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第弐章──過去と真実──
死せる君と。拾話
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あの手紙が来て数日が経つというのに、未だに誰の気配も無かった。あの手紙の内容は嘘だったのかと疑いたくなる程だ。
窓から差し込む月明かりのみが舞子の輪郭を映し出し、年頃の少女であると改めて思わせる。
眠りにつこうとした其の時、何故だか急に胸騒ぎがした。
確証は無いが、身が危険であると本能的に察知したのかもしれない。
舞子の頭を撫でると、ほんの一瞬だけ外に様子を見に行くことに決めた。
月が綺麗な夜である。
背後に人の気配を感じて振り向くと、頭を布で覆う細身の人物がいた。
唯一布から出ている眼で女性だと思ったが、如何やら鳴子では無い様だ。
其れならば、一体何処に居るのだろうか。
油断したと思ったのか、目の前の女は容赦無くナイフを持って襲いかかってくる。
素早く躱しナイフを蹴り上げると、衝撃でナイフを落とした女は、それでも尚私を倒そうと突っ込んでくるが、顔を覆っていた布がはだけ、隠れていた顔が顕になった。
「貴女…あの女と一緒に居た奴か…?」
問いかけると女は動きを止め、力が抜けたように座り込んだ。敵わない相手であると感じたのだろうか。
女を足止めしたのはいいが、あの手紙の内容なら当然姉も来ている筈である。
再び胸騒ぎがした為急いで戻ると、何とも言えない刺激臭が漂っていた。何処かで嗅いだことのある様な臭いだったが思い出せなかった。
寝間を含め彼方此方探したが、舞子の姿は無い。
最悪の事態を想像し外を飛び出して探し回ると、薄暗くて良く見えなかったが目の前の地面は赤黒く変色していた。恐らく血が染み込んだと考えられる。
一足遅かった。
よく見ると血痕が点々と続いているのが見えた。
僅かな月明かりを頼りにして辿って行くと、街灯が立ち並ぶあの街が見える。全力疾走して一刻も早く舞子を見つけ出さなければ。其の気持ちだけが私の頭の中を支配して止まない。
激しい頭痛と喀血、目の前が歪み始め愈々自分の死期が迫っているのだと思った。だが、関係無く走り続けた。
街に着いた途端手足が痙攣 痙攣を起こして地面に倒れ込んだが、目の前を見ると先程襲いかかってきた女とは違う女が舞子を押し倒し笑っていた。
間違いなく鳴子である。
馬乗りになり、抵抗の出来ない舞子にナイフを振りかざす所だった。
「やめろ……!」
息も絶え絶えで血を吐きながら叫ぶ。頭と肺が焼き切れる程痛い。口から音を立てて生温かい血が溢れ出る。
「貴方から舞子を奪われる筋合いは無いわ。二人の時間を邪魔しないで頂戴」
冷徹な声とは裏腹に顔は狂気に満ちた笑みだった。
言うことの聞かない手足を必死に動かし這うように前に進むが、あの刺激臭の原因とも言える薬物で上手く力が入らない。
「……舞子が意識を失う前、貴方の名前を呟いたのよ。私はそれがとてもとても憎い……! どうせなら貴方に最大の絶望を味わってから死んでもらうわね」
最早誰にも彼女の行為を止める事は出来ないと悟る。
嫉妬に狂った暴徒。彼女を表すものはそれ以外に無かった。
窓から差し込む月明かりのみが舞子の輪郭を映し出し、年頃の少女であると改めて思わせる。
眠りにつこうとした其の時、何故だか急に胸騒ぎがした。
確証は無いが、身が危険であると本能的に察知したのかもしれない。
舞子の頭を撫でると、ほんの一瞬だけ外に様子を見に行くことに決めた。
月が綺麗な夜である。
背後に人の気配を感じて振り向くと、頭を布で覆う細身の人物がいた。
唯一布から出ている眼で女性だと思ったが、如何やら鳴子では無い様だ。
其れならば、一体何処に居るのだろうか。
油断したと思ったのか、目の前の女は容赦無くナイフを持って襲いかかってくる。
素早く躱しナイフを蹴り上げると、衝撃でナイフを落とした女は、それでも尚私を倒そうと突っ込んでくるが、顔を覆っていた布がはだけ、隠れていた顔が顕になった。
「貴女…あの女と一緒に居た奴か…?」
問いかけると女は動きを止め、力が抜けたように座り込んだ。敵わない相手であると感じたのだろうか。
女を足止めしたのはいいが、あの手紙の内容なら当然姉も来ている筈である。
再び胸騒ぎがした為急いで戻ると、何とも言えない刺激臭が漂っていた。何処かで嗅いだことのある様な臭いだったが思い出せなかった。
寝間を含め彼方此方探したが、舞子の姿は無い。
最悪の事態を想像し外を飛び出して探し回ると、薄暗くて良く見えなかったが目の前の地面は赤黒く変色していた。恐らく血が染み込んだと考えられる。
一足遅かった。
よく見ると血痕が点々と続いているのが見えた。
僅かな月明かりを頼りにして辿って行くと、街灯が立ち並ぶあの街が見える。全力疾走して一刻も早く舞子を見つけ出さなければ。其の気持ちだけが私の頭の中を支配して止まない。
激しい頭痛と喀血、目の前が歪み始め愈々自分の死期が迫っているのだと思った。だが、関係無く走り続けた。
街に着いた途端手足が痙攣 痙攣を起こして地面に倒れ込んだが、目の前を見ると先程襲いかかってきた女とは違う女が舞子を押し倒し笑っていた。
間違いなく鳴子である。
馬乗りになり、抵抗の出来ない舞子にナイフを振りかざす所だった。
「やめろ……!」
息も絶え絶えで血を吐きながら叫ぶ。頭と肺が焼き切れる程痛い。口から音を立てて生温かい血が溢れ出る。
「貴方から舞子を奪われる筋合いは無いわ。二人の時間を邪魔しないで頂戴」
冷徹な声とは裏腹に顔は狂気に満ちた笑みだった。
言うことの聞かない手足を必死に動かし這うように前に進むが、あの刺激臭の原因とも言える薬物で上手く力が入らない。
「……舞子が意識を失う前、貴方の名前を呟いたのよ。私はそれがとてもとても憎い……! どうせなら貴方に最大の絶望を味わってから死んでもらうわね」
最早誰にも彼女の行為を止める事は出来ないと悟る。
嫉妬に狂った暴徒。彼女を表すものはそれ以外に無かった。
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