人生やり直したら溺愛された件について

桜霞

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11話

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 それから天女記を読むのに没頭してしまい、気づけばあたりは暗くなり始めていた。収穫と言えるほどのものはなかったものの、あの日記は、よくは分からないが説明できないような大きな感情を残した気がする。
 叔母様に挨拶をし、また馬車に乗り込み、元来た道を帰った。自分が思っている以上にあの日記をずっと読んでいたらしく、日はすっかり傾いて、星がちらちらと顔を出し始めている。

「何を調べてらしたんですか?とても熱中しているように見えましたが……。」

「秘密だよ。精霊士様と約束したのよ。誰にもこのことは言わないって。」

 今日だけ嘘をつくことを許して欲しい。だって、私が転生したからその原因と理由を調べていた、だなんてことを言ったらきっと医者に見てもらおう、なんてこと言い出すだろうから。まあ、それほど現実味のないことを言っているから、仕方ないといえばそうなのだけれど。
 それから10分ほどで私の家、つまり本宮に到着した。時刻はもう7時を回っている。いつもなら夕食の時間だ。

「おかえりなさいませ、お嬢様。」

「ただいま。夕食の準備は?」

「もう整っております。ご主人様と奥様がお待ちですよ。とても寂しそうにしてらしたので早く行って差しあげてください。」

 数時間は離れていただけで寂しがるだなんて、と思いつつもこんなにも私を愛してくれているのだと嬉しくなって無意識に口角が上がってしまう。そんな私も、両親のことが大好きでたまらないみたいだ。

「遅くなってごめんなさい。お父様、お母様。」

「おかえり、イリシス。私達も今来たところだから気にしないで。」

「お腹が減っただろう?早く食べよう。」

「あら、お腹が減っているのは貴方でしょう?さっきお腹がすごい音をたててたじゃない。イリシスにも聞いて欲しかったわ。」

「ふふっ。私も聞きたかったわ。」

「2人して酷いじゃないか。」

「本当のことでしょう?さぁ、イリシスも席についた事ですし、食事にしましょう。」

「そうだね。いただこうか。」

 こうして家族揃ってあたたかい会話をしたのも、食事をするのも随分久しぶりだ。不思議と笑みが零れるような感覚がふわふわして心地いい。こんな時間が永遠に続けばいいのに、と願いながら食事を口に運ぶ。こんなに美味しい食事も久しぶりな気がする。
 前世で、悪女である私に運ばれる食事は冗談でも美味しいと言えるものではなかった。冷めたスープや固いパン。それを一人虚しく食べるような生活。あれを思い出すだけで辛くなってしまう。
 それでも、あんなことになったのは私のせいなのだ。今世ではそんなことにならないようにしないと。家族の笑顔と暖かい空間を私が守らないと。今は非力な子供でも私が守るんだ、と胸に強く誓った。
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