上 下
15 / 149
一章

湧き出るスライムを×そう!

しおりを挟む
 イシイの襲撃があったような気がしたけどもう忘れた。
 あいつ誰だっけ? 忘れるとは俺も歳か。
 それより、今日も可愛い女の子たちと楽しいことをしよう。

「ご主人様、今日はどんなことをするんですか? わたし、今からたのしみでうきうきしちゃいます!!」

「私もこれまでと違う準備だったのでどきどきです。セツカ様はまた新しいことにチャレンジなさるのですね?」

「えへへ、ふーちゃんも荷物もつですぅ。持っていく装備から考えると、戦闘でもするですかぁ?」

 彼女たちは目をきらきらさせながら俺の後をついてくる。怪我をしないように、簡易的な防具《プロテクタ》をつけてもらっているがそれが実に似合って可愛らしい。
 さて、今日はいつもと違い皆には周りに気を配り注意するように伝えてある。
 今まで木工の単純な製品やりんご飴など、正直やる気のない商品を売って日銭を稼いできた。
 やる気のない・・・・・・というのは言い方が悪いが、まあ木工品だけじゃバリエーションが少なかったからな。
 商業ギルドに裏切られ、情報を売られたためイシイに俺の存在を嗅ぎ付けられた。今は商業ギルドと手が切れた状態なので、ほかに売り込む新たな製品の開発にせまられたのである。
 販売ルートの改善を考えた。
 冒険者ギルド長であるペニーワイズに俺たちの新商品を販売委託することに決めたのだ。
 冒険者たちは商人と違い、数多くの商品を捌くというより、珍しい品物を欲しがる傾向がある。
 目をつけていたプランのひとつを実行するときが来たのだ。

 ぷるぷるぷる……。

「あっ、ご主人様、スライムですよ? 可愛いですね。たくさんいます!」

 獲物を発見したレーネはふさふさの尻尾を揺らして敵を知らせた。
 そして三人は物怖じせずに近づいていく。

「えっ、どれですか? 私も見たいです。スライムってどんな生き物ですか? 実物は見た事ないんですよ。え、ちょっともにょもにょして気持ちわるいですね!? つついてみると、ひゃっ!? なんですこの感触。ぷにぷにでいやだぁ」

 ちょんとつついたスレイは、白い肌を真っ赤に染め頬を両手ですりすりした。
 なんか可愛いなそのしぐさ。

「ふーちゃんは結界から出たことがなかったのでぇ、魔物とであうことがなかったですぅ。ちょっと怖い……中でなにか動いてますねぇ。えええなんだか卑猥ですぅ」

 フローラに至ってはまじまじと見つめて赤面しているようだ。
 いったい何を想像したんだい?
 
 みんな興味しんしんだな。
 スライム。
 この世界では特に珍しくない、深淵の森にも大量発生している魔物の一種だ。
 青いゼリー状の直径一メートルくらいある巨大なくず餅のようなモンスターだ。
 服を溶かしてのしかかり、じゅるじゅるとしてくる危ない奴。
 女の子たちは三者三様の感想を抱く。
 だが、今回は彼女たちにも活躍してもらう予定だ。

「さあ、ここに大繁殖したスライムが沢山いるね? これを捕まえて殺すんだ。そして、それを材料にして俺たちは製品をつくる。これが今日の仕事さ。辛いだろうけどこれが生きるということだ」

 命の授業。
 スライムたちに罪はない。か弱い女の子的には色々と危ないけど、まだ奴らに罪はない。
 しかし、増えすぎると森の食べ物を食べつくしてしまうし、女の子も危険だ。
 俺たちも生活のために何者かの命を犠牲にしながら生きなければいけない。
 女の子たちに嫌われるのは承知の上だ。もしこれから俺がいなくなってしまった時に世間のこうした不条理をしっかり把握しておけば躊躇いを消せる。
 今日は彼女たちにこのスライムをやらせる。
 スライムにやらせるわけじゃないよ? 女の子の服を溶かすスライムを殺る。
 スライムの命を使い、金をもうける。
 こうした生きる仕組みを教えようと考えたのだ。
 きっといつか彼女たちのためになる。あえて『殺す』という言葉をつかった。
 さあ戦うのだスライムと。ぬるぬるのねちゃねちゃと。さあさあ。
 でも、可愛いと言ってたし嫌がるだろうな……。

