアも抱きつこうと迫ってくる。
 ひらりとかわすが、方向を変えてまた迫ってくる。
 ゾンビかお前。
 どうしても俺に抱きつきたいらしい。龍がよっぽど恐ろしかったらしいな。

「まずは鼻水と涙など、いろいろどうにかしろ」

「は、ハンカチ? ありがどう、ありがどうね″っ。ううっ……セツカって、本当は優しいのね。やっぱり誤解していたみたい。ドラゴンスレイブのことを龍に告げ口して私を囮にして逃げるつもりなのかなって少しでも考えた私がホント嫌。あたしってばほんとクズね。セツカはあたしを狙う龍を倒すためにあえてああいうことを言ったのに。セツカ、これがらもよろじぐねっ……ううっ」

 ただ意地悪しただけだったんだが、こいついろいろと誤解している気がするが。
 まあちょっとやりすぎたかもしれないので、すこし頭を撫でておこう。

「は、はうあ。ちょ、セツカ。あたし男の人に触られるの初めてだからちょっちょ、待って。心の準備が、ああっこれ、いいかも……もっと撫でてほしいかも」

 指をつんつんさせながら顔が赤くなったが、泣き止んだのでこれでよかったのだろうか?
 まあミリアも精神年齢は子供たちと大体同じっぽいので、頭を撫でられると安心するのだろう。
 
「ご主人様~レーネもレーネも!!」
「スレイにもっとお願いします!!」
「ふーちゃん、足りませんですぅ!!」

 と、女の子たちも騒ぎ始め。
 結局彼女たちの頭を沢山撫でることになった。まだまだ子供である。

 さて、ダンジョンボスを倒したのでその背後には宝箱がある。
 それを開けてみたのだが、中身は巨大なルビーの宝石のようなものだった。
 妖しく煌めく真っ赤なルビー。これが不死者の心臓か。
 これを破壊すれば終了か。報告のために一旦冒険者ギルドへと持ち帰るか。
 と、そのとき。

「お久しぶりですね、セツカ様。身体のおかげんはいかがでしょうか? さっそくですが、その宝石はこちらに渡して頂きたいのです。まあ、渡さなくても強引に奪い取るのですが」

 入り口から聞こえた声。
 聖女アリエル。
 俺を拷問して深淵の森へと捨てた張本人が、そこには立っていた。


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