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第1章──Captive World──
第14話 Captive World
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路地を進んで行くと、段々血腥い匂いが強くなっていき鼻を刺激する。
「僕丸腰だけど大丈夫かな……これ……」
「弱気になっていてもしょうが無いよ。何かあれば短剣と技能でどうにかするしか無いんだから」
「確かにそうなんだけどさ……」
「ほらほら早く行かないとキコルが…」
「いやあああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
奥の方から声が聞こえた。間違いなくキコルの声だ。
「今の……!」
「……ああ、間違いねぇ……。最悪の状況になる前に急ぐぞ! と言いたい所だけど、暗くて前が見えねぇ……」
「私に任せて」
そう言うとナツメは髪を1本抜くと、息を吹きかける。すると銀色の髪は徐々に発光していき、5m先が見える様になるぐらいまで明るくなった。
「え!?そんな力あったのか!?」
「私の唯一と言ってもいい特技だよ。まさかこんな所で役に立つとは思わなかったけどね」
「でかした!」
再び前を向き走り始める。匂いが強くなっていっているため、噎せるのを我慢しながら進むと座り込むキコルと爺さん、そして2人の対面に立つ、黒いフードを深く被った大柄な奴がいた。顔を隠しており、男か女かすら分からない。
「お前!!何やってんだよ!」
啖呵を切って話しかけるも反応は無い。
「テバット気をつけて……! あの黒フードの奴、右手にでっかい包丁持ってるよ……!お爺ちゃん私を庇ってソイツにやられた……!!」
見ると、爺さんは左膝を切断され夥しい程の血を流していた。
「物騒な奴だな……キコルの能力でどうにかならないのか……!?」
「無理だよ……」
「へ……?」
「傷を治したり、流れ出る血を止めたりする事は出来ても、切断されてしまったものを能力で繋ぎ合わせるのは難しいんだよ……。全てを正確に繋ぎ合わせ無いといけないから時間がかかっちゃうの……!!」
「なんだって……」
「私じゃどうしても力不足なの……早く治療しないとお爺ちゃん死んじゃう……!」
大粒の涙をボロボロ流し、しゃくり上げながら訴えかけるキコルを見て、目の前の黒フードに尋常ではない殺意を覚えた。
「……技能展開。Accelerate Five minutes」
ほぼ無意識に言っていた。周りの風景が静止し身体が軽くなると、風を切るように走り、持っていた短剣で黒フードの両腕を付け根から切断するが如く斬り裂く。脂肪のせいか上手く刃が通らなかったが、技能の効果時間が終わった瞬間、黒フードの肩から鮮血が迸った。
「ぐああァァァァァ!!!」
声の低い女の様な声。風が吹き、フードが捲れると、隠されていた顔が顕になったのだが、黒フードの正体は俺が炙り串を買った所の女店主だった。となれば、手に持っているのは肉切り包丁か。
「お前……!?」
体力を消費し、息が絶え絶えの俺は胸を抑える。
「……あん時の兄ちゃんか。まさかアンタにバレるとはね……。バレてしまったのならしょうがない。ここで死んでもらうか」
憎悪にまみれた低い声の奴は、使い物にならない両腕で肉切り包丁を持って突っ込んでくる。動きは単調で、躱すのは簡単だ。だが、今日だけで2度も技能を乱発したために、身体が言う事を聞かなかった。
「動け……!! 何でここに来て動かねぇんだよ……!!」
しかし、目の前の女は包丁を振りかざす所だったのだが、何故か動きが遅い。まるでスローモーションを再生しているかのように。爺さんの脚を切断するほど高い攻撃力を持っているのなら、力のない俺は短剣で受け止める事は不可能に近いだろう。ならばどうするか。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「……死ぬのはお前だ」
そう言うと瞬間的に右脚を奴に向けて伸ばし、バックキックを決めた。脚は奴の腹部を直撃し、一瞬動きが止まる。その隙を突き後ろに回り込むと、腕で首を絞め上げ短剣を逆手に持って顔に突きつけた。
「お前……キコルに手ェ出して無事で済むと思うなよ」
持っていた包丁を落とし、両手を力が抜けた様に下げると、奴はこの世界の警察代わりである護衛隊によって引き取られた。僕も護衛隊に幾つか質問されたが、被害者である事を話すとすぐに解放されたため牢屋にぶち込まれることは無いと安堵した。爺さんもすぐに病院に運ばれたが、やはり左脚は元に戻らなかったらしい。
「いやぁ……恐ろしかった……まさかあの人がキコルを付け狙ってたなんてな……」
「私はテバットの顔の方が怖かったな……」
「私もキコルに同意だよ。急に「俺」とか言い出すし、話し方変わるし、動きが早くなるし……」
「えっ!? 僕そんなヤバい奴みたいになってた!?」
「「うん」」
正直、無意識過ぎて全然覚えていない。
「でも、テバットいなかったら多分私もお爺ちゃんも死んでたかもしれないから助かったよ! ありがとう!」
キコルの笑顔を見て、僕はもっとこの世界の人達を助けたいと思った。だが、そのためには技能の向上が不可欠である事も否めない。
「……ナツメ、僕もっと技能を習得して、使いこなせる様になろうと思う」
「それはごもっともなんだけど、難題攻略も忘れずにね……?」
「も、勿論だ! 」
しかし、この時の僕はこれまでとは比にならない程険しい道のりがこれから待ち構えていることに、気が付いていなかった。
