余命僅かな私と永遠の命の君

桜霞

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4話

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 春恵は今にも泣き出しそうで、琉唯はそれをどうにかしようと、さっき知り合ったばかりの和彦の話をした。

「私が目を覚ました時に、一人の男の子がいたの。凄い明るくて、眩しかった。」

「誰かのお見舞いに来ていたのかしら。」

「その子も、病気なんだって。病院服は全然似合っていなかったけど。」

「……そうなのね。お母さんも1度会ってみたいわ。」

 まだ自分が病気だとわかったわけでもないのに、あたかも自身が病気であるかのように話す琉唯は、この先のこと全てが見えているようで春恵は少し怖くなった。
 頭の中にまたさっき医者に言われた言葉がはっきりと聞こえてくる。“ほぼ間違いなく何か体に問題がある“。それがどれだけ重い言葉であるのかを再確認させられるような琉唯の表情に胸が締め付けられた。

 どうにかして笑顔にしてあげればいいのに、と願っても頭には何も思い浮かばない。どうすればいいのか、と考えていると勢いよく扉が開いた。
 噂をすれば、というやつなのか、そこに立っていたのは和彦だった。

「琉唯ちゃん、暇だから遊びに来ちゃった!って、お母さんとお話中だった?ごめんね。」

「和彦くん。大丈夫だよ。検査は終わったの?」

「おう!今回も変化なし。」

 相変わらず太陽の光を集めたかのように眩しすぎる笑顔で話しかけてきた和彦くんに救われて、空気が一変する。

「初めまして!梶本和彦です!」

「初めまして。琉唯の母です。この子、意外と頼りないし、寂しがり屋さんだから仲良くしてあげてね。」

「ちょっ、余計なこと言わなくていいの!」

 琉唯は、自然と笑みが溢れてしまうような空間に、朝からずっと張り詰めていた心がやっと落ち着いた気がした。
 それも和彦のおかげなのかと思うと、彼の笑顔がより一層眩しく、そして優しく暖かいものに見えた。

 しかし、そんな時間も直ぐに終わってしまう。

「そろそろ面会時間も終わりだから、帰らないとね。もう少しお話していたいのだけど、ごめんね琉唯。和彦くんもありがとう。」

「いえ!いっぱい話せて楽しかったです!」

「こちらこそ楽しかったわ。じゃあまた明日ね、琉唯。」

「うん。また明日ね。ありがとう。」

 春恵が帰った途端に、なぜか無性に泣きたくなった。和彦が居る。看護師さんだっている。決して一人ぼっちなんかじゃないのに、寂しくて、辛くて怖くて___。
 目に涙を浮かべているのが和彦にばれないように下を向くと、和彦が私に声をかけた。

「ねぇ、俺の病室来てみる?」

 そう言うと、琉唯の返事を待つ前に手を引き廊下を突き進んだ。どこまで行くのか、なんて考えながら素直について行くと、病室らしくない部屋の前で足を止めた。

「ここが俺の部屋。寂しくなったらいつでもおいで。」

 そう言いながら扉を開くと、そこはまるで私室のような場所だった。学校の教材や、漫画、流行りの服などが所狭しと並んでいる。
それと、この部屋には少し不似合いな古びれた写真が数枚。

「俺さ、病気が長くて病院暮らしだからこうやって1部屋貰ってるんだ。」

「そうなんだ。」

 琉唯は、和彦の話を聞きながら写真を見てみる。そこには古びれている割には今と全く変わりのない和彦の姿があった。見間違いかもしれないと思い、数回瞬きをしたものの、やっぱりそれは変わらない。
 和彦は、何を隠しているのだろう。そんなことを考えてもわかるわけがないのにぐるぐると思考を巡らす。その様子に和彦が気づいたのか、言葉を発す。

”その写真、28年前の俺なんだ___。”
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