死せる君と。

木蔦空

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第弐章──過去と真実──

死せる君と。番外編②

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<エヴィの遺書>

御機嫌ごきげんようウィーリ。表向きには遺書としているけれど、これは貴方に向けたラブレターだと思ってください。

私は例のスペイン風邪にかかり、お医者様から私の体力では持たないかもしれないと言われてしまいました。小さい頃から直ぐ熱を出して倒れるほど身体が弱いのは知っているでしょう。大抵たいてい次の日には良くなっていますから、今回もその一つだろうと踏んでおりましたが、容態ようだいは日に日に悪くなっていくばかりです。連日続く高熱で何も喉を通らずやつれてしまい、お父様も毎晩泣いているとバトラーも言っておりました。私はもう長くは無いようです。そこで貴方に私の胸の内を伝えようと生きている間にこの手紙を書くことに決めました。

本当は貴方に一刻も早く私の元に戻ってきて欲しい。そして抱き締めて欲しい。ですが貴方は今お国のために身命しんみょうして戦っているため其れは叶わないでしょう。国の命令には所詮しょせん中流階級の令嬢と言うだけでは如何どうしようもないのです。ですから今の私では貴方の無事を祈る事しか出来ません。兵として家を出る前、貴方は私の優しい所が好きだと言ってくれましたが其れは違います。私が貴方の人柄の良さに惚れ、貴方の様になりたいと思ったのです。労働者階級ワーキングクラスで気が弱いからと大人達から毎日の様に殴られ、小さな身体に沢山のあざを作っても、貴方は何時も笑顔で皆に接していました。親に甘え何でも我儘わがままを言っていた私はその姿をみて途端とたんに恥ずかしくなったのを覚えています。それから態度を改め、貴方を見ていくうち貴方の事が頭から離れなくなりました。然し、身分を超えた恋愛は世間体せけんていを気にして許してくれません。唯貴方と話したいだけであっても毎日舞い込んでくる縁談の所為せいで其れすらも叶いませんでした。そんな時、貴方から気持ちを伝えられた時はこの世で一番の幸せ者だと涙をこらえるのが精一杯だったものです。

私と出逢ってくれて有難う。私に優しくしてくれて有難う。そして……私に生きる幸せを与えてくれて有難う。

長くなりましたが、最期に私の二つの我儘を聞いて欲しいのです。

貴方は私よりも身体が丈夫で人柄も良い。だから私の後を追うことなんて止めて、私よりも長く生きて下さい。そして何時か、大切な人を見つけたら絶対離さずに幸せになりなさい。

愛しています
                                                           
Evieエヴィ Mayメイ Samuelsサミュエルズ
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