社畜の彗星は銀髪の妖精と3つの難題(クエスト)に挑む

木蔦空

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第1章──Captive World──

第6話 心機一転

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「人を幽霊みたいに扱うなんて酷い!」

頬をぷくっと膨らませたその子キコルは涙目になっていた。どうやら第一印象は最悪らしい。

「ご、ごめん気付かなくて…」

あたふたしながら返すとキコルは更に目に涙を溜める。

テバットって女心分かってないよね」

ナツメの確信を突く言葉に胸を押さえた。1度も彼女が出来た事の無い男に女心なんて分かるわけ無いのだ。

「あ、あんたなんて大っ嫌い!!」

トドメを刺され膝から崩れ落ちる。初めて会った女の子に早々嫌われ、硝子ガラスのメンタルが粉々に砕かれた気分だ。

「こらぁキコル!初対面の人にそんな事言ったら失礼だろ!」

「だって…コイツ、キコルの事影薄いって…」

「は、はは……」

もう滅茶苦茶である。僕は泣いたまま笑うしかなかった。

何とか全員落ち着き、状況を整理する。目の前に立つ白髪の女の子はキコル。白と黒の古典的クラシックなドレスを着た身体はやや小柄で細身、切り揃えられた腰辺りまで伸びる髪は艶やかで、睫毛まつげも同じ色をしている。目は薄いモスグリーンで肌はとても白い。恐らくキコルは先天性白皮症アルビノであると思われる。性格はキツそうだが、見た目は美少女そのものだ。

「ジロジロ見るなんて変態」

ライフはもうゼロだが、いちいち傷付いていては話が進まないので無視する。

「キコル、僕の事が気に入らないだろうが話を聞いてくれ。君はこのままだと明日殺される。信じられないと思うが本当だ。」

「やっぱりこの姿だから!?」

俯く彼女の顔は分からないが、きっと涙を堪えるのに必死なのだろう。身体がプルプルと震えている。

「そりゃあ白い肌に白い髪なんて珍しいからいつかは殺されるわよ。でも何でそれを知らせに来たの!?知らないままの方が恐怖を感じずに死ねたかもしれないのに!!!」

ここまで言われてやっと自分がどれ程重大な事を引き受けているのかを自覚した。ここ囚われの世界に居る人達は皆自我があり、感情がある。自分が容易に踏み込んでいい所では無いのだ。ましてや、面倒だとか思っていた自分が恥ずかしい。

「傷付けてしまったならごめん。僕は君を護るために探してたんだ。」

「嘘言わないでよ!パパも…あの男もそう言って私と同じ容姿のママを殺したのよ!?黒い目で黒い髪のあんたの事なんて信じられるわけないじゃない!!」

どうやら彼女の傷は思っていたよりも深いらしい。どうすれば信用して貰えるのか考えた時、ふとキコルの左腕の切り傷が視界に入った。すかさず、近くの武具屋で安い短剣を買い、スーツの袖を捲りあげて彼女と同じ場所を短剣で切り付ける。

「これで…俺を信じてくれるか……?」

ざっくりと切れた傷口から血がボタボタと流れ、顔がゆがむほど痛むが、信用して貰うには仕方ない。VRMMOとは違うとしても、視覚表現グラフィック痛覚ペインも現実世界に居た時と何ら変わらない。

「あんた…なんで……」

顔を上げたキコルは口を押えて俺を見ている。

「俺なりの決意表明さ。キコルを絶対護るって」

「お前……」

おとこ見せたね、テバット」

少しだけ視界が揺れるがここまでしたならきっと…

「やめてよ……!」

涙声で叫び僕の元へ駆け付けたキコルは小さな両手で僕の傷口を圧迫した。

「何をして…!?…えっ?」

数秒後、彼女が手を離すと信じられない事に、さっきまであんなに熱を帯びていた傷口が跡形もなく消え去った。

「私、この世界でたった1人の超治癒能力者ヒーリングアビリティアなの。命が狙われているのは容姿だけじゃなくてこの能力の所為せい。この街にいる人達はほとんど知らないけど、一部の裏の人達は知ってる。それでも良いなら私を護らせてあげるわよ」

すっかり涙の乾いたキコルは眉を吊り上げた笑みを浮かべる。言葉は強いが、要は信頼して貰えたってことで良いだろう。

「絶対死なせないから…!」

覚悟を決めた。この世界囚われの世界ではもう逃げない。彗樹テバットに生まれ変わる。
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