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13話
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昨日はいつの間にか眠っていたらしく、気づいた頃には空は明るくなっていた。そして、目覚めたということはまだ私は過去にいるということなのだろう。精霊師の話を聞き、余計に何が何だか分からなくなってしまったイリシスは目が覚めたにも関わらず、ベッドから起き上がる気力すらなかった。
「お嬢様。そろそろ起きないと朝食のお時間ですよ。」
いつまで経っても起きてこないことを不思議に思ったジエルが起こしに来てしまった。心配性の彼女は、私が起きたくないなんて言ったら直ぐに体調不良を疑うだろうと思い、その言葉に素直に従って朝食をとった。
ぼーっとしているのがなんとなく落ち着かず、過去に戻る前に何があったのかを整理しようと椅子に座った。そして、これまで何があったかを思い出そうとしたその時、それを拒むかのようにずきっと頭が痛んだ。
何度試しても、頭痛が走るだけで何ひとつとして思い出せないのだ。過去に戻った、ということだけはわかるのに、これまで何が起こったかを何も思い出せない。思い出せるのは殺されたことだけ。
覚えていたはずなのに、なぜ殺されたのかも、誰に殺されたか。それすらも全く分からないのだ。
「記憶が、消されてる……?」
どれだけ必死に思い出そうとしても頭に浮かぶのは10歳までの記憶とよく分からない使命感だった。
そのとき、ふと精霊士やお母様、天女記の言葉を思い出した。あんな現実味のない話が本当な訳が無い。頭ではそう考えても、残る可能性は一つしかないのだ。
私が天女の生まれ変わりで、皇太子が__。
イリシスは考えることすら怖くなり、ベッドに潜り込んだ。ありえないと思いたいのに、私が天女なら全て辻褄があってしまうのだ。過去に戻ったことも、精霊士のいう義務とやらもけれど、あんな冷徹な人をどう愛せというのだ。そして、彼も私なんかを愛す訳がない。
私の祖先に当たるらしい天女様には申し訳ないが、もう諦めてもらうしかない。彼と私の間に愛が生まれるはずなどないのだから。
1000年に1度の再開だとか、そんな綺麗事のために私があんな人と恋愛をするだなんて、到底無理な話だ。婚約者である以上、結婚はするだろうがそこに愛は存在しない。お互いに家のため、利益のためだけの関係を結ぶのだ。
周りの大人たちはおめでたいことに、私たちが愛し合ってるとでも思っているかもしれないが、そんな美しい関係はなく、そこには氷のように冷たく固い契約しかないのだ。
「お嬢様。そろそろ起きないと朝食のお時間ですよ。」
いつまで経っても起きてこないことを不思議に思ったジエルが起こしに来てしまった。心配性の彼女は、私が起きたくないなんて言ったら直ぐに体調不良を疑うだろうと思い、その言葉に素直に従って朝食をとった。
ぼーっとしているのがなんとなく落ち着かず、過去に戻る前に何があったのかを整理しようと椅子に座った。そして、これまで何があったかを思い出そうとしたその時、それを拒むかのようにずきっと頭が痛んだ。
何度試しても、頭痛が走るだけで何ひとつとして思い出せないのだ。過去に戻った、ということだけはわかるのに、これまで何が起こったかを何も思い出せない。思い出せるのは殺されたことだけ。
覚えていたはずなのに、なぜ殺されたのかも、誰に殺されたか。それすらも全く分からないのだ。
「記憶が、消されてる……?」
どれだけ必死に思い出そうとしても頭に浮かぶのは10歳までの記憶とよく分からない使命感だった。
そのとき、ふと精霊士やお母様、天女記の言葉を思い出した。あんな現実味のない話が本当な訳が無い。頭ではそう考えても、残る可能性は一つしかないのだ。
私が天女の生まれ変わりで、皇太子が__。
イリシスは考えることすら怖くなり、ベッドに潜り込んだ。ありえないと思いたいのに、私が天女なら全て辻褄があってしまうのだ。過去に戻ったことも、精霊士のいう義務とやらもけれど、あんな冷徹な人をどう愛せというのだ。そして、彼も私なんかを愛す訳がない。
私の祖先に当たるらしい天女様には申し訳ないが、もう諦めてもらうしかない。彼と私の間に愛が生まれるはずなどないのだから。
1000年に1度の再開だとか、そんな綺麗事のために私があんな人と恋愛をするだなんて、到底無理な話だ。婚約者である以上、結婚はするだろうがそこに愛は存在しない。お互いに家のため、利益のためだけの関係を結ぶのだ。
周りの大人たちはおめでたいことに、私たちが愛し合ってるとでも思っているかもしれないが、そんな美しい関係はなく、そこには氷のように冷たく固い契約しかないのだ。
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