……Captive World、僕がこの世界の秘密を知るのはまだ先の話だ。
第1章 ─Captive World─ 編
end
「僕丸腰だけど大丈夫かな……これ……」
「弱気になっていてもしょうが無いよ。何かあれば短剣と技能でどうにかするしか無いんだから」
「確かにそうなんだけどさ……」
「ほらほら早く行かないとキコルが…」
「いやあああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
奥の方から声が聞こえた。間違いなくキコルの声だ。
「今の……!」
「……ああ、間違いねぇ……。最悪の状況になる前に急ぐぞ! と言いたい所だけど、暗くて前が見えねぇ……」
「私に任せて」
そう言うとナツメは髪を1本抜くと、息を吹きかける。すると銀色の髪は徐々に発光していき、5m先が見える様になるぐらいまで明るくなった。
「え!?そんな力あったのか!?」
「私の唯一と言ってもいい特技だよ。まさかこんな所で役に立つとは思わなかったけどね」
「でかした!」
再び前を向き走り始める。匂いが強くなっていっているため、噎せるのを我慢しながら進むと座り込むキコルと爺さん、そして2人の対面に立つ、黒いフードを深く被った大柄な奴がいた。顔を隠しており、男か女かすら分からない。
「お前!!何やってんだよ!」
啖呵を切って話しかけるも反応は無い。
「テバット気をつけて……! あの黒フードの奴、右手にでっかい包丁持ってるよ……!お爺ちゃん私を庇ってソイツにやられた……!!」
見ると、爺さんは左膝を切断され夥しい程の血を流していた。
「物騒な奴だな……キコルの能力でどうにかならないのか……!?」
「無理だよ……」
「へ……?」
「傷を治したり、流れ出る血を止めたりする事は出来ても、切断されてしまったものを能力で繋ぎ合わせるのは難しいんだよ……。全てを正確に繋ぎ合わせ無いといけないから時間がかかっちゃうの……!!」
「なんだって……」
「私じゃどうしても力不足なの……早く治療しないとお爺ちゃん死んじゃう……!」
大粒の涙をボロボロ流し、しゃくり上げながら訴えかけるキコルを見て、目の前の黒フードに尋常ではない殺意を覚えた。
「……技能展開。Accelerate Five minutes」
ほぼ無意識に言っていた。周りの風景が静止し身体が軽くなると、風を切るように走り、持っていた短剣で黒フードの両腕を付け根から切断するが如く斬り裂く。脂肪のせいか上手く刃が通らなかったが、技能の効果時間が終わった瞬間、黒フードの肩から鮮血が迸った。
「ぐああァァァァァ!!!」
声の低い女の様な声。風が吹き、フードが捲れると、隠されていた顔が顕になったのだが、黒フードの正体は俺が炙り串を買った所の女店主だった。となれば、手に持っているのは肉切り包丁か。
「お前……!?」
体力を消費し、息が絶え絶えの俺は胸を抑える。
「……あん時の兄ちゃんか。まさかアンタにバレるとはね……。バレてしまったのならしょうがない。ここで死んでもらうか」
憎悪にまみれた低い声の奴は、使い物にならない両腕で肉切り包丁を持って突っ込んでくる。動きは単調で、躱すのは簡単だ。だが、今日だけで2度も技能を乱発したために、身体が言う事を聞かなかった。
「動け……!! 何でここに来て動かねぇんだよ……!!」
しかし、目の前の女は包丁を振りかざす所だったのだが、何故か動きが遅い。まるでスローモーションを再生しているかのように。爺さんの脚を切断するほど高い攻撃力を持っているのなら、力のない俺は短剣で受け止める事は不可能に近いだろう。ならばどうするか。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「……死ぬのはお前だ」
そう言うと瞬間的に右脚を奴に向けて伸ばし、バックキックを決めた。脚は奴の腹部を直撃し、一瞬動きが止まる。その隙を突き後ろに回り込むと、腕で首を絞め上げ短剣を逆手に持って顔に突きつけた。
「お前……キコルに手ェ出して無事で済むと思うなよ」
持っていた包丁を落とし、両手を力が抜けた様に下げると、奴はこの世界の警察代わりである護衛隊によって引き取られた。僕も護衛隊に幾つか質問されたが、被害者である事を話すとすぐに解放されたため牢屋にぶち込まれることは無いと安堵した。爺さんもすぐに病院に運ばれたが、やはり左脚は元に戻らなかったらしい。
「いやぁ……恐ろしかった……まさかあの人がキコルを付け狙ってたなんてな……」
「私はテバットの顔の方が怖かったな……」
「私もキコルに同意だよ。急に「俺」とか言い出すし、話し方変わるし、動きが早くなるし……」
「えっ!? 僕そんなヤバい奴みたいになってた!?」
「「うん」」
正直、無意識過ぎて全然覚えていない。
「でも、テバットいなかったら多分私もお爺ちゃんも死んでたかもしれないから助かったよ! ありがとう!」
キコルの笑顔を見て、僕はもっとこの世界の人達を助けたいと思った。だが、そのためには技能の向上が不可欠である事も否めない。
「……ナツメ、僕もっと技能を習得して、使いこなせる様になろうと思う」
「それはごもっともなんだけど、難題攻略も忘れずにね……?」
「も、勿論だ! 」
しかし、この時の僕はこれまでとは比にならない程険しい道のりがこれから待ち構えていることに、気が付いていなかった。
……Captive World、僕がこの世界の秘密を知るのはまだ先の話だ。
第1章 ─Captive World─ 編
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