21 / 25
第弐章──過去と真実──
死せる君と。拾話
しおりを挟む
あの手紙が来て数日が経つというのに、未だに誰の気配も無かった。あの手紙の内容は嘘だったのかと疑いたくなる程だ。
窓から差し込む月明かりのみが舞子の輪郭を映し出し、年頃の少女であると改めて思わせる。
眠りにつこうとした其の時、何故だか急に胸騒ぎがした。
確証は無いが、身が危険であると本能的に察知したのかもしれない。
舞子の頭を撫でると、ほんの一瞬だけ外に様子を見に行くことに決めた。
月が綺麗な夜である。
背後に人の気配を感じて振り向くと、頭を布で覆う細身の人物がいた。
唯一布から出ている眼で女性だと思ったが、如何やら鳴子では無い様だ。
其れならば、一体何処に居るのだろうか。
油断したと思ったのか、目の前の女は容赦無くナイフを持って襲いかかってくる。
素早く躱しナイフを蹴り上げると、衝撃でナイフを落とした女は、それでも尚私を倒そうと突っ込んでくるが、顔を覆っていた布がはだけ、隠れていた顔が顕になった。
「貴女…あの女と一緒に居た奴か…?」
問いかけると女は動きを止め、力が抜けたように座り込んだ。敵わない相手であると感じたのだろうか。
女を足止めしたのはいいが、あの手紙の内容なら当然姉も来ている筈である。
再び胸騒ぎがした為急いで戻ると、何とも言えない刺激臭が漂っていた。何処かで嗅いだことのある様な臭いだったが思い出せなかった。
寝間を含め彼方此方探したが、舞子の姿は無い。
最悪の事態を想像し外を飛び出して探し回ると、薄暗くて良く見えなかったが目の前の地面は赤黒く変色していた。恐らく血が染み込んだと考えられる。
一足遅かった。
よく見ると血痕が点々と続いているのが見えた。
僅かな月明かりを頼りにして辿って行くと、街灯が立ち並ぶあの街が見える。全力疾走して一刻も早く舞子を見つけ出さなければ。其の気持ちだけが私の頭の中を支配して止まない。
激しい頭痛と喀血、目の前が歪み始め愈々自分の死期が迫っているのだと思った。だが、関係無く走り続けた。
街に着いた途端手足が痙攣 痙攣を起こして地面に倒れ込んだが、目の前を見ると先程襲いかかってきた女とは違う女が舞子を押し倒し笑っていた。
間違いなく鳴子である。
馬乗りになり、抵抗の出来ない舞子にナイフを振りかざす所だった。
「やめろ……!」
息も絶え絶えで血を吐きながら叫ぶ。頭と肺が焼き切れる程痛い。口から音を立てて生温かい血が溢れ出る。
「貴方から舞子を奪われる筋合いは無いわ。二人の時間を邪魔しないで頂戴」
冷徹な声とは裏腹に顔は狂気に満ちた笑みだった。
言うことの聞かない手足を必死に動かし這うように前に進むが、あの刺激臭の原因とも言える薬物で上手く力が入らない。
「……舞子が意識を失う前、貴方の名前を呟いたのよ。私はそれがとてもとても憎い……! どうせなら貴方に最大の絶望を味わってから死んでもらうわね」
最早誰にも彼女の行為を止める事は出来ないと悟る。
嫉妬に狂った暴徒。彼女を表すものはそれ以外に無かった。
窓から差し込む月明かりのみが舞子の輪郭を映し出し、年頃の少女であると改めて思わせる。
眠りにつこうとした其の時、何故だか急に胸騒ぎがした。
確証は無いが、身が危険であると本能的に察知したのかもしれない。
舞子の頭を撫でると、ほんの一瞬だけ外に様子を見に行くことに決めた。
月が綺麗な夜である。
背後に人の気配を感じて振り向くと、頭を布で覆う細身の人物がいた。
唯一布から出ている眼で女性だと思ったが、如何やら鳴子では無い様だ。
其れならば、一体何処に居るのだろうか。
油断したと思ったのか、目の前の女は容赦無くナイフを持って襲いかかってくる。
素早く躱しナイフを蹴り上げると、衝撃でナイフを落とした女は、それでも尚私を倒そうと突っ込んでくるが、顔を覆っていた布がはだけ、隠れていた顔が顕になった。
「貴女…あの女と一緒に居た奴か…?」
問いかけると女は動きを止め、力が抜けたように座り込んだ。敵わない相手であると感じたのだろうか。
女を足止めしたのはいいが、あの手紙の内容なら当然姉も来ている筈である。
再び胸騒ぎがした為急いで戻ると、何とも言えない刺激臭が漂っていた。何処かで嗅いだことのある様な臭いだったが思い出せなかった。
寝間を含め彼方此方探したが、舞子の姿は無い。