「わかりましたご主人様。やあ!! はぁっ!! 沈めスライム!! やあっ。つぶれろ。ご主人様のために糧となれ!! ほらほら、ほらっ!!」

「承知いたしましたセツカ様。魔法詠唱を短縮。氷の力で砕け散れスライム!! あははは、粉々になってセツカ様の道を美しく飾れっ!! あはははっ!!」

「ふーちゃんは精霊神ですが、スライム相手にも手は抜きません。全力です。『風刀斬《ウインドスライス》』。同時発動によって、スライムの体はバラバラに切り分けられますですぅ。セツカちゃん、さあめしあがれ。スライムはあの世へいっちゃえー!!」

 あれ? 予想と違う……。
 嬉々としてスライムをボコる幼女たち。
 ちょっと顔を赤らめて気持ちよくなってる感じがするけど、気のせいだろう。
 なるほどな。
 これはでは間違いは起きないな。
 今日の仕事は早く終りそうだ。命の大切さはまた今度教えようか。
 楽しそうに闘ってるけど、ここのスライムは呪いのせいでかなり強力なやつになってたはずなんだけどな。
 その討伐ついでだったんだけど……どうやら俺の出番はないみたいだ。

 結局見える範囲のスライムを全て狩り、その汁を絞って迷宮尺皮袋へと入れて持ち帰る。
 加工は俺のスキルでやるか。恐らくスキルがなくてもできるが、時間がかかりすぎる。
 
 ■――不純物を『殺し』ました。

 家に戻って早速加工を始める。
 必要な物質だけ分離させたスライム汁を迷宮尺皮袋から取り出し、巨大な器にあけた。
 三人が頑張ったのでかなりの量だ。一度には加工しきれないな。
 まず、スキルでスライムの汁から不純物を取り除く。

 ■――物質間の結合を若干『殺し』ました。温度が上昇します。

 純度が高まったスライム汁を溶点まで温度を上げ、あらかじめ作っておいた型に流し込む。
 ここまで数分。やっぱりスキルはヤバイ。楽すぎる。
 そして冷えるまで待てば。

「できた。キャンドルの完成だ」

 スライムの体液を蝋の代わりにした、蝋燭の完成だ!

「きゃんどるですか? ご主人様、これはいったいどういう製品なのですか?」

 レーネは不思議そうに出来上がったものを見つめていた。
 この世界では魔法があるから、こうした蝋燭が発展していない。
 しかし庶民は魔法の明かりを高い金を出し買っている。
 さすがに魔法には利便性では劣るが、売れないことはないんじゃないかと考えた。
 何より夜の蝋燭の火は暖かいのだ。

「火をつけてみよう。部屋を暗くして、みんな集まって……」

 部屋の中が、蝋燭のゆれる光に照らされる……。

「はうぅ、ご主人様。なんだかうれしい気分になります。これってすごいあたたかな光ですね」

「綺麗です。たよりない光ですが、それがいい……暗闇に映し出されるセツカ様が素敵です」

「これって、すごい発明なんじゃないですかぁ!? ふーちゃんも知らない、みたこともない装置ですぅ。なんだか神々しいですぅ」

「みんな気に入ったみたいだね」

 いけそうだな。
 冒険者たちは日々、生きるか死ぬかのプレッシャーに押しつぶされそうになりながら生きている。
 こうした『癒し』の製品はきっと人気になるだろうな。

「じゃあみんな。色々な型をつくって、沢山作ろうか。手伝ってくれるかい?」

「はい、ご主人様!」
「私もお手伝いしますセツカ様!」
「ふーちゃんもがんばるですぅ!」

 今日は夜までかかりそうだな。
 だけど彼女たちもやる気充分だ、とても頼りになる。
 わいわいキャッキャと騒ぎながら、キャンドル作りは順調に進んでいった。
 夕方ごろになり、そろそろ夕飯の支度をしようと考えていたところ。
 教会の玄関が叩かれたのである。


「……すみません、セツカさま、セツカさまのご自宅はここで間違いないでしょうか?」

 若い男の声。
 面倒ごとの気配をさせてやってきたその男は、憔悴しきった表情をして扉の前に佇んでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

