社畜の彗星は銀髪の妖精と3つの難題(クエスト)に挑む

木蔦空

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第1章──Captive World──

第13話 技能展開(ディプロイスキル)

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夕日が沈み星が点々と夜空を彩る頃、俺とナツメは再びティルラ街に戻って来た。

「ようやく戻ってこれたな…」

「うん。早くキコルの元に戻って安全を確保しなきゃ」

「となれば、急ぐぞナツメ!」

「うん…!」

しばらく走るとキコルの爺さんの宿が見えて来たが、明かりはついていなかった。

「2人とも寝てるのか…?」

「でも気配を感じないよ?」

途端に胸騒ぎがした俺はキコルが居た部屋に来るも、もぬけの殻だった。外は祭りでにぎわっているというのに、ここだけは静まり返っている。

「……これは大変な事になったな」

「もしかしたらもう……」

「そんな事言うなよ……!とりあえず探そう」

宿を飛び出し探し回った。祭りの所為せいで人の数が多くなかなか見つけられない。特徴的な長い白髪だからすぐ見つかると踏んだのだが、よく考えてみればそんな目立つ格好で外に出るわけが無い。

「……こんな時に言うべきじゃないんだけど、第1の試練ミッションってクリアしたの?」

「見てなかった……。」

素早くステボを起動して見てみるが、まだクリアしていないことになっている。

「どういう事だ…?マキとルキが嘘をついているとも思えないし…」

「もしかしたら技能スキル使わないと達成出来ないのかも」

「マジかよ……」

「どうせ急ぐのなら技能使って探すのもアリだと思うよ」

「……そうだな」

一旦立ち止まり、右脚を前に左脚を後ろに踏ん張る姿勢を取ると、あの言葉を詠唱えいしょうする。

技能展開ディプロイスキルAccelerate加速する Five minutes5秒間…!!」

唱えて走り出そうとした時、水の中に居る様に身体の動きが鈍くなった。空気の密度が重くなったのだろうか。俺は恐怖と戸惑いで目をつぶった。

「…テバット、目を開けて」

ふとナツメの声で引き戻される。恐る恐る目を開けると、信じられない光景が広がっていた。そう、周りが時が止まった様に動かないのだ。しかし、さっきとは打って変わって身体が軽くなり、さっきまで騒がしかった街が一気に静寂に包まれた。

「技能展開成功だね。まさか一発目で成功するなんて思ってなかった。さぁ早くしないと終わってしまうよ」

そうだった。この技能は5秒間しか持たないのだ。あたふたしている内にまた身体が重くなり再び時間は進み始めた。すると途端とたんに力が抜けひざから崩れ落ちる。呼吸が苦しくなり、まるでマラソンを走り終えた様な感覚に襲われた。

「大丈夫!?技能は体力の消耗が激しいみたいだね……。これじゃあ乱発出来ないよ……」

「俺は…大丈夫だ……。さっきまで走ってても苦しく無かったのに……何でだ……?」

「…恐らく装備の効果だと思う」

「装備……?短剣か今着てるスーツ位しかないぞ……?」

「ステボに書いてない?」

ステボを開こうとした時、俺達の会話を切り裂くようにポロローンと謎の透明感のある音が鳴りステボが現れた。見るとそこには《第1の試練ミッション技能スキル:Accelerate加速する Five minutes5秒間習得マスターせよ』CLEAR!》と表示されている。

「やっぱり使わないといけないパターンだったか……にしてもまだ1つ目の難題クエストの一部分が終わっただけなのかよ……」

項垂うなだれていると、近くで悲鳴の様な声が聞こえた。これだけ人が騒いでいるのにはっきりと。

「…テバット、嫌な予感がするよ。声のした方に行って…」

「そんな事している場合か!一刻も早くキコルを見つけ出さなきゃいけないだろ!」

「でも……!!!」

「………」

「いいか、君はなんだろ……!目の前の人一人助けないで何が守護者ガーディアンだ!この意気地無し!」

「……なんなんだよ………さっきから……!俺だって好きでこの世界に来た訳でも守護者になった訳でもねぇ!」

「……!!」

「…何時も何時も人の顔をうかがって、何時も何時も謝って、何時も何時も自問自答を繰り返す様な僕に人助けしろだなんて荷が重過ぎるんだよ……!」

ここまで言うと涙が溢れて止まらなくなった。勿論もちろん自分でも情けないと思っている。だがそれ以上に、自分に課せられた難題クエストという重圧に今にも押し潰されそうだった。

「……ごめん、君を責めるような口調になってしまって」

「いいんだ。僕は今まで逃げ続ける人生だったから、何時かは変わらないといけない瞬間が来るはずだったんだ。この世界に来てからだよ、ちゃんと立ち向かおうって思えたの」

「…そっか」

「キコルも、助けを求めている人もどっちも助けよう」

「さすがテバットだね。手遅れになる前に早く行こう」

「おう……!」

そこからの行動は早く、すぐに声のした方に走ると、路地の入口付近に怪我をしたまだ幼い茶色い髪の少女を見つけた。彼女は右まぶたを無惨にも斜めに切り裂かれ、顔が血塗れになっていたため、スーツの下に来ていたシャツを細長く破き包帯代わりとして応急処置を施す。パニック状態だったのを何とかなだめて何が起こったのか聞いてみると、突然フードで顔を隠した大柄な人に切りつけられたという。

「とりあえず命に関わる様な傷じゃなくて良かった…」

「ホントだね……。あ、テバット、この子にキコル達の事聞いてみない?」

「手掛かりを掴めるとは思えないが……。ねぇ君、白い髪の女の子とお爺さん見なかったか?」

「……ううん。でも私を襲って来た人、私の事見て『あの白髪の女子おなごでは無かったか……』って言ってた気がする」

「ナツメ……これ……」

「間違いないね。キコルの事だよ」

思わぬ収穫に驚きつつ、その人物について詳しく話を聞くと、ソイツは大きな刃物を持っており路地の方へ歩いていったらしい。

「ありがとう。とても助かったよ。本当は安全な場所まで送り届けてやりたいけど、生憎あいにく急いでてな……」

「大丈夫!真っ直ぐお家に帰るから!お兄ちゃん達も気をつけてね!」

少女の頭を撫でながら返事をすると先の見えない暗い路地の奥へ走った。
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