社畜の彗星は銀髪の妖精と3つの難題(クエスト)に挑む

木蔦空

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第1章──Captive World──

第7話 災厄の前兆

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無事キコルを見つけ難題クエストの達成に1歩近づいたのだが、僕は退屈していた。キコルを護ると言ったのは良いものの、異世界ファンタジーの醍醐味だいごみである戦闘バトル要素が何も無いのである。今の所、自分の腕を短剣で切り裂いただけで、これといったトラブルも無い。

「明日の夜まで何するんだ?」

キコルに聞こえないようにナツメにコソッと聞く。

「うーん…護衛をしながら祭りを堪能たんのうでもすればいいんじゃないかな」

思っていた通りの返事でえる。

「なんて言うか…面白味無いよな……」

「テバット、何か言った?」

心の声がれていたのだろうか、目の笑っていないナツメがこちらを向いている。

「いやいや!何も言ってないぞホントホント」

突然黒くなったナツメにビビる僕はやはり意気地無いくじなしだと気づく。

「あんた誰と話してんの?」

首をかしげたキコルがこちらを向いて聞いてくる。

「あ、いっけね!そう言えば紹介忘れてた!僕はテバット、こっちに居るちっこいのがナツメだ」

「そ、そうなんだ…よろしくねテバット。と…ナツメちゃん…??」

何故か疑問形なキコルに俺も首を傾げていると、隣でうずくまる銀髪が目に入った。

「…何笑ってんだよナツメ」

「ごめんごめんフフッ私も言い忘れてたけど、私の姿テバットにしか見えないんだよね」

開いた口が塞がらない。それなら僕は今まで見えない奴と会話してる可笑おかしな奴では無いか。

「もっと早く言ってくれよ!?」

「だって気づいてると思ってたからフフッ」

笑うのをやめないナツメに若干イラついていると、キコルがナツメの方を向いて話しかけた。

「姿は見えないけど、そこにいるの?ナツメちゃん」

姿が見えないのに、どうやって返事をするのかと思ったら、飛んで行ったナツメは近くの街路樹がいろじゅの葉を揺らす。するとキコルはぱあっと満面の笑みを浮かばせて両手をブンブンと振った。

「テバットが嘘ついているだけかと思っていたけど本当にいるんだ!!」

「失礼な!僕は嘘つきなんかじゃない!」

目をきらめかせるキコルに笑いながら返事をしていると、ふと明日キコルが殺される事を忘れてしまいそうになる。それを阻止する為に僕が近くに付いているのだが、最早意味が無いとも思い始めていた。

僕は何故油断が多いのだろうか。


日が暮れ、火のついた大小様々色とりどりのキャンドルと、沢山の屋台から聞こえる威勢の良い声がティルラ街を包んでいる。

「すごいな…日本の祭りとテイストが違う……!」

黄色い液体が入った木製のカップ片手に辺りを見渡す。

「そりゃあ異世界だからね。日本と違って当たり前だよ~」

マシュマロのようなフワフワとした青い色の菓子にかじりつくナツメも楽しそうだ。

「さっすが異世界…!僕の冒険心を奮い立たせてくれるな…!!!」

今まで見たことの無い光景に僕のボルテージはMAXに達していた。

「ねぇテバット、さっきから聞こえるニホンとかイセカイって何?」

スーツの裾を掴むキコルは純粋な瞳で問いかける。

「えっ!?あ~それはアレだよ、ここはティルラって街があるようにニホンとかイセカイって名前の街があるんだよ」

誤魔化すのに必死で少し口調がキツくなった。あまりにも不意打ちで質問が来るもんだからしょうがない。

「テバットとナツメちゃんはその街から来たの?それならどっちの街?」

再び不意打ちの質問で口に入っていた液体を思わず吹き出しそうになるが飲み込む。

「あ~えっとそういう話はあっちでしないか!?」

咄嗟とっさにデタラメな場所に指を差した。僕自身何か店でもあるかと思っていたのだが、差した方を見るとそこは明らかに怪しそうな路地裏で、案の定二人は苦虫を噛み潰した様な顔をした。

「人居ないだろうからゆっくり話せるかもしれないだろ?」

目を逸らして答える僕はきっと格好悪く見えているだろう。一先ひとまず先頭を切る様に路地裏に入るとそこはジメッとしていた。それに、雨も降っていないはずなのに水溜まりらしきものもある。

「此処、水捌みずはけ悪いのか…?」

ぴちゃぴちゃと音を立てながら歩いていくと、ふとスーツが引っ張られる感覚がして、見るとキコルは目を潤ませガタガタと震えながら裾を掴んでいた。

「…これ…じゃない…!!!」

あまりにも異常な反応を示すキコルに不信感を覚えつつ、その水溜まりに右手の人差し指を突っ込むと、少しドロっとしていて水ではないことが分かった。すくい上げるとそれはどうやら血のようだ。

「うわああああああ!!!!!!」

腰を抜かし尻餅をついた。持っていたカップは音を立てて転がり、中の液体は血と混ざっていく。よく見ると周り一帯に血溜まりが広がっている。この血の量なら誰か死んでいても可笑おかしくない。

「テバット…此処は危ないから早急さっきゅうに逃げた方がいいと思う」

ナツメにささやかれたが、腰を抜かした所為せいか上手く身体に力が入らない。

「テバット!!!!!!」

僕を叫ぶキコルの目には大粒の涙。その時ハッとした。俺はこの子を守らなきゃいけない、こんな所でビビっていては目の前で殺されるかもしれない。

「……ごめん行こう」

血で濡れるのも気にせず地面に手を付き立ち上がった。
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