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12話
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夕食を食べてすぐ、今日の疲れを癒そうとお風呂に入った。前世ではこれが当然だと言わんばかりに、皇后であるにも関わらず皇帝専用の雑用ロボットかのように働かされていたから頭を使うなんてことはほとんどなかったため感覚が麻痺していたのか、こうやって久しぶりに頭を使うと思ったよりも疲れる。
「ねえジエル。お風呂から上がったらアイスを食べたいなぁ、。今日は頭も使ったし疲れてしまったの。」
「あら、この前アイスは太っちゃうから食べないっておっしゃっていたじゃないですか。よろしいのですか?」
「だめかしら?」
「ふふふっ。お嬢様もやっぱりまだ子供ですね。準備させておきます。」
「ありがとう。さすがジエル。」
「お褒めに預かり光栄です。そろそろご入浴の時間ですがどうなさいますか。」
「直ぐに入るわ。」
「かしこまりました。」
そう言ってすぐにジエルは入浴の準備をし始めた。こんなに身の回りの世話をしてもらうことは久々のことだったため変に感じてしまうが、何がそんなに楽しいのか私にはさっぱり分からないが、優しい笑みを浮かべながらテキパキと準備する様子を見ていると言いようのない多幸感に包まれた。
暖かく、ふわふわして、少しくすぐったいようで心地よいような。いきなり転生して、何故こんなことになってしまったのかという答えもみつからないようなことを考えていたのもどうでもいいように思えた。
そんなことを考えているとジエルに声をかけられた。
「入浴の準備が整いました。」
「ありがとう。」
浴室に入った瞬間に鼻腔を擽るのはローズマリーの入浴剤の香り。前世でも疲れている時は決まってこの入浴剤を使っていたっけ、なんて他人事のように思い出しながら湯船に浸かった。
「お嬢様の髪、本当にお綺麗ですね。」
「そうかしら。お母様からの贈り物かしらね。」
「髪色もそっくりですしね。」
こんな何気ない会話も私の心を癒すには十分すぎて、なんだか心の奥から何かがふつふつと湧き上がってくるような感じがした。
どこに行くにも冷たい視線と陰口が付き物で、雑用を強いられるのも当たり前。それがいきなりこんなに優しくされるだなんて、なんだか落ち着かない。
そわそわした気持ちの収まらぬまま、入浴を終え部屋に戻るとそこに居たのはリンデンだった。見間違いかと数回瞬きをするものの、やはりそれは現実で。
「いきなりですまない、イリシス。父上からそなたに贈り物だそうだ。」
「御機嫌よう、リンデン様。お忙しい中ありがとうございます。」
「いや、いいんだ。私もそなたに会いたかったから都合が良かったんだ。」
その言葉に、思わず”へ......?”と間抜けな声が漏れた。会いたい、だなんて言われたのは初めてのことで、思わず顔に熱が籠る。
「ありがとうございます。お世辞でも嬉しいです。」
そう言うと彼は少し寂しそうな顔をした。どうしてそんな顔をするのか私には到底理解ができない。私のことなんて嫌いなはずなのに、いきなり会いたいだなんて、今日の彼はどうかしている。
「陛下にもよろしくお伝えください。ではお休みなさい。」
「あぁ、お休み。」
彼は一体どうしてしまったのだろうか。そんなこと私にわかるはずもないのに、ずっとそればかり考えてしまう。
こんな状態で眠れるはずもなく、ぼーっとベッドに寝転んでいた。気づいた頃には空は明るんでいて私を照らした。
「まだ、夢は覚めないのか……。」
そうひとり呟いて、疲れの癒えないままの重たい体を起こした。
「ねえジエル。お風呂から上がったらアイスを食べたいなぁ、。今日は頭も使ったし疲れてしまったの。」
「あら、この前アイスは太っちゃうから食べないっておっしゃっていたじゃないですか。よろしいのですか?」
「だめかしら?」
「ふふふっ。お嬢様もやっぱりまだ子供ですね。準備させておきます。」
「ありがとう。さすがジエル。」
「お褒めに預かり光栄です。そろそろご入浴の時間ですがどうなさいますか。」
「直ぐに入るわ。」
「かしこまりました。」
そう言ってすぐにジエルは入浴の準備をし始めた。こんなに身の回りの世話をしてもらうことは久々のことだったため変に感じてしまうが、何がそんなに楽しいのか私にはさっぱり分からないが、優しい笑みを浮かべながらテキパキと準備する様子を見ていると言いようのない多幸感に包まれた。
暖かく、ふわふわして、少しくすぐったいようで心地よいような。いきなり転生して、何故こんなことになってしまったのかという答えもみつからないようなことを考えていたのもどうでもいいように思えた。
そんなことを考えているとジエルに声をかけられた。
「入浴の準備が整いました。」
「ありがとう。」
浴室に入った瞬間に鼻腔を擽るのはローズマリーの入浴剤の香り。前世でも疲れている時は決まってこの入浴剤を使っていたっけ、なんて他人事のように思い出しながら湯船に浸かった。
「お嬢様の髪、本当にお綺麗ですね。」
「そうかしら。お母様からの贈り物かしらね。」
「髪色もそっくりですしね。」
こんな何気ない会話も私の心を癒すには十分すぎて、なんだか心の奥から何かがふつふつと湧き上がってくるような感じがした。
どこに行くにも冷たい視線と陰口が付き物で、雑用を強いられるのも当たり前。それがいきなりこんなに優しくされるだなんて、なんだか落ち着かない。
そわそわした気持ちの収まらぬまま、入浴を終え部屋に戻るとそこに居たのはリンデンだった。見間違いかと数回瞬きをするものの、やはりそれは現実で。
「いきなりですまない、イリシス。父上からそなたに贈り物だそうだ。」
「御機嫌よう、リンデン様。お忙しい中ありがとうございます。」
「いや、いいんだ。私もそなたに会いたかったから都合が良かったんだ。」
その言葉に、思わず”へ......?”と間抜けな声が漏れた。会いたい、だなんて言われたのは初めてのことで、思わず顔に熱が籠る。
「ありがとうございます。お世辞でも嬉しいです。」
そう言うと彼は少し寂しそうな顔をした。どうしてそんな顔をするのか私には到底理解ができない。私のことなんて嫌いなはずなのに、いきなり会いたいだなんて、今日の彼はどうかしている。
「陛下にもよろしくお伝えください。ではお休みなさい。」
「あぁ、お休み。」
彼は一体どうしてしまったのだろうか。そんなこと私にわかるはずもないのに、ずっとそればかり考えてしまう。
こんな状態で眠れるはずもなく、ぼーっとベッドに寝転んでいた。気づいた頃には空は明るんでいて私を照らした。
「まだ、夢は覚めないのか……。」
そうひとり呟いて、疲れの癒えないままの重たい体を起こした。
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