レベル1の最強転生者 ~勇者パーティーを追放された錬金鍛冶師は、スキルで武器が作り放題なので、盾使いの竜姫と最強の無双神器を作ることにした~

サイダーボウイ
ファンタジー
「魔物もろくに倒せない生産職のゴミ屑が! 無様にこのダンジョンで野垂れ死ねや! ヒャッハハ!」 勇者にそう吐き捨てられたエルハルトはダンジョンの最下層で置き去りにされてしまう。 エルハルトは錬金鍛冶師だ。 この世界での生産職は一切レベルが上がらないため、エルハルトはパーティーのメンバーから長い間不遇な扱いを受けてきた。 だが、彼らは知らなかった。 エルハルトが前世では魔王を最速で倒した最強の転生者であるということを。 女神のたっての願いによりエルハルトはこの世界に転生してやって来たのだ。 その目的は一つ。 現地の勇者が魔王を倒せるように手助けをすること。 もちろん勇者はこのことに気付いていない。 エルハルトはこれまであえて実力を隠し、影で彼らに恩恵を与えていたのである。 そんなことも知らない勇者一行は、エルハルトを追放したことにより、これまで当たり前にできていたことができなくなってしまう。 やがてパーティーは分裂し、勇者は徐々に落ちぶれていくことに。 一方のエルハルトはというと、さくっとダンジョンを脱出した後で盾使いの竜姫と出会う。 「マスター。ようやくお逢いすることができました」  800年間自分を待ち続けていたという竜姫と主従契約を結んだエルハルトは、勇者がちゃんと魔王を倒せるようにと最強の神器作りを目指すことになる。 これは、自分を追放した勇者のために善意で行動を続けていくうちに、先々で出会うヒロインたちから好かれまくり、いつの間にか評価と名声を得てしまう最強転生者の物語である。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

外れスキル『レベル分配』が覚醒したら無限にレベルが上がるようになったんだが。〜俺を追放してからレベルが上がらなくなったって?知らん〜

純真
ファンタジー
「普通にレベル上げした方が早いじゃない。なんの意味があるのよ」 E級冒険者ヒスイのスキルは、パーティ間でレベルを移動させる『レベル分配』だ。 毎日必死に最弱モンスター【スライム】を倒し続け、自分のレベルをパーティメンバーに分け与えていた。 そんなある日、ヒスイはパーティメンバーに「役立たず」「足でまとい」と罵られ、パーティを追放されてしまう。 しかし、その晩にスキルが覚醒。新たに手に入れたそのスキルは、『元パーティメンバーのレベルが一生上がらなくなる』かわりに『ヒスイは息をするだけでレベルが上がり続ける』というものだった。 そのレベルを新しいパーティメンバーに分け与え、最強のパーティを作ることにしたヒスイ。 『剣聖』や『白夜』と呼ばれるS級冒険者と共に、ヒスイの名は世界中に轟いていく――。 「戯言を。貴様らがいくら成長したところで、私に! ましてや! 魔王様に届くはずがない! 生まれながらの劣等種! それが貴様ら人間だ!」 「――本当にそうか、確かめてやるよ。この俺出来たてホヤホヤの成長をもってな」 これは、『弱き者』が『強き者』になる――ついでに、可愛い女の子と旅をする物語。 ※この作品は『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも掲載しております。

女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう

サイダーボウイ
ファンタジー
「ちょっと冬馬君。このプレゼン資料ぜんぜんダメ。一から作り直してくれない?」 万年ヒラ社員の冬馬弦人(39歳)は、今日も上司にこき使われていた。 地方の中堅大学を卒業後、都内の中小家電メーカーに就職。 これまで文句も言わず、コツコツと地道に勤め上げてきた。 彼女なしの独身に平凡な年収。 これといって自慢できるものはなにひとつないが、当の本人はあまり気にしていない。 2匹の猫と穏やかに暮らし、仕事終わりに缶ビールが1本飲めれば、それだけで幸せだったのだが・・・。 「おめでとう♪ たった今、あなたには異世界へ旅立つ権利が生まれたわ」 誕生日を迎えた夜。 突如、目の前に現れた女神によって、弦人の人生は大きく変わることになる。 「40歳まで童貞だったなんて・・・これまで惨めで辛かったでしょ? でももう大丈夫! これからは異世界で楽しく遊んで暮らせるんだから♪」 女神に同情される形で異世界へと旅立つことになった弦人。 しかし、降り立って彼はすぐに気づく。 女神のとんでもないしくじりによって、ハードモードから異世界生活をスタートさせなければならないという現実に。 これは、これまで日の目を見なかったアラフォーおっさんが、異世界で無双しながら成り上がり、その実力がバレて世界に見つかってしまうという人生逆転の物語である。

追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。

いちまる
ファンタジー
【毎週木曜日更新!】 採取クエストしか受けない地味なおっさん冒険者、ダンテ。 ある日彼は、ひょんなことからA級冒険者のパーティーを追放された猫耳族の少女、セレナとリンの面倒を見る羽目になってしまう。 最初は乗り気でなかったダンテだが、ふたりの夢を聞き、彼女達の力になると決意した。 ――そして、『特級冒険者』としての実力を隠すのをやめた。 おっさんの正体は戦闘と殺戮のプロ! しかも猫耳少女達も実は才能の塊だった!? モンスターと悪党を物理でぶちのめす、王道冒険譚が始まる――! ※本作はカクヨム、小説家になろうでも掲載しています。

処理中です...