最悪の事態を想像し外を飛び出して探し回ると、薄暗くて良く見えなかったが目の前の地面は赤黒く変色していた。恐らく血が染み込んだと考えられる。
一足遅かった。
よく見ると血痕が点々と続いているのが見えた。
僅かな月明かりを頼りにして辿って行くと、街灯が立ち並ぶあの街が見える。全力疾走して一刻も早く舞子を見つけ出さなければ。其の気持ちだけが私の頭の中を支配して止まない。
激しい頭痛と喀血、目の前が歪み始め愈々自分の死期が迫っているのだと思った。だが、関係無く走り続けた。
街に着いた途端手足が痙攣 痙攣を起こして地面に倒れ込んだが、目の前を見ると先程襲いかかってきた女とは違う女が舞子を押し倒し笑っていた。
間違いなく鳴子である。
馬乗りになり、抵抗の出来ない舞子にナイフを振りかざす所だった。
「やめろ……!」
息も絶え絶えで血を吐きながら叫ぶ。頭と肺が焼き切れる程痛い。口から音を立てて生温かい血が溢れ出る。
「貴方から舞子を奪われる筋合いは無いわ。二人の時間を邪魔しないで頂戴」
冷徹な声とは裏腹に顔は狂気に満ちた笑みだった。
言うことの聞かない手足を必死に動かし這うように前に進むが、あの刺激臭の原因とも言える薬物で上手く力が入らない。
「……舞子が意識を失う前、貴方の名前を呟いたのよ。私はそれがとてもとても憎い……! どうせなら貴方に最大の絶望を味わってから死んでもらうわね」
最早誰にも彼女の行為を止める事は出来ないと悟る。
嫉妬に狂った暴徒。彼女を表すものはそれ以外に無かった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
パラサイト/ブランク
羊原ユウ
ホラー
舞台は200X年の日本。寄生生物(パラサイト)という未知の存在が日常に潜む宵ヶ沼市。地元の中学校に通う少年、坂咲青はある日同じクラスメイトの黒河朱莉に夜の旧校舎に呼び出されるのだが、そこで彼を待っていたのはパラサイトに変貌した朱莉の姿だった…。
ゾバズバダドガ〜歯充烏村の呪い〜
ディメンションキャット
ホラー
主人公、加賀 拓斗とその友人である佐々木 湊が訪れたのは外の社会とは隔絶された集落「歯充烏村」だった。
二人は村長から村で過ごす上で、絶対に守らなければならない奇妙なルールを伝えられる。
「人の名前は絶対に濁点を付けて呼ばなければならない」
支離滅裂な言葉を吐き続ける老婆や鶏を使ってアートをする青年、呪いの神『ゾバズバダドガ』。異常が支配するこの村で、次々に起こる矛盾だらけの事象。狂気に満ちた村が徐々に二人を蝕み始めるが、それに気付かない二人。
二人は無事に「歯充烏村」から抜け出せるのだろうか?
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

ニスツタアの一途
史
ホラー
昭和初期、商家の息子で小説家志望の聖治は、女遊びと小説の執筆に明け暮れていた。そんな中、家業が危機に陥り、聖治は家を助けるために望まぬ婿入りを強いられる。婿入りした先は山奥の名家、相手は白髪で皺だらけの老女だった。年老いた妻に聖治は嫌悪を覚えるが――。
究極?のデスゲーム
Algo_Lighter
ホラー
気がつくと、見知らぬ島に集められた参加者たち。
黒いフードを被った謎のゲームマスターが告げる—— 「これは究極のデスゲームだ」。
生き残るのはただ一人。他の者に待つのは"ゲームオーバー"のみ。
次々に始まる試練、迫りくる恐怖、そして消えていく敗者たち。
しかし、ゲームが進むにつれて、どこか違和感を覚え始める主人公・ハル。
このデスゲーム、本当に"命がけ"なのか……?
絶望と笑いが交錯する、予測不能のサバイバルゲームが今、幕を開ける!
呪木-JUMOKU-
朝比奈 架音
ホラー
――呪い。
それは、普通の高校生だった私たちの日常を一変させてしまう。
どこから来たのかわからない。
誰が始めたのかもわからないこの呪いは、着実に私たちを蝕んでゆく。
1人が死に、2人が死に、そして親友までもがその呪いに侵されて……。
これを目にしたあなたにお願いがあります。
どうか、助けてください。
お願いします。
お願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる