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8話
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「お嬢様、朝ですよ。起きてください。」
「んん……。」
やっと眠れたばかりだと言うのにメイドのジエルに起こされてしまった私は、うんともううんとも言えないような返事を返すことすらしんどく感じてしまう。昨日の疲れがとれるどころか、一層酷くなって私の体にのしかかってくる感じは、前世の雑務に追われた私のようですこし嫌気が差す。
中々起き上がる気にはなれなくてふかふかのベッドの中でもう一度眠ってしまいたい気持ちは山々なのだが、貴族の令嬢である以上そんなことをする訳にもいかない。
「今日は精霊士の方がいらっしゃいますから、それまでにご準備をお願いします。昨日はどうしても外せない用事があったそうで、今日来て下さるそうですよ。」
「そうなの?分かったわ。朝食は後で頂くからお風呂の準備をしてもらってもいい?」
「そうおっしゃると思ってもう準備していますよ。」
「さすがジエルね。ありがとう。」
重たい体を起こし、まだ寝ぼけてはっきりとしない頭で過去のことを振り返る。前世では誕生日に精霊士が来たことなんて一度もなかった。それに加えて、たまに皇宮で会ったとしても、私を哀れむように見るだけで、少し苦手な人というイメージだった。
それがなぜ今私の元に来るというのか、考えてもその答えは一向に見つからない。心にかかる靄早く拭ってしまいたくて浴室までの道を急いだ。
「お嬢様、お待ちしておりました。昨日のことでお疲れでしょうから今日はリラックス効果のある入浴剤を入れてみました。」
「ありがとう。」
優しい花のような甘い香りがと鼻腔をくすぐる。リラックス効果があるというのはどうやら本当らしく、疲れ果てた体も心もほぐれるような心地良さがある。体の芯まで暖まると、心の靄も自然と晴れたような気がしてくる。
精霊士に会ったりせず、ずっとここで休んでいられたらどんなに気が楽か、なんて馬鹿なことまで考えてしまったことは内緒にしておこう。そんなことを言ってしまった暁には、お父様からの叱責が飛んでくることが間違いないだろう。
虫も殺せないのではと思うほど優しい方が、私に怒る姿を想像しただけで少し笑ってしまいそうだ。
「お嬢様、そろそろご準備なさらないとお時間が……。」
「あら、もうそんな時間なの?今行くわ。」
ゆったりしていると、もう20分は経っていたようで、私の至福の時間に終わりを告げられた。それから、淡い色のドレスを着させられ髪を結ってもらう。準備は整ったし、そろそろお出迎えに行こうかとしたとき、部屋をノックされた。
「精霊士様がご到着されました。談話室にてお待ちです。」
「もういらっしゃったの?今行くわ。」
「かしこまりました。」
さて、久しぶりに会う精霊士様は私に何を告げるのだろう。そして、何が目的なのか。何も分からないまま精霊士の待つ談話室の扉を開いた。
「お久しぶりです。イリシス様。」
「お久しぶりです。わざわざお越しいただきありがとうございます。」
「そんな、とんでもございません。ところで、二度目の10歳の誕生日は如何でしたか?」
「は、?」
妖艶に笑ったその人はまるで全てを悟っているように見える。この人は一体、何を知っているのか__?
「んん……。」
やっと眠れたばかりだと言うのにメイドのジエルに起こされてしまった私は、うんともううんとも言えないような返事を返すことすらしんどく感じてしまう。昨日の疲れがとれるどころか、一層酷くなって私の体にのしかかってくる感じは、前世の雑務に追われた私のようですこし嫌気が差す。
中々起き上がる気にはなれなくてふかふかのベッドの中でもう一度眠ってしまいたい気持ちは山々なのだが、貴族の令嬢である以上そんなことをする訳にもいかない。
「今日は精霊士の方がいらっしゃいますから、それまでにご準備をお願いします。昨日はどうしても外せない用事があったそうで、今日来て下さるそうですよ。」
「そうなの?分かったわ。朝食は後で頂くからお風呂の準備をしてもらってもいい?」
「そうおっしゃると思ってもう準備していますよ。」
「さすがジエルね。ありがとう。」
重たい体を起こし、まだ寝ぼけてはっきりとしない頭で過去のことを振り返る。前世では誕生日に精霊士が来たことなんて一度もなかった。それに加えて、たまに皇宮で会ったとしても、私を哀れむように見るだけで、少し苦手な人というイメージだった。
それがなぜ今私の元に来るというのか、考えてもその答えは一向に見つからない。心にかかる靄早く拭ってしまいたくて浴室までの道を急いだ。
「お嬢様、お待ちしておりました。昨日のことでお疲れでしょうから今日はリラックス効果のある入浴剤を入れてみました。」
「ありがとう。」
優しい花のような甘い香りがと鼻腔をくすぐる。リラックス効果があるというのはどうやら本当らしく、疲れ果てた体も心もほぐれるような心地良さがある。体の芯まで暖まると、心の靄も自然と晴れたような気がしてくる。
精霊士に会ったりせず、ずっとここで休んでいられたらどんなに気が楽か、なんて馬鹿なことまで考えてしまったことは内緒にしておこう。そんなことを言ってしまった暁には、お父様からの叱責が飛んでくることが間違いないだろう。
虫も殺せないのではと思うほど優しい方が、私に怒る姿を想像しただけで少し笑ってしまいそうだ。
「お嬢様、そろそろご準備なさらないとお時間が……。」
「あら、もうそんな時間なの?今行くわ。」
ゆったりしていると、もう20分は経っていたようで、私の至福の時間に終わりを告げられた。それから、淡い色のドレスを着させられ髪を結ってもらう。準備は整ったし、そろそろお出迎えに行こうかとしたとき、部屋をノックされた。
「精霊士様がご到着されました。談話室にてお待ちです。」
「もういらっしゃったの?今行くわ。」
「かしこまりました。」
さて、久しぶりに会う精霊士様は私に何を告げるのだろう。そして、何が目的なのか。何も分からないまま精霊士の待つ談話室の扉を開いた。
「お久しぶりです。イリシス様。」
「お久しぶりです。わざわざお越しいただきありがとうございます。」
「そんな、とんでもございません。ところで、二度目の10歳の誕生日は如何でしたか?」
「は、?」
妖艶に笑ったその人はまるで全てを悟っているように見える。この人は一体、何を知っているのか__?
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