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和彦の発したその言葉に琉唯は驚きを隠せず、思わず"え?"と声を漏らした。
28年前の俺、ということは今の彼は何歳なのか。それに、容姿が全く変わっていないのはなぜなのか。琉唯は考えれば考えるほど分からなくなって、頭の中がごちゃごちゃになってしまう。
「俺の病気は歳を取らなくなる病気なんだ。世界でも前例がなくてさ。治療法は愚か、原因も分からないから薬もない。医者も手の付けようがないんだ。」
ほんと困っちゃうよね、と苦笑いしながら語る和彦は小さく震えていて、僅かだが目が潤んでいるようにも見えた。
知り合って間もない関係だが、常に笑顔で、能天気そうに見える和彦の弱々しい姿になぜか胸が痛み、琉唯は思わず彼の手をぎゅっと握った。
「どうしたの?慰めてくれるの?」
「そんな器用なことできない、けど、その。なんか、守らなきゃってなって。」
言葉を詰まらせた琉唯に和彦は声を上げて笑った。
「あははっ、28歳年下の子に守らなきゃとか、ほんと情けないなぁ、俺。」
そうやって寂しげに笑う和彦は、宛のないどこか遠いところを眺めているように見える。年上のはずなのに、まるで迷子になった小さい子供のようだ。
彼は、いつも笑顔だけど本当は寂しがりで、琉唯が思っている以上に弱い人なのかもしれない。そう思うとなんだか親近感が湧いたような気がした。
「……寂しくなったらここに来てもいい、ですか?」
「もちろん。あと敬語じゃなくていいからね。」
「けど、年上だから。」
「同級生みたいなものだと思ってくれて大丈夫だから。」
納得はいかないものの、彼があまりに辛そうな目でそう頼むものだから断ることも出来ずに“わかった“と了承してしまった。敬語で話されると時間だけが無慈悲に過ぎていくのをより実感してしまうからなのかな、という勝手な憶測は多分気のせいではないだろう。
私が敬語を外すと、和彦はほっとしたような表情を見せ、“ありがとう“と言った。さっきまでの辛そうな表情が和らいだことに安心したのも束の間で、一瞬だが、また頭を殴られたような鈍痛が走った。
「じゃあ、今日は部屋に帰るね。」
激しい頭痛に歪む表情を隠せずににいた琉唯は、和彦に心配をかけないように、と彼の返事も待たずに部屋を出た。
いや、正確には部屋を出ようとした。
再び、琉唯は激しい頭痛に襲われ体が傾き、ついには体は地面へと打ち付けられた。その痛みなど分からないほどに頭が痛む。和彦がナースコールを押したのが見え、ありがとうと言おうとするが、口からは空気が漏れる音しかせず、声も出なかった。
和彦が何か言っているが、その音すら分からない。私はこのまま死んでしまうのかな、と考えたのを最後に、また視界が暗くなり琉唯は意識を手放した。
28年前の俺、ということは今の彼は何歳なのか。それに、容姿が全く変わっていないのはなぜなのか。琉唯は考えれば考えるほど分からなくなって、頭の中がごちゃごちゃになってしまう。
「俺の病気は歳を取らなくなる病気なんだ。世界でも前例がなくてさ。治療法は愚か、原因も分からないから薬もない。医者も手の付けようがないんだ。」
ほんと困っちゃうよね、と苦笑いしながら語る和彦は小さく震えていて、僅かだが目が潤んでいるようにも見えた。
知り合って間もない関係だが、常に笑顔で、能天気そうに見える和彦の弱々しい姿になぜか胸が痛み、琉唯は思わず彼の手をぎゅっと握った。
「どうしたの?慰めてくれるの?」
「そんな器用なことできない、けど、その。なんか、守らなきゃってなって。」
言葉を詰まらせた琉唯に和彦は声を上げて笑った。
「あははっ、28歳年下の子に守らなきゃとか、ほんと情けないなぁ、俺。」
そうやって寂しげに笑う和彦は、宛のないどこか遠いところを眺めているように見える。年上のはずなのに、まるで迷子になった小さい子供のようだ。
彼は、いつも笑顔だけど本当は寂しがりで、琉唯が思っている以上に弱い人なのかもしれない。そう思うとなんだか親近感が湧いたような気がした。
「……寂しくなったらここに来てもいい、ですか?」
「もちろん。あと敬語じゃなくていいからね。」
「けど、年上だから。」
「同級生みたいなものだと思ってくれて大丈夫だから。」
納得はいかないものの、彼があまりに辛そうな目でそう頼むものだから断ることも出来ずに“わかった“と了承してしまった。敬語で話されると時間だけが無慈悲に過ぎていくのをより実感してしまうからなのかな、という勝手な憶測は多分気のせいではないだろう。
私が敬語を外すと、和彦はほっとしたような表情を見せ、“ありがとう“と言った。さっきまでの辛そうな表情が和らいだことに安心したのも束の間で、一瞬だが、また頭を殴られたような鈍痛が走った。
「じゃあ、今日は部屋に帰るね。」
激しい頭痛に歪む表情を隠せずににいた琉唯は、和彦に心配をかけないように、と彼の返事も待たずに部屋を出た。
いや、正確には部屋を出ようとした。
再び、琉唯は激しい頭痛に襲われ体が傾き、ついには体は地面へと打ち付けられた。その痛みなど分からないほどに頭が痛む。和彦がナースコールを押したのが見え、ありがとうと言おうとするが、口からは空気が漏れる音しかせず、声も出なかった。
和彦が何か言っているが、その音すら分からない。私はこのまま死んでしまうのかな、と考えたのを最後に、また視界が暗くなり琉唯は意識を手放した。
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