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2話
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琉唯が和彦と少し話していると、廊下から“和彦くーん!“という声がした。和彦はあからさまに嫌な顔をして、最悪だ……、と声を漏らした。看護師は忙しそうに一つ一つの病室を確認し、ついに琉唯の病室を見た。そうなれば案の定、和彦は看護師に見つかった。
「ここにいたのね。今日は検査なんだからちゃんと病室にいてもらわないと困ります!」
「検査なんて何回しても同じだろ。どうせ変わらないんだよ、何も。」
不貞腐れた顔でそういう彼の言葉に、看護師は少し辛そうな顔をして答えた。
「何か変わるかもしれないでしょう。それも検査しないと何も分からないんだから大人しく検査は受けてもらいます!」
和彦は、嫌そうな顔をして渋々返事をすると、ばいばーい!と言いながら手を振り琉唯の病室を去った。その途端、さっきの静寂が帰ってきて、何となく虚しくなって窓の外を見た。
「死ぬのかなぁ……。」
そう一人で呟いた声は誰に聞き取られるわけでもなく、自身の心の闇に吸い込まれていってしまった。
「美紀ちゃーん、ほんとに検査しなきゃだめ?」
「当たり前でしょ。君が初めての事例でとにかく情報が足りないんだから。あと、美紀ちゃんじゃなくて奈実紀先生ね。」
少し面倒くさそうに看護師の猪瀬奈実紀と話す和彦の表情は気怠げ、よりも寂しげという言葉が似合うだろう。
「俺、前世で殺人鬼だったりしたのかな。」
「いきなりそんなこと言ってどうしたの。」
「いや、こんな変な病気にかかるなんてさ。しかも俺が初めての事例。なんかの天罰みたいじゃんか。」
あまりに辛そうな声色に、奈実紀は何も言うことが出来なかった。窓の外ではぽつりぽつりと雨が降り出している。空を覆う薄暗い雲がやけに目に付いて嫌気が差した。
「よし。検査を始めます。」
その言葉から約1時間半が経過し、やっと全ての検査が終了した。和彦は検査の結果の報告を、診察室のベッドに横になりながら待った。今回もどうせ変わらないだろう、なんてことを考えて数分。コンコンコン、とノックする音が聞こえたと同時に扉が開いた。
「お待たせ、和彦くん。」
そう優しく声をかけるのは主治医の宮塚誠二だ。
どうせ変わらない。そんなふうに思いながらも頭のどこかで、もしかしたら治療法が見つかりそうとか、そんな進展があるんじゃないかと期待してしまう。
だが、そんな淡い期待も一瞬にして消え去った。
「残念ながら今回も何もわからなかったし、何も変わっていなかったよ。長い時間検査したのに申し訳ない。」
「そうですか。まあ、それもいつもの事じゃないてすか。」
そんなことだろうと思っていた。そのはずなのに、和彦にとってそれはどうしようもなく辛いことで、どうしようもない不安に襲われる。
「じゃ、病室に戻ります。ありがとうございました。」
いつものようにへらへらと笑ってみせようとしたが口角は上手く上がらず、自分でも笑顔が引きつっていることが分かった。格好悪いな、と思いながら廊下に出ると見舞いに来たのか男子高校生が5人ほどフルーツをもって歩いている。
和彦は、その光景が羨ましくて仕方がなかった。自分にはもうできない事だからなのか、そんなことを遠い過去にした記憶が薄ら残っていたからなのかはわからない。
「なんで俺はこんな病気なんだろう。一生、歳を取らないなんてさ__。」
この時、彼の目が潤んでいたことを知る人は誰も知らない。看護師も、主治医も、自分自身すらも。
「ここにいたのね。今日は検査なんだからちゃんと病室にいてもらわないと困ります!」
「検査なんて何回しても同じだろ。どうせ変わらないんだよ、何も。」
不貞腐れた顔でそういう彼の言葉に、看護師は少し辛そうな顔をして答えた。
「何か変わるかもしれないでしょう。それも検査しないと何も分からないんだから大人しく検査は受けてもらいます!」
和彦は、嫌そうな顔をして渋々返事をすると、ばいばーい!と言いながら手を振り琉唯の病室を去った。その途端、さっきの静寂が帰ってきて、何となく虚しくなって窓の外を見た。
「死ぬのかなぁ……。」
そう一人で呟いた声は誰に聞き取られるわけでもなく、自身の心の闇に吸い込まれていってしまった。
「美紀ちゃーん、ほんとに検査しなきゃだめ?」
「当たり前でしょ。君が初めての事例でとにかく情報が足りないんだから。あと、美紀ちゃんじゃなくて奈実紀先生ね。」
少し面倒くさそうに看護師の猪瀬奈実紀と話す和彦の表情は気怠げ、よりも寂しげという言葉が似合うだろう。
「俺、前世で殺人鬼だったりしたのかな。」
「いきなりそんなこと言ってどうしたの。」
「いや、こんな変な病気にかかるなんてさ。しかも俺が初めての事例。なんかの天罰みたいじゃんか。」
あまりに辛そうな声色に、奈実紀は何も言うことが出来なかった。窓の外ではぽつりぽつりと雨が降り出している。空を覆う薄暗い雲がやけに目に付いて嫌気が差した。
「よし。検査を始めます。」
その言葉から約1時間半が経過し、やっと全ての検査が終了した。和彦は検査の結果の報告を、診察室のベッドに横になりながら待った。今回もどうせ変わらないだろう、なんてことを考えて数分。コンコンコン、とノックする音が聞こえたと同時に扉が開いた。
「お待たせ、和彦くん。」
そう優しく声をかけるのは主治医の宮塚誠二だ。
どうせ変わらない。そんなふうに思いながらも頭のどこかで、もしかしたら治療法が見つかりそうとか、そんな進展があるんじゃないかと期待してしまう。
だが、そんな淡い期待も一瞬にして消え去った。
「残念ながら今回も何もわからなかったし、何も変わっていなかったよ。長い時間検査したのに申し訳ない。」
「そうですか。まあ、それもいつもの事じゃないてすか。」
そんなことだろうと思っていた。そのはずなのに、和彦にとってそれはどうしようもなく辛いことで、どうしようもない不安に襲われる。
「じゃ、病室に戻ります。ありがとうございました。」
いつものようにへらへらと笑ってみせようとしたが口角は上手く上がらず、自分でも笑顔が引きつっていることが分かった。格好悪いな、と思いながら廊下に出ると見舞いに来たのか男子高校生が5人ほどフルーツをもって歩いている。
和彦は、その光景が羨ましくて仕方がなかった。自分にはもうできない事だからなのか、そんなことを遠い過去にした記憶が薄ら残っていたからなのかはわからない。
「なんで俺はこんな病気なんだろう。一生、歳を取らないなんてさ__。」
この時、彼の目が潤んでいたことを知る人は誰も知らない。看護師も、主治医も、自分自身すらも。
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